木綿 合成繊維との競合

木綿

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/03 18:32 UTC 版)

合成繊維との競合

人造繊維は1890年代にフランスで開発されたレーヨンから始まった。レーヨンは天然セルロースからできているので合成繊維ではないが、製造工程は複雑化しており、天然繊維より安価だった。その後、合成繊維が次々と開発され、産業化されていった。アセテート繊維は1924年に開発された。石油化学による最初の合成繊維はデュポンが1936年に開発したナイロンである。その後1944年には同じデュポンがアクリル繊維を開発した。これらの合成繊維は女性用靴下などに使われたが、木綿と合成繊維が本格的に競合するようになったのは、1950年代になってポリエステルが出回るようになってからのことである[22]。1960年代にはポリエステルを使った衣類が急激に広まり、木綿輸出に依存していたニカラグアで経済危機が発生し、安い合成繊維と競合することでニカラグアでは木綿生産額が1950年から1965年の間に10分の1に低下した。木綿生産量は1970年代に回復しはじめ、1990年代初めには1960年代以前のレベルに戻った[23]

用途

木綿は様々な織物製品に使われている。吸水性の高いタオルローブなどのタオル地ジーンズデニム、青い作業服などに使われるカンブリックコーデュロイ、シアーサッカー、木綿綾織りなどがある。靴下下着Tシャツの多くは木綿製である。ベッドシーツも木綿製が多い。木綿は、かぎ針編みメリヤス用の糸にも使われることがある。木綿にレーヨンポリエステルなどの合成繊維を加えて布を織ることもある。

織物以外にも、漁網、コーヒーのフィルター、テント火薬ニトロセルロース参照)、綿紙、製本用材料などに使われている。中国で最初に作られたは木綿繊維を使っていた。消火用ホースも木綿で作られていたことがある。

木綿繊維を採取して残ったワタの種は綿実油の原料となり、食用に供される。種から油を絞って残ったものを綿実粕と呼び、反芻する家畜飼料となる。綿実粕に残存しているゴシポールは単胃の動物には毒性がある。木綿の種の殻(綿実殻)は乳牛に繊維質として与えることがある。アメリカ合衆国の奴隷制時代には、ワタの根の皮を堕胎薬として利用する民間療法があった[24]

ワタの種から長い繊維を採取すると、コットンリンターと呼ばれる短く細い繊維が残る。一般に3mm未満の繊維であり、機織りの際に残った繊維くずもコットンリンターと呼ぶことがある。コットンリンターは紙やセルロースの製造に使われてきた。イギリスではこれを "cotton wool" とも呼ぶが、コットンリンターに加工を施し医療化粧などに使う脱脂綿の意味にも使う。

本しゅすのような布を織るために加工を施した木綿繊維を「シャイニーコットン」と呼ぶ。これは光沢が強いのが特徴だが、吸水性がなくタオルなどには向かない。

「エジプト綿」はエジプトで栽培した特に長毛の木綿で、高級ブランドによく使われている。さらに丈夫で柔らかい「ピーマ綿」はアメリカ合衆国南部で栽培されているが、南北戦争の際にヨーロッパでピーマ綿を入手できなくなり、その代替としてエジプト綿が使われるようになった経緯がある。

貿易

世界の木綿生産

2009年現在の主な木綿生産国は中華人民共和国とインドである。ただし、国内の繊維産業でほとんどを消費している。木綿の主な輸出国はアメリカ合衆国とアフリカ諸国である。木綿の貿易総額は推定で120億ドルである。アフリカの木綿輸出額は1980年から倍増している。木綿輸出国は国内の繊維産業の規模が小さい。繊維産業の中心は中国やインドなどの東アジアや南アジアである。

アフリカでは綿花栽培は小作農が中心である。アメリカ合衆国テネシー州メンフィスを本拠地とする Dunavant Enterprises がアフリカの木綿仲買の最大手で、数百人の買い付け代理人を擁している。ウガンダモザンビークザンビアで綿繰り工場を運営している。ザンビアでは、18万人の小作農に種や経費のための資金を貸し付け、栽培方法のアドバイスを提供している。カーギルもアフリカでの木綿買い付けを行っている。

アメリカでは2万5000の木綿農家が毎年20億ドルの補助金を受け取っている。この補助金によって、アフリカの綿花生産農家は価格競争を強いられ、生産と輸出を妨げられている。ただし Dunavant が活動しているのは旧イギリス植民地とモザンビークだけであり、旧フランス植民地では依然として植民地時代から受け継がれた固定価格を維持している[25]

主な生産国

生産量上位10カ国(2009)
(1梱あたり480ポンド
中華人民共和国 3250万梱
インド 2350万梱
アメリカ合衆国 1220万梱
パキスタン 960万梱
ブラジル 530万梱
ウズベキスタン 400万梱
トルコ 175万梱
オーストラリア 160万梱
トルクメニスタン 125万梱
シリア 100万梱
出典:[26]
木綿生産量(2005年)

2009年の輸出上位5カ国は、(1)アメリカ合衆国、(2)インド、(3)ウズベキスタン、(4)ブラジル、(5)パキスタンである。また全く生産していない主な輸入国は北朝鮮ロシア台湾香港である[26]

インドでは、熱帯の乾季雨季のある地方が主な木綿の産地となっており、マハーラーシュトラ州(26.63%)、グジャラート州(17.96%)、アーンドラ・プラデーシュ州(13.75%)、マディヤ・プラデーシュ州が中心となっている[27]

アメリカ合衆国ではテキサス州が主要生産地となっているが(2004年時点)[28]、単位面積当たりの収穫量はカリフォルニア州が最も大きい[29]

ウズベキスタンやトルクメニスタンは、旧ソビエト連邦時代に木綿自給化の一環として、木綿の農場が多数作られた。砂漠の緑化の成功例として、また社会主義の卓越性を示すものとして中央アジアの木綿農場は宣伝されたが、一方では農業生産が木綿に偏るモノカルチャー化をもたらし、アムダリヤシルダリヤなどの河川の水を過剰に使用し、下流のアラル海が干上がる一因となった。

日本では2011年まで栽培されておらず自給率は0%であったが、東日本大震災の津波により稲作が難しくなった宮城県の沿岸で栽培するプロジェクトが開始され、2017年時点で年間1.3トン程が生産されている[30]

公正取引

木綿は世界的に重要な商品の1つである。しかし、開発途上国の木綿は安く買い叩かれ、先進国と張り合うのは難しい状況である。

2002年9月27日、アメリカ合衆国がアメリカ栽培綿の生産業者や輸出業者に提供している補助金についてブラジルが世界貿易機関(WTO)に改善協議を申し出た[31]。2004年9月8日、WTOはアメリカ合衆国に対して補助金の段階的撤廃を勧告した[32]

補助金問題に加えて、一部の生産国では年少の労働者を雇用し、農薬に触れさせることで健康を損なっているという批判もなされている。Environmental Justice Foundation は世界有数の木綿輸出国であるウズベキスタンの綿生産における労働環境の改善を求めるキャンペーンを実施した[33]。このような状況から木綿製品の「公正取引」が広がりつつある。2005年に始まった公正取引システムには生産国としてカメルーンマリセネガルが参加している[34]

商品先物取引

木綿はアメリカ合衆国の2つの取引所で商品先物取引の対象として売買されている。取引期日はどちらの取引所も毎年3月、5月、7月、10月、12月となっている。


注釈

  1. ^ 西尾市天竹町(てんじく=天竺)と言われるが、『日本後紀』には三河国としか書いてない。
  2. ^ 現在のインドを指すとも考えられるが、真偽・詳細は不詳。「天竹神社」参照。

出典

  1. ^ サリー・フォックス女史”. ライフアファ. 2022年12月3日閲覧。
  2. ^ Sally Fox: サリーフォックス”. 大正紡績. 2022年12月3日閲覧。
  3. ^ a b c d e f Hiromi Kajiyama「ORGABITS! オーガニックコットンというROCKな思想」『GINZA (ギンザ)』2016年12月号、マガジンハウス、2016年、155頁。 
  4. ^ 平成 21 年度情報業務における「オーガニック・コットン表示ガイドライン策定に係る調査」 報告書” (PDF). 中小企業基盤整備機構. p. 3 (2010年2月). 2022年12月1日閲覧。
  5. ^ オーガニックコットンって何がいいの?メリット・デメリットとおすすめコットンインナー|キレイラボ - KIREILABO |グンゼ株式会社”. 2022年12月1日閲覧。
  6. ^ オーガニックコットンについて - 日本オーガニックコットン協会”. 2022年12月1日閲覧。
  7. ^ The Biology of Gossypium hirsutum L. and Gossypium barbadense L. (cotton)
  8. ^ Stein, Burton (1998). A History of India. Blackwell Publishing. ISBN 0631205462. page 47
  9. ^ Wisseman & Williams, page 127
  10. ^ The Columbia Encyclopedia, Sixth Edition. cotton.
  11. ^ "cotton". The Columbia Encyclopedia, Sixth Edition. 2001-07.
  12. ^ Encyclopaedia Islamica Foundation. بنیاد دائره المعارف اسلامی Archived 2009年6月30日, at the Wayback Machine., Retrieved on 28 February 2009; The original Persian text: تاریخچهٔ پنبه در ایران احتمالاً به دوران هخامنشیان بازمی گردد، اما دربارة کاشت پنبه پیش از دورة اسلامی ایران اطلاعات معتبر اندکی در دست است. ] به نوشتة مؤلف حدودالعالم (ح ۳۷۲)، در مرو، ری و ناحیة فارس کشت پنبه رواج داشته‌است (ص ۹۴، ۱۳۰، ۱۴۲). همچنین اشارات متعددی به پنبه در آثار شاعران، بویژه شاهنامة فردوسی (کتاب سوم، ج ۵، ص ۱۴۷۵ـ ۱۴۷۶، کتاب چهارم، ج ۶، ص ۱۹۹۹، ۲۰۰۴) وجود دارد. در قرن هفتم / سیزدهم، مارکوپولو به محصولات عمدة ایران از جمله پنبه اشاره می‌کند (ج ۱، ص ۸۴) [. ژان شاردن، جهانگرد مشهور فرانسوی در قرن یازدهم / هفدهم، که از ایران دورة صفویه بازدید کرده، وجود کشتزارهای وسیع پنبه را تأیید کرده‌است (ج ۲، ص ۷۱۲).
  13. ^ Fisher, F.B., 1932 That Strange Little Brown Man Gandhi, New York: Ray Long & Richard Smith, Inc., pp 154–156
  14. ^ a b 坂本勉『トルコ民族主義』(講談社現代新書、1996年)p.132
  15. ^ 坂本勉・鈴木董(編)『新書イスラームの世界史<3> イスラーム復興はなるか』(講談社現代新書、1993年)p.178
  16. ^ 坂本(1996)、pp.133-135.
  17. ^ 坂本・鈴木(1993)、p.182.
  18. ^ Stephen Yafa (2004). Cotton: The Biography of a Revolutionary Fiber. Penguin (Non-Classics). pp. 16. ISBN 0-14-303722-6 
  19. ^ Boletin Archived 2008年9月25日, at the Wayback Machine., (スペイン語) Retrieved July 17, 2008
  20. ^ 『日本後紀』巻八「桓武帝紀」。
  21. ^ 『類聚国史』百九十九殊俗の部。高楠順次郎「日本文明に於ける外来の原素」『心の花』第十一巻一号、竹柏会、1907年5月
  22. ^ Fiber History
  23. ^ Land, Power, and Poverty: Agrarian Transformation and Political Conflict, Charles D. Brockett, ISBN 0813386950, Google.com p. 46
  24. ^ Liese M. Perrin (2001). “Resisting Reproduction: Reconsidering Slave Contraception in the Old South”. Journal of American Studies (Cambridge University Press) 35: 255–274. doi:10.1017/S0021875801006612. http://www.jstor.org/stable/27556967. 
  25. ^ "Out of Africa: Cotton and Cash", article by Usain Bolt in the New York Times, 14 January 2007
  26. ^ a b National Cotton Council of America - Rankings
  27. ^ Three largest producing states of important crops” (PDF). 2008年4月6日閲覧。
  28. ^ Jasper Womach (2004). [http://www.nationalaglawcenter.org/assets/crs/RL32442.pdf “Cotton Production and Support in the United States”]. CRS Report for Congress. http://www.nationalaglawcenter.org/assets/crs/RL32442.pdf. 
  29. ^ Siebert, JB et al. (1996). “26”. Cotton production manual. ANR Publications. p. 366. ISBN 9781879906099. https://books.google.co.jp/books?id=TllcVXmnLlEC&pg=PA366&lpg=PA366&dq=&redir_esc=y&hl=ja 
  30. ^ <震災7年半>実れ 復興の綿花(上) 生産者/前例なき栽培に挑む河北新報
  31. ^ United States — Subsidies on Upland Cotton, World Trade Organization, accessed 2 October 2006
  32. ^ United States - Subsidies on Upland Cotton, World Trade Organization, accessed 2 October 2006
  33. ^ The Environmental Justice Foundation. "Environmental Justice Foundation: Reports on Cotton" retrieved February 22nd, 2010
  34. ^ Market: Cotton, UNCTAD, accessed 2 October 2006
  35. ^ Transportation Information Service of Germany, Gesamtverband der Deutschen Versicherungswirtschaft e.V. (GDV), Berlin, Transport Information Service (TIS) - Cargo, Packaging, Containers, Loss prevention, Marine insurance, 2002-2006
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