しつ‐げん【湿原】
しつげん【湿原】
湿原
気候の寒冷なところでは,池や沼に生えた水草が枯れても,分解しないままに堆積します。やがて,底が浅くなると太陽光線もよく透るようになるので,水底に根づく沈水植物の繁殖も活発になって,ますます底は浅くなります。この水草の枯れた堆積物は,ついには池や沼を埋めてしまいます。そこに湿生植物が生育を始め,この時期の湿原は低層湿原と呼ばれています。植物は,更に堆積を続け,湿原をしだいに盛り上げていきます。湿原
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/01/20 16:28 UTC 版)
湿原(しつげん)とは、湿地(英: wetland)の一種で、淡水によって湿った草原を指す[1]。英語ではムーア(moor[2][3])またはボッグ(bog[3] )と訳される。
学術的・行政的な定義はケースにより様々で、共通の汎用的な定義があるわけではない[4]。近年ではこの保護に関心がもたれ、重要な湿地の生態系保護を目的とするラムサール条約等が存在する。
湿原の種類
泥炭地と非泥炭地
- 泥炭地
- 水分が多いため微生物の分解作用に必要な空気が不足し、植物遺体がそのままの形で堆積している土地。
- 冷帯の泥炭はおもにスゲ属やミズゴケからなり、やわらかい。
- 熱帯でも年間降水量が3000ミリメートルを越える地域では熱帯泥炭地が形成されるが、砕けた樹木の幹からなる泥炭は黒くごつごつしている。
- 非泥炭地
- 植物遺体が分解されて残っていない、砂や粘土のような土地。
- 熱帯は気温が高くて分解が早く進むため、ほとんどの湿地は非泥炭地である。
フェンとボッグ
森林では落ち葉や枯れ枝が微生物によって分解され、土となることでまた植物に吸収されるため、養分が不足することはない。しかし湿原では植物遺体が泥炭となるため養分の循環が発生しない[6]。そして泥炭地湿原は、植物遺体が堆積していくことにより年間約1ミリメートルほどの速さで厚くなっていく[6]。
- フェン (fen)
- 周囲の水域からミネラル、特にカルシウムを含んだ水が流入する植物群落。森林のような循環がなくても養分に富んでいるため、植物は大きく成長する[7]。
- ボッグ (bog)
- 泥炭の堆積が進んだ果てにドーム状となり、もはや洪水が起きても川や沼からの水が届かなくなった植物群落。水分の供給は雨や雪に限られ、その水は植物の作用によって強い酸性を示す[8]。
低層と高層
湿原は周囲の水域との高低差によっても区分される[9]。
- 低層湿原
- 泥炭表面が低く、周囲の水域と同程度の高さの湿原。
- おおむねフェンに相当するが、例外もある。
- 高層湿原
- 周囲から流入する水が届かない高さまで泥炭表面が発達した湿原。
- おおむねボッグに相当する。
気候区分ごとの湿原所在地
湿原は、砂漠のような極度に乾燥した地帯を除く、地球上のいたるところに分布している[10]。
- 亜寒帯
- ユーラシア大陸 - 寒冷な気候のため湿原は永久凍土になっており、ツンドラと呼ばれる。東シベリアからウラル山脈にかけて分布しており、特にレナ川の流域に多く見られる[11]。
- 北アメリカ大陸 - カナダ北西部からアラスカにかけて大規模な湿原が広がる。低い岩地によって細かく仕切られているのが特徴[11]。
- 南アメリカ大陸 - パタゴニアに大規模な湿原がある[11]。ティエラ・デル・フエゴのフエゴ島の湿原は、古くからの放牧によってかなり失われている。またナバリノ島には世界最南端の湿原がある[12]。
- オセアニア - タスマニア島に存在する[11]。
- 温帯
- 比較的気温の低い「冷温帯」によく見られる。面積はあまり大きくないが、それぞれに多彩な特徴がある[12]。
- ヨーロッパ - 地中海沿岸からスカンディナヴィア南部まで。ユトランド半島。黒海沿岸のドナウ川河口地帯[12]。
- 東アジア - 中国東北部からやや南にかけて[13]。
- 北アメリカ大陸 - 太平洋・大西洋の両沿岸部[13]。
- オーストラリア - 東沿岸部[13]。
- 暖帯
- 地中海沿岸 - アフリカ大陸北部、スペイン・フランスの南部[13]。
- 熱帯・亜熱帯
- 他の地域と異なり、海辺にマングローブが発達している[13]。
- 東南アジア - 同地域の諸国、バングラデシュ、インド[13]。
- 北アメリカ大陸・メキシコ - メキシコ湾沿岸部[13]。
日本の湿原
日本では北海道や東北地方などに大規模なものが見られる。谷地、田代と呼ばれる場合もある。なお、日本の湿原の約6割程を占める北海道の釧路湿原は、釧路湿原国立公園の保護地域となっている。この日本で最大の釧路湿原は、1980年6月に日本で最初にラムサール条約の登録湿地となった[14]。
日本のラムサール条約登録湿原
- 釧路湿原
- 霧多布湿原
- 別寒辺牛湿原
- 雨竜沼湿原
- サロベツ原野
- 尾瀬ヶ原
- 奥日光の湿原(戦場ヶ原・小田代ヶ原)
- 芳ヶ平湿地群(芳ヶ平湿原・大平湿原)
- 立山弥陀ヶ原・大日平 - 高原湿原
- 中池見湿地
- 東海丘陵湧水湿地群(矢並湿地・上高湿地・恩真寺湿地)
- くじゅう坊ガツル・タデ原湿原
脚注
- ^ 矢部 2014, p. 11.
- ^ 文部省 編『学術用語集 地理学編』日本学術振興会、1981年。ISBN 4-8181-8155-2。
- ^ a b 文部省、日本植物学会編『学術用語集 : 植物学編』(増訂版)丸善、1990年。ISBN 4-621-03376-X。
- ^ “<湿原・湿地の定義に関する参考資料>”. 国土交通省国土地理院. 2025年1月21日閲覧。
- ^ 矢部 2014, pp. 12–13.
- ^ a b 矢部 2014, p. 13.
- ^ 矢部 2014, p. 16.
- ^ 矢部 2014, p. 15.
- ^ 矢部 2014, p. 17.
- ^ 辻井 2013, p. 14.
- ^ a b c d 辻井 2013, p. 15.
- ^ a b c 辻井 2013, p. 17.
- ^ a b c d e f g 辻井 2013, p. 18.
- ^ “釧路湿原国立公園”. 環境省. 2011年8月18日閲覧。
参考文献
- 辻井達一『湿原力 神秘の大地とその未来』北海道新聞社、2013年3月15日。ISBN 978-4-89453-689-0。
- 矢部和夫「湿地とは何か」『湿地への招待 ウェットランド北海道』、北海道新聞社、2014年9月6日、10 - 23頁、ISBN 978-4-89453-752-1。
湿原
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/05/09 00:12 UTC 版)
湖沼などに土砂や植物の枯死体が堆積したり、河川がせき止められたりして成立したものである。高層湿原・低層湿原・中間湿原等の種類がある。
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「湿原」の例文・使い方・用例・文例
- 湿原沿いには、1.5kmの遊歩道が整備される
- 今日は湿原を歩きに行った。
- ツルが湿原に舞い降りた.
- 湿原や沼地にすむユーラシア産のクイナ
- オーストラリアの塩けのある湿原の足の長い3足指のある渉禽
- 北アメリカと日本の湿原生のランの属
- 1本または2本の目立つ花を有するアレトゥーサ属のいくつかの湿原生蘭の総称
- 1枚の基部の葉より上の直立する赤みがかった茎の先端に、紫の斑点がある単生の白からピンクの花をつける北半球の温帯の珍しい湿原生のラン
- 純白の縁毛のある花の穂状花序を持つ、北アメリカ東部の湿原生のラン
- トキソウ属の丈夫な湿原生のランの総称:細い根茎と1つまたは少数の葉と単生で頂生の花をつける直立茎を持つ、地上生のラン
- 常緑の革のような葉と小さな白い円筒形の花を持つ、温帯北部の湿原低木
- 小さな紫の花と、裏側が粉白の薄色の葉を持つ、米国北西部の湿原のゲッケイジュ
- ヨーロッパ北部、中部とシベリア東部から朝鮮と日本の湿原低木
- トウエンソウ目の湿原植物の単子葉植物科
- 湿原に生育する優美なコケ状の植物の小さな属で、白色からスミレ色の花をつける
- ホシクサ科の標準属:水性または辺境の、イグサに似た多年草で、浅瀬や酸性の湖、池、湿原などで見られる
- 米国南東部のパインバレンズの湿原植物で、黄色がかったオレンジ色のふぞろいな穂状花序を持つ
- 北極地方および温帯地域北部に生育する湿原草本の属
- ウメバチソウ属の通常常緑の湿原植物で、根元から出ている葉は幅広でなめらかで、ウマノアシガタに似た薄い色の花が1つ咲くものの総称
- オレンジ色のかさと黄色いひだを持つ小さな菌類で沼にあるミズゴケ湿原で見られる
濕原と同じ種類の言葉
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