生態学 生態学の基本法則

生態学

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/05/22 07:56 UTC 版)

生態学の基本法則

生態学の研究分野

生態学は生物学の一分野である。生態学で扱う対象は生物体、個体群群集生態系生物圏などである。 生態学では、生物とそれをとりまく環境間の相互の関係に焦点を当てた研究を行う。そのため、地質学生化学地理学土壌学物理学気象学などの他の学問分野とも関連をもち、総合的な(=非還元主義的な)学問とされる。

以下に、生態学における諸分野を、スケールの小さな物から大きい物の順に列挙する。[18]

個体生態学 (organismal ecology)
環境による生物個体への影響を研究する。生理学(生態生理学)、進化生態学、行動生態学を含む。
個体群生態学 (population ecology)
個体数に影響する要因や個体数の変化を研究する。
群集生態学 (community ecology)
捕食や競争のような種と種の相互作用を研究する。
生態系生態学 (ecosystem ecology)
生態系と環境の関係を研究する。エネルギーの流れや化学的循環に着目する。
景観生態学 (landscape ecology)
生態系を横断したエネルギーや物質の循環、生物の移動に関して研究する。
地球生態学 (global ecology)
エネルギーや物質の循環が、生態圏・生物圏を横断した生物の機能や分布に与える影響について研究する。

生物圏と生物多様性

現代の生態学者にとっては、

といった幾つかのレベルで研究がなされ得る。

個体レベルで生態学的な視点と言えば、古くは生理生態学的なアプローチ、と言うことになろう。たとえばある種の海岸生物の分布域を、個体の耐塩性と関連づける、といったものである。近年では、行動生態学の進歩によって、行動や生活史の上での特徴までもが個体を単位に考える必要が示されている。

個体群レベルでは、対象は個々の生物の種、あるいはその一部である。ただしその個体を取り上げ、研究室内でその機能と構造を調べるのではなく、その生物が生存している場に於いて、さまざまな特性について考える。当然ながら対象とする地域は狭く、その生物の活動圏がひとつのまとまりである。

生物圏レベルの視点に立った場合、地球水圏岩石圏大気圏といった構成要素から成っている。大気圏の外側に磁気圏を置き、水圏と大気圏を流体圏として統合することもある[19]。ときに第四の要素として扱われる生物圏は、惑星上で生命が発展できる部分である。生物圏から人間活動部分を分け、人間圏とすることもある[20]

生物の大多数は-100~+100mの間に位置する区間に生息しているが、生物圏は深さ11,000m、海抜15,000mまでの非常に薄い表層である。

生命の起源はおよそ40億年前であると考えられている[21]。生命は当初、深海の熱水噴出孔や海水内など嫌気的な環境で発生し繁栄したが、27億年前に光合成能力を持つシアノバクテリアが誕生し、繁栄していくことで地球環境が大きく変化した。シアノバクテリアが放出する酸素の増大に従い、まず大気圏内の二酸化炭素やメタンが消費され、温室効果が消失して24億年前にはヒューロニアン氷期とよばれる最初の全球凍結期に突入した。22億年前にこの氷期は終結するが、この時期には海中でも鉄の酸化が活発となり、縞状鉄鉱床がさかんに生成された。19億年前にこの酸化も終わると大気中の酸素分圧が目立って増加し、窒素と酸素からなる現在の地球の大気となっていった。生物圏の活動が大気圏や水圏におよぼした、最も大きな影響のうちの一つである。この変化は生物圏内にも巨大な影響を与え、それまでの嫌気性生物は海中深くなど特殊な環境を除いて大量に絶滅し、かわって酸素を必要とする生物が主流となった。この変化は生物の複雑化につながり、19億年前には真核生物が登場し[22]、やがて多細胞生物が現われた。酸素分圧の上昇は紫外線から生物を守るオゾン層の上空への移動と拡大をもたらし、生物の陸上への進出と発展をもたらした[23]。地上の生物の多様性は、大陸が分離・衝突することによって増大したと考えられている。大陸移動によって取り残された地塊には大陸で絶滅した古い種が残存しやすく、さらに孤島では新しい種の侵入も少ないことから固有種が多く存在する場合がある。

アメリカ合衆国アリゾナ州に建設された密閉型人工生態系研究施設、バイオスフィア2の外観

生物圏と生物多様性は、地球の特徴として不可分なものである。生物圏は、生物が存在する領域として定義されるが、生物多様性はその多様さを指す概念である。例えるなら、生物圏が容れ物であるならば、多様性はその内容物の状態を表している。多様性は、生態系レベル、個体群レベル(遺伝的多様性)、種間レベル(種多様性)といった異なる枠組みでとらえることができる。

生物圏は、炭素窒素酸素といった、多くの生物にとって必要な元素を非常に多量に含む。リン硫黄カルシウムなどのその他の元素も、生物には不可欠である。生態系・生物圏レベルでは、これらの要素は無機・有機の状態間で変化しながら、常に循環している[24]

生態系が機能するための主要なエネルギー源は、太陽光である。植物は光合成により、光を化学エネルギーに変換する[25]。この過程でが生成され、生態系を動かす第二のエネルギー源となる。糖のうちいくつかは、エネルギー源として他の生物に利用され、その他の糖もアミノ酸などの高分子を形成する材料となる。動物媒を行う植物の場合、糖から蜜を作り送粉者を誘うことで、繁殖を可能にしている。

細胞呼吸は、哺乳類などの生物が糖を二酸化炭素や水に変換し、エネルギーを得る過程である[26]。他の生物の呼吸活動に対する植物の光合成活動の割合は、大気中の成分構成(特に酸素)を決定する。気流は大気を攪拌することで、生物活動が濃密な地域と希薄な地域との間での大気バランスを保つ役割を持つ。極地方の寒気と赤道地方の暖気は、低緯度帯のハドレー循環・中緯度帯のフェレル循環・高緯度帯の極循環の3つの空気循環からなる、いわゆる大気大循環によって攪拌されており、熱の不均衡を緩和する役割を持っている。

水もまた水圏・岩石圏・大気圏・生物圏の間でやり取りされる存在である。海洋は水を蓄えた巨大なタンクであり、熱的・気候的安定性を請け負う[27]とともに、海流によって化学物質の輸送も担っている。深海では熱塩循環と呼ばれる長期的な海水の大循環が起こっており、熱や物質の均一化をもたらしている。

生物圏がどのように働いているか、また人間の活動によって生じる機能不全をより深く理解することを目的とし、アメリカのアリゾナ州バイオスフィア2と呼ばれる密閉型人工生態系が1991年に建設され、同年から2年間を1サイクルとして長期実験が行われる予定だった。しかしこの実験は酸素分量の低下などのさまざまな問題によって[28]、最初の2年間の実験のみで打ち切られた。1994年にも短期実験が行われたものの打ち切られ、この実験は失敗に終わった[29]

生態系の概念

生態学の第一の原理は、各々の生物は、それを取り巻く環境を作りあげる他のあらゆる要素との間に、進行的・継続的な関係をもつということである。「生態系」とは、「生物・環境間の相互作用の存在するあらゆる状況」として定義することができる。

生態系は、生物(生物群集)と、その生物が存在するための媒体(生育地・生息地)という、2つの構成要素から成る。生態系内では、種は食物連鎖において互いに関係し、依存し合っている[30]。また、生物同士や環境との間で、エネルギーと物質をやりとりする。

生態系という概念は、さまざまなスケールの単位 --- 1つの池、1つの草地、あるいは1個の木片といった --- に適用できる。

微小な生態系の単位としてmicroecosystemという言葉が使われる。例として、1個の石とその下に存在するすべての生物との関係を考えることができる。同様に、mesoecosystemは森林、macroecosystemは全ての生態地域というように使い分けられる。

生態系はしばしば以下のような、関連する生息空間に基づいて分類される。

恒常性

生息空間は、地質地理気候といった非生物的な環境要因によって、その範囲が規定される。非生物的な環境要因としては、以下のものが挙げられる。

  • - 生物にとって不可欠なものである。陸上においては、供給される水の量(降雨量など)と季節変動が重要な環境要因である。
  • 空気 - 生物に酸素二酸化炭素を供給する。また、花粉胞子を散布する。
  • - 養分供給源として成長を支える。土は岩石の破砕物と有機物が混じったもので、有機物は生物起源の、いわゆるデトリタスである。基盤となる岩石の成分があまりに特殊な場合、土壌成分が偏り、成立する生物群集が制限される場合がある。
  • 温度 - 高温すぎても低温すぎても生物の活動は制約される。生物種によっては温度に対する耐性は様々である。地球上では、おおむね低温の程度によって生物多様性が制限される。
  • - 光合成に必要である。光の当たらない環境(地下や深海など)では、一般には生産者が欠損する。

ただし、このような非生物的要因に、生物が全く関与できないかと言えば、そうではない。一般の見方としては、気候的要因などは緯度標高などによって決定されるものと思われるが、そのようなものであっても、生物の存在によってある程度の変化は生じる。例えば、過度の伐採によって砂漠化している地域があるとする。一度砂漠化すると回復は難しいが、それではなぜ以前には樹木があったのかという疑問が生じる。これは、樹木が過度の攪乱(かくらん)を受けなければ、砂漠にならなかった、つまり砂漠の気候になるのを植物が止めていたことを意味する。一般的に、植物がよく生育していた環境を、過度の攪乱によって裸地化した場合、気温の変動幅が大きくなり、乾燥化する傾向がある。このように、非生物要因によって生物群集が影響を受けることを作用、逆に生物群集が非生物要因に影響を与えることを反作用という。




  1. ^ Allee, W. C.; Emerson, Alfred E.; Park, Orlando; Park, Thomas; Schmidt, Karl P., ed (1949). “Ecological Background and Growth Before 1900”. Principles of animal ecology.. W. B. Saunders 
  2. ^ 「エコロジーの歴史」p97 パトリック・マターニュ著 門脇仁訳 緑風出版 2006年8月1日初版第1刷
  3. ^ 「エコロジーの歴史」p67-70 パトリック・マターニュ著 門脇仁訳 緑風出版 2006年8月1日初版第1刷
  4. ^ 「エコロジーの歴史」p71 パトリック・マターニュ著 門脇仁訳 緑風出版 2006年8月1日初版第1刷
  5. ^ 「エコロジーの歴史」p115 パトリック・マターニュ著 門脇仁訳 緑風出版 2006年8月1日初版第1刷
  6. ^ 「エコロジーの歴史」p99 パトリック・マターニュ著 門脇仁訳 緑風出版 2006年8月1日初版第1刷
  7. ^ 「エコロジーの歴史」p132 パトリック・マターニュ著 門脇仁訳 緑風出版 2006年8月1日初版第1刷
  8. ^ 「エコロジーの歴史」p134-136 パトリック・マターニュ著 門脇仁訳 緑風出版 2006年8月1日初版第1刷
  9. ^ 「エコロジーの歴史」p98 パトリック・マターニュ著 門脇仁訳 緑風出版 2006年8月1日初版第1刷
  10. ^ Encyclopedia of Earth: Biosphere(生物圏)
  11. ^ 「エコロジーの歴史」p161 パトリック・マターニュ著 門脇仁訳 緑風出版 2006年8月1日初版第1刷
  12. ^ 「エコロジーの歴史」p28-29 パトリック・マターニュ著 門脇仁訳 緑風出版 2006年8月1日初版第1刷
  13. ^ 「エコロジーの歴史」p44-45 パトリック・マターニュ著 門脇仁訳 緑風出版 2006年8月1日初版第1刷
  14. ^ 「エコロジーの歴史」p39-41 パトリック・マターニュ著 門脇仁訳 緑風出版 2006年8月1日初版第1刷
  15. ^ 「エコロジーの歴史」p52-53 パトリック・マターニュ著 門脇仁訳 緑風出版 2006年8月1日初版第1刷
  16. ^ 「エコロジーの歴史」p186 パトリック・マターニュ著 門脇仁訳 緑風出版 2006年8月1日初版第1刷
  17. ^ 「エコロジーの歴史」p202 パトリック・マターニュ著 門脇仁訳 緑風出版 2006年8月1日初版第1刷
  18. ^ 池内昌彦・伊藤元己・箸本春樹 他 『キャンベル生物学 原書9版』 丸善出版株式会社、2013年。 
  19. ^ 「基礎地球科学 第2版」p17 西村祐二郞編著 朝倉書店 2010年11月30日第2版第1刷
  20. ^ 「基礎地球科学 第2版」p17 西村祐二郞編著 朝倉書店 2010年11月30日第2版第1刷
  21. ^ 「生命の起源はどこまでわかったか 深海と宇宙から迫る」p46-47 高井研編 岩波書店 2018年3月15日第1刷発行
  22. ^ 「基礎地球科学 第2版」p145 西村祐二郞編著 朝倉書店 2010年11月30日第2版第1刷
  23. ^ 「人間のための一般生物学」p26 武村政春 裳華房 2010年3月10日第3版第1刷
  24. ^ 「人間のための一般生物学」p70-71 武村政春 裳華房 2010年3月10日第3版第1刷
  25. ^ 「人間のための一般生物学」p90-91 武村政春 裳華房 2010年3月10日第3版第1刷
  26. ^ 「生命の意味 進化生態から見た教養の生物学」p14 桑村哲生 裳華房 2008年3月20日第8版発行
  27. ^ 「生命の意味 進化生態から見た教養の生物学」p30 桑村哲生 裳華房 2008年3月20日第8版発行
  28. ^ 長島美織, 「環境リスクと健康リスク : バイオスフィア2の教えること」『国際広報メディア・観光学ジャーナル』 19巻 p.31-43, 北海道大学大学院国際広報メディア, 2014-09-26 2020年5月22日閲覧
  29. ^ https://courrier.jp/news/archives/160902/ 「火星移住を夢見た「世界で最も奇妙な科学実験」は本当に失敗だったのか」COURRiER Japon 2019.5.14 2020年5月3日閲覧
  30. ^ 「人間のための一般生物学」p68 武村政春 裳華房 2010年3月10日第3版第1刷
  31. ^ 「人間のための一般生物学」p69 武村政春 裳華房 2010年3月10日第3版第1刷
  32. ^ 「生命の意味 進化生態から見た教養の生物学」p30 桑村哲生 裳華房 2008年3月20日第8版発行
  33. ^ https://news.yahoo.co.jp/byline/tatsumiyoshiyuki/20200129-00160738/ 「恐竜絶滅を引き起こした「隕石の冬」と「火山の冬」」巽好幸 ヤフーニュース 2020年1月29日 2020年5月3日閲覧
  34. ^ AFPBB News2012年6月26日閲覧


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