ヨシ 人間とのかかわり

ヨシ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/29 08:54 UTC 版)

人間とのかかわり

すだれ
鷺と葦(鈴木春信・画、18世紀)

利用

まっすぐに伸びる茎は木化し、ほどではないにせよ材として活用できる。古くから様々な形で利用され、親しまれた。日本では稲刈りの後に芦刈が行われ、各地の風物詩となっていた。軽くて丈夫な棒としてさまざまに用いられ、特に葦の茎で作ったすだれ葦簀(よしず)と呼ばれ昔から利用されてきた[6]。また、屋根材としても最適で茅葺民家の葺き替えに現在でも使われている。

日本神話ではヒルコが葦舟で流される。最近では、葦舟の製作も市民活動として行われるようになってきている。ちなみに、南米で葦舟といわれるのは、この葦ではなく、カヤツリグサ科フトイの仲間で、古代エジプトにおいても同じくカヤツリグサ科パピルスを使っている。

楽器

葦の茎は竹同様に中空なので、として加工するにもよく、葦笛というのがある。西洋のパンフルートは、長さの異なる葦笛を並べたものである。ギリシャ神話においては、妖精シュリンクスが牧神パンに追われて葦に身を変えたところ、風を受けて音がなったため牧神パンによって笛に変えられたという逸話から、その名が付けられている。古代中国における楽器、(しょう)も同じ系統である。

また、篳篥の「舌」、中東のクラリネットに似たシプシ英語版と呼ばれる楽器やズルナ、西洋木管楽器の振動音源部「リード」としても活用される。勘違いされるが、英語で葦を意味するリードには幾つかの種が含まれ、本種も音源のリードに使用されるが、多くの西洋楽器のリードに使われるのはダンチク(ジャイアント リード)という種である。

製紙原料のヨシパルプについては、中国湖南省洞庭湖周辺や上海市崇明島などで実用化され、トイレットペーパーや紙コップなどに加工されている他、旧ソ連ルーマニアで製造工場が稼動していたことがあり、日本国内においても、滋賀県琵琶湖産のものなどが名刺ハガキ用に少量生産されている。

生薬

根茎を乾燥したものは生薬になり、蘆根(ろこん)と称して、漢方では利尿、消炎、止渇、鎮吐に処方されている[5]。蘆根は、秋に根茎を掘り採って水洗いし、細根を取り除いて長さ2 cmほどに刻み、むしろに広げて天日乾燥させて調製される[5]民間療法では、むくみ吐き気止めの薬として利用され、1回量5 - 10グラムを水200 ccで半量になるまで煎じて頓服される[5]

肥料

かつての日本では、ヨシを刈り取って水田に敷き草とし、アシから出る黒い汁で雑草の発生を抑止するのに利用した。また同時に、敷き草にしたヨシは分解されて、稲の肥料にもなった[4]奈良時代初期に編纂されたという『播磨風土記』の中に「敷き草の村」という記載が残されており、昔からヨシのような草を刈り取って水田に敷き、肥料に利用していたことがわかる[4]

その他

この他にも、燃料、食料、漁具、葦ペン、ヨシパルプなどの用途があり、現在でも利用されるものや、研究が行われているものもある[10]

近年ヨシ原は、浅い水辺の埋め立てや河川改修などにより失われることが多くなり、その面積を大きく減らしている。ヨシ原は、自然浄化作用を持ち、多くの生物のよりどころとなっているため、その価値が再評価されてきており、ヨシ原復元の事業が行われている地域もある。

文学

ヨーロッパ文学において有名な葦に関する言葉に、ブレーズ・パスカルの『パンセ』の中にある「人間は考える葦(roseau pensant)である」という文がある[11]ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ寓話「オークと葦」(Le chêne et le roseau)では傲慢なオークが倒れてしまったのに対し、倒れないように自ら折れて風雨を凌いだ葦の姿が描かれている。

また、古事記の天地のはじめには最初の二柱の神が生まれる様子を「葦牙のごと萌えあがる物に因りて」と書き表した。葦牙とは、葦の芽のことをいう。その二柱の神がつくった島々は「豊葦原の千秋の長五百秋の水穂の国」といわれた。これにより、日本の古名は豊葦原瑞穂の国という。更級日記では関東平野の光景を「武蔵野の名花と聞くムラサキも咲いておらず、アシやオギが馬上の人が隠れるほどに生い茂っている」と書き残し、江戸幕府の命で遊郭が一か所に集められた場所もアシの茂る湿地だったため葭原(よしはら)と名づけられ、後に縁起を担いで吉原と改められた。

古代エジプト死者の書に書かれる人が死後に行くことができる楽園アアルは葦が繁る原野である。

短歌

海原のゆたけき見つつ蘆が散る難波に年は経ぬべく思ほゆ。:『万葉集』の大伴家持

万葉集では、蘆、葦、安之、阿之という書き方で50首におよび詠まれている。和歌において様々な異名が用いられるのも特徴で、ハマオギ、ヒムログサ、タマエグサ、ナニワグサといった別名が使われるほか、方言ではスゴロ(青森)、アセ(和歌山)、コキ(鳴海)、トボシ(垂水)、ヒーヒーダケ(串木野)という言葉が一部に未だ残っている。

ことわざ

難波の葦(アシ)は伊勢の浜荻(ハマオギ)」は、物の名前が地方によって様々に異なることをいう。平安末期の住吉杜歌合において、藤原俊成の言で「難波の方ではあしとだけいい、東(あづま)の方では、よしともいう」とあり、また「伊勢志摩では、はまをぎ(ハマオギ)と名づけられている」と書き残されている。

「葦の髄から天井をのぞく」とは、せまい了見では物事を捕らえることはできないという意味。中国の荘子にある「管を以て天を窺う」という言葉と同じ意味を持つ。

「すべての風になびく葦」とはフランスのことわざで、都合によって節操をかえることを指す。

「折れた葦」「葦によりかかる」の両方ともイギリスのことわざで、「あてにならない」という意である。旧約聖書列王記においてもエジプトを折れかけのアシに例えて、頼ってはならないという同様の意味で使われている。ヨーロッパにおいてアシはその弱さを人間性の一面と見る向きがあるが、一方では「葦が矢となる」ということわざがあり、実際にその茎の特性から矢として使用されたこともある。前述の寓話を元にした「嵐がくればオークは倒れるが、葦は立っている」ということわざもあり、ヨーロッパにおいてアシは弱さと同時に強かな存在とされていた[12]


  1. ^ Lansdown, R.V. (2017). Phragmites australis (amended version of 2015 assessment). The IUCN Red List of Threatened Species 2017: e.T164494A121712286. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2017-3.RLTS.T164494A121712286.en. Downloaded on 27 October 2018.
  2. ^ 米倉浩司; 梶田忠 (2003-). “「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)”. 2012年6月15日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2012年2月14日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k 近田文弘監修 亀田龍吉・有沢重雄著 2010, p. 238.
  4. ^ a b c d e f g h 藤井義晴 2019, p. 145.
  5. ^ a b c d e f g h i j 馬場篤 1996, p. 113.
  6. ^ a b c d e f 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2012, p. 217.
  7. ^ a b 藤井義晴 2019, p. 148.
  8. ^ a b c 藤井義晴 2019, p. 146.
  9. ^ Saltonstall, K. 2002. Cryptic invasion by a non-native genotype of the common reed, Phragmites australis into North America. Proc Natl Acad Sci 99(4): 2445-2449.
  10. ^ 西川嘉廣『ヨシの文化史 : 水辺から見た松江の暮らし』サンライズ出版〈淡海文庫〉、2002年。ISBN 4-88325-133-0
  11. ^ 藤井義晴 2019, p. 147.
  12. ^ 足田輝一編『植物ことわざ事典』東京堂出版、1995年。ISBN 4-490-10394-8


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