取的とは? わかりやすく解説

とり‐てき【取的】

読み方:とりてき

力士最下位の者の称。


力士養成員

(取的 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/27 17:39 UTC 版)

力士養成員(りきしようせいいん)は、大相撲番付幕下以下(幕下、三段目序二段序ノ口)の力士を指す。対義語は関取(せきとり)。取的(とりてき)・褌担ぎ(ふんどしかつぎ)と呼ぶこともあるが、これは序二段・序ノ口などの特に下級の力士養成員を指す際に使うことが多い。2000年代以降は若い衆(わかいしゅう)と呼ぶことが多く、褌担ぎという呼び方は平成以降ほとんど用いられない。

概要

本場所の取組は15日間のうち7日間のみ行われ、2日間ごとにいずれか1日(七番相撲は13日目・14日目・千秋楽のいずれか1日)のみ出場する形となっている。例外的に幕下上位や序ノ口下位では出場力士数の関係上、取組が前後にずらされたり八番相撲が組まれたりすることもある。取組編成は原則としてスイス式トーナメント方式を取り入れていて、番付と成績により対戦相手は機械的に決定される(ただし同成績者の人数が奇数になったり、全勝もしくは全敗の力士が全員同部屋だったりして、原則通りの取組が組めない場合には星違いの対戦が組まれる)。

番付の変動については、関取と比べると1番の重みが大きく、特に下位になるほどその傾向が顕著である。例えば幕下上位で勝ち越した場合の上昇幅は勝ち越し点の2倍が目安となるし、三段目や序二段では勝ち越し・負け越し1点につき10枚ないし数十枚上下するなど、番付が急激に変化する。また東幕下筆頭での勝ち越しや、幕下15枚目以内での7戦全勝など(いずれも優先的に十両に昇進させる内規が存在する)、審判部の内規により昇進等が確実となるケースも存在する(番付#番付編成参照)。また、7戦全勝及び6勝1敗の力士は、翌場所の番付発表時に資料として出される「幕下以下優秀力士昇進表」に掲載される。

髷は丁髷姿である。ただし例外として、(出場する関取の人数が奇数の場合などにより)幕下上位の力士が十両力士と対戦する際や、弓取式初切断髪式の際は大銀杏を結うことが出来る。断髪式では関取であれば引退相撲において国技館の本土俵、引退興行をしない場合でも国技館やホテルの大広間等が使えるが、最高位が幕下以下の力士は稽古土俵や部屋の千秋楽打ち上げ会場などで行なわれる。本場所で締める廻しは一般的に黒廻しと呼ばれ、木綿製で黒色で、稽古用と兼用して使われる。さがりは糊付けされておらず紐そのものの状態であるが、色は自由に決められる。取組においては、塩撒きは基本的に行わず(ただし幕下上位で取組進行が早い場合には時間調整の意味で行うこともある)、また力水も使用しない。

正装は全て着流しだが、三段目以上の力士は羽織の着用が、さらに幕下力士は外套博多帯(三段目までの帯はレーヨンまたはキュプラ製)がそれぞれ許される。履物についても序二段までは素足下駄。三段目で雪駄を履けるようになり、さらに幕下では足袋の使用も許される。ただし、雪駄はエナメル製、足袋は黒いものに限られる厳格な規定があり、規定に合わないものは関取でなければ許されない。

私生活では、ハングリー精神を養い相撲道に専念させるため、関取との徹底した差別化が成されている。ちゃんこ番など部屋での雑用[注釈 1]や大部屋生活[注釈 2][2]の強制、付け人として部屋や一門の関取や親方の身の回りの世話、さらには結婚することが許可されない[注釈 3][注釈 4][注釈 5]など、生活のほぼすべてが相撲にかかわることになっている[4]。養成員という立場から、各場所ごとに場所手当と本場所の成績に応じた幕下以下奨励金が支給されるのみで、給与という名目での金銭支給は無く、成果賞金である力士褒賞金も与えられない[注釈 6]。場所手当と幕下以下奨励金を合計しても、関取の月額給与・力士褒賞金よりも金額が格段に少ない。力士養成員の敬称は、一般人と同じ「○○さん」が一般的である(幕下以下に陥落した関取在位経験者が、在位中の関取同様に「○○関」と呼ばれるケースも見られる。)。一人前でないという理由から、幕下以下の力士はサインはできないという不文律がある(力士単独、力士とファンが一緒に写った写真撮影と握手は可能)[5]。また場内アナウンスでも、番付が紹介されない、外国出身力士の場合出身地の読み上げが国名のみとなる[注釈 7]、場内アナウンスの決まり手発表が幕下上位5番を除き簡略化される、物言い後の説明で審判長が四股名を読み上げない[注釈 8]など、関取とは待遇が大きく異なっている。

上記の理由から、東幕下筆頭と西十両最下位の半枚差であっても「天と地ほどの差」と言われている。十両に昇進すると養成員に比べて大きく優遇されるため、引退時の思い出として「十両になれた時が一番嬉しかった」と答える力士も多い。

もっとも、力士は地位に関わらず全員が公益財団法人の専従職員であり(親方や行司等も含め、すべての協会員は協会の職員とされる)、力士養成員は手当や奨励金を除いて無給でありながら健康保険厚生年金の被保険者である立場は保障されていて、その保険料も全額協会負担であり[6]、地位に関係なく社会保険の恩恵を受けることは可能になっている。

細則上では「養成員」の名称だが、他のプロスポーツと違って、成績不振を理由とする引退強制は無いため、2000年代以降、40歳を超える力士養成員が増加している。この背景として、トレーニングや治療の充実、ちゃんこ長や若手力士の相談相手として重宝される点、マスコミ対応に精通している点などがあるが、前述のように社会保険の恩恵が受けられることも要因と考える人もいる[7]

極端な例では、再起が見込めない高齢の力士や、重症・重病で長期療養を余儀なくされた力士が、協会の健康保険を利用するために協会に籍を残して長期間番付外に在位するという例もある。引退後の療養・就労の体制が整い次第協会を去るケース、長期療養から土俵復帰するケース、長期療養中にそのまま死去するケースなど、様々なケースが存在する。怪我及び病気を理由とする長期休場により、大関から序二段まで陥落した照ノ富士も「辞めたら治療や健康保険はどうするの?」と師匠に引き止められたという話もある。

中には脱走状態が続いた弟子を力士養成費確保目的に幽霊力士として在籍させ続ける例もある。無論これは力士養成費の不正請求だが、復帰する可能性が完全には否定できないケースも多々あるため、力士養成員の人員不足も手伝って容認されているのが実情である。

その他

  • 政治の世界では国会の委員会での質疑を書き起こす若い記者のことを「取的」と呼ぶ[8]

脚注

注釈

  1. ^ ただし類稀な稽古熱心さを見込まれ雑用免除となる力士も存在する。例えば保志信芳(後の横綱北勝海)は横綱千代の富士の付け人であったが、部屋の雑用は免除されもっぱら千代の富士の稽古相手であった。また関取経験者は免除対象になりやすいが、部屋の力士数の関係や本人が希望した場合には雑用を担当するケースもある(琴風は膝の怪我で幕下に陥落していた時期に本人の希望で雑用を担当し、土佐豊千代鳳も同様に幕下に陥落していた時期に部屋の人数の関係上ちゃんこ番や付け人を務めていた時期がある)。その他、新十両場所を場所中の不祥事で途中休場した貴公俊(後の貴ノ富士)は、当時の師匠(貴乃花)から休場直後(幕下陥落が決定する前)の時点で出直しを図る意図をもって取的力士としての扱いを受け、ちゃんこ番や雑用などを命じられたという。
  2. ^ 元豊ノ島が2023年10月に白鶴酒造公式YouTubeチャンネルで里崎智也と対談した際には「1場所で十両から落ちたらそのまま個室にいさせる部屋もあるが、『もう1回個室生活に戻りたい』と思わせるために自分は落とすべきと思う」と話していた[1]
  3. ^ 相撲リポーターの横野レイコによると、関取未経験の力士が引退する動機として、現役時の交際相手と結婚する為に就職もしくは開業をするというパターンが多いとされる[3]
  4. ^ 既婚者が入門して十両に昇進するまでの期間、妻帯者が十両から幕下に陥落した場合、師匠の許可を得ずに結婚した場合などは、妻子との別居を義務付ける部屋が多い。一例として智乃花は入門時すでに結婚していたが、師匠から十両に昇進するまで別居を言い渡されたとされる。同様に入門時に身重の妻がいた将司も、十両に昇進するまでの間は妻を実家に預けていたとされる。
  5. ^ 現実的に、力士養成員の収入で妻子を扶養することは困難であり、幕下以下に陥落した妻帯者の元関取は、関取在位中の貯蓄を切り崩して妻子を扶養するケースが大半である。常幸龍のように十両復帰まで2年半の間後援会の援助に頼った例、千代の海のように再十両までの2年間に亘り看護師として働く妻の援助を受けた例などもある。妻帯者の元関取が幕下以下に陥落し、その後幕下以下での土俵が長引いた場合、妻子への経済的負担を回避すべく生活を優先して引退し就職もしくは開業をするのが自然な流れである。
  6. ^ 付け人を命じられている場合は、付いている関取や親方から小遣いを貰うことがある。
  7. ^ アメリカハワイ州出身力士は「ハワイ出身」とアナウンスされていた。また、同ミズーリ州セントルイス出身の戦闘竜は長らく「アメリカ・ミズーリ州出身」または「アメリカ・セントルイス出身」とやや変則的な形でアナウンスされていたが、現役末期の2002年に幕下に陥落して以降は「アメリカ出身」と他の外国出身力士と同様国名のみでアナウンスされる様になった。
  8. ^ 原則として東方力士、西方力士と呼ばれるが、幕下上位5番では四股名を読み上げる場合がある。

出典

  1. ^ 【無休生活 2年⁉️】豊ノ島が明かす三役から幕下転落のリアル!32歳で経験した大部屋生活とは⁉︎【白鶴presents 居酒屋satozaki】 - YouTube
  2. ^ “起床は毎朝5時 力士たちの24時間と意外な“あるある””. 日刊ゲンダイDIGITAL. (2017年11月26日). p. 3. https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/218351/3 
    2017年の報道によると、年長の弟子に3~4人部屋を与える部屋もあるという。
  3. ^ 週刊FLASH 2016年9月26日
  4. ^ “元大関・琴欧洲、相撲界のしきたりに喝!!”. Asahi Shimbun Digital [and]. (2014年9月30日). http://www.asahi.com/and_w/interest/entertainment/CORI2042595.html : 元大関・琴欧洲は自身の入門直後の実体験に基づき「新弟子は移動を全て徒歩で行い、自転車を使うことすら許されない」と証言していた。
  5. ^ 佐々木一郎 (2016年6月26日). “大相撲の魅力は、朝稽古を見ずして語れない”. 東洋経済ONLINE. p. 4. https://toyokeizai.net/articles/-/124220?page=4 
  6. ^ 日本相撲協会寄附行為施行細則第85条。なお関取は所定の保険料が徴収される。
  7. ^ “50歳で現役もいる…!相撲界で高齢力士が重宝されるワケ”. Friday. (2020年12月7日). https://friday.kodansha.co.jp/article/149923 2020年12月14日閲覧。  {{cite news}}: |date=の日付が不正です。 (説明)
  8. ^ ““トリテキ”って若いお相撲さんのことって知ってました? 半人前の記者がやるトリテキは絶好の政策勉強の場”. FNN PRIME. (2020年2月14日). https://web.archive.org/web/20210920105053/https://www.fnn.jp/articles/-/23269 

関連項目


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