耐性菌の出現と新たなアプローチ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/15 21:45 UTC 版)
「抗生物質」の記事における「耐性菌の出現と新たなアプローチ」の解説
上述の通り、抗生物質への耐性は抗生物質を人類が使用する前から存在していた。例えば、イギリスの標準菌株として初めて登録された細菌は1915年に登録された赤痢菌だが、この菌株はペニシリンとエリスロマイシンに対する耐性遺伝子を持つことが2014年に明らかにされた。一方で人類の農業と医療における抗生物質の利用は、環境中における耐性菌を増加させ、抗生物質の効果を減じてきたことが知られる。 現在においては耐性菌の出現は不可避であり、時間の問題でしかないと考えられており、抗生物質が使用されるようになると数ヶ月から数年後には耐性菌が出現する。サルファ剤の耐性は1930年代に知られる様になり、1928年に発見されたペニシリンも、本格的に使用される様になる前の1940年にはペニシリンを分解する酵素の存在がペニシリンの開発者によって発見されている。サルファ剤やペニシリン以外にも、例えばストレプトマイシンは1944年に発見の翌年には耐性菌が発見されている。バンコマイシンは例外的で、耐性菌の出現は導入からおよそ30年が経過した1987年のことであった。バンコマイシンの耐性出現が遅れた背景にはその限定的な利用があったと考えられる。これは1950年代から1960年代にかけての間は、バンコマイシンよりも優れた抗生物質が利用可能であったためである。 1970年代からは新しい抗生物質がほとんど発見されなくなる。例えば、グラクソ・スミスクラインやアストラゼネカは大規模なスクリーニングによる新規製剤開発研究を行ったが、目的とする抗生物質の実用には至っていない。一方で耐性菌の出現により、既存の抗生物質は効果を失っていく。そこで、既存の抗生物質に対し、活性を高めたり、ヒトへの毒性を弱めたりするような改変を施すことで新しい抗菌薬を開発されるようになる。しかし改変された抗生物質に対しても細菌は耐性を獲得するため、ヒトと細菌の間で「いたちごっこ」は続いている。近年では海洋やヒトのマイクロバイオームなどの土壌以外の環境から抗生物質を探索する試みもなされている。 抗生物質に対する耐性菌の出現や、新規に開発される抗生物質の減少を受けて、抗生物質の代替が研究されている。この文脈における代替とは抗菌薬の様な化合物で細菌を制御するものではなく、細菌が感染する宿主の体を標的とした化合物や、細菌を標的とする従来の抗生物質とは異なる物質のことをいう。代表的な例として、細菌を標的とする抗体、宿主に健康上の利点をもたらす微生物と定義されるプロバイオティクス、ファージが産生して細菌を溶解する働きを持つライシンやファージ自体、自然免疫系を活性化する免疫賦活剤、感染を防ぐためのワクチンなどが挙げられる。
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