測定 測定の概要

測定

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/22 00:21 UTC 版)

一般的な巻尺。これで硬貨直径を測定することは可能だが、中心割り出しなど測定方法の課題は残る。

ルドルフ・カルナップは1966年の著書『物理学の哲学的基礎』にて科学における主要な概念として、分類概念・比較概念・量的概念の3つを提示した。このうち、量的概念 (quantitative concept) を「対象が数値を持つ概念」と規定し、その把握には規則と客観的な手続きに則った判断が求められるとした[5]。そしてこの物理学的測定は、測定する対象の性質や状態のメカニズム理論に基づいた尺度構成が重要になる[5]。測定に関する理論および実践についての科学は、計量学: metrology)と呼ばれる。

測定の対象は自然科学だけにとどまらない。会計学においても貨幣的尺度を用いた評価や[6]、企業の財務会計と適切なモデルを対応づけることなどを「測定」とする[7][2- 2]例がある。より広範な社会構造や地位などを統計学ではなく測定による理解を行う学問は「計量社会学」と呼ばれる[8]心理学においても量的概念とその測定・解析[9]に関する理論があり、これはグスタフ・フェヒナーが創設した精神物理学 (psychophysics) に始まったと言われる[5]

定義

測定は、必ず何かしらの基準となる機器を用い、その結果として数と測定単位の組み合わせで表示される。したがって、例えば並んで立つ2人の身長がどちらが高いかを見る事は測定とは言い難い。試験も何らかの評価を下す行為だが、これも「合否」という結果を導き出すものである限り、測定とは言えない。ただし、一連の試験を下すプロセスの中には、何かしらの測定が行われる場合もある[10]

同様な意味で用いられ、日本語において明瞭に区別されていない用語には、計測(けいそく、: instrumentation)と計量(けいりょう、: metrology)がある[1]JIS Z8103の「計測用語」では、計測とはより広い定義がなされ、ある目的のために対象を量的に把握する技術・方法や手段の立案・計画から実行、そして目的の達成[1]、結果を情報として利用できるようにする段階までを含む[11]。同用語定義では、計量とは測定標準における公的な取り決めに基づいた、計る行為そのものとみなすこと出来る[1]

上記のJIS定義は、ISOが定める国際計量基本用語集(VIM, 1993年)との差異がある。VIMでは計量・計測に違いを設けずいずれも: metrology: métrologieとし、測定に関する理論および実践のすべてを包括すると定める。測定には: mesurageが当たり、測定行為を指し示す用語としている。しかし、計量学におけるそれぞれの名詞は、奥義において重なり合っている部分が多いため厳密に区分できるものではなく、VIMは逆に区分することで表現が枯渇するような事態にならないよう推奨している[12]

近い意味を持つ単語に測量(そくりょう、: surveying)がある。測量法第3条の規定によると、測量とは地球表面(地表、地中、水中、空中)に存在する自然物や人工物の空間的位置を対象とする測定およびその技術を指す[13]

測定の種類

間接測定による単位パーセクを用いた天体までの距離測定。このような長大な距離を直接測定することは事実上不可能である。

測定には「直接測定」 (direct measurement) と「間接測定」 (indirect measurement) がある[3][4][14]。直接測定とは対象と基準量となるもの (reference) を直接比較させて測定量を得ることである。間接測定は対象の知ろうとする量と一定の関係を持つ複数の[4]測定量を得て、関係式から計算を通じて目当ての物理量を得る方法である[3][4][15]。例えば、コインの直径はものさしを当てて直接測定が出来るが、遠くの星までの距離を直接測ることは不可能であり、例えば年周視差で求めた角度天文単位からパーセクを単位に距離を求める方法は間接測定となる[16]。間接測定の身近な例では、直接測定で体積と質量を測り、これらから密度を計算する手段も当たる[17]

直接測定は複数の手段に分類される。基本量で作られた単位のみを使う測定を絶対測定 (absolute measurement) と言い、これに対し既知の量で校正され振られた目盛を読み取る測定や何かしらの基準値との差を測定する方法[14]を比較測定 (relative measurement)という[15]

測定系構成での分類では[15]、対象物をものさし目盛などゼロから[18]連続して開いた[15]基準と並べ、これを順に辿る方法を「偏位法」(deflection method) と言い[17]、取り扱いが易しい利点があるが[19]電圧計のように測定対象のエネルギーを奪ったり、ばねばかりのように大きな荷重ではばねが伸び切ってしまうなど誤差が生じやすい[20]。ある測定機器で基準となる量を測り、これと対象を置き換えて測り、基準量に差分を加えて数値を得る方法は「置換法」 (substitution method) と呼ばれ、測定器の狂いによる誤差を避けることができる[17][18]。「差動法」 (differential method) とは、測定する量と反作用するある量を合わせて相殺し、残った差分を計測して数値を得る[15]。「補償法」 (compensation method) では、測定する量を超えないある程度の計測を置換法で測り、残り部分は偏位法を用いて測定する[18]。「零位法」 (null method) は、対象の量と基準の量が等しくなるように基準の量を加減して測定する[18]上皿天秤ブリッジ回路などが該当する[20]方法で、精度は高いが扱いにくい[19]

測定対象への働きかけ方による分類では、レーザー照射など測定器側から何かしらの働きかけを行うアクティブ法 (active method) と、対象が自然に発する信号など情報を読み取るパッシブ法 (passive method) がある。また、対象との接触の有無でも区分され、接触センシングと非接触センシングがある。後者には写真カメラ撮影を介して画像を得て測定する方法もあり、対象に影響を与えない[14]


脚注

  1. ^ a b c d 今井(2007)、p1-3 はじめに
  2. ^ a b 松原隆彦. “物理学基礎Ⅰ【総合】2009年度第2回” (PDF). 名古屋大学医学部保険学科. 2010年10月31日閲覧。[リンク切れ]
  3. ^ a b c 中原恒. “地球物理学学生実験 誤差について” (PDF). 東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻固体地球物理学講座. 2022年1月11日閲覧。
  4. ^ a b c d 芳賀宏. “電気電子計測 第1講 計測の基礎” (PDF). 摂南大学工学部電気電子工学科光波工学研究室. 2010年10月31日閲覧。[リンク切れ]
  5. ^ a b c 千野直仁. “データ解析演習C” (PDF). 愛知学院大学心身科学部. 2010年10月31日閲覧。[リンク切れ]
  6. ^ 清水哲雄「会計における測定について」『彦根論叢』第189号、滋賀大学経済学会、1978年3月、19-37頁、ISSN 03875989NAID 110004521042 
  7. ^ 中善宏「管理会計情報による組織の可視化について:個人から活動へ(1)」『商学討究』第54巻第1号、小樽商科大学、2003年7月、13-42頁、ISSN 04748638NAID 110000232077 
  8. ^ 計量社会学研究室”. 同志社大学. 2022年1月11日閲覧。
  9. ^ 小塩真司. “心理データ解析A”. 中部大学人文学部心理学科. 2010年10月31日閲覧。[リンク切れ]
  10. ^ a b c d e f g ステファニー・ベル. “不確かさの入門ガイド” (PDF). 独立行政法人 製品評価技術基盤機構. 2022年1月11日閲覧。
  11. ^ 西宮信夫. “電気計測 13 演習問題”. 東京工芸大学電気工学科. 2010年10月31日閲覧。[リンク切れ]
  12. ^ 付録Ⅱ国際計量基本用語集(日本語版)” (PDF). 独立行政法人 製品評価技術基盤機構. 2012年12月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年10月31日閲覧。
  13. ^ 菅雄三. “授業科目名:測量情報処理論 目的と他の科目との関連”. 広島工業大学環境学部自然環境系地球環境学科シラバス. 2010年10月31日閲覧。
  14. ^ a b c 石井一暢. “計測制御工学入門” (PDF). 北海道大学生物生産応用光学研究室. 2010年10月31日閲覧。
  15. ^ a b c d e 森敏彦. “計測工学1章の2” (PDF). 名古屋大学大学院情報科学研究室. 2010年10月31日閲覧。
  16. ^ 工藤健. “工藤の地球の科学A FAQ-1 パーセク” (PDF). 中部大学工学部理学教室. 2010年10月31日閲覧。
  17. ^ a b c 今井(2007)、第1章 計るって何だろう、p14-15
  18. ^ a b c d 根岸利一郎、三橋渉. “計測工学02” (PDF). 電気通信大学情報通信工学科. 2010年10月31日閲覧。
  19. ^ a b 矢澤孝哲. “精密計測法演習 演習プリント1解答”. 長崎大学工学部加工システム学研究室. 2010年10月31日閲覧。
  20. ^ a b 三橋渉. “情報通信工学科・計測工学・夜間主コース宿題02の解答” (PDF). 電気通信大学情報通信工学科. 2010年10月31日閲覧。
  21. ^ 山崎耕造『トコトンやさしい太陽の本』(第1刷)日刊工業新聞社、2007年、14-15頁。ISBN 978-4-526-05935-3 
  22. ^ a b 齋藤成昭. “正しい知識が捏造を防ぐ データを正確に解釈するための6つのポイント No.3” (PDF). 国立情報学研究所/特定非営利活動法人 日本分子生物学会. 2010年10月31日閲覧。
  23. ^ 岩見徳雄、宮脇健太郎、伊藤、大島. “環境基礎実験(第2回講義)” (PDF). 明星大学環境・生態学系. 2010年10月31日閲覧。
  24. ^ a b 齋藤成昭. “測定値の取扱い”. 国立沼津工業高等専門学校物理学教室. 2010年10月31日閲覧。
  25. ^ a b c JMAQA JISQ9001:2008 (ISO9001:2008) 規格解釈” (PDF). 社団法人日本能率協会審査登録センター. 2010年10月31日閲覧。
  26. ^ a b 松浦執. “有効数字の表現”. 東京学芸大学基礎自然科学講座理科教育分野. 2010年10月31日閲覧。
  27. ^ a b c 新JISたより 不確かさの考え方(4)” (PDF). 財団法人建材試験センター. 2010年10月31日閲覧。
  28. ^ a b 日本物理学会編物理データ事典、PP.547-549. “A.9不確かさ” (PDF). 独立行政法人産業技術総合研究所. 2010年10月31日閲覧。
  29. ^ わかりやすい試験シリーズ 不確かさ” (PDF). 財団法人日本建築総合試験所. 2010年10月31日閲覧。
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  31. ^ a b ISO/IEC17025規格の適用に伴う試験における測定の不確かさ概念の導入” (PDF). 独立行政法人製品評価技術基盤機構. 2011年9月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年10月31日閲覧。
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  33. ^ a b 半場滋. “測定値の取扱いと実験データ解析”. 琉球大学工学部電気電子工学科電子システム工学講座. 2022年1月11日閲覧。
  34. ^ 伊藤(2005)、1.単位とは、12-15
  35. ^ 伊藤(2005)、1.単位とは、20-21
  36. ^ 今井(2007)、第1章 計るって何だろう、p22-23
  37. ^ a b 今井(2007)、第1章 計るって何だろう、p24-25
  38. ^ a b c d e f 小池利彦, 平野亮「<測定>の社会学 : ケトレーとブース(1)」『鶴山論叢』第10号、鶴山論叢刊行会、2010年3月、91-115頁、doi:10.24546/81002084ISSN 13463888NAID 110007558326 
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  46. ^ 事例で学ぶ一般検診・特殊検診マニュアル”. 国立国会図書館リサーチナビ. 2010年10月31日閲覧。
  47. ^ 宮本和樹. “基礎知識‐知っておきたい統計用語”. 北海道大学大学院地球環境科学院植物生態学. 2010年10月31日閲覧。[リンク切れ]

脚注2

  1. ^ JIS Z 8103「計測用語」日本産業標準調査会経済産業省
  2. ^ Amey,L.R.,A.ConceptualApproachtoManagement.NewYork:Prager,1986, p.130.
  3. ^ トマス・クーン、安孫子誠也・佐野正博訳『科学革命における本質的緊張』「近代物理学における測定の機能」、みすず書房、1998年、p223
  4. ^ 村上陽一郎、『文明のなかの科学』青土社、1994年、p27






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