顔料 顔料の特殊な用途

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顔料

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/18 02:45 UTC 版)

顔料の特殊な用途

強度向上

カーボンブラックをゴムに練り込むと、ゴムの強度が著しく向上する。ゴムタイヤが黒いのはカーボンブラックを大量に練り込んだためで、工業用カーボンブラックの用途の大半はこの目的に使用される。

導電性の活用

カーボンブラックの化学構造は黒鉛であり、黒鉛は導電性を有する。例えば黒鉛筆を使用して書いた部分はわずかではあるが電気を通す。このような性質は種々の目的に使用されている。

体質顔料

体質顔料(extender pigment)は白色ないし無色の顔料である。屈折率が1.5 - 1.6程度と低いため、展色剤に混和しても隠蔽性にほとんど影響を与えないことから、増量剤として絵具・塗料・化粧品などのコストダウン、着色力や光沢、強度、使用感などの調整に使われる[8]。また、染付レーキ顔料の原料としても使われる。

近年は粒子の大きさや形状、表面性質が異なる、多様な体質顔料が出現し、製品の加工性、光学的性質、機械的強度などの物性を変化させる機能性材料としてゴムやプラスチック、シーラントなどの化学樹脂や医薬品、食品、肥料などにも利用されている[8]

体質顔料には炭酸カルシウム硫酸バリウム水酸化アルミニウム[9]タルクなどがあり、分野によって充填剤、フィラー、填料、塗被顔料などと呼ばれている[8]

顔料の歴史

古代以来の顔料

『奴隷を救う聖マルコ』
ティントレット
1548年頃
染物師の息子だったティントレットは、コチニールカイガラムシから作った赤色顔料を使って、劇的な効果を上げている。

黄土酸化鉄などの天然顔料は先史時代から着色剤として使われてきた。考古学者によれば、先史時代の人類が身体に顔料を塗っていた証拠が見つかっている。顔料とそれを粉末にする器具は35万年から40万年前から使われてきたとみられ、ザンビアルサカの近くにある洞窟などで見つかっている。

産業革命以前、芸術や装飾に使える色の範囲は技術的に限られていた。顔料の多くは土や鉱物由来のものか、生物由来のものだった。植物、動物の糞、昆虫軟体動物などに由来する珍しい顔料は貴重なものであり、交易品として広く流通していた。中にはかなり高額で取引される顔料もあり、はその貴重さから王室と結び付けられるようになった。

生物由来の顔料は抽出が難しいことが多く、その製法は秘密にされていた。貝紫色はアッキガイ科の巻貝の一種の粘液から作られた顔料である。織物の染色のための貝紫色の生産はフェニキア人が紀元前1200年ごろから始め、それをギリシャ人が受け継ぎ、東ローマ帝国が滅亡する1435年まで続いた[10]。この顔料の製造は手間がかかり、その色で着色したものは富と権力の象徴となった。古代ギリシアの歴史家テオポンポスは紀元前4世紀の著作で「染料のための紫は(小アジアの)コロフォンで同じ重さの銀と交換して入手した」と書いている[11]

鉱物顔料も交易の対象として広く売買された。深い青の顔料ウルトラマリンは宝石に近いラピスラズリからしか作れず、ラピスラズリの産地はヨーロッパからは遠かった。フランドルの15世紀の画家ヤン・ファン・エイクは、高価すぎるため絵に青を使えなかった。ウルトラマリンを使った肖像画を描いてもらうことは大変な贅沢だった。青を使った絵を所望する場合、特別料金を支払う必要があった。ファン・エイクはラピスラズリを使う場合、決して他の色と混ぜなかった。その代わりにほぼ純粋な青を装飾のように絵にのせた[12]ラピスラズリがあまりに高価だったため、画家たちはもっと安価な代替顔料を捜し求め、鉱物顔料(アズライト)と有機顔料(インディゴ)が誕生した。

歌川広重『京都名所之内 淀川』。浮世絵に特徴的な青はインディゴの色であり、ジャパンブルー、もしくはヒロシゲブルーと呼ばれる。

16世紀スペインによる新大陸の征服により、西洋では新たな顔料が入手可能になった。中央アメリカ南アメリカで寄生昆虫から抽出した染料と顔料であるコチニール色素が得られ、ヨーロッパで珍重されるようになった。これはコチニールカイガラムシを集め、乾燥して砕いたもので、染料としても顔料としても使え、絵具や化粧品によく利用されている。

ペルーの原住民は紀元700年ごろからコチニール染料を染色に使っていたが[13]、ヨーロッパ人はそのような色を見たことがなかった。スペイン人はアステカを征服すると、新たに入手した色素を交易にさっそく利用した。この地域(現在のメキシコ)の輸出品としては、コチニール色素が銀に次ぐ重要な産物となった。この顔料カーマイン枢機卿のローブを染め、イギリスの軍服も鮮やかに染めるようになった("redcoat" は英国軍人そのものを表す言葉になっている)。この顔料の原料が昆虫であることは18世紀まで秘密にされていたが、生物学者らがその秘密を暴いた[14]

カーマインによってヨーロッパでは赤の値段が下がったが、依然として青は高価であり、富と権力の象徴になっていた。17世紀オランダのヨハネス・フェルメールは作品にカーマインやインディアンイエローと共にラピスラズリを多用したことで知られている。

合成顔料の発展

『ドブロリ公爵夫人』
ドミニク・アングル
1853年
かつての画家たちが夢想していた豊富な色彩が実現可能となった頃の作品。

初期の顔料には天然の鉱物が使われていた。天然の酸化鉄は様々な色を発色するもので、旧石器時代および新石器時代の洞窟壁画によく使われている。例えば、無水のFe2O3のレッドオーカー、含水のFe2O3.H2Oのイエローオーカーがある[15]。炭またはカーボンブラックも先史時代以来ずっと黒色の顔料として使われている[15]

最初期の合成顔料として、鉛白(エンパク。炭酸鉛の一種。(PbCO3)2Pb(OH)2)と青フリット(エジプシャンブルー)がある。鉛白は鉛と食酢(酢酸、CH3COOH)を混ぜ、そこにCO2を加えて作る。青フリットはカルシウム銅珪酸塩であり、孔雀石などの銅鉱石で着色したガラスを砕いて作る。これらの顔料は紀元前2千年紀には使われ始めている[16]

産業革命科学革命により、合成顔料は大きく発展することになった。合成した顔料や天然素材から抽出した顔料が製造業にも芸術にも使われるようになっていった。ラピスラズリが高価だったことから、特に青の顔料をより安価に製造する努力がなされた。

最初の青の合成顔料として登場したのが紺青で、1704年のことである。19世紀初めごろには青の合成顔料や金属顔料がさらに登場した。合成ウルトラマリンコバルト青セルリアンブルーなどである。20世紀には有機合成顔料のフタロブルーが登場した。

顔料の多色化は新たな産業を生み出し、ファッションにも影響を与えた。1856年には初のアニリン染料であるモーブが発見され、それをきっかけとして多数の合成染料や合成顔料が生み出されることになった。モーブを発見したのは18歳の化学者ウィリアム・パーキンで、この発見を事業化して富を得た。この成功にあやかろうと多くの追随者が出てきた。金持ちになることを夢見た若い科学者が有機化学分野に集中するようになった。数年後、アカネ色素の代替としてアリザリンの合成顔料が工業生産され始めた。19世紀末には織物や塗料などの日用品に、青、紫といった色を安価に使えるようになった[17]

合成顔料や染料の開発は、ドイツを中心とする北ヨーロッパ各国の産業の繁栄に寄与したが、同時に天然顔料の産地は打撃を受けた。スペインはメキシコで数千人の低賃金労働者を雇ってコチニール色素の生産を行っていた。コチニール色素の生産はスペインが独占してそこから富を得ていたが、1810年に始まったメキシコ独立革命と市場の変化によって生産量が低下した。これにとどめを指したのが有機化学である。化学者がカーマインの安価な代替品の開発に成功すると、コチニール色素生産量は急激に低下していった[18]

歴史的色名の新たな原料

聖母の被昇天
1518年頃
ティツィアーノの、天然顔料ヴァーミリオンを使ったフレスコ画。

産業革命以前、顔料はそれを産する地名と結び付けられていた。鉱物や土を原料とする顔料は、その採掘が行われている地方や都市の名で呼ばれることが多かった。シェンナイタリアシエーナに由来し、アンバーウンブリアに由来する。これらの顔料は合成も容易だったため、化学者が天然のものより純度の高い顔料を合成するようになった。それでも地名に由来する名称はそのまま使われている。

歴史的かつ文化的な天然顔料の名称はそのままで、多くの天然顔料が合成顔料で代替されている。場合によっては色の名称が表す色そのものが変化したケースもある。一般に天然顔料を代替する合成顔料は「色相」を維持するが、製造業者が色相の維持に特に気をつけているわけではない。以下に歴史的な顔料の名称が現す色が変化した例を示す。

インディアンイエロー
かつては、マンゴーの葉のみを与えられた牛の尿を集めて作られていた。17世紀から18世紀のオランダやフランドルの画家はこれを太陽光を表すのに好んで用いた。フェルメールに『真珠の耳飾りの少女』の制作を依頼した客は、彼が「牛の尿」を使って妻を描いたと述べている。マンゴーの葉は栄養的に牛に適していないため、このような製造方法は非人道的だとされるようになった。現在は同じ色相を合成顔料で代替している。
バーミリオン
水銀化合物であり、その深い朱色を好んで使ったのがティツィアーノである。今では様々な合成顔料で代替されており、カドミウムレッドなどがある。本来のバーミリオンは今でも入手可能だが、多くの絵具メーカーはその毒性による法的責任を避けるため販売していない。現在朱色ないしバーミリオンという名称の絵具やインクやマーカーなどの多くは本来のバーミリオンとは異なる。
ウルトラマリン
ラピスラズリから作られていたが、安価な合成顔料(合成ウルトラマリン)で代替されるようになった。合成ウルトラマリンの原料はカオリナイト硫黄などである。ウルトラマリンの別名だったロイヤルブルーはより明るい青を指すようになり、フタロブルーと二酸化チタンを混合するか、安価な青の合成染料から作るのが一般的である。合成ウルトラマリン自体は化学組成がラピスラズリと同一である。ウルトラマリンのもう1つの別名だったフレンチブルーは1990年代に色名として業界の注目を浴びるようになり、本来のウルトラマリンとは全く異なる青色の名称として使われるようになった。

  1. ^ Market Study: Pigments”. Ceresana Research. 2010年8月8日閲覧。
  2. ^ 俗に、カラーインデックス名。ただし、Colour Index Constitution Numberをカラーインデックス名とする誤用もある。
  3. ^ 俗に、カラーインデックス番号。ただし、Generic Nameをカラーインデックス番号とする誤用もある。
  4. ^ 『有機顔料ハンドブック』 橋本勲 カラーオフィス 2006.5
  5. ^ SINLOIHI 蛍光塗料・蛍光顔料シンロイヒ
  6. ^ 一見敏男 (1980). “顔料の色の話”. 化学教育 (日本化学会) 28 (1): 32-35. NAID 110001822628. 
  7. ^ 大塚淳. “顔料”. 日本大百科全書(ニッポニカ). 小学館. 2016年12月9日閲覧。
  8. ^ a b c 顔料技術研究会編 『色と顔料の世界』 三共出版 2017 ISBN 978-4-7827-0759-3 pp.213-219.
  9. ^ 『世界大百科事典 第2版』 平凡社、2009年。
  10. ^ Kassinger, Ruth G. (2003-02-06). Dyes: From Sea Snails to Synthetics. 21st century. ISBN 0-7613-2112-8. http://books.google.com/books?id=5pWAWgq5My4C&printsec=frontcover&dq=Dyes:+From+Sea+Snails+to+Synthetics&hl=ja&ei=NlJfTIWyFoy4vQO71_iZDA&sa=X&oi=book_result&ct=result&resnum=1&ved=0CCsQ6AEwAA#v=onepage&q&f=false 
  11. ^ Theopompus, cited by Athenaeus [12.526] in c. 200 BCE; according to Gulick, Charles Barton. (1941). Athenaeus, The Deipnosophists. Cambridge: Harvard University Press.
  12. ^ Michel Pastoureau (2001-10-01). Blue: The History of a Color. Princeton University Press. ISBN 0-691-09050-5 
  13. ^ Jan Wouters, Noemi Rosario-Chirinos (1992). “Dye Analysis of Pre-Columbian Peruvian Textiles with High-Performance Liquid Chromatography and Diode-Array Detection”. Journal of the American Institute for Conservation (The American Institute for Conservation of Historic &#38) 31 (2): 237–255. doi:10.2307/3179495. JSTOR 10.2307/3179495. http://links.jstor.org/sici?sici=0197-1360(199222)31%3A2%3C237%3ADAOPPT%3E2.0.CO%3B2-7. 
  14. ^ Amy Butler Greenfield (2005-04-26). A Perfect Red: Empire, Espionage, and the Quest for the Color of Desire. HarperCollins. ISBN 0-06-052275-5 
  15. ^ a b Pigments Through the Ages”. WebExhibits.org. 2007年10月18日閲覧。
  16. ^ Rossotti, Hazel (1983). Colour: Why the World Isn't Grey. Princeton, NJ: Princeton University Press. ISBN 0-691-02386-7 
  17. ^ Simon Garfield (2000). Mauve: How One Man Invented a Color That Changed the World. Faber and Faber. ISBN 0-393-02005-3 
  18. ^ Jeff Behan. “The bug that changed history”. 2006年6月26日閲覧。






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