放射線健康リスク管理アドバイザー就任後
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「山下俊一」の記事における「放射線健康リスク管理アドバイザー就任後」の解説
2011年3月19日に福島県知事佐藤雄平の要請により、福島県放射線健康リスク管理アドバイザーに長崎大学の高村昇と共に就任。「市民との対話を繰り返して放射線の恐怖を取り除くこと」を主眼に、クライシス・コミュニケーションの立場から、福島県を中心に各地で放射線に関する市民講演会を行った。 3月19日には、福島県の災害対策本部を訪れ、報道陣に対し「放射能のリスクが正しく伝わっていないが、今のレベルならば、ヨウ素剤の投与は不要だ」と話した(読売新聞3月21日)。日本における安定ヨウ素剤の予防服用の指標は、予想される被曝量(甲状腺等価線量)100mSv(※WHO基準は10mSv)と定められている。今回の事故においても安全委員会は13日10時すぎに「(スクリーニングで)1万cpmを基準として除染及び安定ヨウ素剤の服用を実施すること」と手順を示したが、この指示は対策本部や現地には伝えられなかった。福島県知事には独自にヨウ素剤服用の指示をだせる権限はあったが、国からの指示を待ち、県としての独自対応はしなかった。双葉町、富岡町、大熊町、三春町の4町は現場判断で15日に服用を実施。いわき市と楢葉町、および浪江町民の避難所ではヨウ素剤の配布のみを行っていた。 3月24日に公開されたSPEEDI ではそれまでの被曝積算量(1歳児・甲状腺)100mSv以上を示す地域が飯舘村、川俣町、南相馬市をはじめとして広く描出されており、国会事故調査委員会は服用による予防策は十分ではなく、福島県知事に責任があったと結論づけている。朝日新聞の記事によれば、山下は3月23日のSPEEDIの結果を見て「ありゃー、と思いました」、「日本の原発にはヨウ素とかを取り除くフィルターとかがきちんと付いているものだと思っていた。まさかこんなに広範囲に汚染されているとは思わなかった」。さらに「60km離れた福島県立医大でヨウ素剤を飲む必要は無いと言った。しかし、当初避難した住民は国の指示でヨウ素剤を飲んでいたと思っていた。避難する必要する必要がある事態であれば服用すべきであった」としている。 2011年11月に出版された『放射能の真実 ―福島を第二のチェルノブイリにするな―』の山名元との対談で、山下は「甲状腺の等価線量で100ミリシーベルトとか200ミリシーベルトとか500ミリシーベルトといった値が、飯舘村から浪江町の辺りに理論的にあるわけです。あそこに2週間ずっといたという人たちがどのぐらいいるか」、「そういう人たち以外のリスクは極めてゼロに近いと思います」 という見解を語っている。 3月20日に山下の記者会見時における内容をとりまとめたとされる「環境放射能が人体に及ぼす影響等について」という文書が福島県から出される。同文書では「1時間当たり20マイクロシーベルトの放射線が降り注いだとして、人体に取り込まれる量は約1/10の1時間当たり2マイクロシーベルト以下か更に少ないと考えられます。2マイクロシーベルトを24時間受け続けたとしても約50マイクロシーベルトにしかなりません」とあるが、取り込まれる量の具体的な根拠について何も触れてはいない。20μSv/hrは空間線量率であり外部被曝の計算に用いられるものである。実際には原子炉事故の早期の段階でガス体となって飛散する放射性ヨウ素131の甲状腺への取り込みによる内部被曝を空間線量率から計算することは原理的に不可能である(空気中の放射性物質の濃度、Bq/m3のデータが必須である)であり、空間線量にそれらを総合して判断する必要がある このため、WHOはヨウ素剤の配布の基準は空間線量で100ミリシーベルトだが、子供などでは10ミリシーベルトの段階でも配布を考慮すべきとされている。 同日には高村とともにいわき市の平体育館で放射線の基礎知識についての説明や、参加者との質疑応答を行い、「福島における放射線による健康被害はない」ことを強調し、空間放射線量の数値などから「健康に影響はない」とし、「いわきを起点に復興に立ち上がろう」とメッセージを送った。 3月21日には前日と同様に高村が同行し、福島テルサで開かれた講演会で、「これから福島という名前は世界中に知れ渡ります。福島、福島、福島、何でも福島。これは凄いですよ。もう、広島・長崎は負けた。福島の名前の方が世界に冠たる響きを持ちます。ピンチはチャンス。最大のチャンスです。何もしないのに福島有名になっちゃったぞ。これを使わん手はない。何に使う。復興です」、「放射線の影響は、実はニコニコ笑ってる人には来ません。クヨクヨしてる人に来ます。これは明確な動物実験でわかっています。酒飲みの方が幸か不幸か、放射線の影響少ないんですね。決して飲めということではありませんよ。笑いが皆様方の放射線恐怖症を取り除きます」、「100マイクロシーベルト/hを超さなければ、全く健康に影響及ぼしません。ですから、もう5とか10とか20とかいうレベルで外に出ていいかどうかということは明確です。昨日もいわき市で答えられました(発言ママ)。『今、いわき市で外で遊んでいいですか』『どんどん遊んでいい』と答えました。福島も同じです。心配することはありません。是非、そのようにお伝えください」と発言した。 福島県の公式サイトでは3月22日付更新で「質疑応答の『100マイクロシーベルト/hを超さなければ健康に影響を及ぼさない』旨の発言は、『10マイクロシーベルト/hを超さなければ』の誤りであり、訂正し、お詫びを申し上げます。ご迷惑をおかけし、誠に申し訳ありません。」という訂正があるが、インターネットアーカイブの2011年4月30日UTC13:44:58時点ではその訂正がなく、福島県は日付改竄した可能性がある。 週刊東洋経済2012年6月30日号のインタビューで山下は講演について聞かれ、「事故直後、毎時10~20マイクロシーベルトという空間線量が各地で計測された。ただし、そのレベルではどんなに多めに見積もっても(がん発症が統計学的に有意に増加するとされる)100ミリシーベルトに達することはないことから、『心配しすぎなくていい』と申し上げたと語っている。 また、マスクについての質問に「これは花粉症に効くでしょう。放射性の物質をどれだけブロックするか、皆さん濡れタオルを口にあてたことがありますか?窒息しますね。そんなことを新聞は平気で書いていますね。これは気休めです。でも気休めを言わなくちゃいけないようになってるんです。基準がそう書いてあるから。だから、皆さん、マスクはやめましょう」と回答した。 4月1日に飯舘村で村議会議員と村職員を対象にした非公開のセミナーでは、「今の濃度であれば、放射能に汚染された水や食べものを1か月くらい食べたり、飲んだりしても健康には全く影響はありません」 と発言した。参加者の一人によれば、山下は「国の言うことは正確なんだから、あなたたちは国の言うことに従ってください。私は学者であり、私の言うことに間違いはないのだから、私の言うことをキチッと聞いていれば、何の心配もない」と語り、「大丈夫」「大丈夫」のオンパレードで、汚染実態を何も知らないまま講演に来たのかとさえ思ったという(山下本人によれば飯舘村の高い放射線量を知ったのは、3月24、25日)。 4月11日に飯舘村は計画的避難区域に指定されたが、山下はそれについて、「飯舘村の人たちは自分の意思をもう少し反映してもいいのではないかと思いました。20ミリシーベルトという基準で切ること自体を、許容するかどうか、地元のみなさんに決めていただくという考え方です。例えば、放射線の影響を受けにくい40歳以上の人なら、働き盛りで、帰って牛を育てたり、稲をつくったりするほうが、メリットが大きいわけです」という意見を述べている。 福島県外では3月22日には外国人記者クラブで記者会見を行った。また、福島民友新聞のインタビューに対し「影響があるのは100ミリシーベルト以上の放射線量を1回で受けた時で、将来、がんになる可能性が1万人に1人ぐらい増える」、その放射線量を「CTスキャンを1度に10回受けたときの放射線量に相当する。ただし、CTスキャンは医療に必要であり、CTスキャンが悪いというものではない」と述べた。一方で長崎新聞のインタビューには、放射性物質が30km圏外にも飛散しているとした3月23日の政府公表に対し「子どもや妊婦を中心に避難させるべきだ。ただし理論値であり、誤差を検証しなければならない」と答えている。 4月5日、東京で行われた日本財団主催による講演会で山下は、「福島第一原発の原子炉が今回の地震で損傷なく生き延び、日本の科学の粋をもって緊急炉心停止が行われたのは不幸中の幸い。今後大爆発は起こらないだろうし、炉心の中のくすぶりを抑えるため、いま懸命な努力がなされている。ただ、チェルノブイリの100分の1程度の放射性物質が環境中に放出されたと推測されるため、今後長期的なモニタリングと健康影響調査が必要だろう」と語った。 4月6日、官邸に助言を行う原子力災害専門家グループに招聘された。 5月1日、福島県立医大が開催した「健康管理調査スキームについての打ち合わせ」で、山下は「福島県は世界最大の実験場」と発言し、1ミリシーベルト以上の被ばくした人への生活補償や医療補償について言及していた。 5月3日に二本松市の講演で、「どのように対応すれば福島を崩壊させずにすむかということが私が最も腐心した点であり」、「福島の方々が、今、最大に晒されている危険は何かというと、この『風評被害』と『精神的なダメージ』であると語った。被曝量について、「100ミリシーベルト以下では明らかな発ガンリスクは起こりません」、「(癌のリスクは)わからない」としている。 5月27日には、福島県で約202万人の全県民を対象に、3月11日の事故以降の行動を調査することを決定し、福島県民健康管理調査検討委員会の会合が初めて開かれ、山下はその検討委座長に選ばれた。 6月23日長崎大の片峰茂学長は「福島県における放射線健康リスク管理活動について」と題するメッセージを発表した。片峰学長はメッセージで延べ100人以上の長崎大学の職員が福島県を訪れ、支援活動を展開していることを紹介し「専門家として福島の原発事故による健康影響について一貫して科学的に正しい発言をしている」と山下教授を擁護した。「放射線による健康リスクに関する議論は、さまざまな見解が流布され、ある意味で混乱の極みにある」とも述べた。山下教授は「私自身、やましいところは全くない。本当に間違っていて不必要であれば解任されているはず。広島も長崎も私を応援しない」「逃げる選択は決して悪くない。後ろめたい思いをすることもない。しかし自主避難は経済的問題も含めさまざまなリスクがある。覚悟が要る。避難には慎重になってほしい」と語った。 一連の講演会では、自分の判断で避難することはできるとしつつも、こどもを外で遊ばせていいかという質問に対し、「1時間当たりの空間線量が毎時10マイクロシーベルト以下であれば、外で遊ばせて大丈夫です。マスクをしなくても大丈夫。もちろん普段通りの通学も問題ありません。」と回答した。また同時期、週刊誌の対談で行政に対し「たとえ30キロ圏外でも、必要なら自主的にではなく、命令をもって避難させなければいけない」と言及している。 また、NPO法人チェルノブイリへのかけはし代表の野呂美加によれば、山下は「汚染されたものを食べても大丈夫」とテレビで発表した後にチェルノブイリで活動していたグループが山下に電話をしたところ、「立場上仕方がなかった」と答えている。 9月12‐13日には、日本財団の後援により、福島医大で放射線医学・防護の国際専門家会議『放射線と健康リスク』 が開催されたが、組織委員を務めた山下は、「世界の英知が福島県に集まって議論してメッセージを発したことで、不安払拭が期待できる。県民健康管理調査の方向性についても外部の目で評価され、正しさが確認できた」と評価した。 2012年3月1日に福島県立医科大学に国際連携部門が設立された時、山下は武見敬三に客員教授就任を依頼している 同月には朝日新聞長崎版のインタビューに応じ、健康調査について「健康調査は我々医療関係者の最大の責務だ。自ら選択して住み続ける人たちを見守っていかなければならない。今も200万人近くの人が大変な生活をし、風評被害に耐えている。その方たちに危険をあおって、福島から出て行けという方が無責任だ」と主張した。震災がれきの受け入れについても「乗り越えなければならないことだ。痛みを共有する、重荷を分かち合うという覚悟ができるかどうか」であると語った。 東日本大震災から1年後となる3月11日には、アラブ首長国連邦ドバイのハリファ大学で開催されたセミナーで学生、教授やスタッフを相手に福島第一原子力発電事故について語った。 2012年7月15日-21日に全国中学校理科教育研究会はウクライナ・ロシア視察を行い、NPO法人ネットジャーナリスト協会会長有馬朗人と共に山下も参加した。同行した一人によれば、山下はチェルノブイリ原子力発電所で「福島はこれが4つですからね・・・」と肩を落としていたという。 2016年12月18日に福島県郡山市で開催された放射線教育に関する国際シンポジウムの一般公開セッション「放射線の健康影響と学校教育」で山下は基調講演した。東京電力福島第一原発事故とチェルノブイリ原発事故で放出された放射線量は全く異なるとしながらも、住民に対する精神的、社会的、経済的な影響は同じとした。その上で、県民のストレス緩和に向けて「リスクコミュニケーションをしっかりやっていく。協力をお願いしたい」と呼び掛けた。
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