ブラック–ショールズ・モデルとは? わかりやすく解説

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ブラック–ショールズ方程式

(ブラック–ショールズ・モデル から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/09/07 07:06 UTC 版)

ブラック–ショールズ方程式(ブラック–ショールズほうていしき、: Black–Scholes equation)とは、デリバティブの価格づけに現れる偏微分方程式(およびその境界値問題)のことである。

様々なデリバティブに応用できるが、特にオプションに対しての適用が著名である。ブラック-ショールズ方程式はヨーロピアンオプション[注 1]のオプション・プレミアム[注 2]の値を解析的に計算できるが、アメリカンタイプのプット・オプション[注 3]については(解析的には)計算できない。ただし、ブラック-ショールズモデルにおけるアメリカンコールオプションの理論価格はヨーロピアンコールオプションの理論価格と一致する[2]

ブラック–ショールズ方程式は1973年フィッシャー・ブラックマイロン・ショールズによりオプションの価格付け問題についての研究の一環として発表された[3]。後にロバート・マートンが彼らの方法に厳密な証明を与えた[4]これらの理論は現代金融工学の先がけとなったとも言われる。[誰によって?]

歴史的背景

オプション価格の評価についての研究は長い歴史がある。ファイナンス研究において先駆的な業績を残したことで知られるルイ・バシュリエ1900年に発表された博士論文[5]の中でオプションの評価式を考察していた。しかし、彼の評価式は価格が負になることもありうるために非現実的であった。その後、1961年にCase Sprenkle[6]が、1965年ポール・サミュエルソン[7]が株価変動に幾何ブラウン運動を用いたオプション価格式を導出した。しかしながら、彼らの評価式はオプションの価格評価において、今日で言う所のリスクの市場価格を明示的に表現できなかった為に、実用性に乏しいものであった[8]

1965年アーサー・D・リトルで職を得たフィッシャー・ブラックは同社に在籍していたCAPMについての研究で知られるジャック・トレイナー英語版の影響の下、ワラントの評価式についての研究を行っていた。その中で1969年頃に、ブラック–ショールズ方程式の前段階となるようなワラントについての評価式の導出に成功していた。これにはサミュエルソン[9]ロバート・マートン[10]による多期間においての株式と債券の最適投資比率を決定する問題(マートンのポートフォリオ問題)についての研究に大きく影響されたとブラックは述べている[11]。しかし、ブラックはこの方程式が熱伝導方程式の一種であることには気付かず、解を導出できずにいた。ただ、ブラックはこの方程式について考察を深める中で、株式の期待リターンにワラントの価値は依存しないこと、つまりワラントの価値を決定する上で重要なのは株式全体のリスク(ボラティリティ[注 4])であることに気付いている[11]

また、時を同じくして1969年ごろにマサチューセッツ工科大学(MIT)に所属していたマイロン・ショールズとブラックは知り合い、ショールズの紹介によりブラックはMITに職場を移した。そこからブラックとショールズの共同研究が始まり、ワラントの研究から転じたオプションの評価式についての研究は急速に進展した[11]

同時期にオプション評価式の研究に取り組んでいたマートンとの議論はブラックとショールズの研究に大きな影響を与えている。両者の関係は共同関係であり、またライバル関係であったとブラックは述べている。そのような中でブラックとショールズは伊藤清らにより創始された確率微分方程式の理論とマートンとの議論によってもたらされた複製ポートフォリオの概念を用いて導出されたブラック–ショールズ方程式の解を見出すことに成功した。ブラックとショールズは1970年の夏に開かれたカンファレンスでコーポレートファイナンスにおいてのブラック–ショールズ方程式の応用についての研究成果を発表したが、マートンは寝坊してしまい、ブラックとショールズの発表を聞くことが出来なかった[11]

1970年の10月にブラックとショールズはオプション評価式としてのブラック–ショールズ方程式の利用についての研究をまとめた論文をシカゴ大学が発行している学術雑誌であるJournal of Political Economy英語版に投稿したが、彼らの論文はアメリカファイナンス学会英語版が発行しているThe Journal of Finance英語版に投稿する方がふさわしいということで掲載拒否となってしまった。その後、しばらく論文を学術雑誌に発表できずにいたが、シカゴ大学のマートン・ミラーユージン・ファーマの目に留まり、彼らのアドバイスを受けて修正された論文が1973年にJournal of Political Economyで投稿を受理され発表された。これが広く知られる"The Pricing of Options and Corporate Liabilities"[3]の論文である[11]

その後、マートンは無裁定価格理論の厳密な理論を展開した論文[4]を発表し、さらにブラックとショールズ自身によってブラック–ショールズ方程式の実用性、データに対する当てはまりの良さが検証されたことで、ブラック–ショールズ方程式は不動の地位を確立した[11]。今日では"The Pricing of Options and Corporate Liabilities"はJournal of Political Economyで最も引用される論文の一つとなっている[12]

これらの功績を称え、1997年ノーベル経済学賞はショールズとマートンに授与された。ブラックは1995年に亡くなっていたために、この栄誉にあずかることはできなかった。

ブラック–ショールズモデル

ブラック–ショールズモデルとは、1種類の配当のないと1種類の債券の2つが存在する証券市場のモデルである。さらに連続的な取引が可能で、市場は完全市場であることを仮定している。

そして、時刻 t における株価を St 、債券価格を Bt とする。株価は以下の確率微分方程式に従うとする。

ブラック–ショールズモデルにおけるコールオプション価値。call option's value long before expiry dateで示される曲線が満期までの期間が比較的長いヨーロピアンコールオプション価値でcall option's value before expiry dateで示される曲線が満期までの期間が比較的短いヨーロピアンコールオプション価値である。call option's payoff at expiry dateは満期時点でのペイオフを表している。オプション価値は右上がりの凸状の曲線であり、時間経過にしたがって下方に異動し、満期時点でのペイオフに近づいていくことが分かる。

ブラック–ショールズ方程式によるオプション価格を決定するのは株価、満期までの残存期間もしくは経過時間、行使価格、金利、ボラティリティの5つとなる。よってオプション価格をこの5つの変数の関数と見なし、それぞれの偏微分を持って各変数についてのオプション価格の感応度として表したものをグリークス(: The Greeks)と言う[17]。代表的なものとして、株価についての1階偏微分をデルタ(: delta)、2階偏微分をガンマ(: gamma)、経過時間の1階偏微分をセータ(: theta)、金利の1階偏微分をロー(: rho)、ボラティリティの1階偏微分をベガ(: vega)またはカッパ(: kappa)と言う。それぞれの配当無しヨーロピアンコールオプションにおける具体形は以下の通りとなる。ただし記号等は前節のものと同じである。

デルタ
Category:金融派生商品

ブラック–ショールズモデル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/05 15:13 UTC 版)

ブラック–ショールズ方程式」の記事における「ブラック–ショールズモデル」の解説

ブラック–ショールズモデルとは、1種類配当のない1種類債券2つ存在する証券市場モデルである。さらに連続的な取引が可能で、市場完全市場であることを仮定している。 そして、時刻 t における株価St債券価格Bt とする。株価は以下の確率微分方程式に従うとする。 d S t = σ S t d W t + μ S t d t {\displaystyle dS_{t}=\sigma S_{t}dW_{t}+\mu S_{t}dt} ここで、Wt標準ウィーナー過程であり、σ, μ は定数で、σ はボラティリティ、μ はドリフト英語版)である。よって株価幾何ブラウン運動表されるまた、債券価格は次で表されるとする。 B t = B 0 exp ⁡ ( r t ) {\displaystyle B_{t}=B_{0}\exp(rt)} ここで、r は定数無リスク利子率である。 さらに、0 ≤ t ≤ T で発展的可測(英: progressively measurable)な確率過程の組 (at(ω), bt(ω)) を取る。at は t 時点で状態が ω の場合株式保有量、bt(ω) は同債券保有量である。このような組 (a, b) を、株式債券取引戦略という。区間 [0, T] における取引戦略 (a, b) が自己資本充足的(英: self-financing)であるとは、0 ≤ t ≤ T の各時点 t に対し次の式が満たされることである。 a t S t + b t B t = a 0 S 0 + b 0 B 0 + ∫ 0 t a s d S s + ∫ 0 t b s d B s {\displaystyle a_{t}S_{t}+b_{t}B_{t}=a_{0}S_{0}+b_{0}B_{0}+\int _{0}^{t}a_{s}dS_{s}+\int _{0}^{t}b_{s}dB_{s}} よって d ( a t S t + b t B t ) = a t d S t + b t d B t {\displaystyle d{\Big (}a_{t}S_{t}+b_{t}B_{t}{\Big )}=a_{t}dS_{t}+b_{t}dB_{t}} となる。

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