金融経済学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/31 19:01 UTC 版)
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金融経済学(きんゆうけいざいがく、英: financial economics)とは、金融商品の価格形成や投資家の投資行動、企業の財務調達や資本構成を分析対象とする、経済学の分野である。金融経済学は更に2つの分野に大別することができ、金融商品の価格形成や投資家行動を取り扱う資産価格理論(英: asset pricing theory)と企業の財務に関わる事柄を取り扱うコーポレートファイナンス(英: corporate finance)がある。貨幣、銀行、金融政策などを分析する貨幣経済学(英: monetary economics)とは別個の分野と見なされている[注釈 1]。日本では、金融経済学と貨幣経済学をまとめて金融論と呼ぶことや[1]貨幣経済学のみを金融論と呼ぶことがあり[2]、注意が必要である。学際的な傾向が強い学問分野であり、マクロ経済学、会計学、経営学などの社会科学における既存の学問分野の他に、確率論の応用分野としての数理ファイナンス、物理学の手法を用いる経済物理学、心理学の知見を取り入れた行動ファイナンスなどの新興の学問分野とも密接に関連している。
概念
以下で金融経済学で用いられる概念について列挙する。
完全市場
金融経済学において完全市場とは以下の条件を満たす金融市場をいう[3]。
古典的な金融経済学の理論的結果の多くが完全市場の仮定に基づいているが、これらの仮定を緩めた場合の研究も多く存在している[4]。
裁定取引
裁定取引とは、初期時点においては無費用であり、ある時点において必ず損をすることはなく、更に正の確率で収益を上げられる金融市場においての取引戦略のことを言う[5]。特に金融市場に裁定取引が存在しないことを仮定した金融資産に対する価格付けの理論を無裁定価格付け理論という。標準的な経済モデルにおいて、経済主体がより多く消費することを望む選好を持つならば、裁定取引が存在しないことがその経済主体の選択問題に解が存在するための必要条件の一つとなる。なぜならば、もし裁定取引が存在するならば、そのような経済主体は裁定取引を行うことで自身の効用を無限に増加させることが出来るので、その経済主体の効用最大化問題の解が存在しなくなるからである[6]。裁定取引の非存在は資産価格付けの基本定理と呼ばれる定理に関連している。資産価格付けの基本定理は金融経済学や数理ファイナンスで中心的な役割を果たす定理の一つである。
市場の完備性
将来の状態が有限かつ離散的であると仮定した時、市場が完備(英: complete)であるとは1次独立な収益・損失をもたらす市場の金融資産の数が将来の状態数と等しい場合を言う[7]。ここで言う1次独立とは、市場の金融資産のそれぞれの状態における収益・損失を並べてユークリッド空間上のベクトルと見なした場合の線形代数における1次独立性を指す。また数理ファイナンスの文脈において市場が完備であるとは、ある期日にペイオフが確定する派生証券を考えた時に、全てのそのような派生証券のペイオフが既存の金融資産の組み合わせによって複製可能である場合をいう[8]。どちらの定義でもその意図するところは同じで、経済主体が考慮する将来のあらゆる不確実な資金変動を既存の金融資産についての取引戦略を立てることで(費用を無視すれば)複製できるということを意味している。市場の完備性は資産価格付けの第2基本定理と呼ばれる定理に関連付けられる。
市場の情報効率性
金融市場が(情報的に)効率的(英: informationally efficient)であるとは、その市場における全ての金融資産の価格が利用可能な全ての情報を常に完全に反映している時をいう[9]。経済学において効率性というと市場の情報効率性の他にパレート効率性などで測られる配分の効率性の概念があるが[10]、金融経済学の文脈において単に市場の効率性と言った場合は市場の情報効率性を指す場合が多い。
効率的市場仮説
現実の金融市場が情報的に効率的であるという仮説を効率的市場仮説(英: efficient market hypothesis)という。
ユージン・ファーマはHarry Roberts の提言を受けて、1970年の彼の論文において市場効率性を3つの段階に分別した[11]。
一つがウィーク型の効率性(英: weak-form efficiency)で現在の価格は少なくとも過去の価格のヒストリカルデータによる情報をすべて反映しているという意味での効率性である。次がセミストロング型の効率性(英: semi-strong-form efficiency)で現在価格が過去の価格のヒストリカルデータに加えて、会計情報や株式分割情報などの公開情報をすべて反映しているという意味での効率性である。最後がストロング型の効率性(英: strong-form efficiency)で、公開情報に加えインサイダー情報や有料のアナリスト情報などの非公開情報も含めた全ての情報を反映しているという意味での効率性である[9]。
さらに同論文においてユージン・ファーマは結合仮説問題(英: joint hypothesis problem)と呼ばれる効率的市場仮説の実証研究を行うにあたっての問題を提起した。もしある資産価格モデルを仮定して統計学的な仮説検定を行い、その検定が棄却されたならば、市場が情報的に非効率であることと仮定した資産価格モデルが間違っていることの二つが考えられる[12]。よって価格変動が想定した資産価格モデルで予想される程度から逸脱し、それが予測可能であったとしても、必ずしも市場が非効率であることを意味しているのではなく、モデルが間違っている可能性もあるということを指摘している[13]。
理論
以下で金融経済学の理論的成果について列挙する。
モジリアーニ=ミラーの定理
モジリアーニ=ミラーの定理とは、完全市場の下で企業価値は資金調達の方法(負債か資本か)によらないという定理である。1958年にフランコ・モジリアーニとマートン・ミラーにより発表された[14]。
企業の最適資本構成に関する現代的理論の出発点となる定理であり[15]、コーポレートファイナンスや会計学、経営学などにおいて大きな影響を及ぼしている。
モジリアーニ=ミラーの定理の導出という業績によりフランコ・モジリアーニは1985年に、マートン・ミラーは1990年にノーベル経済学賞を受賞している。
確率的割引ファクターとリスク中立確率
標準的な経済学モデルにおける仮定の下で、裁定取引が存在しないとすると、株式価格は次のように決定される[16]。
金融経済学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 04:22 UTC 版)
「経済学上の未解決問題」の記事における「金融経済学」の解説
エクイティプレミアムパズル: 新古典主義経済学における最も重要な課題の一つである。過去100年ほどのデータに基づくと、米国株式への平均実質リターンが債券よりも大幅に高いという事実に基づいている。問題は、この株式プレミアムの背後にある原因を説明することである。これに関するさまざまな理論があるが、解決はまだ至っていない。 配当パズル: 配当を支払う企業は、より高い評価を持つ投資家によって報われる傾向があるという事実である。現在、説得力のある説明はなされていない。モディリアーニ=ミラーの定理は、パズルが(唯一の)税金、破産コスト、市場の非効率性、および非対称情報のいくつかの組み合わせによって説明することができることを示唆している。 ブラック–ショールズ方程式と二項価格評価モデルの改善: ブラック–ショールズ・モデルと二項価格評価モデルは、株式とコールオプションを求める方程式である。これらのモデルはよく使用されているが、いくつかの問題がある。例えば、モデルが市場の動きを説明できないこと、満期までの時間とともにオプション価格が上昇することである。確率的なボラティリティを含み、資産のコールオプションの価格設定を適切に説明できるモデルの開発は、金融経済における重要な課題の一つと言える。
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