経済学 歴史

経済学

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/25 14:23 UTC 版)

歴史

経済学は、法学数学哲学などと比べて、比較的新しい学問である。経済学は、近世欧州列強の著しい経済発展とともに誕生し、その後資本主義経済がもたらしたさまざまな経済現象や経済システムについての研究を積み重ね、現代に至る。しかし、経済学の最初を遡るとすると、古代ギリシャプラトンの国家論にまで遡る。

重商主義学説

経済についての研究の始まりはトーマス・マン(1571年 - 1641年)によって書かれた『外国貿易によるイングランドの財宝』や、ウィリアム・ペティ(1623年 - 1687年)の『租税貢納論』、バーナード・デ・マンデヴィル(1670年 - 1733年)の『蜂の寓話』、ダニエル・デフォー(1660年 - 1731年)の『イギリス経済の構図』、デイヴィッド・ヒューム(1711年 - 1776年)の『政治論集』などに見られるような重商主義の学説である。この時代には欧州列強が海外植民地を獲得し、貿易を進めて急速に経済システムを発展させていた。

重農主義学説

1758年フランス重農主義の学派フランソワ・ケネー(1694年 - 1774年)が『経済表』を書き、国民経済の再生産システムを解明して、経済学の体系化の発端となった。

古典派経済学

アダム・スミス。経済学の父とされる

アダム・スミスが資本主義工場生産について論じた『国富論』(1776年)が、現在の理論化された経済学の直系で最古の理論にあたる。そのため、スミスは、経済学の父と呼ばれている。経済学では、一般的に『国富論』を持って始まりとされる。また、デイヴィッド・リカードの『経済学および課税の原理』(1817年)、マルサスの『人口論』(1798)や『経済学原理』(1820)、J.S.ミルの『政治経済学原理』(1848)などが、英国古典派経済学の基礎を築いていった。

マルクス経済学

共産主義を主張したカール・マルクス(1818年 - 1883年)はイギリス古典派経済学を中心に当時の経済学を徹底して研究し、労働価値説を継承しつつ新たに価値論や剰余価値論を体系化し、資本の諸形態を再定義して資本主義経済の構造と運動法則の解明をおこなった。マルクスの長年にわたる経済学研究は主著『資本論』に結実した。

マルクスの後、マルクス経済学とよばれる流れは、資本主義経済の諸法則も諸概念も不変のものではなく、生成・発展・消滅する過程にあるものとしてとらえ、資本家は労働力に支払った以上の価値を労働力から取り出すという剰余価値説にもとづいて資本主義経済を分析した。 カール・カウツキー(1854年 - 1938年)の『カール・マルクスの経済学説』や『エルフルト要領解説』、ルドルフ・ヒルファーディング(1877年 - 1941年)の『金融資本論』、ローザ・ルクセンブルク(1870年 - 1919年)の『資本蓄積論』、ウラジーミル・レーニン(1870年 - 1924年)の『ロシアにおける資本主義の発達』や『帝国主義論』などの研究を通じて継承・展開された。

しかしながら、マルクスの経済理論をモデル化して検証を行うと、理論の膨大さゆえにマルクスの理論体系は不整合に陥っており、以下の3つの矛盾を説明できない。(1)剰余価値率が諸部門間で均等化する。(2)技術進歩の結果利潤率は下落する。(3)技術進歩の結果利潤率は下落すると仮に言えたとしても、実質賃金もまた下落する[38]

新古典派経済学

レオン・ワルラス。彼は経済学への数学の導入に大きな役割を果たした

新古典派経済学と呼ばれる学派が、資本主義経済の現象を数理的に分析する手法を発展させた。 ウィリアム・スタンレー・ジェヴォンズ(1798年 - 1855年)の『経済学の数学的一般理論の考察』や『経済学の理論』、レオン・ワルラス(1834年 - 1910年)の『純粋経済学要論』や『応用経済学研究』、カール・メンガー(1840年 - 1910年)の『国民経済原理』や『社会科学特に経済学の方法に関する研究』、アルフレッド・マーシャル(1843年 - 1924年)の『外国貿易と国内価値との純粋理論』や『経済学原理』、ヨーゼフ・シュンペーター(1883年 - 1950年)の『理論経済学の本質と主要内容』や『経済発展の理論』などの研究を通じて発展していくこととなる。

ケインズ経済学とマクロ経済学

ジョン・メイナード・ケインズ。彼の理論はケインズ経済学として大きな影響を与えた

ジョン・メイナード・ケインズは『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936年)で、市場に任せただけでは失業が発生するので、政府による適切な市場介入(財政支出減税)で有効需要を創出する必要があると主張し、マクロ経済学の主流となっていった[39]ジョン・ヒックスポール・サミュエルソンらのネオ・ケインジアン経済学によって、発展していった。サミュエルソンは著書『経済学 第3版』(1955)で、ケインズ政策で雇用環境が改善されたあとは、従来のミクロ経済学のような民間の市場を活用した経済活動にまかせるのがよいとする混合経済を説いて、ミクロ経済学の価格理論とマクロ経済学の国民所得理論を総合する新古典派総合を主張した[40]。しかし、1970年代に、スタグフレーションが先進資本主義国を覆ったことで影響力を失っていった[40]

1970年代には、ロバート・ルーカスが、ケインズ的な財政・金融政策は家計や企業の合理的予想(期待)で相殺されて無効となるという合理的期待形成仮説を発表した[39]。1976年にルーカスは、経済システムの中にいる国民と政府が、経済法則(期待)を知っており、それに基づいて行動すると、結果的に法則が変わり得ること、すなわち、期待(経済法則)は自己言及性を持つため、マクロ経済政策は効果を失うというルーカス批判を行った[41]。ルーカスらはエドワード・プレスコットの『裁量よりもルール』(1977)とともに、リアルビジネスサイクル理論などを提唱し、新しい古典派 ( New classical economics )が形成され、これがマクロ経済学の主流となった[39]

その後、市場の失敗が起こる要因を重視し、これを是正するマクロ政策を再構築しようとするグレゴリー・マンキューデビッド・ローマーニュー・ケインジアン経済学が台頭した[39]

現代

主流派経済学新古典派経済学ケインズ経済学)とマルクス経済学は、米ソ冷戦という現実政治の影響もあり、長期間にわたって対立した。ソビエト連邦の崩壊・冷戦終了時には、古典的マルクス経済学に対する否定的研究が数多く行われ、非数理的・訓古主義的な性質が批判された(マルクス主義批判)。ソ連型社会主義で実施された統制経済の誤りがソ連・東欧の崩壊で明白になり、今日では、市場という需給調整のメカニズムを数理的に扱い発展した主流派経済学が経済研究の中心となり、市場を通じて社会主義社会を目指すとしている中華人民共和国ベトナムなどでもマルクス経済学のみならず主流派経済学の研究も行われるようになった。その一方で、主流派経済学では、賃労働における搾取などの生産面での矛盾や貧富の格差の拡大、経済活動による自然破壊などを説明できないとのマルクス経済学者からの批判も続いている[要出典]

また、アメリカ合衆国を中心とした西側資本主義国で発展させられてきた主流派経済学は、非歴史的・非文化的で数理モデル一辺倒な性質をマルクス経済学者やポストケインジアンなどに指摘されている[要出典]

主流派経済学における比較的新しい動きとして、ゲーム理論行動経済学の発展がある。伝統的な主流派経済学では、完全競争の仮定ゆえ、経済主体間の相互の影響は考慮されていない。それに対して、市場が寡占の状態である場合、各企業の選択は他の企業の利潤に影響を与える。こうした相互依存を分析する道具として、ゲーム理論が主流派経済学の中心的な理論の1つとなった。伝統的な主流派経済学では、各経済主体は合理的で利己的な存在とされてきた。しかし、さまざまな実験が、この仮定が必ずしも適切ではないことを示している。こうした、合理的でなかったり、利己的でなかったりする経済主体の意思決定を定式化する分野が行動経済学であり、主流派経済学で広く受け入れられている。

異端派経済学として、近年新しい体系がさまざまに模索されている。とくに1980年代以降、進化経済学が世界的に興隆してきており、新しい主流派を形成しつつあるという評価もある[42]。進化経済学以外にも、ポストケインジアンの経済学、オーストリア学派の経済学、複雑系経済学などがある。


  1. ^ a b 経済学』 - コトバンク
  2. ^ Backhouse, Roger (2002). The Penguin history of economics. London. pp. 117. ISBN 0-14-026042-0. OCLC 59475581. https://www.worldcat.org/oclc/59475581 
  3. ^ Viktor O. Ledenyov; Dimitri O. Ledenyov (2018). Business cycles in economics. Dusseldorf, Germany: LAP LAMBERT Academic Publishing. ISBN 978-613-8-38864-7 
  4. ^ 井澤 2011.
  5. ^ a b Harper, Douglas (February 2007). "Economy". Online Etymology Dictionary. 2013年5月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年10月27日閲覧
  6. ^ 佐藤雅彦・竹中平蔵 『経済ってそういうことだったのか会議』 日本経済新聞社学〈日経ビジネス人文庫〉、2002年、5頁。
  7. ^ Satō, Masahiko; 佐藤雅彦 (2000). Keizai-tte sō iu koto datta no ka kaigi. Heizō. Takenaka, 竹中平蔵. (1-han ed.). Tōkyō: Nihon Keizai Shinbunsha. ISBN 4-532-14824-3. OCLC 45613525. https://www.worldcat.org/oclc/45613525 
  8. ^ Free, Rhona C., ed (2010). 21st Century Economics: A Reference Handbook. 1. SAGE Publications. p. 8. ISBN 978-1-4129-6142-4. https://books.google.com/books?id=hRFadIRMaMsC&pg=PA8 
  9. ^ Marshall, Alfred; Marshall, Mary Paley (1888). The Economics of Industry. Macmillan. p. 2. https://archive.org/details/economicsindust00marsgoog 
  10. ^ Jevons, William Stanley (1879). The Theory of Political Economy (second ed.). Macmillan and Co. p. XIV. https://archive.org/details/theorypolitical00jevogoog 
  11. ^ Backhouse, Roger E.; Medema, Steven (2008). "Economics, definition of". In Durlauf, Steven N.; Blume, Lawrence E. (eds.). The New Palgrave Dictionary of Economics (second ed.). pp. 720–722. doi:10.1057/9780230226203.0442. ISBN 978-0-333-78676-5. 2017年10月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年12月23日閲覧
  12. ^ Backhouse, Roger E.; Medema, Steven (Winter 2009). “Retrospectives: On the Definition of Economics”. Journal of Economic Perspectives 23 (1): 221–233. doi:10.1257/jep.23.1.221. JSTOR 27648302. 
  13. ^ Smith, Adam (1776). An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations  and Book IV, as quoted in Groenwegen, Peter (2008). "Political Economy". In Durlauf, Steven N.; Blume, Lawrence E. (eds.). The New Palgrave Dictionary of Economics (second ed.). pp. 476–480. doi:10.1057/9780230226203.1300. ISBN 978-0-333-78676-5. 2017年10月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年10月4日閲覧
  14. ^ アダム・スミス著 高哲男訳『国富論(上)』講談社学術文庫 2020年 614頁
  15. ^ Say, Jean Baptiste (1803). A Treatise on Political Economy. Grigg and Elliot 
  16. ^ John Stuart Mill, On the Definition of Political Economy; and on the Method of Investigation Proper to it, in Essays on Some Unsettled Questions of Political Economy, Essay V, M.DCCC.XLIV(1844), John W.Parker,West Strand, p.140.;The science which traces the laws of such of the phenomena of society as arise from the combined operations of mankind for the production of wealth, in so far as those phenomena are not modified by the pursuit of any other object.
  17. ^ Template:Unbulleted list citebundle
  18. ^ カール・マルクス資本論』、岩波文庫版 一 序文 14頁
  19. ^ エンゲルス『反デューリング論』第二篇 経済学、岩波文庫版 一 対象と方法 9頁および10頁
  20. ^ Political Economy or Economics is a study of mankind in the ordinary business of life; it examines that part of individual and social action which is most closely connected with the attainment and with the use of the material requisites of wellbeing. Thus it is on the one side a study of wealth; and on the other, and more important side, a part of the study of man.
  21. ^ a b Principles of Economics(1890, 1920,8th edition), INTRODUCTION.BOOK I, CHAPTER I,PRELIMINARY SURVEY.BOOK I, § 1.(『経済学原理』第1編序論第1章1)
  22. ^ Marshall, Alfred (1890). Principles of Economics. Macmillan and Company. pp. 1–2. https://archive.org/details/principlesecono00marsgoog :Economics is a study of man in the ordinary business of life. It enquires how he gets his income and how he uses it. Thus, it is on the one side, the study of wealth and on the other and more important side, a part of the study of man.
  23. ^ Robbins (2007), pp. 4–7.
  24. ^ カール・メンガー,Grundsätze der Volkswirthschaftslehre (1871), Frank A. Fetter,Economic Principles, 1915.ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス,Die Gemeinwirtshaft: Untersitchungen über den Sozialismus.(1922)
  25. ^ Robbins, Lionel (2007). An Essay on the Nature and Significance of Economic Science. Ludwig von Mises Institute. p. 15. ISBN 978-1-61016-039-1. https://books.google.com/books?id=nySoIkOgWQ4C&pg=PA15 
  26. ^ ライオネル・ロビンズ 著、小峯敦・大槻忠志 訳 『経済学の本質と意義』(初)京都大学学術出版会、2016年1月25日、17頁。ISBN 9784876988853 
  27. ^ Robbins (2007), p. 16.
  28. ^ 小畑二郎 『ケインズの思想 不確実性の倫理と貨幣・資本政策』(初)慶應義塾大学出版会株式会社、2007年11月10日、320-321頁。ISBN 978-4-7664- 1441-7 
  29. ^ ロナルド・H・コース 著、宮沢健一 後藤晃 藤垣芳文 訳 『企業・市場・法』(3版)東洋経済新報社、1993年2月1日、3-4頁。ISBN 978-4-4923-1202-5 
  30. ^ Template:Unbulleted list citebundle
  31. ^ Myreson, R. B. 1999 Nash Equilibrium and the History of Economic Theory. Journal of Economic Literature, 37, no. 3, pp. 1067-1082
  32. ^ Becker, Gary S. (1976). The Economic Approach to Human Behavior. University of Chicago Press. p. 5. ISBN 978-0-226-04112-4. https://books.google.com/books?id=iwEOFKSKbMgC&pg=PA5 
  33. ^ Seung-Yoon Lee (2014年9月4日). “Ha-Joon Chang: Economics Is A Political Argument”. huffpost.com. Huffington Post. 2021年10月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年10月19日閲覧。
  34. ^ ハンス・ブレムス 著、駄田井正 伊原豊實 大水善行 他 訳 『経済学の歴史 1960-1980』(初)多賀出版株式会社、1996年5月10日、12-16頁。ISBN 4-8115-4111-1 
  35. ^ Henry Dunning Macleod, 1821-1902.,
  36. ^ 放送大学「もう一度みたい名講義~放送大学アーカイブス~ 近代経済思想('87)第1回 西部邁「経済思想とは何か」 」(2011.6.25 23:00~23:45放送) での西部邁の指摘
  37. ^ The dismal science、Wikipedia
  38. ^ ハンス・ブレムス 著、駄田井正 伊原豊實 大水善行 他 訳 『経済学の歴史 1630-1980』(初)多賀出版株式会社、1996年5月10日、128-146頁。ISBN 4-8115-4111-1 
  39. ^ a b c d マクロ経済学』 - コトバンク
  40. ^ a b 新古典派総合』 - コトバンク
  41. ^ 小林慶一郎「「期待」どこまで解明?」2013年10月21日 日本経済新聞「経済教室」、経済産業研究所
  42. ^ G. Hogdson 2007 Evolutionary and Instituional Economics as the New Mainstream? Evolutionary and Institutional Economics Review 4(1): 7.25. Eric D. Beinhocker 2006 The Origin of Wealth / Evolution, Complexity, and the Radical Remaking of Economics. Harvard Business School Press.
  43. ^ 伊藤秀史 『ひたすら読むエコノミクス』有斐閣、2012年。 
  44. ^ Shinka suru nihon no keiei : Shakai toppu senryaku soshiki.. Okamoto, Daisuke, 1958-, Furukawa, Yasuhiro, 1962-, Sato, Yamato, 1963-, 岡本, 大輔, 1958-, 古川, 靖洋, 1962-, 佐藤, 和, 1963-. Chikurashobo. (2012.4). ISBN 9784805109915. OCLC 820755015. https://www.worldcat.org/oclc/820755015 
  45. ^ 「ケンブリッジ資本論争」の問題点 (pdf)” (1989年5月30日). 2016年6月1日閲覧。
  46. ^ 経済統計学会”. 2016年6月10日閲覧。
  47. ^ 阪本浩章 (2015年7月16日). “生産者理論入門 (PDF)”. 2016年6月9日閲覧。






経済学と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「経済学」の関連用語

経済学のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



経済学のページの著作権
Weblio 辞書情報提供元は参加元一覧にて確認できます。

  
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの経済学 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2022 GRAS Group, Inc.RSS