国家 国家の概要

国家

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/12 23:41 UTC 版)

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領域人民に対して、排他的な統治権を有する(生殺与奪の権利を独占する)政治団体もしくは政治的共同体である。

政府機能により異なる利害を調整し、社会の秩序と安定を維持していくことを目的にし社会の組織化をする。

またその地域の住民は国家組織から「国民こくみん」あるいは「公民こうみん」と定義される。

概論

国家という用語は古来特定の政治集団を表す用語として使用されてきたものであり、その語源は複雑である。漢語においては諸侯が治める卿大夫が治める家との総称であり、特定の境界を持つ支配地・支配民を意味していた。その対義語は、いかなる限定もされない支配地と支配民、つまり天下である。古代日本では律令制の用語法としての国家は天皇を意味しており、そのため国家を「ミカド」と訓ずることもあった。西欧においてはプラトンの著作『国家』の原書である: Πολιτεία(politeia)を国家と翻訳する場合もある。また: res publica: commonwealthなども広い意味において国家と訳される場合がある。直訳として国家に該当する言葉のStateの語源: status(スタトゥス)である。: statoは「状態」を意味するが、フィレンツェの政治思想家ニッコロ・マキャヴェッリによって: lo stato「かかる(その)状態」を「現在の支配体制」という意味に転用した。彼は『君主論』で「政治共同体がはじめにあり、次いでそれに対応した支配機構が作られる」というそれまでの政治思想の想定を近世ヨーロッパの現実に即して逆転させ、「まず支配機構たる国家(stato)があり、それが各々の力に応じて土地と人民を領有する」というモデルを提示した。政治共同体の要素をそぎ落として把握した支配機構がマキャヴェッリのいう: statoであった。

国家は政治制度の集合体、領土の単位、哲学的な理念、弾圧や圧政の手段など多様な文脈で論じられる対象である。このような意味の混合は国家をどのように捉えるかという着眼点においてさまざまな立場を採りうることが原因である。例えば倫理的、機能的、そして組織的な観点を置くことができる。哲学者ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲルの国家理論では倫理的な観点から国家を論じており、家族市民社会、そして国家に大別している。そして家族は限定的な利他主義、市民社会は普遍的な利己主義、そして国家を普遍的な利他主義の領域であると位置づけていた。つまり国家は家族のような利他性を備えていながらも市民社会の普遍性を持った社会的な存在として考えられるのである。機能の観点から見れば、国家は社会に対して担う役割から捉えることができる。国家の中心的な機能とは社会秩序を継続的に維持することであり、社会的安定を担保することである。例えばマルクス主義は国内の資本主義のシステムを長期的に存続させる国家の機能性を強調している。組織的な観点に転じれば、国家とは広義において政府の組織であり、市民社会とは区別される公的制度である。つまり政府、議会官僚軍隊警察裁判所社会保障体制などさまざまな制度から成立している組織として国家は概念化することができる。

さらに国家の諸々の側面について観察するならば、国家にはいくつかの特徴があることが指摘できる[1]。まず国家とは主権を備えており、それは社会における全ての集団よりも上位に位置する絶対的権力として行使されるものであり、その表現として政治思想家のトマス・ホッブズは著作で国家を海の怪物であるリヴァイアサンとして示している。また国家は公的な組織であり、私的な利益を確保しようとする家族や会社などから構成される市民社会から区別されるべき存在である。そして国家とは正当化の一つの実践であり、議会が社会の利害を反映する限りにおいて国家の決断は社会成員の合意として基本的に受け入れられる。さらに国家は支配の道具であり、社会学者マックス・ウェーバーが国家は「正当化された暴力」を独占していると指摘したように、法に従わせることを確実なものとする能力を持たなければならない。最後に国家は領土的な集団でなければならず、国家は国境によって地理的に区別されることで、国際社会において国家として承認される。

歴史

人類社会は、資源に伴い離合集散を行う狩猟採集民のバンド社会からいくつかの段階を経て社会を複雑化させていき、やがて国家が成立する段階に達すると考えられている[2]。人類史上最古の国家がいつ成立したか正確には判明していないが、集約的な農耕による集住が進んでいた古代メソポタミアにおいて、紀元前3300年頃にはウルク市が完全に都市としての実体を備え、都市国家化したと考えられている[3]。その後都市は周辺のメソポタミア南部各地に成立し、紀元前2900年頃からは各地にシュメール人の都市国家が分立して抗争を繰り返すようになった[4]。その後も、19世紀の帝国主義時代に列強諸国によって世界分割が行われるまでは、世界各地に国家に所属していない社会や土地が存在していた。

現代のような主権国家体制が成立したのは近世のヨーロッパであり、三十年戦争の講和条約として1648年に締結されたウェストファリア条約によって、各主権国家が自らの領域内にたいして排他的に公権力を行使し、各国の主権は相互に不可侵であることが確認され、ウェストファリア体制と呼ばれる世界秩序が確立した[5]。次いで、民族と主権国家とが結合して国民国家が出現した。国民国家体制は17世紀頃にヨーロッパにおいて出現したと考えられており、19世紀の帝国主義時代を経て、第二次世界大戦後に旧植民地諸国が次々に独立することで全世界に広まった[6]。20世紀後半以降は、1961年に発効した南極条約によって領土権を凍結された南緯60度以南の南極大陸およびその属島[7]を除く、地球上のすべての陸地がいずれかの主権国家によって領有されている。




  1. ^ ここでの諸特徴はAndrew Heywood.(2002)Politcs(2nd ed.)(N.Y.: Palgrave Macmillan)の国家の項目における87-88項を参照している。
  2. ^ 「文化人類学キーワード」p174 山下晋司・船曳建夫編 有斐閣 1997年9月30日初版第1刷
  3. ^ 「都市の起源 古代の先進地域西アジアを掘る」p20-22 小泉龍人 講談社 2016年3月10日第1刷発行
  4. ^ 「文明の誕生」p4 小林登志子 中公新書 2015年6月25日発行
  5. ^ 「国際平和論」p2 福富満久 岩波書店 2014年9月26日第1刷発行
  6. ^ 「現代人の社会学・入門 グローバル化時代の生活世界」p266 西原和久・油井清光編 有斐閣 2010年12月20日初版第1刷発行
  7. ^ 「現代国際法講義 第5版」p176 杉原高嶺・水上千之・臼杵知史・吉井淳・加藤信行・高田映 著 有斐閣 平成24年6月10日第5版第1刷発行
  8. ^ 「新書アフリカ史」第8版(宮本正興・松田素二編)、2003年2月20日(講談社現代新書)p494-498
  9. ^ 「ナショナリズム 1890-1940」 p111-112 オリヴァー・ジマー 福井憲彦訳 岩波書店 2009年8月27日第1刷
  10. ^ 国家(こっか)の意味”. goo国語辞書. 2020年11月5日閲覧。
  11. ^ 「現代人の社会学・入門 グローバル化時代の生活世界」p268-269 西原和久・油井清光編 有斐閣 2010年12月20日初版第1刷発行
  12. ^ 戸田(2016)、23-24頁。
  13. ^ 戸田(2016)、23頁、24頁におけるモンテビデオ条約第1条日本語訳を引用。
  14. ^ s:en:Montevideo Convention#Article 1
  15. ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/monaco/data.html 「モナコ基礎データ」日本国外務省 令和2年9月3日 2021年5月12日閲覧
  16. ^ https://imidas.jp/genre/detail/D-115-0030.html 「自由連合(オセアニア) Compact of Free Association」Imidas 2011/02 2021年5月12日閲覧
  17. ^ https://www.ninomiyashoten.co.jp/atlas_news/cook_islands 「クック諸島を日本が国家承認」二宮書店 2011年3月26日 2021年5月12日閲覧
  18. ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/micronesia/data.html 「ミクロネシア基礎データ」日本国外務省 令和2年7月17日 2021年5月12日閲覧
  19. ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/marshall/data.html#section1 「マーシャル基礎データ」日本国外務省 令和2年7月17日 2021年5月12日閲覧
  20. ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/palau/data.html 「パラオ基礎データ」日本国外務省 令和3年2月10日 2021年5月12日閲覧
  21. ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/cook/data.html 「クック諸島基礎データ」日本国外務省 令和3年2月10日 2021年5月12日閲覧
  22. ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/niue/data.html 「ニウエ基礎データ」日本国外務省 令和3年2月10日 2021年5月12日閲覧
  23. ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/A-S40-237.pdf 「日韓基本条約」日本国外務省 2021年5月13日閲覧
  24. ^ https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b164322.htm 「衆議院議員鈴木宗男君提出朝鮮民主主義人民共和国を巡る国家承認、政府承認に関する再質問に対する答弁書」日本国衆議院 2021年5月12日閲覧
  25. ^ https://www.nhk.or.jp/kokusaihoudou/bs22/special/2019/12/1225.html 「台湾ってどうして国じゃないの?」国際報道2020 NHK BS1 2021年5月13日閲覧
  26. ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/kosovo/data.html 「コソボ基礎データ」日本国外務省 令和3年4月5日 2021年5月13日閲覧
  27. ^ https://www2.jiia.or.jp/RESR/column_page.php?id=154 「コソボ独立宣言とその影響」小窪千早 公益財団法人日本国際問題研究所 2008-03-13 2021年5月13日閲覧
  28. ^ https://wedge.ismedia.jp/articles/-/4710 「なぜ「未承認国家」は生まれるのか 不安定化する世界を読み解く」WEDGE Infinity 2015年2月13日 2021年5月13日閲覧
  29. ^ 「現代政治学 第3版」p176 加茂利男・大西仁・石田徹・伊東恭彦著 有斐閣 2007年9月30日第3版第1刷
  30. ^ 森田安一『物語 スイスの歴史』中公新書 p182-187 2000年7月25日発行
  31. ^ 塩川伸明 『民族とネイション - ナショナリズムという難問』p156-158 岩波新書、2008年 ISBN 9784004311560
  32. ^ 塩川伸明 『民族とネイション - ナショナリズムという難問』p156-158 岩波新書、2008年 ISBN 9784004311560
  33. ^ 「現代人の社会学・入門 グローバル化時代の生活世界」p267 西原和久・油井清光編 有斐閣 2010年12月20日初版第1刷発行
  34. ^ 「第三版 政治学入門」p120-121 加藤秀治郎 芦書房 2011年4月15日第3版第1刷
  35. ^ 「第三版 政治学入門」p120-121 加藤秀治郎 芦書房 2011年4月15日第3版第1刷
  36. ^ 「増補 スタンダード政治学」p238-239 加藤秀治郎・中村昭雄 芦書房 1994年4月15日増補改訂版第3刷
  37. ^ 「国家の破綻」p22-23 武内進一 (「平和構築・入門」所収 藤原帰一・大芝亮・山田哲也編著 有斐閣 2011年12月10日初版第1刷)






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