曲線通過性能の追求とは? わかりやすく解説

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曲線通過性能の追求

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/13 17:09 UTC 版)

鉄道車両の台車史」の記事における「曲線通過性能の追求」の解説

鉄道車両限らず車輪使用する各種陸上交通機関において最も困難な問題は、曲線走行に伴う車輪車体位置関係回転数制御である。 たとえば、軌間1,067mm鉄道内周軌条において半径1,000mの真円を描く曲線軌道があるとした場合単純計算でも内周外周では、半周で約3,350mm、つまり3m上もの距離差が生じる。ここで車輪径を日本の鉄道一般に用いられる860mm径とした場合、このカーブ半周走行するだけで約1.25回転回転数差が輪軸左右生じることになる。そうした回転数差は一般的な構造輪軸では、踏面呼ばれる車輪軌条との接触面となる部分について、断面形状一定角度勾配曲線与え、また軌条の側でも頭頂部を緩く円弧描いた形状とすることで解決している。このような工夫によって、左右車輪リジッド車軸固定され一般的な輪軸は、曲線通過時に車輪軌条の間に縦横クリープ力を発生させて接触位置を「滑らせ」ることで輪軸単体での自己操舵実現し複雑な機構なしでの円滑な曲線通過可能なようになっているのである。だが、この方式は簡潔である一方で極端な曲線では左右車輪回転数差を吸収しきれず、また一般的な2軸ボギー台車場合いずれか車輪について曲線内外周差と車輪軌条との間に角度差(アタック角)が発生することで主に車輪のフランジ踏面大きな摩擦および摩耗騒音などが生じ、さらに不適切車輪形状場合には、迫り上がり脱線などの原因になるという問題抱えている。 こうした問題対する最も原始的、かつ消極的な解決手段は、当該問題発生する区間での軌条対す塗油あるいは散水、つまり車輪軌条接触面に何らかの潤滑剤介在させることで車輪軌条滑り良くし、車両円滑な通過助ける、という方策であった塗油平坦線走行する、つまり潤滑剤による摩擦係数低下による空転ある程度無視できる路線一般に使用され散水空転が全く許容できない急勾配線において保守負担増加承知の上で使用されてきた。だが、いずれにせよこれらの手法はあくまで対症療法でしかなく、曲線通過における問題根本的な解決をなすものではない。 車輪踏面形状軌条断面形状最適化は、高速走行時蛇行動対策観点からも無視できないのであるこのため第二次世界大戦後高速運転を指向する各国、特に日本フランスドイツなどで新しい車踏面軌条断面形状盛んに研究された。その成果として、円弧踏面修正円弧踏面といった新し踏面形状次々開発され軌条についても日本のN形(40kgN形・50kgN形など)やT形(50kgT形。東海道新幹線用)などが順次開発規格化されていった。だが、これらとて急曲線区間抱え路線使用される車両適用するには、完全に満足のゆくものではなかった。 この問題対す技術的機械的な解決アプローチ2つあった。 一つは、輪軸左右分割し左右車輪別個に回転するようにする独立回転車輪方式もう一つは、通常平行である台車の各輪軸何らかの形で操舵を可能とする機構組み込み、各車輪単位軌条対すアタック角が極力0に近づくように操舵させる、あるいは台車そのもの車体の間でリンク結合行い台車転向コントロールすることで各輪軸アタック角を最小限抑制する自己操舵方式である。 これらのうち、独立回転車輪方式には各車輪個別回転数取り得るため車輪偏摩耗曲線通過時の大きな騒音発生せず、また車軸全長短くて済むためばね下重量軽減される、といったメリット存在する。 だが、この方式にはそうした魅力的な利点一方で、以下のような解決困難な問題存在した左右車輪間のバックゲージ保持が困難 各車輪支持する軸受構造複雑化不可避 動力台車における動力伝達難しい 特にこの機構ではバックゲージの保持保証されない場合脱輪によって脱線直結する危険がある。それゆえフェイルセーフ性が特に重視される鉄道において独立回転車輪方式実用化するためには、このバックゲージ保持機械的な保証は、必ず解決せねばならない問題であったまた、軸受負担すべき荷重通常の輪軸場合比較して単純計算約半分となるが、軸受そのものの数は倍増するため、軸箱支持機構全体自ずと複雑・大型化することになる。さらに、車輪回転数左右異なることを許容するということは、各車輪主電動機内装するダイレクトドライブ方式そもそも車輪駆動用いないリニアモーター方式などを別にすると、駆動装置にも左右輪軸間の回転数差を許容するディファレンシャル・ギアなどの差動装置組み込む必要があるということ意味していた。 一般に使用される鉄道車両として、この独立回転車輪方式実用化した最初期事例に、スペイン1942年開発された「タルゴI」客車がある。独立回転車輪方式1軸台車前後車体リンク機構結合した特徴的な連接構造備えるこの超軽量客車は低重心化と軽量化のために床面極端に引き下げた結果貫通路通常の輪軸であれば車軸存在するべきスペース使用するため、またスペインの鉄道は超広軌であるため、特に小直径車輪使用する場合曲線区間内外周差が無視できないほど大きくなったことから、独立回転車輪方式半ば以上必然的に採用した。 この「タルゴシリーズフランコ政権末期設計され3世代目の「タルゴIII」でほぼ完成の域に達した。さらに派生モデルである「タルゴIII-RD」で軌間可変機構実用化されたこともあり、このシリーズとその改良発展型は以後長らくスペイン国代表的車種一つとして使用されることとなった。 だが、「タルゴ」が一定の成功収めたにもかかわらずタルゴ社からライセンス供与受けて製作され車両除き、この「タルゴ」を追って独立回転車輪方式採用踏み切る鉄道は、その後しばらくの間現れなかった。一般的なボギー台車備え鉄道車両例え電車などの動力車においては左右車輪回転数差を吸収するために何らかの装置組み込む必要があるなど駆動装置複雑化避けられず、この方式を採用することによる曲線通過時の負担低減などのメリットよりも、そうした機構複雑化もたらすデメリットの方が大きかったためである。 ただし、この時期独立回転車輪方式通常の2軸ボギー台車適用しよう、という動きが全く存在していなかった訳ではない例え1959年には、日本京阪神急行電鉄蛇行動対策走行抵抗軽減目的として「自由回転車輪」と称する通常の台車組み込み可能で左右車輪独立回転する輪軸を製作、これを同社京都線1500形1528の4軸全て組み込み1959年4月から約1年わたって長期試験実施した。この実験では独立回転車輪走行特性について、常に一方車輪のフランジ軌条側面接触して走行しようとする、つまり片寄って走行しようとする性質があることなど、貴重な知見得られた。 また、1962年には空気ばね台車開発名を馳せた汽車製造大阪製作所台車設計グループがKS-68と称する独立回転車輪方式台車を1両分試作し京阪電気鉄道の1810形1815装着同年4月から約半年わたって走行試験繰り返し、こちらも貴重なデータ収集している。このKS-68は平面形がS字状の、つまり左右非対称構造台車枠採用し一方車輪内側軸箱支持、もう一方車輪外側支持として左右いずれの面から見て一方スポーク車輪露出する特異な外観備えていた。なお、この台車主電動機を装架する台車であり、曲線通過時に生じ左右車輪回転数差を自動車用のリミテッド・ディファレンシャル・ギアにより吸収する機構採用するなど、その内機構についても非常に野心的な設計導入していた。 このKS-68の走行試験結果良好であったとされるが、バックゲージの保持難しいという問題解決せず、また差動装置など複雑な駆動メカニズム採用する関係で保守難しいという問題存在した。しかもこの方式は主電動機の1台車2基装が困難で、そのためこの台車採用した場合には全電動車方式とせねば所定性能得られない、と結論され、この台車本格採用断念された。 この時代、他にも国鉄小田急電鉄同時期に同様の独立回転車輪試験が行われたが、いずれも曲線区間では高成績残したもの直線区間での輪軸偏り問題解決せず、こうして1970年代に入る頃までには、日本の鉄道各社独立回転車輪方式実用化挑む例は途絶えその後20年近く渡って基礎研究レベルとどめられることとなる。 1980年代後半になると、独立回転車輪曲線通過とは別の目的で、各国において再び脚光を浴びるようになった例え日本では旧国鉄時代から営々と続けられてきた基礎研究成果により、前後非対称特性台車有効性が見いだされた。これにより、車軸の軸端部クラッチ機構組み込んで進行方向後位の輪軸のみを選択的に独立回転車輪とすることで、通常状態ロックした前位輪軸によって自己操舵性を確保しつつ、蛇行動安定性を後位の独立回転車輪によって得られることが明らかとなった。これは、曲線走行性能の向上手段として独立回転車輪用いる、という従来発想から脱却し、超高速走行時安定性高め手段一つとして独立回転車輪応用図ったものであったまた、同じ時期ヨーロッパでLRT低床の手段として、つまり左右車輪間を結ぶ車軸省略することで通路床面高さの引き下げ実現すべく、独立回転車輪採用始まった。この目的での独立回転車輪利用1990年代以降完全に定着し一般化している。 こうして応用的展開の研究が進む一方で肝心曲線通過特性改善策としての独立回転車輪開発も、この時期には再び盛んになった。 回転する駆動装置持たないリニアモーター動力源し、また極端な曲線と小直径車輪組み合わせ使用されるいわゆるミニ地下鉄においては台車曲線通過性能の向上は緊喫の課題であった実際量産車においては後述するように自己操舵台車一般化したが、その研究開発過程で急曲線通過特性改善騒音減少目指し粉体クラッチによる独立回転車輪機構組み込んだ輪軸試用されたのである。 この輪軸は、高速回転する場合にはその遠心力によってクラッチ働き車輪車軸ロックされ左右車輪が同じ回転数同期回転するが、車輪踏面勾配では回転数の差を吸収できないほどの急曲線走行する低速時には、遠心力低下クラッチ切れて独立回転車輪となる、という性質備えている。 この輪軸もまた実用化には至っていないが、駆動系輪軸依存しないリニアモーター方式場合ディファレンシャルギアによる差動機構不要であるためその採用当たって技術的なハードル一般の鉄道車両比較して低く1990年代以降研究続いている。 このように技術的なハードルの高さなどから独立回転車輪方式限られた分野でのみ実用化される一方で自己操舵台車比較古くから実用に供されていたことで知られている。 自己操舵台車発端は、ボギー台車と同様、蒸気機関車先台車にあった蒸気機関車高速円滑に曲線通過させるための案内装置として実用化された先台車では、高速安定性などの点で有利とされた2軸先台車とは別に、クラウス・ヘルムホルツ式、ツァラ式など1軸の先輪と第1動輪をリンクなどで結合しその位置関係機械的に変化させることで、転向性能の点で不利だコスト面や全長短縮の点では有利な1軸先台車において曲線通過時の動輪フランジ摩耗軽減する機構19世紀から実用に供されていた。 ボギー台車導入前一時期次第大型化する路面電車インターアーバンにおいて、2軸のまま長軸距・大型車体を実現する必要に迫られ車両メーカーが、こうした機構を2軸単台車援用することに思い至ったのは、ごく自然な展開であった世界最大機関車メーカーとして知られボールドウィン・ロコモティブ・ワークスラジアル台車呼んで製品化したこの機構は、2つ輪軸左右それぞれの軸箱をX字状にクロスアンカー・リンクで結合し曲線区間2つ輪軸位置関係を平行だけでなく自由にハの字、あるいは逆ハの字に変化できるようにしたものであった。もっともこの種の台車では、車軸位置関係がハの字あるいは逆ハの字に変化すると言ってもその変化量ごく僅かで、軸箱と台車枠の間の支持機構複雑さの割に得られるメリット少なく、むしろ高速走行時直進安定性重要な車軸前後支持剛性著しく低下するため1軸蛇行動抑制できず、比較低速度でも直進安定性阻害され乗り心地著しく悪化する、という問題抱えていた。そのため、例え日本ラジアル台車導入した事業者はその多く複雑な軸箱支持部の摺動部品の保守辟易し、また直進安定性悪さ悩んだ末に曲線通過性能著し低下承知ラジアル機構ロックして通常の2軸単台車相当として使用し、さらに以後増備一般的な2軸ボギー台車装着車切り替えており、他国でも概ね同様の傾向示した。 こうして一度技術発達本流から外れた自己操舵台車であるが、この機構が急曲線通過におけるアタック角の減少による軌条横圧やフランジ摩耗、それにきしり音の低減大きな効果を持つことには変わりはなかった。 そのため、1970年代入り南アフリカのハーバート・シッフェル(Herbert Scheffel)によって急曲線区間での使用目的とするシッフェル式台車として、ラジアル台車メカニズムをほぼそのまま2軸ボギー台車適用した台車開発された。もっとも、これは同じ原理に基づくラジアル台車抱えていた、軸箱の前後支持剛性低さ故の直進安定性悪さそのまま継承しており、高速転に適するものではなかった。このため、この種のクロスアンカーリンクを使用した自己操舵台車は、その歴史古さの割に広く普及するには至っていない。

※この「曲線通過性能の追求」の解説は、「鉄道車両の台車史」の解説の一部です。
「曲線通過性能の追求」を含む「鉄道車両の台車史」の記事については、「鉄道車両の台車史」の概要を参照ください。

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