無段変速機 無段変速機の概要

無段変速機

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/11 06:50 UTC 版)

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この項では自動車用摩擦式無段変速機を中心に述べ、摩擦によらない無段変速機についても触れる。

自動車用途の概要

変速の原理は摩擦伝達で減速比を連続可変することであり、高効率のカギは潤滑を維持し摩擦係数を上げながら摩擦損失と摩耗を減らすことである[2]。潤滑油でぬれた金属間の摩擦係数は0.1程度と低く、自動車への応用には潤滑油、添加剤[3]、金属材料、表面加工、制御システム、生産管理等、多方面での技術開発が必要とされた。定常時の伝達効率向上には、伝達要素間の摩擦係数を高くする必要がある一方、変速時には要素同士を滑らす必要がある。両者は相反する要求であり、潤滑油には特に高い技術が求められた。

古くは、摩擦によって大きな力を伝達することが難しいために、受容トルクの小さい原付自転車や小型自動二輪車(特にスクーター)に普及した。自動車用でも受容トルクの制限のため小型車から採用され、金属ベルトとプーリ間の摩擦係数を大きくする改良により1990年代後半以降は排気量2,000cc超の中型車に採用されるようになり、2010年平成22年)以降は3,500ccまたは300ps級の4WDにも使われている。日本メーカー車が大半[4][5]で、日本国内向けと北米向け中心に販売されている。欧州向けはAMTが設定されるケースが多く[6][7]新興国向けは耐久性と整備性に優れるMTが中心である。そのため、輸入車ではごく一部の車種でしか採用例がない。日本の国土交通省2013年(平成25年)3月以降カタログ燃費として義務づけているJC08モード燃費値では、CVT搭載車の燃費は、MTやステップAT等の他方式に比べて良い車種が多い。

21世紀初頭に自動車用として実用化されているCVTはベルト式CVT、チェーン式CVT、トロイダルCVTおよび電力・機械併用式無段階変速機の4種類に大別できる。ベルト式CVTは比較的低トルクのエンジンで軽量車に、チェーン式CVTとトロイダルCVTは高トルクのエンジン又はハイブリッドの重量車に用いられたが、その後トロイダルCVTは普及する事なく絶滅し、電力・機械併用式無段階変速機は開発元のトヨタが広く実装し他社も幾つか採用している。

変速機そのもので逆回転できないため、後進を行うときは遊星歯車等を組み合わせて逆転する。そのため前進と同等の速度で後進できるが、危険防止のためリミッターで制限される。電力・機械併用式無段階変速機では、電動モーターを逆回転させることにより後進する。

CVTは自動車用自動変速機(あるいは手動有段変速機)として実装されるのが普通で、一部の土木工事農業車両用静油圧式無段変速機を除いて、手動無段変速操作される事はない。

長所

  • 変速比の連続可変により変速ショックがなく、スムーズに加減速できる。
  • エンジンを効率の良い回転数と負荷領域で運転できる。変速段数の少ないATと比べ、エンジンを低回転・高負荷運転が可能であり、減速時のブリッピングも不要となるため燃費が向上する[8][9]
  • 減速中の燃料カット・オルタネータの充電制御範囲が拡大できるので燃費が向上する。簡易なマイルドハイブリッドシステム[10]として応用されている。
  • 部品点数が少なく小型化に有利である。
  • 変速プロフィールを自由に設定できるので,運転状況によって燃費を優先したり,あえて有段変速を模擬することでスポーティーな演出も可能となる。
  • バリエーター機構の伝達効率が高く、金属ベルト式で最大95%[11]、トロイダル式で最大97%が報告されている[12]

短所

  • 同程度の車種に使われるステップATと比べてコストが高い[13]。プーリーの鍛造、熱処理、加工、表面処理にコストを要する。ただし、量産化によりコスト差は少なくなりつつある。
  • 変速システム全体の伝達効率が低く、油圧ポンプの損失等を考慮した伝達効率は時速40km/h時に76%、100km/h時に81%の報告がある[14]。この値はロックアップクラッチを締結した状態のステップATや、MTよりも低い。
  • 変速動作中の効率が低く,変速比を連続可変する過程では伝達効率が60%程度まで落ちる[15]。これはエンジン回転数を保持して加減速するような過渡状況に相当する。
  • 多段式のステップATと比較して変速比幅が狭く、最大で変速比幅7.0である[16]。これは9速ステップAT[17]の9.81と比較して狭い。そこで後進用の遊星歯車に副変速機能を付加して変速比幅8.7とさせるなどの改良が進んでいる[18]
  • プーリーを押しつけるために必要な高い油圧を賄うオイルポンプが損失となる。特に高回転(高速走行)時に大きい[19]
  • 金属ベルトから特有のメカノイズが発生するため、遮音対策に加えてベルトの「コマ」のサイズに微妙な変化をつけ、一定周波での連続音を発しにくくする対策が採られている。
  • トルク許容量が低いため、変速機の負荷が大きい貨物車には採用例が少ない。
  • 金属ベルト式はプーリ径が大きく、直列エンジン縦置き車に使用される縦長形状のケースに収めにくい。このためトロイダル式やチェーン式が使用されている。
  • 有段変速機(MTやステップATといった他のトランスミッション)とフィーリングが大きく異なる。
    • アクセルペダルを踏み込んでから加速が始まるまでの遅れが大きい[20]。エンジン回転数が先行して上がり、車速の上昇が遅れるこの現象はモーターボート・エフェクトやCVTラグと呼ばれる。
    • CVTはエンジン回転数を変化させることなく加減速することが可能であるが、運転者が車速の変化を感覚的に認識できないことに違和感を感じ、Rubber band feelingと称される。対策として有段変速を模擬するモードを備えた車種がある。
    • スロットルの僅かな開度変化でプーリー径が変化することがあり、不快な前後衝動(不連続の加減速感 = スナッチ)が起こる。

摩擦式のCVT

初期の摩擦式CVT

古典的な無段変速機としては、円錐状の二つのプーリーを駆動・従動で太・細逆に並べて平ベルトで繋いだ摩擦式CVTが蒸気機関実用化前の水車動力機械時代から使われていた。2枚の円盤を直角に組み合わせその円盤の摩擦力により駆動を伝えるフリクションドライブが存在し、20世紀初頭から定置工作機械や小型の自動車やガソリン機関車などに用いられた。構造は簡単で、逆転ギアを要さないメリットがあったが、反面で体積が大きく空転による動力損失が多いことから、大きな出力を伝達するには適さず、第二次世界大戦以前に廃れた。

ベルト式CVT

可変径プーリーとベルト

ベルトと2つの可変径プーリーを組み合わせ無段階に変速を行う機構のCVTで、ベルトの材質や構造で区別される。

ゴムベルト式CVT

エンジン側プーリーに内蔵されたウエイトローラーというおもりが、回転数により生じる遠心力の大小でその位置を変えることで径を変える機構[21]ゴム製ベルトの張力により駆動を伝える無段変速機は20世紀初頭から存在していたが、当初は伝達できるトルクが小さくゴムベルトの耐久性も不十分であったためスクーターや小型車などの低出力エンジンの車両にしか使用できなかった。

自動車でこの方式を本格的に採用した最初はオランダDAF(のちのDAFトラックス→現VDLネッドカー)で、1958年に発売した小型車「DAF 600英語版」に、自社開発のゴムベルト式無段変速システム「ヴァリオマチック英語版」を遠心式クラッチと組み合わせ搭載した。ドライブ側のプーリー幅は内部の遠心ウェイトおよび吸気マニホールド負圧で制御され、ドリブン側はそれには追従する形となっていた。変速機構はディファレンシャルギアで両輪へ分割された後に置かれるため、現在の一般的なベルト式CVTのような1つのベルトと一対のプーリーという構成ではなく、左右の後輪それぞれに機構が存在する[注 1]。しかし上述のゴムベルトの弱点の他に、構造上スペースを大きくとられること、デリケートな変速機構が外部に晒されていることなど、課題も多かった。

スクーターの駆動方式では、現代に至るまでこの手法が主流を占めている。Vベルトには曲げ抵抗と発熱が少なく耐久性の高い、コグベルトが用いられる。本田技研工業ではスクーターにおけるゴムベルト式CVTを「Vマチック」と呼称する[22][23]。2007年現在ではウエイトローラーに代わってプーリー径を電子制御するマニュアルスイッチ付きCVTも現れており、より柔軟な変速が行える。擬似的に通常のマニュアル式変速機のように操作することもでき、これによりドライバーの意思に反する変速を防ぎ、疑似シフトチェンジを味わえたりエンジンブレーキを用いたりといったスポーティな運転が可能[24]

スチールベルト式CVT

トヨタの小型車用CVTのカットモデル(Super CVT-i)

その後1970年代に、DAF社出身のオランダ人、ヨーゼフ・ファン・ドールネ(Joseph Josephus Hubert van Doorne 1900-1979)[注 2]が耐久性の高いスチールベルト式CVTを開発した。最初に採用したのは、DAFを買収したボルボがオランダ(旧・DAF)工場で生産した66英語版である。[要出典]

ファン・ドールネ式CVTは1980年代以降、フィアットローバーをはじめとした欧州メーカーや日本の富士重工業スバル)のECVT(Electro Continuously Variable Transmission)や日産のNCVT(Nissan continuously variable transmission)、トヨタのSuper CVT-iなどに採用されて小型車に普及しCVTの代表的方式となった。

ファン・ドールネ式のCVTベルトは、強靱な特殊鋼数枚を重ね合わせて形成したスチールベルトに金属製の「コマ」をはめ込んだものである。プーリーからの駆動力は隣り合ったコマからコマへの圧力として伝達され、スチールベルトは従属的な位置決めガイドとして動作する。ゴムベルト式CVTと決定的に違うのは、ベルトの張力ではなくコマを押すことによる押力により動力を伝えることである。

スチールベルト式CVTの登場によって受容トルクは向上したものの、当初はその信頼性や操作性においてやや難があった。しかしファン・ドールネの特許期限が切れて以降は他メーカーの独自技術開発が一気に進み、さらなる大排気量・大トルクに対応できるようになり現在の主流となった。

日産・エクストロニックCVT

エクストロニックCVTXTRONIC CVT)とは、日産自動車の中容量スチールベルト式CVTの商標である[25]。プーリー比を変える油圧を車速や負荷に応じ微細に電子制御するもので、単純な油圧制御に比べCVTの欠点であるドライバビリティー(運転性)の悪さを払拭した。

このCVTにはトルクコンバーター式クラッチが組み込まれており坂道発進や車庫入れなどの微速走行が容易になっている。日産はこのシステムでトルクコンバータ式クラッチのCVTの普及に業界での先鞭をつけ、少排気量のモデルから比較的大排気量のモデルにもCVTを採用する実績を挙げている。「ABSの作動」を伴い「3速以上のギヤ比」で停止した場合3速に固定されるが、発進して時速20km位まで加速すると解除される。

エクストロニックCVTの商標に変わる前までは、ハイパーCVTの商標で呼ばれていた。なお日産には後述するエクストロイドCVTもあり、名称が似ているため混同されやすい。

なお、デイズシリーズでは三菱自動車工業の「INVECS-III CVT」を「副変速機付エクストロニックCVT」と呼ぶ(eKシリーズとの共同開発だが製造自体は三菱のため)。

副変速機付CVT
副変速機付CVT
ジヤトコ JF015E型

副変速機付CVTとは、日産とジヤトコが共同開発したCVTである[26][27]。この副変速機付CVTはセカンダリープーリー(出力側ドリブンプーリ)の後に遊星歯車式の副変速機を設置している。この遊星歯車は2速のステップAT(有段変速機)とも言えるもので、前進2段の変速機能と後退切替機能を共有している。したがって、全速度域で見ると無段変速ではなくなったが、燃費の改善を優先して採用された。

発進時にはCVTのプーリー比が最大、かつ、副変速機が前進Loで作動し、速度が上がってプーリー比が小さくなると、前進Hiに自動変速すると同時に再度プーリー比を大きくする。これにより従来のCVTに比べて変速比幅が拡大され、発進加速と高速走行時の燃費の向上が図られている。しかし、この切り替え時に副変速機とCVTでまったく逆の動作(増速と減速)が行われるため、その時の速度、スロットル開度、負荷によっては双方の切り替えタイミングにずれが生じ、不自然な加速感となることがある。 また、前進Hi状態から前進Lo領域まで減速した場合や、中速域での高負荷走行時には自動的に前進Loへシフトダウンを行うため、CVTでありながらキックダウンが発生する。

小型CVTユニットはプーリー径の制約から、変速比幅が6.0までと狭いため、その改善を目的に開発された。副変速機付CVTは7速ATをしのぐ変速比幅7.3を実現している。このときのバリエータの変速比幅は4であるため、理論上は変速比幅を11程度まで拡大することも可能であるが、そこまで広い可変性はかえって過大となる。このため副変速機装備で生じた構造面のマージンは、変速ユニット自体の小型化へ振り向けている[28]

変速比幅拡大目的で単純に歯車を追加すると、伝達段数が増え、伝達効率を悪化させる。そこで、Jatco CVT7は元々装備されていた後退用遊星歯車機構に2段変速機を統合し、伝達段数を変えずに合理的な機能追加を実現した。クラッチの数だけを増やし、遊星歯車の数は増えていない(遊星歯車機構の位置は入力側から出力側へ変更されている)。CVTとステップATの複合化によってコストが増えるが、副変速機追加によりCVTの変速比を4.1と通常より小さくしているため、トータルコストは従来通りとメーカーは主張している[29]

小容量なので軽自動車から1.5 Lクラスまでをカバーする。まず(スズキパレット/パレットSW)用として採用され、2017年2月現在は下記の車種に採用されている(絶版車除く)。

日産(副変速機付エクストロニックCVT)
シルフィジュークノート(ガソリン車)、マーチデイズデイズルークス
スズキ(副変速機構付CVT)
バレーノ(1.2 L車)、イグニスソリオ/ソリオ バンディットスイフト(1.2 L車)、スペーシア/スペーシア カスタムハスラーワゴンR/ワゴンRスティングレーアルトラパンアルト(セダン)
マツダ(副変速機構付CVT すべてスズキ車のOEM製品)
フレアワゴン/フレアワゴン カスタムスタイルフレア/フレア カスタムスタイルキャロル
三菱(INVECS-III CVT)
デリカD:2ミラージュeKスペース/eKスペース カスタムeKワゴン/eKカスタム

乾式複合ベルト式CVT

スズキ愛知機械工業が共同開発した無段変速機。

ベルト素材はアラミド繊維の芯線を特殊耐熱エラストマーで挟み耐熱帆布でコーティングしたものである。コマはアルミニウム合金をアラミド繊維と炭素繊維で補強した特殊耐熱樹脂で包んだもの。樹脂素材に自己潤滑性があるため金属ベルトCVTのようなフルードは不要となっている。動力の接続には電磁クラッチが採用され、低速域ではベルト式変速ではなくギア駆動となっているのが特徴。

A-CVTとしてスズキとダイハツの軽自動車に採用され小排気量用CVTとして期待されたが、結局この2社以外での採用例はなくこのCVTを採用した両社とも現在はトルクコンバータを組み合わせたCVTを採用している。

発進ギア付きCVT

トヨタ自動車とアイシンAW(現:アイシン)が共同開発した無段変速機。『ダイレクトシフトCVT(Direct Shift-CVT)』を名乗る。

ベルト駆動は構造上ロー側(1速相当)使用時のパワーロスが大きいが、新たにその領域のみで働くハスバ歯車式のギア駆動の機構を追加することで、加速時のもたつき感を大幅に改善。なおギヤとベルトの切り替えにはAT技術で培った高応答の変速制御技術を採用して変速ショックを大幅に軽減している。

また発進時や低速高負荷時の大きな入力をギヤが受け持つことによりベルトの狭角化を可能とし、加えてプーリーも小径化して小型軽量化に成功。慣性重量の削減効果などで変速速度を20%向上させ、CVT本体側でも従来のネガティブな感触を軽減させている。これらにより2リッタークラスではトップクラスの水準となる変速比幅7.5を実現した[30][31]

2018年発売のレクサス・UXへの投入が初出であり、それ以後は同社ダイナミックフォースエンジンを搭載した一部の車種に投入されている。

デュアルモードCVT

ダイハツ工業が単独開発した動力分割機構を備えるCVTで、『D-CVT』と称される。上述のDirect Shift-CVTとは名称が似ている上、トヨタとダイハツが完全親(子)会社の関係ということもあり混同されるが、実際にはDirect SHift-CVTが低速域、D-CVTは高速域の工夫である点で全く異なる。

発進から中速域までは通常の金属ベルト式CVTだが、高速域に入るとクラッチに接続して動力分割機構にパワーが伝わる「スプリットモード」へと移行。クラッチ接続直後の動力は金属ベルト6、動力分割機構4の比率で、最も変速比が小さい状態(エンジン回転 : 低、速度 : 高)では金属ベルト1、動力分割機構9となる。これにより、高速になるほど馬力損失が大きくなる[注 3]という、従来のベルト式での問題を大幅に改善した。

この新機構の採用により、D-CVTの変速比幅は従来品の5.3から7.3へと拡大。最初の採用となった4代目タントの巡航燃費は従来モデルに対し、60 km/h時で12 %、100 km/h時では19 %の改善を実現した[32]

チェーン式CVT

チェーンの張力によって2個の可変径プーリー間で動力を伝達するCVT。押力で作動するスチールベルト式に外観が似て見えるが、力学的には同じく張力で動力を伝達するゴムベルト式に近い。

スチールベルト式よりも、低速側・高速側の変速比における伝達効率が良い。またプーリー巻きかけ半径を小さく出来るため、プーリー径を小型化したり、同じ体積で変速比を拡大できる。欠点はピンとプーリーが点接触して動力を伝達するため、面で接触するスチールベルト式よりも更に騒音が大きくなりがちなことである。

自動車用としてはSUBARUが「リニアトロニック(Lineartronic)」と呼ぶ、シェフラーグループのLuK製チェーンを使ったCVTを5代目レガシィエクシーガの一部グレード、4代目インプレッサ、4代目フォレスターレヴォーグWRX S4などに搭載している[33]。過去にアウディ・A4のFF車に採用されていたチェーン式CVT「Multitronic(マルチトロニック)」も同じくLuk製チェーンを使用している。なお、いずれも許容最大トルクは400N・mとなっている[33]

このほか、過去に大手自動変速機メーカーのボルグ・ワーナーがサイレント・チェーン式CVTを開発した。しかしスズキ・カルタス・コンバーチブルにSCVTという名称で搭載されたのみで、こちらは一般化せずに終わっている(クラッチ機構には、湿式多板クラッチを採用している)。

トロイダルCVT

日産のハーフトロイダルCVT(エクストロイドCVT)。両側のインプットディスクに二つのアウトプットディスクが挟まれており、中央の歯車を介してプロペラシャフト側へ出力する

フリクションドライブを高度に発展させた形態である。入力軸に繋がった円盤(インプットディスク)と出力軸に繋がった同形状の円盤(アウトプットディスク)を向かい合わせ、各ディスクの間には複数の転輪(パワーローラー)の外周部分が強い力で挟まれて動力を伝達する。パワーローラーの傾斜角を変化させるとそれに応じて2枚のディスクの回転数の比も変化し、可変変速比が得られる。着想自体は古くから存在したが、非常に高い圧力下で摩擦と潤滑を両立させての精密作動が要求されるため、実用化は極めて困難であった。

実用化に至った事例では、日産がジヤトコ・トランステクノロジー(ジヤトコ)、日本精工(NSK)、出光興産と共に開発、1999年に発表した「ハーフトロイダル式」とイギリスのトロトラックが光洋精工と共に開発し2003年に発表した「フルトロイダル式」とがある[34]。両者の違いは入・出力ディスクの形状とそれに挟まれたパワーローラーの接し方であり、フルトロイダルでは窪みのあるディスクでパワーローラーを挟み込むのに対し、ハーフトロイダルでは漏斗状のディスクにパワーローラーを押し当てて駆動する[35]。フルトロイダル式は「線」で接する円盤形パワーローラーを用いており、ローラーの厚みの分だけそれぞれのディスクに接する位置が異なって半径に差ができるため、強制スリップ(スピンロス)の発生は避けられない。対するハーフトロイダル式は、ほぼ「点」で接する球形パワーローラーの伝達効率が高く、スピンロスもほとんど発生せず、理想に近いとされる。一方でハーフトロイダル式はパワーローラーを常に強い力で押し付け続けなければならず、軸受部でのトルク損失が大きいため、両方式の効率はほぼ同等と考えられる[36]

しかしフルトロイダルCVTは製品化されず、ハーフトロイダルCVTも有望視されながら、コスト面の課題から自動車用としては生産を終了している。自動車以外の用途では、固定翼哨戒機P-1に搭載される川崎重工業ガスタービン・機械カンパニー(現:航空宇宙システムカンパニー)製の一定周波数発電装置「T-IDG」に使用されている[37][38]

実用化にあたっては高圧下において高粘度化(ガラス転移)するトラクションオイルを介し動力を伝達すると言うトラクションドライブ形式となった。トラクションドライブ自体は産業機械で減速機などに用いられている。自動車関連では後付けの遠心式スーパーチャージャーの増速機に用いられている。トラクションオイルはその特性から一般的な車両用オイル(エンジン油・ギヤ油・ATF・CVTFなど)とは基油の分子構造から異なるため専用品以外は使用出来ない。

日産・エクストロイドCVT

日産がジヤトコ、NSK、出光興産と共に開発したハーフトロイダル式CVT。NSKがローラーと軸受けの開発に成功し、出光興産が高圧下でのせん断力と潤滑冷却力を兼ね備えた「新機構潤滑油」を開発[39]、ジヤトコがトランスミッションとして組み上げた。日産はこのトロイダルCVTをエクストロイドCVTと名付け[40]、高出力エンジン向けとして1999年(平成11年)に206kw(280PS)/387N・m(39.5kgm)のVQ30DETを搭載したY34型セドリックグロリアに採用し販売、世界初のトロイダルCVT搭載市販車となった[41]。2002年(平成14年)には8段変速マニュアルモードを加えてV35型スカイラインに搭載し、「スカイライン350GT-8」として販売している[42]。しかしエクストロイドCVT搭載車は同じ車種の通常型AT搭載車より価格が約50万円高い上に故障も多く、修理費も100万円を超える高額となることから、2005年(平成17年)に全ての生産が終了した。生産終了後、日産はエクストロイドCVTの技術をメルセデス・ベンツに提供している[要出典]。なお発進・クリープ用としてロックアップ付トルクコンバータを介している点などは一般的なベルト式CVTと変わらない。




注釈

  1. ^ 後にデフ前に配置する事でシングルベルトとしたDAF 46(英語版)も開発された。
  2. ^ 日本では「バン・ドールネ」や「バン・ドーネ」等と表記されることもある。
  3. ^ 主な損失源は、プーリー制御用のオイルポンプと、プーリー、ベルト間の摩擦。
  4. ^ SKYACTIV TECHNOLOGYのひとつで、アクセラで初採用された。THSとの相違点はエンジンがマツダ自社製のSKYACTIV-G
  5. ^ とはいえ、これらの名称はいずれも電子制御式のシフトレバーに使う事が多い(カタログでは、プリウスの変速機は「エレクトロシフトマチック」だがカローラアクシオハイブリッドの変速機は「電気式無段変速機」。シフトレバーは、前者は電子式で後者はゲート式)。
  6. ^ ガソリン車の諸元表が併記されている場合はハイブリッド車の変速比は空欄となる。ハイブリッド車のみの諸元表の場合は変速比の一覧自体が存在しない。
  7. ^ 市販車では6段から8段がみられる。

出典

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  41. ^ 日産:セドリック/メカニズム
  42. ^ 日産:スカイライン グレード一覧
  43. ^ 最初のHMTはHSTで駆動しつつ入出力の速度差がなくなった時点で直結しケーシングごと回転させるものだったとされるが、機械伝達となるのは直結時のみとHMTとしては冗長性に欠け、HMTよりもロックアップ機構付HSTといえる。
  44. ^ 例に挙げるとホンダのHMTではモーター側を可変容量、ヤンマーのI-HMTではポンプ側を可変容量としている
  45. ^ シリンダーを内蔵するブロックはホンダのHMTでは出力軸、ヤンマーのI-HMTでは入力軸と繋がっている。
  46. ^ HSTの場合、可変容量ポンプ/モーターの斜板の傾きを反転する事で逆転が可能。
  47. ^ ただしVP4には従来の「GPシリーズ」から引き継がれた乾式クラッチ併用の樹脂ベルト式CVTが搭載された。
  48. ^ こちらもVP4同様、乾式クラッチ併用の樹脂ベルト式CVTが搭載された。
  49. ^ 山口, 正明 (2008), “新型FIT用トルクコンバータ付きCVTの開発”, Honda R&D Technical Review (本田技術研究所) 20 (2): 11-16 
  50. ^ Nissan vehicle emissions
  51. ^ https://www.jatco.co.jp/archives/news/2009/090722.html
  52. ^ https://global.toyota/jp/mobility/tnga/powertrain2018/cvt/ 新型無段変速機
  53. ^ ダイハツ工業 DNGA新技術






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