フィシオロゴス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/18 02:30 UTC 版)
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フィシオロゴス(ギリシア語 : Φυσιολόγος, ラテン語 : Physiologus)は、中世ヨーロッパで聖書と並んで広く読まれた教本である。表題の「フィシオロゴス」とは、ギリシア語で「自然を知る者、博物学者」と言う意味である。ヨーロッパでは、5世紀までに訳された、ラテン語版に従って「フィシオログス」(Physiologus)と呼ばれている。
さまざまな動物、植物、鉱物の容姿、習性、伝承が語られ、これに関連して宗教上、道徳上の教訓が、旧約聖書や新約聖書からの引用によって表現されている。とくにラテン語版は、のちに中世ヨーロッパで広く読まれる動物寓意譚(Bestiarium)の原型になったと言われる。
歴史
『フィシオロゴス』は、2世紀のアレクサンドリア、もしくは4世紀のカエサレアで名前不詳のキリスト教徒達が当時世間に流布していた口頭伝承を、ギリシア語で編み、刊行された。その意図は、さまざまな動物、植物、鉱物を象徴化、寓話化して、宗教的伝統の中に位置づけることによって、キリスト教世界の再構成を目的としていた。これらは初期のキリスト教徒達によって民衆に教義を親しみやすくするための寓話として使われた。
『フィシオロゴス』に編集されている動物説話の内容は、インド、ヘブライ、エジプトの動物伝承とアリストテレス(前384 – 322)の『動物誌』(前343年頃)やプリニウス(22 / 23 – 79)の『博物誌』(77年)のような著書から来ている。そこには実在のものだけではなく、ユニコーン、セイレーン、ケンタウロスなどの架空の生き物についての記述も含まれている。
その後、約1000年にわたって、ゲーズ語、コプト語、アルメニア語、シリア語、アラビア語、ラテン語、ロマンス語、ゲルマン語、アングロ・サクソン語、スラヴ語などに翻訳された。その内容は版ごとに変わっていき、中には原典をほとんど焼き直ししたようなものもみられる。9世紀カロリング朝時代のフィシオロゴスの写本には25点の彩色画が挿絵として添えられた。フィシオロゴスの報告は成立しつつあった中世の学問、博物学や地誌学によって引き継がれ、古代の著述家の情報と混同された。
寓話
『フィシオロゴス』には実在の動物だけではなく、架空の動物、樹木、鉱石を取り混ぜている。初期のキリスト教徒達はこれらを民衆に教義を親しみやすくさせるためのアレゴリーとして使用したといわれる。
内容

各章には、まず聖書の言葉が述べられ、その後にその生き物についての自然科学的な解説が続き、最後には道徳的な教えが述べられている。フィシオロゴスと呼ばれる人物が、説明や注釈を行っているが、作者自身が自分のことを3人称で呼んでいるのか、それともまた別の博物学者のことを言っているのかは不明である。異本によってはソロモン王の名がはっきり出ているものもある。
ギリシア語版フィシオロゴス
残存する最古のギリシア語版は10世紀に複写され、現在はニューヨーク、ピアポント・モルガン図書館蔵の「モルガン写本397」(10 – 11世紀、グロッタフェラータ修道院、イタリア)の中に収められている。この写本には挿絵がなく、挿絵のある最古のギリシア語版のスミュルナ古写本は1100年頃に作られ、1922年に焼失した。以下に様々なギリシア語版フィシオロゴスの双書の内容を示す。
- 第1章 ライオン
- 第2章 トカゲ
- 第3章 カラドリオス(病人の生死を見抜く幻鳥)
- 第4章 ペリカン
- 第5章 ミミズク
- 第6章 ワシ
- 第7章 フェニックス
- 第8章 ヤツガシラ
- 第9章 オナガー
- 第10章 ウィペラ(ドラゴンの一種)
- 第11章 ヘビ
- 第12章 アリ
- 第13章 オノケンタウロスとセイレン
- 第14章 ハリネズミ
- 第15章 キツネ
- 第16章 ヒョウ
- 第17章 アスピドケローネ(鯨または大亀に似た海の怪物)
- 第18章 ヤマウズラ
- 第19章 ハゲタカ
- 第20章 ミュルメコレオ(顔はライオンで、首から下はアリの怪物)
- 第21章 イタチ
- 第22章 モノケロス(ユニコーン)
- 第23章 ビーバー
- 第24章 ハイエナ
- 第25章 ワニとヒュドロス(四肢を持つヘビまたは無肢のヘビの怪物。ワニの腹を食い破る)
- 第26章 マングース
- 第27章 ハシボソガラス
- 第28章 キジバト
- 第29章 カエル
- 第30章 シカ
- 第31章 サラマンダー(火の中に棲むトカゲに似た怪物)
- 第32章 ダイヤモンド(牡ヤギの血によってのみ溶かせると言われていた)
- 第33章 ツバメ
- 第34章 両手利きの樹(インドの木の一つで、ハトを引き寄せ、ドラゴンを嫌がらせる。イチジク科のバニヤン樹だと言われている)
- 第35章
- a. ハト
- b. ハヤブサとハト
- c. ハト
- 第36章 アンテロープ
- 第37章 火打石
- 第38章 磁石
- 第39章 セラ(翼を持つ巨大な海の怪物。魚の尾、コウモリまたは鳥の翼、ライオンの頭を持つ)
- 第40章 トキ
- 第41章 ドルカス(シリアやアフリカに生息するドルカスガゼル(Gazella dorcas)だと言われる)
- 第42章 ダイヤモンド
- 第43章 ゾウ
- 第44章 瑪瑙と真珠
- 第45章 オナガーとサル
- 第46章 インド石
- 第47章 アオサギ
- 第48章 イチジク
- 第49章 カッコウ
- 第50章 ヒッポカンポス
- 第51章 グリフォン
- 第52章 クジャク
- 第53章 ミツバチ
- 第54章 コウノトリ
- 第55章 アスピス(コブラに似た音楽狂の小型のドラゴン。音楽が聞こえると、片方の耳を地面に押し当て、もう一方の耳には自らの尾を突っ込んで音楽が聞こえないようにするという)
- 第56章 キツツキ
- 第57章 ゴルゴン(蛇髪の三姉妹の怪物)
- 第58章 ノウサギ
- 第59章 オオカミ
- 第60章 ワニ
- 第61章 イノシシ
- 第62章 ダチョウ
- 第63章 オウム
- 第64章 キジ
ラテン語版フィシオロゴス
現存する最古のフィシオロゴスのテキストは、ラテン語である。以下に古くから存在する四つの異本とその内容を挙げる。
- フィシオロゴス(ラテン語版)Y版 (「ラテン語写本611」 8 – 9世紀、ベルン)
- ギリシア語の原本にほぼ近いが、用途から外れ、他の異本の影響をほとんど持たなかった。
- フィシオロゴス(ラテン語版)A版 (「王立図書館写本10074」より『フィシオログス』 11世紀、サン・ローラン、リエージュ、ベルギー王立図書館蔵、ブリュッセル)
- フィシオロゴス(ラテン語版)C版 (「ボンガルシアヌス古写本318」より『ベルン・フィシオログス』 825 – 850年、ランス、ベルン市立図書館蔵、ベルン)
- フィシオロゴス(ラテン語版)B版 (「ラテン語写本233」 8 – 9世紀、ベルン市立図書館蔵、ベルン)
フィシオロゴス(ラテン語版)Y版 (8-9世紀、ベルン) |
フィシオロゴス(ラテン語版)A版 (11世紀、サン・ローラン、リエージュ) |
フィシオロゴス(ラテン語版)C版 (825-850年、ランス) |
フィシオロゴス(ラテン語版)B版 (8-9世紀、ベルン) |
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第1章 ライオン | 第1章 ライオン | 第1章 ライオン | 第1章 ライオン |
第2章 アンテロープ | 第2章 アンテロープ | 第2章 トカゲ | 第2章 アンテロープ |
第3章 火打石 | 第3章 火打石 | 第3章 カラドリオス | 第3章 火打石 |
第4章 セラ | 第4章 セラ | 第4章 ペリカン | 第4章 セラ |
第5章 カラドリオス | 第5章 カラドリオス | 第5章 ミミズク | 第5章 カラドリオス |
第6章 ペリカン | 第6章 ペリカン | 第6章 ワシ | 第6章 ペリカン |
第7章 ミミズク | 第7章 ミミズク | 第7章 ヤツガシラ | 第7章 ミミズク |
第8章 ワシ | 第8章 ワシ | 第8章 ウィペラ | 第8章 ワシ |
第9章 フェニックス | 第9章 フェニックス | 第9章 ヘビ | 第9章 フェニックス |
第10章 ヤツガシラ | 第10章 アリ | 第10章 アリ | 第10章 ヤツガシラ |
第11章 オナガー | 第11章 セイレンとオノケンタウロス | 第11章 セイレンとオノケンタウロス | 第11章 アリ |
第12章 ウィペラ | 第12章 キツネ | 第12章 ハリネズミ | 第12章 セイレンとオノケンタウロス |
第13章 ヘビ | 第13章 ウニコルニス(ユニコーン) | 第13章 キツネ | 第13章 ハリネズミ |
第14章 アリ | 第14章 ビーバー | 第14章 ヒョウ | 第14章 トキ |
第15章 セイレンとオノケンタウロス | 第15章 ハイエナ | 第15章 アスピドケローネ | 第15章 キツネ |
第16章 ハリネズミ | 第16章 ドルカス | 第16章 ウニコルニス(ユニコーン) | 第16章 ウニコルニス(ユニコーン) |
第17章 トキ | 第17章 オナガー | 第17章 シカ | 第17章 ビーバー |
第18章 キツネ | 第18章 ヒュドロス | 第18章 サラマンダー | 第18章 ハイエナ |
第19章 両手利きの樹とハト | 第19章 サル | 第19章 両手利きの樹 | 第19章 ヒュドロス |
第20章 ゾウ | 第20章 ヤマウズラ | 第20章 アンテロープ | 第20章 ヤギ |
第21章 ドルカス | 第21章 ダチョウ | 第21章 セラ | 第21章 オナガーとサル |
第22章 瑪瑙 | 第22章 サラマンダー | 第22章 ゾウ | 第22章 アオサギ |
第23章 真珠 | 第23章 キジバト | 第23章 瑪瑙と真珠 | 第23章 ヒョウ |
第24章 ダイヤモンド | 第24章 ハト | 第24章 インド石 | 第24章 アスピドケローネ |
第25章 オナガーとサル | 第25章 ヤツガシラ | 第25章 雄鶏 | 第25章 ヤマウズラ |
第26章 インド石 | 第26章 オナガー | 第26章 ウマ | 第26章 イタチとマムシ |
第27章 アオサギ | 第27章 ウィペラ | 第27章 ダチョウ | |
第28章 イチジク | 第28章 ヘビ | 第28章 キジバト | |
第29章 ヒョウ | 第29章 ハリネズミ | 第29章 シカ | |
第30章 アスピドケローネ | 第30章 両手利きの樹 | 第30章 サラマンダー | |
第31章 ヤマウズラ | 第31章 ゾウ | 第31章 ハト | |
第32章 ハゲタカ | 第32章 瑪瑙と真珠 | 第32章 両手利きの樹 | |
第33章 ミュルメコレオ | 第33章 ダイヤモンド | 第33章 ゾウ | |
第34章 イタチ | 第34章 インド石 | 第34章 ダイヤモンド | |
第35章 モノケロス(ユニコーン) | 第35章 アオサギ | 第35章 ダイヤモンド | |
第36章 ビーバー | 第36章 ヒョウ | 第36章 真珠 | |
第37章 ハイエナ | 第37章 トカゲ | ||
第38章 ヒュドロス | |||
第39章 マングース | |||
第40章 ハシボソガラス | |||
第41章 キジバト | |||
第42章 ツバメ | |||
第43章 シカ | |||
第44章 カエル | |||
第45章 サラマンダー | |||
第46章 磁石 | |||
第47章 ダイヤモンド | |||
第48章 ハト | |||
第49章 トカゲ |
脚注
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この節の加筆が望まれています。
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参考文献
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出典は列挙するだけでなく、脚注などを用いてどの記述の情報源であるかを明記してください。
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- ゼール, オットー 編『フィシオログス』梶田昭訳、博品社、1994年6月。ISBN 978-4-938706-13-5。
- 松平俊久『図説ヨーロッパ怪物文化誌事典』蔵持不三也監修、原書房、2005年3月。 ISBN 978-4-562-03870-1。
関連項目
外部リンク
フィシオロゴス
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ユニコーンのヨーロッパ伝承の三つ目の経路は、初期のキリスト教徒達の教本となった『フィシオロゴス』(Φυσιολόγος, 「自然を知る者、博物学者」)と呼ばれる博物誌である。この書は、動物(空想上の動物を含む)、植物、鉱物を紹介して宗教上、道徳上の教訓が、『旧約聖書』、『新約聖書』からの引用によって表現されているものであり、のちの中世ヨーロッパで広く読まれる『動物寓意譚』の原典になったと言われるものである。原本はギリシア語で書かれ、各章には、まず聖書の言葉が述べられ、その後にその生き物についての自然科学的な解説が続き、最後には道徳的な教えが述べられている。その第22章では以下のように書かれている。 詩篇作家(ダヴィデ)は言う。「主は私の角をモノケロース(一角獣)の角のように高く上げられる(『詩篇』第92章第10節)」と。フィシオロゴス(博物学者)はモノケロースが次のような性質を持つと言う。モノケロースは小さな獣で雄ヤギぐらいだが、途方もない勇気の持ち主であり、非常に力強いため、狩人も近づくことができない。それは頭の真ん中に一本の角を持っている。 さてどうしたらこれを捕まえられるだろうか。美しく装った汚れのない処女を近くに連れて来ると、それは彼女の膝に飛び乗って来る。そこで彼女はそれを飼い馴らし、王たちの宮殿へ連れて行くのである。 この生き物は、わが救世主の姿に引き写すことができる。なぜか。私達の父の角がダヴィデの家から蘇り、救いの角となられた(『ルカによる福音書』第1章第69節)。天使の力ずくでは、彼を打ち負かすことはできなかった(『ペテロの手紙一』第3章第22節)。彼は真実かつ純潔な処女マリアの胎内に宿った(キリストの受肉)。言葉は肉となり、私達の内に宿ったのである(『ヨハネによる福音書』第1章第14節)。--『フィシオロゴス』第22章 『フィシオロゴス』に載っているユニコーンの姿は古典文学の作家達が言うようなものと全く異なり、ウマでもロバでもなく、メガステネスの言うゾウの肢も持っていない。さらに、ユニコーンは処女によってのみ捕まえることができるという伝説も生まれた。この伝説の起源は、紀元前2000年頃に古代オリエントで成立したと言われる『ギルガメシュ叙事詩』にあると考えられている。ここに出て来る半獣半人のエンキドゥには一本の角は生えていないが、物語の構造は処女がユニコーンを誘惑する話とよく似ている。エンキドゥは、ウルクの王ギルガメシュの暴虐を鎮めるために神々の命により、女神アヌンナキによって土から作られた。しかし作られたばかりのエンキドゥは、獣たちとともに暮らしてばかりいたため、宮仕えの遊女、つまり神聖娼婦が派遣され、彼を誘惑し、六日と七晩の間交わい合い、獣達から引き離し、本来の目的地、王都ウルクへと連れていく。そこでギルガメシュとエンキドゥは激しく戦うが、やがて和解し両者は盟友となる。 この形式の神話はその後、インドへと伝わり、変形され、4世紀のサンスクリット文学の『マハーバーラタ』第3巻第110 – 113章に出て来るリシュヤシュリンガ(ऋष्यशृंग, 「鹿の角を持つ者」)の説話の形式をとる。梵仙(カーシャパ)ヴィヴァーンダカが湖畔で修行をしていると天女ウルヴァシーが舞い降りて来た。ヴィヴァーンダカは彼女の美しさに見とれて思わず精を漏らしてしまった。ところがそばで水を飲んでいた牝鹿がこれを一緒に飲み込んでしまい、やがて一人の息子を生んだ。この息子は人間の姿をしていたが、額の中央に一本の角が生えていた。それゆえ彼は「リシュヤシュリンガ」(鹿角仙人)と呼ばれた。彼は父の他は人間を目にすることなく、修行を積んだ。さてこの頃、アンガ国は12年間に及ぶ大旱魃に苦しんでいた。ある時アンガ国王ローマパーダの夢枕にインドラ神が立ち、リシュヤシュリンガを王都に連れて来れば旱魃は止むであろうと告げる。そこで王は大仙のもとへ遊女(または王女)を派遣する。女性達は父以外の人間を見たことのないリシュヤシュリンガをまんまと誘惑し、王都に連れて来る。大仙が王都に足を踏み入れるや大雨が降り、旱魃は解消する。このリシュヤシュリンガの遊女による誘惑と災厄の解消が西へ伝わり、ユニコーンの処女による捕獲、角による解毒と形を変え、『フィシオロゴス』からヨーロッパに伝わっていった。 聖バシリウス(330頃 – 379)が書いたと言われている後代の『フィシオロゴス』には、『詩篇』第22章第21節の中でダヴィデがユニコーンからの魂の救いを祈っている詩篇について次のように述べている。「一角獣は人間に対して悪意を抱いている。一角獣は人間を追いかけ、人間に追いつくや、その角で人間を突き刺し、食べてしまうのである……よいか、人間よ、汝は一角獣から、すなわち悪魔から身を守らねばならぬ。なぜなら、悪魔は人間に悪意を持ち、人間に邪悪なることをなすためにこそ送られて来たのだから。昼も夜も悪魔はうろつきまわり、その詭弁で人間を貫き通しては、神の掟から人間を引き離すのだ」このようにユニコーンは救世主の象徴であると同時にその敵対者の悪魔の象徴でもあった。中世ではこのような「両義性」というのは珍しいことではなかった。バシリウスの『フィシオロゴス』にはゾウとユニコーンの友情の話も載っている。「ゾウには関節がないので、木に寄り掛かって眠る習性を持つ。そこで狩人達がその木に切り込みを入れておくと、ゾウは大きなうなり声をあげながら木とともにひっくり返る(カエサルの著作『ガリア戦記』第6巻第27節では関節のないヘラジカが同じように狩られる)。隠れていた場所から狩人達が急ぎやって来て、無防備に横たわるゾウの顎から象牙を引っこ抜き、急いで逃げてしまう。それは狩人達がユニコーンに急襲され、その餌食とならないようにするためである。しかしユニコーンの到着が間に合えば、ユニコーンは倒れたゾウの傍らにひざまずき、その体の下に角を差し入れ、ゾウを立たせるのである」ここでもまたユニコーンは救世主の象徴となっている。つまり「われらが主イエス・キリストは王者の角として表されている。われらすべての者の王は人間が倒れているのを、そしてその人間が慈悲に値するのをご覧になると、そこへやって来られ、その者を抱き起こすのである」この『フィシオロゴス』はアレゴリーに重点を置きユニコーン自体ではなく、その性質からたとえられている。「ユニコーンは良き性質と悪しき性質を持っている。良き性質はキリストおよび聖人にたとえられ、悪しき性質は悪魔や悪しき人間にたとえられる」 ユニコーンに関する話を載せた『フィシオロゴス』の断片はもう一つある。「ある地方に大きな湖があって、野の獣達が水を飲もうと集まる。しかし動物達が集まる前に、ヘビが這い寄って来て、水に毒を吐く。動物達は毒を感じると、もう飲もうとしない。彼らはユニコーンを待っているのである。そしてそれはやって来る。ユニコーンはまっすぐ水の中まで入る。そうして角で十字を切ると、もう毒の力は消え失せて、彼は水を飲む。他の動物達もみんな飲む」ギリシア人達がインドから聞き伝えた角の解毒作用が再び登場している。
※この「フィシオロゴス」の解説は、「ユニコーン」の解説の一部です。
「フィシオロゴス」を含む「ユニコーン」の記事については、「ユニコーン」の概要を参照ください。
- フィシオロゴスのページへのリンク