金融統合とシステム危機:1980年~現在
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「グローバル金融システム」の記事における「金融統合とシステム危機:1980年~現在」の解説
1980年代から1990年代にかけて資本取引の自由化とともに先進諸国間の金融統合が大幅に進んだ:15。金融市場と銀行の統合により、生産性の向上やマクロ経済リスクの幅広い共有といったメリットが生まれた。結果として相互依存が生じ、脆弱性の共有やシステミック・リスクへのエクスポージャー増加の点で相当のコストがかかった:440–441。ここ数十年、金融統合とともに規制緩和が進んだ。各国は金融仲介者の行動に関する規制を徐々に撤廃し、情報公開や規制当局への情報提供を簡素化した:36–37。経済が開放されるにつれて、各国はますます外部ショックに晒されるようになった。経済学者は、金融統合の世界的拡大が資本フローを不安定化し金融市場を混乱させる可能性を高めたと主張している。国々の統合が進むと、一国のシステミック危機が他国に伝染しやすくなる:136–137。1980年代と1990年代には、1987年ブラックマンデー株式市場クラッシュ、1992年欧州通貨システム危機、1994年メキシコペソ危機(英語版)、1997年アジア通貨危機、1998年ロシア金融危機、1998-2002年アルゼンチンペソ危機(英語版)というように、通貨危機とソブリン債務不履行が繰り返された:254:498:50–58:50–58:6–7:6–7:26–28。これらの危機は原因や深刻度や影響度の点で様々であるが、およそ次のような事象がみられた。ある国の財政政策に照らしてその国の通貨の固定為替相場が間違っていると見なした投機攻に伴う資本逃避:83、投機攻撃につられた他の投資家がその国の通貨ペッグに疑いを持つことを期待して行う自己実現的な投機攻撃:7、新興市場国における国内資本市場の先進性や機能性の欠如:87、資本移動の制約と銀行システムの機能不全の状況下での経常収支の逆流:99などである。 1990年代に発展途上国を悩ませたシステミック危機を経済学者たちが研究した結果、発展途上国が金融グローバル化の利益を享受する前提条件として資本フローの自由化が重要であるとの合意に達した。その条件には、安定したマクロ経済政策、健全な財政政策、強力な銀行規制、および財産権の強力な法的保護が含まれる。一国が国内資本市場の機能を達成し健全な規制の枠組みを一旦確立し、その後に、外国直接投資を促進し、国内株式資本を自由化し、資本流出と短期資本移動を許容するという組織的な手順を踏むことを経済学者たちは強く勧める:25:113。新興国経済が流動性を改善し高金利で貯蓄を増やし経済成長を加速させるというようなかたちでグローバル化の利益を享受するには、自国通貨を国内外の投資家から信頼されるようにしなければならない。通貨の信頼性を維持せずに外国資本市場の無制限の利用を許す国は、深刻な経済的・社会的コストを伴う投機的資本逃避や突然停止に対して脆弱になる:xii。 各国は、1980年代と1990年代の危機に対応して、グローバル金融システムの持続可能性と透明性を改善しようと試みた。バーゼル銀行監督委員会は、銀行業務の監督と規制に関する協力を促進する目的で、G10加盟国の中央銀行総裁によって1974年に設立された。委員会の本部はスイスのバーゼルにある国際決済銀行に置かれている。委員会は、バーゼル合意と呼ばれる審議を数回行った。1988年の最初の合意はバーゼルⅠと呼ばれる。これは信用リスクと各種資産クラスの査定を重視した。バーゼルIの動機は、1980年代のラテンアメリカの債務危機の経験から、大規模な多国籍銀行が適切に規制されていない可能性に懸念が生じたことであった。バーゼルⅠの後、委員会は銀行の新たな資本要件に関する勧告を発表し、G10諸国はそれを4年後に実施した。G10は、規制当局間の協力を促進しグローバル金融システムの安定性を高める目的で、1999年に金融安定化フォーラムを設立した。フォーラムは12の国際規範を策定し成文化し実施した。2009年のG20で金融安定化委員会に再編された:222–223:12。バーゼルIIは2004年に定められ、再び資本要件に重点を置いた。これはシステミック・リスクに対する予防措置であるとともに、国際的に営業する銀行が競争上不利にならないようするため銀行規制をグローバルに統一する必要によるものであった。このバーゼルⅡは最初のバーゼルIの不備を補うことに動機付けられていた。バーゼルIの不備と見なされた点は、銀行のリスクプロファイルの公開や規制機関による監視が不十分であった点などである。加盟国はバーゼルⅡをなかなか実施しなかったが、2007年と2008年にEUと米国がどうにか実施した:153:486–488:160–162。2010年、バーゼル委員会はバーゼルⅡを強化する中で資本要件を改定した。これをバーゼルⅢと呼ぶ。バーゼルⅢの中心はレバレッジ比率要件であり、その目的は銀行の過度なレバレッジを制限することである。バーゼルⅢは比率を強化するとともに計算式を修正した。計算式はリスクを加重し資本の閾値を計算するために使われる。資本の閾値は、銀行が抱えるリスクを軽減するために要求されるものであり、銀行の資産をリスクで加重した価額の7%に設定された:274。
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