耐性獲得機構
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/15 21:45 UTC 版)
細菌の持つ抗生物質への耐性は、その細菌が生来持つものと、新たに獲得されるものとがある。前者の例としては緑膿菌の、細胞外膜の透過性が低いことによる、多くの抗生物質への自然発生的な耐性があげられる。後者の耐性獲得に関わる機構としては、プラスミドやトランスポゾンといった外来性遺伝子の取り込むによるものに加え、染色体上の変異によって発生することもある。 外来遺伝子の取り込みは遺伝子の水平伝播とも呼ばれ、細菌の進化に重要な役割を果たすが、これによってしばしば耐性遺伝子が伝達される。抗生物質は土壌などの環境中に存在する微生物に由来するが、抗生物質を産生する微生物は当然にその抗生物質に対して耐性を持つ。生態学的ニッチを共有する微生物もその抗生物質に対する耐性遺伝子を持っており、その様な遺伝子が医療現場で検出される病原体の耐性遺伝子の元となる可能性が高い。現代においては土壌のような環境が耐性遺伝子の主要な発生源と考えられており、院内、ヒトや動物のマイクロバイオームなどを含む環境中の耐性遺伝子の集合のことをレジストームと呼ぶ。 変異により耐性を獲得する場合、感受性を持つ細菌集団の中から抗生物質の活性に影響を及ぼす遺伝子変異を起こす細胞が出現し、その細胞が抗生物質に耐えて生き残る。生き残った細胞は抗生物質の存在下では選択圧により感受性を持つ細菌を駆逐して優先となる。 一方、抗生物質は一般に細胞壁合成のように細菌の生存に重要な機能を標的としており、耐性の獲得はこれに変化を生じさせるため、ある環境における生存しやすさを意味する適応度が低下する。これは、変異による耐性の獲得のみならず、外来遺伝子の取り込みの場合でも同様である。例えば、プラスミドの獲得は一般に細菌の増殖効率を低下させて適応度を低下させる。このように、耐性遺伝子は一般にコストが大きいため、抗生物質が存在しないと維持されない。しかし、細菌が耐性の獲得による適応度の低下を補う変異を起こすことで適応度の低下を代償することもある。また、適応に必要なコストが低い、あるいは存在しない場合もある。そのため、抗生物質の使用量の減少により選択圧を低下させることで耐性菌の出現率を低下させることは、現実的ではないかもしれない。
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