熱帯低気圧 熱帯低気圧の概要

熱帯低気圧

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/04 14:52 UTC 版)

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2006年の台風シーズンに発生した、発達の段階の異なる3個の熱帯低気圧。最も弱いもの(左)は最も基本的な円形のみを形成し、やや発達したもの(右上)はスパイラルバンド(螺旋状の降雨帯)の形成と中心部への集中が進み、最も強いもの(右下)は発達したを形成している。

概要

熱帯低気圧は、低気圧中心、閉じた低気圧性の大気循環、強い風、および大雨をもたらす渦巻き状の雷雲によって特徴づけられる、急速に回転する激しい暴風雨を伴う系である。その発生域および強さに応じて、台風(タイフーン)、ハリケーンサイクロンなど、異なる呼び名で呼ばれるが、本質的には同じ気象現象である[2][5]。それぞれ、台風(タイフーン)は北西太平洋で、ハリケーンは大西洋および北東太平洋で、サイクロンは南太平洋またはインド洋で、発生・発達したものを指す[5][6]

「熱帯」(: Tropical)とは、これらの系の地理的発生源を指し、ほぼ排他的に熱帯の海洋上で発生することに由来する。一方、「低気圧」(: Cyclone)とは、その中心部のくっきりとしたの周りで、北半球では反時計回りに、南半球では時計回りに吹く、渦を巻くような風の動きを指す。北半球と南半球で風の吹く向きが反対になるのは、コリオリの力のせいである。熱帯低気圧は典型的に比較的暖かい海域で発生する。水面から蒸発したを通してエネルギーを得て、最終的に水蒸気は再凝結してになり、湿った空気が上昇して冷やされ、飽和状態になると雨を降らせる。このエネルギー源は、北米のノーイースターや欧州のウィンドストーム英語版のような温帯低気圧のそれ(水平方向の温度差が主な動力源[7])とは異なる。熱帯低気圧は典型的には直径が100 and 2,000 km (62 and 1,243 mi)にもなる。

気流が回転軸に向かって内側へと流れ込むときに地球の自転によって与えられる角運動量の保存の結果、熱帯低気圧の風は強い回転を伴うようになる。そのため、赤道から5度以内の海域で熱帯低気圧が発生することは滅多にない[8]ウインドシアが常に強く、熱帯収束帯の活動が弱い南大西洋では、熱帯低気圧はほとんど知られていない[9]。また、アジアモンスーンおよび西太平洋暖水塊英語版、並びに大西洋とカリブ海の低気圧を発生させるアフリカ東風ジェット英語版と大気の不安定な地域は、熱帯低気圧の発生する北半球とオーストラリア周辺の特徴である。

沿岸の地域は特に内陸の地域に比べて熱帯低気圧の影響を受けやすい。これらの熱帯低気圧の主要なエネルギー源は暖かい海水である。それゆえ、熱帯低気圧は典型的には、海上や海の近くにあるときに発達して最も強くなり、陸地に上がると急速に衰えていく。沿岸部は、強い風と雨、(風による)高波、(風と激しい気圧の変化による)高潮竜巻の発生などの被害を受けるおそれがある。また、熱帯低気圧は広い地域 — 最も激しいものでは非常に広い地域 — から大気を巻き込み、その中の水分(大気中に含まれる水滴や水蒸気)を、ずっと狭い地域に集中して降水をもたらす。水分を含んだ大気が、その水分を雨として降らせた後、新たな水分を含んだ大気と断続的に入れ替わることによって、その局地的大気がいかなる時点でも一度に保持し得る含水量をもはるかに超える、極度の大雨を降らせたり、海岸線から40キロメートル (25 mi)離れた辺りにまで外水氾濫(河川の氾濫)をもたらしたりするおそれがある。

熱帯低気圧が人間集団に与える影響は、しばしば破壊的である一方で、干ばつ状態を緩和してくれる効果もある。また、熱エネルギーを熱帯から温帯へと輸送して、地域および地球規模の気候を調節する重要な役割も果たしている。

特徴

熱帯低気圧には、4つの大きな特徴がある。

  1. 暖気のみ(暖気核またはウォームコアという)で構成されていて、前線を伴わない。
  2. 大気中の水蒸気が凝結して水滴になる際に放出される潜熱をエネルギー源として発達する。このため、水温が高い熱帯の海洋上で発生し、水温が低い海域や蒸発の乏しい陸上に移動すると勢力が衰える。
  3. 天気図上では、等圧線がきれいな同心円状に分布する。このため、等圧線が同心円でない他の低気圧に比べて、最大風速が増しやすい。また、風速分布も同心円に近く、のすぐ外側で最大となる。
  4. 対流圏下層から上層まで広い層で低圧部となる。

構造

熱帯低気圧の中心へ吹き込む風(橙)と上空へ吹き上げられ、周囲へ拡散する風(青)
Eye:目、Eyewall:目の壁(アイ・ウォール)、Rain Bands:降雨帯(スパイラル・バンド)[10][11]

積乱雲が中心に向かって巻き込む、渦巻き状に配列した構造を持っており、発達したものは中心にと呼ばれるのない領域を持つ。積乱雲の直径は、300km程度から2000km程度までとさまざまである。全体が熱帯の暖かい空気からなるため、温帯低気圧とは異なり、前線を伴わない。

既述の通り、暖められた海面から発生する水蒸気が上空で凝結する際に放出する、潜熱をエネルギー源として発達する。潜熱は空気を暖めるので、上昇気流を促進し、個々の積乱雲が成長する。熱帯の海洋上では、このようにして発達した積乱雲がいくつも群れを成している。

熱帯低気圧は、これらのうちの1つの雲群が「組織化」し、雲群の中心を軸にして回転するものである。組織化するためには、第2種条件付不安定 (CISK) が成立することが必要である。また、CISKが成立するきっかけとして、偏東風(貿易風)の波動が関与しているとする考え方(偏東風波動説)もある。

数百kmと大きな規模を持つので、回転の際にはコリオリの力遠心力を受け、傾度風に近いバランスで風が吹き、等圧線は同心円状に分布する。他の低気圧と同様にコリオリの力を受けるため、北半球では左回り(反時計回り)、南半球では右回り(時計回り)に回転する渦状の雲群に変化する。

傾度風に近いのは上空1~2km以上の対流圏自由大気層)であり、もっと地表に近い層(エクマン境界層)では摩擦力を受けるため、熱帯低気圧の中心寄りに風向が曲げられる。これにより、中心に向かって強い風が吹き込む。中心付近で行き場を失った空気は、上昇気流に乗って上空へと運ばれる。運ばれた空気は水蒸気と分離するが、潜熱により暖かいため、吸い上げる流れを励起して気圧がいっそう低下し、風速がさらに強まる。

熱帯低気圧に流れ込む空気は、中心に近づくほど、角運動量保存則によって、その風速を増やす。風速が大きくなるにつれて、遠心力も大きくなる。十分に遠心力が大きくなると、中心に空気を吸い込もうとする気圧傾度力と釣り合うため、それ以上は中心に近づけなくなる。さらに、自由大気層に限って言えば、中心に近づくほど、上昇気流が強まり、風向が上向きになる。

しかし、中心に近いところでは遠心力が大きすぎるため、中心から一定の半径内では風が弱まり、逆に反流による弱い下降気流が吹き、雲が存在しない穏やかな状態となる。これをという。

目が明瞭に形成されるには遠心力が大きくなくてはならないので、はっきりとした目を持つのは、かなり発達した熱帯低気圧である。目の直径は一般的に数十km程度だが、発達するにつれてピンホールのようなごく小さな目になることも多い。まれに目の直径が数km程度にまで縮小して、目が消失したかのような状態になることがある。また、熱帯低気圧が大きい場合などには、直径が100kmを超えるような大きな目となることがある。なお、発達した熱帯低気圧であっても、上層雲などによって目が不明瞭となる場合も少なくない。

目の外側に沿って上昇する空気は、上空に行くほど気圧傾度力が小さくなる一方で、遠心力が大きくなるために、台風の外側に向かって流入の際とは逆方向、つまり北半球では右回り(時計回り)、南半球では左回り(反時計回り)に吹き出している。このとき、湿度が高い空気によって巻雲などの上層雲ができる。これは、熱帯低気圧から離れたところでも現れるので、接近の前兆とされる。

目の外側は、猛烈な上昇気流によって作られた積乱雲の壁になっている。これをアイ・ウォール (eye wall) という。

アイ・ウォールの外側には、熱帯低気圧に流れ込んでくる空気の流れに沿って形成された螺旋状の積乱雲の雲列が並んでいる。これをスパイラル・バンド (spiral band) という。スパイラル・バンドはマルチセルと呼ばれる対流系であり、雲列の先頭(目に近い部分)がアイ・ウォールの雲とつながって内側降雨帯を構成している一方、途中の部分は中心から伸びる腕のような外側降雨帯を構成し、最後尾では晴天域から積乱雲が次々とわき出てきて世代交代を行っている。

アイ・ウォールやスパイラル・バンドは、熱帯低気圧の主要な雲塊である。一方、これらの雲とは離れた場所に、さも独立するかのように積乱雲の帯が発生することがある。これを先駆降雨帯(外縁部降雨帯、: outer rainband)といい、レーダーや雲画像では熱帯低気圧とは独立した雲のように見えるが、雲の帯はスパイラル・バンドに並行であり、メカニズム上は熱帯低気圧の雲である。しばしばスパイラル・バンドとつながって合流することもあるが、自然消滅することもある。

一般的に、熱帯低気圧が近づいてくるにつれて風が強くなり、外側降雨帯に入ると、降り方の変化が大きい驟雨性の雨が降り出す。熱帯低気圧の風向は等圧線にほぼ平行であり、風下を向いたときはその真左の方向に中心がある。中心に近づくほど暴風雨は強まるが、目に入ると風が弱まる。そして、目を抜けて再び暴風雨が訪れるときには、風向は逆になっている。

温帯低気圧は上層の偏西風波動による上昇気流の励起と下層の傾圧帯との相互作用で発達する一方、熱帯低気圧は相当温位の高い暖気の上昇による潜熱の解放をエネルギー源にしているため、前線を伴わない。これは熱帯低気圧の最大の特徴と言われる。また、中心の東西南北の空気の性質にほとんど差がないために、熱帯低気圧の構造はほとんど中心に対して対称になっている。このため、高緯度地域に移動して寒気を巻き込んでしまうと、対称な構造が崩れ、エネルギー源である潜熱の供給量が減って衰弱し、やがて前線を伴った温帯低気圧になる。

熱帯低気圧にまつわる概念

熱帯低気圧の位置を示す際には、地上・海上での気象観測気象衛星の画像などから推定した、熱帯低気圧の中心の位置を熱帯低気圧の位置とし、熱帯低気圧の移動や速度なども中心の位置をもとに表される。

熱帯の海洋上で雲がまとまって渦を巻く兆候があり、気圧の低下が見られ、今後も発達する傾向があるような場合に「熱帯低気圧が発生した」とするが、そのタイミングは明確には規定されていない。ちなみに、台風の場合には最大風速による定義(次節参照)があるので、その風速に達したときに「台風が発生した」と表現する。

発生した熱帯低気圧は、まず貿易風帯の中を、北半球では北西、南半球では南西へ移動する。やがて偏西風帯に入ると、向きを変え(転向という)、北半球では北東、南半球では南東へ移動する。その明瞭な転向地点を転向点と呼ぶ。上空の気流のほかにも、気圧配置も台風の転向に強い影響を与える。たとえば、夏の主役である北太平洋高気圧の中には、どんなに勢力の強い台風であっても、割って入ることは不可能である。そのため、台風は北太平洋高気圧の縁を通らざるを得ない。この「縁」の部分も転向点になることがある。日本においては、晩夏から初秋にかけては、主に沖縄近海が転向点になりやすい。

熱帯低気圧が陸上に達することを上陸という。一般的に、大きな島や大陸に達したときに上陸といい、小規模な島を通った場合には、上陸ではなく通過という表現を用いる。日本の場合では、北海道、本州、四国、九州の四島では上陸と言うが、他の島嶼部では沖縄本島のような大きな島であっても上陸とは言わず、通過扱いになる。上記四島であれば、房総、三浦などの比較的小さな半島部を台風の中心が通ったとしても上陸扱いになる。

熱帯低気圧が温帯低気圧に変わることを、温帯低気圧化(温低化)[12]あるいは消滅という。温帯低気圧にならずにそのまま勢力を弱め、消えた場合も消滅という。ただし、温低化した後で、再び中心気圧が低下することもある(つまり、温低化しても勢力が弱くなるとは限らない)ため、「台風は温帯低気圧に変わりました」という気象情報の理解には注意が必要である。

分類・命名

海域別の呼称

国際的には、すべての熱帯低気圧は、その域内の最大風速に基づく強度によって大まかに、トロピカル・デプレッション(弱い熱帯低気圧[13]とも)、トロピカル・ストーム(熱帯暴風[13]とも)、及び地域ごとに異なる呼び名で呼ばれる発達した熱帯低気圧、の3つに分類される。地域ごとの呼び名の代表的な例として、北西太平洋域では熱帯低気圧がビューフォート風力階級で風力8以上に発達すると、台風と呼ばれるようになる。台風とタイフーンは、いずれも typhoon と英訳されるが、厳密には、最大風速が風力8以上の熱帯低気圧が「台風」に分類され、風力12に達した熱帯低気圧のみが「タイフーン」に分類されるように、それぞれ定義が異なる[14](下表参照)。北東太平洋域または北大西洋域で熱帯低気圧がタイフーンと同等の勢力に達すれば、ハリケーンと呼ばれる[15]。南半球およびインド洋においては、ハリケーンやタイフーンという呼称は使用されず、この海域で熱帯の性質をもつ低気圧は、日本ではサイクロンと総称される[16][17]

オーストラリア周辺の熱帯低気圧をウィリー・ウィリーと呼ぶという説があるが、これは正確には誤りである。ウィリー・ウィリーは砂漠などで発生する塵旋風に対してアボリジニ(オーストラリアの先住民)が用いる語である[18][19]が、これがオーストラリア周辺の熱帯低気圧を指す語として誤解されて研究者の間で広まったようである。

熱帯低気圧の標準的分類
英文における呼称(国際標準)[注 1] 最大風速[注 2] 風力 和文における呼称(日本国内標準)[注 3]
分類 略号 m/s kt 分類
Tropical Depression TD 17.2未満 33以下 7以下 熱帯低気圧[注 4]
Tropical Storm TS 17.2–24.4 34–47 8–9 台風[注 5]
Severe Tropical Storm STS 24.5–32.6 48–63 10–11
Typhoon/Hurricane/Cyclone T/H/C 32.7以上 64以上 12

このように日本語においては、台風以外の熱帯低気圧はその強度に関係なく、すべて単に「熱帯低気圧」と呼称される。以前、気象庁はトロピカル・デプレッションと同等の強度の熱帯低気圧を「弱い熱帯低気圧」と呼称して区別していたが、1999年の玄倉川水難事故の際に[24]この表現は災害が起こらないかのような誤解を招くとの指摘を受けたことがきっかけとなって、2000年6月1日以降は防災上の配慮からこの表現を使用しないことにしている。

太平洋域においては、太平洋北中部で発生したハリケーンが日付変更線および180度経線を西に横断して北西太平洋域に入ると、台風となる[25](例:2006年のハリケーン・イオケ/台風12号)。逆に台風が東進してハリケーンと呼ばれるようになることも稀にある[26]。また、合同台風警報センターは、1分間の平均風速の最大値が67m/sを超える台風を Super Typhoons (スーパー台風)と呼び分けている[27]

さらに、前記の表に示した標準的な呼称に加えて、各海域で熱帯低気圧の観測を担当する気象機関ごとに異なる用語体系(下表参照)が使われており、異なる海域間で熱帯低気圧を相互に比較することは困難になっている。

熱帯低気圧の分類
風力階級 1分間平均
最大風速
(NHC/CPHC/JTWC)
10分間平均
最大風速
(WMO/JMA/MF/BOM/FMS)
北東太平洋
及び北大西洋
NHC/CPHC[28]
北西太平洋
JTWC
北西太平洋
JMA
北インド洋
IMD[29]
南西インド洋
MF
豪州周辺
及び南太平洋
BOM/FMS英語版[30]
0–7 <32ノット (16 m/s) <28ノット (14 m/s) トロピカル・デプレッション トロピカル・デプレッション トロピカル・デプレッション デプレッション ゾーン・オブ・ディスターブド・ウェザー トロピカル・ディスターバンス
トロピカル・デプレッション
トロピカル・ロー
7 33ノット (17 m/s) 28–29ノット (14–15 m/s) ディープ・デプレッション トロピカル・ディスターバンス
8 34–37ノット (17–19 m/s) 30–33ノット (15–17 m/s) トロピカル・ストーム トロピカル・ストーム トロピカル・デプレッション
9–10 38–54ノット (20–28 m/s) 34–47ノット (17–24 m/s) トロピカル・ストーム サイクロニック・ストーム モデレート・トロピカル・ストーム カテゴリー1
トロピカル・サイクロン
11 55–63ノット (28–32 m/s) 48–55ノット (25–28 m/s) シビア・トロピカル・ストーム シビア・サイクロニック・ストーム シビア・トロピカル・ストーム カテゴリー2
トロピカル・サイクロン
12+ 64–71ノット (33–37 m/s) 56–63ノット (29–32 m/s) カテゴリー1
ハリケーン
タイフーン
72–82ノット (37–42 m/s) 64–72ノット (33–37 m/s) タイフーン ベリー・シビア・サイクロニック・ストーム トロピカル・サイクロン カテゴリー3
シビア・トロピカル・サイクロン
83–95ノット (43–49 m/s) 73–83ノット (38–43 m/s) カテゴリー2
ハリケーン
96–97ノット (49–50 m/s) 84–85ノット (43–44 m/s) カテゴリー3
メジャー・ハリケーン
98–112ノット (50–58 m/s) 86–98ノット (44–50 m/s) エクストリームリー・シビア・サイクロニック・ストーム インテンス・トロピカル・サイクロン カテゴリー4
シビア・トロピカル・サイクロン
113–122ノット (58–63 m/s) 99–107ノット (51–55 m/s) カテゴリー4
メジャー・ハリケーン
123–129ノット (63–66 m/s) 108–113ノット (56–58 m/s) カテゴリー5
シビア・トロピカル・サイクロン
130–136ノット (67–70 m/s) 114–119ノット (59–61 m/s) スーパー・タイフーン スーパー・サイクロニック・ストーム ベリー・インテンス・トロピカル・サイクロン
>137ノット (70 m/s) >120ノット (62 m/s) カテゴリー5
メジャー・ハリケーン

正式に命名されるほどまで十分に発達しなかった場合でも、熱帯低気圧の監視業務を担当する警報センターによって、ほぼ全ての熱帯低気圧および亜熱帯低気圧に番号が割り当てられる。

たとえば、(軍民を問わず)アメリカ合衆国政府の関心を引く、(公式に)北大西洋および北太平洋の海域で発生する熱帯低気圧、及び(非公式に)その他の海域で発生する熱帯低気圧系には、国立ハリケーンセンター (NHC)、中部太平洋ハリケーンセンター (CPHC)、及び合同台風警報センター (JTWC) によって、熱帯低気圧番号(TC番号)が付与される。TC番号は、各年または各シーズンに入ると01から昇順に割り振られる2桁の数字に続けて、発生海域に対応する英字の接尾辞(東太平洋にはE、中部太平洋にはC、西太平洋にはW)を付ける形式をとる(ただし、北大西洋域を除く)[31]。トロピカル・デプレッションや他にまだ命名されていない熱帯低気圧がある場合に仮の名称を生成する目的で、数字部分は "ONE" のように綴り字で表記される例も見られ、これにハイフンと発生海域を表す接尾辞を付け加えて "ONE-E" というふうに表記される場合もある(とりわけ、JTWCが追跡する領域では、米国標準と国際標準で風速の測定基準に違いがあるために、ある気象機関で熱帯低気圧とみなされた系が別の気象機関ではその基準を満たさない場合がある)。

TC番号の例を挙げると、PTC 08 は北大西洋域の8番目の潜在的な熱帯低気圧 EIGHT を指し、TD 21E は東太平洋域の21番目のトロピカル・デプレッション TWENTYONE-E を、SD 03C は中部太平洋域の3番目の亜熱帯低気圧 THREE-C を指す。TC番号には、熱帯低気圧自動予測システム英語版の都合上、付けられる番号は最大で49までという厳しい制限があるが、NHCとCPHCは通常、これを30までに制限している[32]。また、TC番号は次の年またはシーズンに入るまでは再使用されない。この付番方式は、熱帯低気圧にまで発達する可能性のあるインベスト英語版と呼ばれる熱帯擾乱域に対して使用される付番方式と類似している(ただし、インベストに付与される番号は90から99までで、同じ年またはシーズン内で輪番して再使用されるほか、北大西洋の系には、明示的に接尾辞の "L" が付加される)。

襲来した場所や事物にちなんだ名前を使用して熱帯低気圧系を識別する方法は、正式な命名が開始される以前から、長年にわたって行われてきた[41][42]。現在使用されている命名方式では、一般の人々にも容易に理解して認識してもらえるような簡潔な形式で熱帯低気圧系を確実に識別することができる[41][42]。気象系に対して初めて人名を使用したのは、1887年から1907年まで名前を付けていたとされる、クイーンズランド州政府英語版の気象学者クレメント・ラグ英語版であると一般的に信じられている[41][42]。この気象系の命名方式はその後、ラグが引退してから数年の間は使用が取り止められていたが、西太平洋域については第二次世界大戦の後半頃に復活した[41][42]。その後、北大西洋および南大西洋、東太平洋、中部太平洋、西太平洋および南太平洋、ならびにオーストラリア周辺およびインド洋の各海域について、正式な命名の枠組みが導入された[42]

現在、熱帯低気圧は11の指定気象機関のうちの1つによって公式に命名され、熱帯低気圧の発生から消滅まで一貫してその名前が使用される。これは、予報者と一般の人々との間で、予報・注意報・警報に関する情報の伝達を容易にするために行われている[41]。熱帯低気圧系は一週間以上持続することもあり、また同じ海域で同時に2つ以上発生することもあるため、それらの名前がどの熱帯低気圧を表しているかについて混同を減らすために命名法が考慮されている[41]。熱帯低気圧の名前は、いずれかの発生海域に応じて、1分間平均、3分間平均または10分間平均の最大風速が65 km/h (40 mph)を超えたものについて、事前に選定されたリストの中から順に割り当てられる[28][29][43]。しかし、命名の基準は海域ごとに異なる。西太平洋ではトロピカル・デプレッションに名前が付けられることがある一方、南半球では熱帯低気圧が命名されるには中心付近に有意な強い風が一定量吹いていることが条件となる[43][30]。北大西洋域、太平洋域、オーストラリア周辺における重大な熱帯低気圧の名前は、命名リストから「引退」して別の名前に置き換えられる[28][30][44]

命名の実際

世界気象機関が定義するトロピカル・ストーム以上の強度の熱帯低気圧には、それが存在する海域ごとの命名規則に従って、番号や人名による命名がされる。また、海域によっては、トロピカル・デプレッション以上の強度の熱帯低気圧[疑問点]に番号を付与するところもある。

北西太平洋の熱帯低気圧(台風)については、トロピカル・デプレッション以上の強度[疑問点]で、合同台風警報センター(JTWC)による番号の付与(数字の後にWを付ける)が行われる。また、25N 120E、25N 135E、5N 135E、5N 115E、15N 115E、21N 120E、25N 120Eで囲まれた海域を通過する熱帯低気圧(台風)には、さらにフィリピン気象局(PAGASA)によるフィリピン名の命名が行われる。トロピカル・ストーム以上の強度では、気象庁による番号の付与(甚大な被害をもたらした台風は命名されることもある)台風委員会によるアジア名の命名が行われる。台風は最大で4つの呼称を同時に持つ。各気象機関によって分類基準となる最大風速の観測値が多少異なることがあり、ある気象機関だけがトロピカル・デプレッション以上の強度とみなす場合がある[疑問点]。このようなときは「気象機関の略号+Tropical Depression+番号」のような呼称が使用される。

  • 例:2007年台風第4号:4号(気象庁台風番号), 04W(JTWC熱帯低気圧番号), Man-yi(アジア名), Bebeng(フィリピン名)
  • 例:2007年台風第9号:9号(気象庁台風番号), 10W(JTWC熱帯低気圧番号), Fitow(アジア名), フィリピン名はなし

北大西洋および西経140度より東の太平洋北東部の熱帯低気圧(ハリケーン)については、トロピカル・デプレッション以上の強度[疑問点]で、アメリカ国立ハリケーンセンター(NHC)による英語数字による命名が行われ、トロピカル・ストーム以上の強度に達すると同センターによる命名が行われる。北大西洋と太平洋北東部それぞれで別々に命名が行われ、数字や名前のリストも別々である。北大西洋から太平洋北東部、またはその逆に熱帯低気圧が移った場合、それまでの名称とは別に新たにその海域の名称が命名される。

2007年ハリケーン・ディーン:Four(数字命名), Dean(命名)
2007年トロピカルストーム・バーバラ:Two-E(数字命名), Barbara(命名)

180度から西経140度までの太平洋北中部の熱帯低気圧(ハリケーン)については、トロピカル・デプレッション以上の強度[疑問点]で、中部太平洋ハリケーンセンター(CPHC)による英語数字による命名が行われ、トロピカル・ストーム以上の強度に達すると同センターによる命名が行われる。

北インド洋の熱帯低気圧(サイクロン)については、JTWCによる番号の付与(ベンガル湾で発生した場合はB、そのほかの海域の場合はAを、数字の後に付ける)、IMDによる番号の付与、沿岸8カ国合同での命名が行われる。

  • 例:2007年サイクロン・ゴヌ:02A(JTWC数字番号), Gonu(命名)

南緯0度より南、東経90度より西側のインド洋では、風速35ktを超えるような熱帯低気圧が発生した場合、レニオン島にあるフランス気象局が名称を付与する。それまでの間、トロピカルデプレッションの熱帯低気圧には、便宜上番号を割り当てる。ただし、JTWCでは、番号の付与(数値の後にSを付ける)する。

  • 例1 (JTWC):2010年サイクロン・IMANI 21S (JTWC番号) IMANI(命名)
  • 例2 (METEO FRANCE):2010年サイクロン・IMANI 14 (レニオンでの番号割当) IMANI(命名)
  • 注: 南半球では季節が異なることから、年が先行することがある。フランス気象局の場合、熱帯低気圧の番号表記を、対外的には「14/20092010」と表記される。

東経90度から125度までのオーストラリア西部海域の熱帯低気圧(サイクロン)については、JTWCによる番号の付与(数字の後にSを付ける)、オーストラリア気象局(BOM)パース地域センターによる命名が行われる。

東経125度から137度までのオーストラリア北部海域の熱帯低気圧(サイクロン)については、JTWCによる番号の付与(数字の後にSを付ける)、BOMのダーウィン地域センタ)による命名が行われる。

東経137度から160度までで南緯10度より南のオーストラリア東部海域の熱帯低気圧(サイクロン)については、JTWCによる番号の付与(数字の後にSを付ける)、BOMのブリスベン地域センターによる命名が行われる。

  • 注:オーストラリアでは、熱帯低気圧警報では出てこないが、支援情報では独自に番号割り当てをしており、番号に続けて"U"が付けられる。

東経141度から160度までで南緯10度から赤道までの熱帯低気圧(サイクロン)については、JTWCによる番号の付与(数字の後にSを付ける)、パプアニューギニア国立気象局による命名が行われる。

南半球において、東経160度より東の太平洋の熱帯低気圧(サイクロン)については、JTWCによる番号の付与(インド洋で発生した場合はS、太平洋で発生した場合はPまたはFを、数字の後に付ける)、フィジー気象局(FMS)による命名が行われる。


番号の付与

  1. ^ 世界気象機関『台風委員会運用指針』 CHAPTER 4 - TROPICAL CYCLONE WARNINGS AND ADVISORIES 4.2 Classification of tropical cyclones[20]及び別資料[21]を参考に作成。
  2. ^ ここでは、10分間の平均風速の最大値を基準に用いる。
  3. ^ 『気象官署予報業務規則』第78条の定義による[22]
  4. ^ この「熱帯低気圧」は、総称としての熱帯低気圧 (Tropical Cyclone) のうち、台風の強度に達しないものを指す用語である[23]
  5. ^ 東経180度以東の北太平洋で発生するものは「発達した熱帯低気圧」と呼ばれる[22]

命名

熱帯低気圧に付与される番号[31][33][34]
海域 警報センター 形式 表記例
北大西洋 NHC nn
(nnL)​[註 1]
06
(06L)
北東太平洋
(西経140度以東)
nnE 09E
北太平洋中部
(日付変更線以東、西経140度以西)
CPHC nnC 02C
北西太平洋
(日付変更線以西)
JMA yynn
(nn, Tyynn)​[註 2]
1330
(30, T1330)
JTWC nnW 10W
北インド洋
ベンガル湾
IMD BOB nn BOB 03
JTWC nnB 05B
北インド洋
アラビア海
IMD ARB nn ARB 01
JTWC nnA 02A
南西インド洋
(東経90度以西)
MFR nn
(REnn)​[註 3]
07
(RE07)
南西インド洋およびオーストラリア周辺
(東経135度以西)
JTWC nnS 01S
オーストラリア周辺
(東経90度以東、東経160度以西)
BOM nnU 08U
オーストラリア周辺および南太平洋
(東経135度以東)
JTWC nnP 04P
南太平洋
(東経160度以東)
FMS nnF 11F
南大西洋 NRL, NHC[註 4] nnQ 01Q
英国気象局 nnT[註 5] 02T
註:
  1. ^ NHCは北大西洋域のサイクロンのTC番号に一切の接尾辞を付加しないが、他の海域を追跡する他の警報センターの付与する番号と混同することを避けるために、JTWCおよび米国以外に拠点を置く気象機関(英国気象局など)により、熱帯低気圧自動予測システム (ATCF) が定義する接尾辞 L が明確に付け加えられる(接尾辞 "L" は、NHCが北大西洋域の他の非サイクロン性の系に対する付番方式であるINVESTのように、わかりやすさのために使用される)。
  2. ^ yyは西暦年の下2桁を指し示し、しばしば和文の台風番号に見られる。接頭辞 T は気象庁が発表するベストトラックデータおよびテクニカルレポートでのみ使用される[35][36]
  3. ^ フランス気象局はベストトラックデータにのみ、接頭辞 RE を割り当てる[37]。歴史的には、気象ウェブサイト Australia Severe Weather が、JTWCの番号と区別するために、フランス気象局の追跡したサイクロンの番号に("MFR-07"というふうに)接頭辞 MFR- を付け加えていた[38]が、この付加は現在では行われていない。
  4. ^ NHCは南大西洋域に対しては警報を発していないが、過去にはアメリカ海軍研究所の海洋気象部門と協力して同海域の熱帯低気圧の系を追跡していたことがある[39]
  5. ^ 英国気象局は南大西洋域に対しては警報を発していないが、2004年以降、米国の追跡データ以外の熱帯低気圧にのみ、接尾辞 T を割り当てている[38][40]
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