凸解析
【英】:convex analysis
概要
ベクトル空間における凸集合やベクトル空間上で定義された凸関数の諸性質を取り扱う分野. 最適性理論, 双対性理論, および最適化手法の設計と解析など, 数理計画の様々な事柄に関する基礎理論として非常に重要な役割を果たしている.
詳説
凸解析 (convex analysis) は,ベクトル空間における凸集合あるいはベクトル空間上で定義された凸関数に関する諸性質を取り扱うものであり,数理計画の基礎理論として非常に重要な役割を果たしている.
次の性質をもつ空間 の部分集合
を凸集合 (convex set) と呼ぶ.
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特に,有限個の半空間の共通部分として表される凸集合を凸多面体と呼ぶ.
空間 上で定義された拡張実数値関数
に対して,そのエピグラフを
と定義し,
が凸集合であるような関数
を凸関数 (convex function) と呼ぶ.ここで,関数
の値域に
が含まれていることは重要である.考察の対象とする関数をこのように拡張することにより,最適化問題に関連する諸性質を統一的に記述することが可能となる.例えば,実数値凸関数
を凸集合
上で最小化する制約つき最適化問題は,拡張実数値関数
を
のとき
,
のとき
と定義することにより,見かけ上,凸関数
を制約なしで最小化する問題として表すことができる.また,
となる点
が存在せず,さらに恒等的に
ではないようなものを,特に真凸関数といい,集合
を
の実効定義域あるいは単に定義域と呼ぶ.真凸関数は理論的にも実際的にも意味のある凸関数のクラスと考えることができる.なお,
となる
が存在しないような関数
に対しては
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であるとき, を狭義凸関数という.明らかに,狭義凸関数は凸関数である.文献 [1,2,3,4,5] に凸関数や凸集合の様々な性質に関する詳しい説明がある.
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特に,凸集合であるような錐を凸錐 (convex cone) という.最適化理論においては,凸錐はしばしば方向ベクトルの集合を表し,特に最適性条件の導出に際して重要である [4].凸錐 に対して,集合
を
の極錐と呼び,
と表す.与えられたベクトル
に対して定義される凸錐
の極錐は
で与えられ,さらに
が成り立つ.これは,
,すなわち
を満たす
が存在することと,
,すなわち
を満たすベクトル
が存在することの,どちらか一方のみが成立することを意味している.これはファーカスの定理と呼ばれている.このように,2つの条件の一方のみが必ず成り立つことを保証する定理は,一般に二者択一定理 (theorem of the alternative) と呼ばれ,最適性条件の導出に有用である [2].
真凸関数 に対して,次式を満足するベクトル
を
の
における劣勾配 (subgradient) と呼ぶ.
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真凸関数はその実効定義域 の任意の相対的内点において,少なくとも1つの劣勾配をもつ.特に,凸関数
が点
において微分可能ならば,
の
における劣勾配は唯一存在し,通常の勾配
に等しい.しかし,
が点
において微分可能でないときには劣勾配は無数に存在する.一般に,
の
における劣勾配全体の集合は
と表される.劣勾配の定義 (1) より,
は点
が凸関数の最小点であるための必要十分条件であることは容易に確かめられる.劣勾配の概念は非凸関数に対しても拡張され,微分不可能最適化において基本的な役割を果たしている [1,3,4,5].
真凸関数 に対して,次式で定義される真凸関数
を
の共役関数 (conjugate function) という.
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いま, と
を点-集合写像とみなせば,
と
は互いに逆写像の関係にあり,さらに,
の任意の要素
は共役関数
の定義 (2) の右辺の最大を与える.すなわち,次の関係が成立する.
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共役関数の概念は最適化問題に対する双対理論において特に重要である [3,4,5].
[1] D.P.Bertsekas, Convex analysis and Optimization, Athena Scientific, 2003.
[2] O.L. Mangasarian, Nonlinear Programming, McGraw-Hill, 1969; (reprint, SIAM, 1994).
[3] R.T. Rockafellar, Convex Analysis, Princeton University Press, 1970.
[4] R.T. Rockafellar and R.J.B. Wets, Variational Analysis, Springer, 1998.
凸解析
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/14 02:08 UTC 版)
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凸解析(とつかいせき)は、凸関数および凸集合を研究する数学の一分野である。最適化理論の領域の中の凸最小化によく応用される。
離散凸解析
変数が連続の場合の通常の凸解析を、変数のとる値を離散値(たとえば整数)にした場合のものが「離散凸解析」である。
- 室田一雄:「離散凸解析」、共立出版、ISBN 978-4-32001690-3 (2001年9月13日).
- 室田一雄:「離散凸解析の考えかた:最適化における離散と連続の数理」、共立出版、ISBN 978-4-320-01853-2 (2007年12月20日).
- 田村明久:「離散凸解析とゲ-ム理論」、朝倉書店、ISBN: 978-4-25427553-7 (2009年11月).
- 室田一雄:「離散凸解析と最適化アルゴリズム」、朝倉書店、ISBN 978-4-25411682-3 (2013年6月12日).
- 室田一雄:「離散凸解析のすすめ」、オペレーションズ・リサーチ、2013年6月号,pp.311-317.
- 室田一雄:「離散凸解析:理論の拡大と応用」、丸善出版、ISBN 978-4-62130982-7 (2024年7月30日).
参考文献
- J.-B. Hiriart-Urruty; C. Lemaréchal (2001). Fundamentals of convex analysis. Berlin: Springer-Verlag. ISBN 978-3-540-42205-1
- Rockafellar, R. Tyrrell (1997) [1970]. Convex Analysis. Princeton, NJ: Princeton University Press. ISBN 9780691015866
- Singer, Ivan (1997). Abstract convex analysis. Canadian Mathematical Society series of monographs and advanced texts. New York: John Wiley & Sons, Inc.. pp. xxii+491. ISBN 0-471-16015-6. MR 1461544
- Stoer, J.; Witzgall, C. (1970). Convexity and optimization in finite dimensions. 1. Berlin: Springer. ISBN 978-0387048352
- Zălinescu, C.. Convex analysis in general vector spaces. World Scientific Publishing Co., Inc. pp. xx+367. ISBN 981-238-067-1. MR 1921556
関連項目
凸解析
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/22 00:46 UTC 版)
詳細は「凸解析」を参照 順序体(特に実数体)上で、凸解析の概念を考えることができる。最も基本的なものは、非負線型結合全体からなる錐、および和が 1 となる非負線型結合全体からなる凸集合である。凸集合はアフィン空間の公理と錐体の公理を組み合わせたものとして見ることができ、これは凸集合の標準空間である n-単体がアフィン超平面と象限との交わりであることを反映したものになっている。このような空間は特に線型計画問題において用いられる。 普遍代数学の言葉で言えば、ベクトル空間はベクトルの有限和に対応する係数の有限列全体の成す普遍ベクトル空間 K∞ 上の代数であるが、一方アフィン空間はここでいう(和が 1 の有限列全体の成す)普遍アフィン超平面上の代数であり、また錐体は普遍象限上の代数、凸集合は普遍単体上の代数である。これは、「座標に対する(可能な)制限和」を用いて公理を幾何化したものである。 線型代数学における多くの概念は凸解析における対応する概念があって、基本的なものとしては基底や(凸包のような形での)生成概念など、また重要なものとしては(双対多角形、双対錐体、双対問題のような)双対性などが含まれる。しかし線型代数学において任意のベクトル空間やアフィン空間が標準空間に同型となるのとは異なり、任意の凸集合や錐体が単体や象限に同型となるわけではない。むしろ単体から多面体の上への写像が一般化された重心座標系によって常に存在し、またその双対写像として多面体から(面の数と等しい次元の)象限の中への写像がスラック変数によって存在するが、これらが同型となることは稀である(ほとんどの多面体は単体でも象限でもない)。
※この「凸解析」の解説は、「ベクトル空間」の解説の一部です。
「凸解析」を含む「ベクトル空間」の記事については、「ベクトル空間」の概要を参照ください。
凸解析と同じ種類の言葉
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