国家 法学上の定義

国家

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/12 23:41 UTC 版)

法学上の定義

法学政治学においては、以下の「国家の三要素」を持つものを「国家」とする。これは、ドイツの法学者・国家学者であるゲオルク・イェリネックの学説に基づくものであるが、今日では、一般に国際法上の「国家」の承認要件として認められている。

国家の三要素

  • 領域(Staatsgebiet:領土、領水、領空)- 一定に区画されている。
  • 人民(Staatsvolk:国民、住民)- 恒久的に属し、一時の好悪で脱したり復したりはしない。
  • 権力(Staatsgewalt)ないし主権- 正統な物理的実力のことである。この実力は、対外的・対内的に排他的に行使できなければならない、つまり、主権的(souverän)でなければならない。

この三つが三要素とされる[10]。モデルにおいては、国家とは、権力が領域と人民を内外の干渉を許さず統治する存在であると捉えられているのである。領域に対する権力を領土高権(Gebietshoheit)、人民に対する権力を対人高権(Personalhoheit)という。国際法上、これらの三要素を有するものは国家として認められるが、満たさないものは国家として認められない。この場合、認めるか認めないかを実際に判断するのは他の国家なので、他国からの承認を第四の要素に挙げる場合もある[11]モンテビデオ条約の項目および国家の資格要件も参照のこと)。

国家の資格要件

国際法国家と言えるか否かについて、モンテビデオ条約第1条には以下のように定められた[12]

日本語訳:国際法上の人格としての国はその要件として、(a)永続的住民、(b)明確な領域、(c)政府、及び、(d)他国と関係を取り結ぶ能力を備えなければならない[13]
英語原文:The state as a person of international law should possess the following qualifications: a ) a permanent population; b ) a defined territory; c ) government; and d) capacity to enter into relations with the other states.[14] — モンテビデオ条約第1条

実際には、この条件を完全には満たさない国家もいくつか存在している。例えば、モナコは長らくフランスの保護下にあり、2005年のフランス・モナコ友好協力条約によって制限が緩和されるまで、外交にはフランスの承認が必要だった。また条約改定後も、モナコの防衛はフランスの責任となっている[15]。また、自由連合の形態を取る国家では、防衛権など主権の一部を他国に委ねることになっている。このため、自由連合は独立国家と非独立状態の中間的な形態と見なされており[16]、とくに外交権を委任しているニュージーランドの自由連合を国家承認する国家は少ない[17]。アメリカはミクロネシア連邦マーシャル諸島パラオの3カ国と個別に自由連合盟約を結んでおり、これらの国から防衛権を委ねられている[18][19][20]。同様に、ニュージーランドクック諸島およびニウエと自由連合条約を締結しており、防衛権および一部外交権を委任されている[21][22]

また、国家の承認はすべての国家間において行われるわけではなく、何らかの理由によって、他国で広く承認されている国家を国家承認しない場合もあり得る。日本の場合、1965年の日韓基本条約第3条において大韓民国朝鮮半島における唯一の合法的政府と定めている[23]ため、半島北半部にある朝鮮民主主義人民共和国の国家承認を行っていない[24]

このほかにも最初の3つの条件を満たすのにもかかわらず、他国からの承認がまったく、もしくはわずかしか得られない国家もいくつか存在する。中華民国は国家の三要素を完全に満たしているが、「一つの中国」の原則をめぐって中華人民共和国と激しく対立しており、中華人民共和国側が中華民国の承認に対し圧力をかけているため、2020年時点で中華民国を承認している国家はわずか15カ国にすぎない[25]。また、2008年にセルビアから独立を一方的に宣言したコソボについては国家承認をめぐって国際世論が真っ二つに割れ、2020年9月時点では日本を含む100カ国が国家承認を行っている一方[26]、セルビアやロシア、中国など残りの約90カ国はこれを認めていない[27]。こうした国家は未承認国家と呼ばれ、旧ソヴィエト連邦地域に多いものの、世界中に点在している[28]

現代的な基準外の国家

要件を満たさない支配機構や政治共同体も存在しうる。国家は近代の歴史的産物(近代国家も参照)であり、それ以前には存在しなかった。例えば前近代社会において、しばしば多くの国家が多様な自治的組織を持つ多種多様な人間集団、すなわち社団の複合体として成立し、中央政府機構はこれら社団に特権を付与することで階層秩序を維持していた。こうした国家体制を社団国家と称し、日本幕藩体制フランスアンシャン・レジームが典型例として挙げられる。例えば、幕藩体制において公家の団体である朝廷とその首長の天皇幕府の首長に征夷大将軍の官位を与えることで権威を保証し、幕府は大名旗本の領国経営組織という武士の団体に主従制に基づく特権を付与して臣従と忠誠を求め、幕府や大名領国のような領主権力は百姓の団体である惣村町人の団体である(ちょう)に身分特権と自治権を付与することで民政を行っていた。そこには如何なる排他的な主権者も見出すことはできない。

こうした社団国家においては個々の社団が中央政府機構からの離脱や復帰を行う現象が見られ、また江戸時代琉球王国が日本と中華帝国もしくは)に両属の態度をとっていたように国民の固定化は不完全であった。当然、社団の離脱、復帰に伴い領域も変動しえた。

さらに権力に関しても、幕藩体制における各が独自の軍事機構を持ち、幕府の藩内内政への干渉権が大幅に制限されていたように、決して主権的ではなかった。

現代社会において近代国家の表看板を掲げていても、アフガニスタンのように内部の実情は複数の自立的共同体が必ずしも国家機構の主権下に服さずに国家体制の構成要素となっている国家は存続している。今日の国際関係は、近代的主権国家間の関係を前提として成立しており、こうした国家の存在は様々な紛争の火種を内包している。さらに、この問題は同時に、近代的主権国家の歴史的な特殊性の問題点を投げかけているともいえる。

連邦国家の構成国家

上述の「基準外の国家」と似て非なるものとして、連邦国家を構成する国家がある。たとえば、アラブ首長国連邦は、アブダビドバイシャールジャアジュマーンウンム・アル=カイワインフジャイララアス・アル=ハイマの7ヶ国から構成されている。こうした場合には、構成国家はそれぞれ主権と領域と国民を有する独立国家であるが、国家同士の自由意志による契約にもとづいて主権の一部を互いに委譲または委託して連邦政府を組織する、という形式をとる[29]。したがって、形式上では、連邦構成国はその意志によって主権を取り戻して連邦を離脱する権利を留保していることになる。しかし、多くの連邦国家においては連邦政府が強大な権限を有するようになって連邦が形骸化し、構成国は実質的には離脱の自由を持たない、というのが実態である。かつてこうした緩やかな国家連合的な形態で発足したアメリカスイスにおいても、スイスでは1847年分離同盟戦争[30]、アメリカでは1861年から1865年にかけての南北戦争でそれぞれ中央集権派が勝利して州の権利が制限され、単一の国家へと移行していった。

ただし、連邦国家において州の権利は一般的に強く、また政治的にもすでにまとまった政治単位として存在しているため、中央政府の統制がなんらかの理由で弱まった場合は、実際に州が連邦から離脱することもあり得る[31]1991年にはソビエト連邦を構成する12の連邦構成共和国が連邦からの離脱を表明し、構成国の存在しなくなったソビエト連邦は崩壊することとなった。また、同じく1991年にはユーゴスラビア構成国のうちスロベニアクロアチアが連邦離脱を表明し、ほかの構成国も追随したものの、セルビアを中心とするユーゴスラビア政府はこれを認めず、長期にわたるユーゴスラビア紛争が勃発した[32]




  1. ^ ここでの諸特徴はAndrew Heywood.(2002)Politcs(2nd ed.)(N.Y.: Palgrave Macmillan)の国家の項目における87-88項を参照している。
  2. ^ 「文化人類学キーワード」p174 山下晋司・船曳建夫編 有斐閣 1997年9月30日初版第1刷
  3. ^ 「都市の起源 古代の先進地域西アジアを掘る」p20-22 小泉龍人 講談社 2016年3月10日第1刷発行
  4. ^ 「文明の誕生」p4 小林登志子 中公新書 2015年6月25日発行
  5. ^ 「国際平和論」p2 福富満久 岩波書店 2014年9月26日第1刷発行
  6. ^ 「現代人の社会学・入門 グローバル化時代の生活世界」p266 西原和久・油井清光編 有斐閣 2010年12月20日初版第1刷発行
  7. ^ 「現代国際法講義 第5版」p176 杉原高嶺・水上千之・臼杵知史・吉井淳・加藤信行・高田映 著 有斐閣 平成24年6月10日第5版第1刷発行
  8. ^ 「新書アフリカ史」第8版(宮本正興・松田素二編)、2003年2月20日(講談社現代新書)p494-498
  9. ^ 「ナショナリズム 1890-1940」 p111-112 オリヴァー・ジマー 福井憲彦訳 岩波書店 2009年8月27日第1刷
  10. ^ 国家(こっか)の意味”. goo国語辞書. 2020年11月5日閲覧。
  11. ^ 「現代人の社会学・入門 グローバル化時代の生活世界」p268-269 西原和久・油井清光編 有斐閣 2010年12月20日初版第1刷発行
  12. ^ 戸田(2016)、23-24頁。
  13. ^ 戸田(2016)、23頁、24頁におけるモンテビデオ条約第1条日本語訳を引用。
  14. ^ s:en:Montevideo Convention#Article 1
  15. ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/monaco/data.html 「モナコ基礎データ」日本国外務省 令和2年9月3日 2021年5月12日閲覧
  16. ^ https://imidas.jp/genre/detail/D-115-0030.html 「自由連合(オセアニア) Compact of Free Association」Imidas 2011/02 2021年5月12日閲覧
  17. ^ https://www.ninomiyashoten.co.jp/atlas_news/cook_islands 「クック諸島を日本が国家承認」二宮書店 2011年3月26日 2021年5月12日閲覧
  18. ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/micronesia/data.html 「ミクロネシア基礎データ」日本国外務省 令和2年7月17日 2021年5月12日閲覧
  19. ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/marshall/data.html#section1 「マーシャル基礎データ」日本国外務省 令和2年7月17日 2021年5月12日閲覧
  20. ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/palau/data.html 「パラオ基礎データ」日本国外務省 令和3年2月10日 2021年5月12日閲覧
  21. ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/cook/data.html 「クック諸島基礎データ」日本国外務省 令和3年2月10日 2021年5月12日閲覧
  22. ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/niue/data.html 「ニウエ基礎データ」日本国外務省 令和3年2月10日 2021年5月12日閲覧
  23. ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/A-S40-237.pdf 「日韓基本条約」日本国外務省 2021年5月13日閲覧
  24. ^ https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b164322.htm 「衆議院議員鈴木宗男君提出朝鮮民主主義人民共和国を巡る国家承認、政府承認に関する再質問に対する答弁書」日本国衆議院 2021年5月12日閲覧
  25. ^ https://www.nhk.or.jp/kokusaihoudou/bs22/special/2019/12/1225.html 「台湾ってどうして国じゃないの?」国際報道2020 NHK BS1 2021年5月13日閲覧
  26. ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/kosovo/data.html 「コソボ基礎データ」日本国外務省 令和3年4月5日 2021年5月13日閲覧
  27. ^ https://www2.jiia.or.jp/RESR/column_page.php?id=154 「コソボ独立宣言とその影響」小窪千早 公益財団法人日本国際問題研究所 2008-03-13 2021年5月13日閲覧
  28. ^ https://wedge.ismedia.jp/articles/-/4710 「なぜ「未承認国家」は生まれるのか 不安定化する世界を読み解く」WEDGE Infinity 2015年2月13日 2021年5月13日閲覧
  29. ^ 「現代政治学 第3版」p176 加茂利男・大西仁・石田徹・伊東恭彦著 有斐閣 2007年9月30日第3版第1刷
  30. ^ 森田安一『物語 スイスの歴史』中公新書 p182-187 2000年7月25日発行
  31. ^ 塩川伸明 『民族とネイション - ナショナリズムという難問』p156-158 岩波新書、2008年 ISBN 9784004311560
  32. ^ 塩川伸明 『民族とネイション - ナショナリズムという難問』p156-158 岩波新書、2008年 ISBN 9784004311560
  33. ^ 「現代人の社会学・入門 グローバル化時代の生活世界」p267 西原和久・油井清光編 有斐閣 2010年12月20日初版第1刷発行
  34. ^ 「第三版 政治学入門」p120-121 加藤秀治郎 芦書房 2011年4月15日第3版第1刷
  35. ^ 「第三版 政治学入門」p120-121 加藤秀治郎 芦書房 2011年4月15日第3版第1刷
  36. ^ 「増補 スタンダード政治学」p238-239 加藤秀治郎・中村昭雄 芦書房 1994年4月15日増補改訂版第3刷
  37. ^ 「国家の破綻」p22-23 武内進一 (「平和構築・入門」所収 藤原帰一・大芝亮・山田哲也編著 有斐閣 2011年12月10日初版第1刷)






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