『ゴジラ対ヘドラ』のヘドラ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/01 23:08 UTC 版)
「ヘドラ」の記事における「『ゴジラ対ヘドラ』のヘドラ」の解説
劇中での命名者は、海洋生物学者・矢野徹の息子である研少年。最初に上陸した際には、驚いた研に短剣で腹部を切り裂かれている。出現地点は駿河湾(水中棲息期)→田子ノ浦(上陸期)→富士市→富士山麓→境沢。 宇宙より隕石に付着して海に降って来たとうかがえる鉱物起源の宇宙生命体ヘドリューム(へドリュウム)が、都市近海に堆積していたヘドロや公害による汚染物質、カドミウム、コバルト、水銀、鉛などの鉱物を食糧として体を組成し、生命活動を始め、分裂・合体を繰り返して汚染物質を吸収して成長した姿である。行動に目的や意志は存在しない。 眼を中心にヘドリュームで形成された神経組織が体内に流れており、粒子の集合体であるその身体は風穴を開けられてもダメージを受けず、切断や分離も自在に可能で、分離後も意志を持つ分身のように動く。 身体は熱に極度に弱く乾燥するとボロボロに崩れるが、完全死を迎える前にヘドロをかけられると、破片の個々がオタマジャクシ似の形態に実体化する。それらは磁力によって引き合い、合体して大きな身体を形成するうえ、成長するにしたがって生える陸上用の足による二足歩行化や爬虫類のように四足歩行化を経て、最終的には飛行能力や巨大な目から放つ赤色の熱線(ヘドリューム光線)の発射能力まで発現する。飛行形態でゴジラを楽々と持ち運ぶほどの怪力や自らの体液でもある強い毒性を持つヘドロ(ヘドロ弾)など、さまざまな能力を駆使してゴジラを苦しめた強敵である。 飛行期のヘドラが通過する際には硫酸ミストがまき散らされるため、金属は腐食して錆び、人間は白骨化する。ヘドロや工場地帯の煤煙を吸収して取り込むことから、一時的には環境を改善しているようにも思えるが、結局はその汚染物質を他の地域へ拡散させるため、「公害問題が、工業地帯など限られた地域に犠牲を強いている」という批判をも体現している。 飛行や光線の原動力は体内での核爆発と設定されており、劇中で矢野博士は「恒星同様のもの」と解釈している。 誕生当初は駿河湾でタンカーなどを襲っていたが、海坊主の怪物のように成長すると上陸して富士市工業地帯を襲撃して煤煙を吸収し、そこでゴジラとの初戦に突入する。ゴジラの放射能火炎を受けて一時退散した後、まもなく飛行能力を得て富士山麓に再来した際には周辺の主要都市と人間に1000万人を超える犠牲者を出すなど大被害を与え、再戦したゴジラを硫酸ミストで昏倒させている。その後、矢野博士の研究から最後まで水分を飛ばせば完全に殺すことが可能と推察され、自衛隊の協力で建造された大型の電極板におびき寄せられるが、トラブルが続発してダメージとならず、三度現れたゴジラと交戦する。そこでもゴジラの左目をヘドロ弾で潰し(自身も左目を潰される)、右手を白骨化させるなど激しい戦いを繰り広げた後、ゴジラの放射能火炎で機能を発揮した電極板の雷電攻撃を受けて水分を高熱によって失い、生命活動が停止する。これで絶命したかに思われたが、乾燥が完全ではなかったため、残骸の内側から脱皮するように新たなヘドラが出現し、逃亡を図る。しかし、放射能火炎の応用による空中飛行で追撃してきたゴジラに電極板へ連れ戻されて電流を浴びせられたうえ、再び押し倒されて未乾燥の内部をえぐり出されてからさらなる電流を浴びせられたことにより、ようやく完全死を迎える。ただし、エピローグではすでに別個体が誕生していることが示唆されている。 上記のように高熱や乾燥には弱いが、完全に倒すことは非常に難しい。 他の怪獣を交えずに全編通してゴジラと1対1で戦った怪獣は、『キングコング対ゴジラ』(1962年)のキングコング以来9年ぶり。 スーツアクターは中山剣吾(薩摩剣八郎)が担当しており、彼の入った最初の怪獣である。中山は、特技監督の中野昭慶によって起用されたが、当初は顔出しの役だと思っており、着ぐるみの役と知って落胆したが、事務所からギャラがいいと言われ、本役に挑んだ。スーツデザインと重量の関係からあまり動けず、ゴジラに入っていた中島春雄がリードしてゴジラが立ち回る感じのアクションにされたという。劇中、ヘドラが工場の煙突から煙を吸い上げるシーンはスーツ内に中山が入ったままであり、「非常に苦しかった」と語っている。また、一度撮影中に転んで起き上がれなくなってしまったことがある。特技監督の中野昭慶によれば、スーツでのアクションに制約が出るため、『宇宙大怪獣ドゴラ』を参考に飛行形態が設定されたという。 名称 関連書籍などでは各形態は水中棲息期、上陸期、飛行期と表記されるが、最後の形態は成長期、完全期、巨大化期、最終形態、万能期と表記が分かれている。劇場予告編では「公害怪獣」ではなく、「忍者怪獣」と表記されていた 。 企画初期は、ヘドロンという名称であった。また、光化学スモッグをイメージしたピカゴンという案もあった。中島春雄やスタッフからは「ゴミ」と呼ばれていた。 デザイン 「陸・海・空」3態のデザインはすべて井上泰幸による。飛行期は空飛ぶ円盤とエイをモデルにしている。美術監督の井上を経由して監督の坂野義光の指示により、最終形態の目の縁のディテールは女性器をモチーフとしており、縦型の目に赤い目玉にしたという。頭部をへこませたのも坂野の指示である。 特技監督の中野昭慶は、定番の怪獣のシルエットを崩すため、汚いダルマになったと述べている。井上が描いたものには廃棄物や汚れた海のガラクタが身体に付いたものもあったが、造形を担当した安丸は納得がいかなかったことから、コンニャクのような得体が知れない怪物を作るため、大量のコンブやワカメに覆われた海坊主のシルエットで、全体に垂れ下がったドロドロのヒダを造形し、ドロドロした感じを狙ったという。 造型 この年をもって利光貞三や八木康栄ら主要スタッフが退職し、代わって造形チーフを引き継いだ安丸信行が製作を担当した。ゴジラよりも全体も上背も大きくし、首の長いゴジラより高さもボリュームを出そうとしたという。そのため、発泡スチロールで作られた空洞の芯に発泡ウレタン(フォームラバー)を表面にヒダ上に貼り、ドロドロ感のあるディテールにするために増やしたヒダにラテックスを何度も盛り付けたことから分厚くなり、ゴムと混ぜて重ね塗りした塗料や中に入れた電飾や仕掛けの重みで、100キログラムを超える重量となったため、5人がかりで運ぶ必要があったという。そのため、背負子式の仕掛けで、両肩と首で上に伸びたシャフトに付いた頭を支える構造にし、背負子に仕込まれたモーターで、左右に頭を回すことができたという。ただし、重かったことから、補助として頭頂部をピアノ線で吊っていたという。目は、過去の作品で使用された透明アクリル球を2つに切って半球にしたものに光彩を描いている。瞼にはバイクのアクセルワイヤーを用いており、手動で開閉している。頭部はドーム状のコアを入れて丸い形を維持し、頭頂部には風船式の仕掛けを入れ、頭にエアを送り込んで膨らませている。手足が2本ずつあるように見えないように、左右のバランスを崩したり、長さを工夫したという。元々全体に鈍い銀色であったが、監督の坂野自らが赤、青、緑、黄色などの原色を足して彩色したという。 完全体が放つヘドロは、高圧ホースから糊を噴出させている。 このスーツとは別に1尺大の「幼生期」や「飛行期」のミニチュアが作られている。飛行期の造形物は、バラゴンのギニョールを芯に用いている。発泡スチロールで作られた芯にラテックスを盛り、下から煽って撮ることが多いため、背中側を切り開いてその中に後述のメカを入れており、メンテナンス時にも背中が開ける造りとなっている。 上陸期が煙突から煙を吸う描写は、内部にホースを入れて掃除機でスモークを吸っている。そのため、着ぐるみの中が黒煙だらけになり、中山が窒息しかけたという。 「飛行期」の噴射する硫酸ミストは、中に入れたフロンガスを吹くメカを使って撮影されている。死亡時に噴出する煙もフロンガスを用いている。 備考 監督の坂野は敵役ヘドラの造形に関し、自ら脚本にト書きを入れるほどのこだわりを見せ、飛行態などのデザインにも積極的に関わっている。撮影初日にはヘドラの体に毒々しい反射素材の色彩を加えようと思いつき、自ら塗装を始め、ついにはこの作業に1日を費やしてしまった。その他にもシーン毎に塗装を変えていった。井上は、デザイン段階から坂野はあくどい色彩を要望していたといい、どこまで色彩に手を入れるかは難しい問題であったが、坂野の施した色彩は実際に映したらアクが強くて面白かったと述べている。 水槽内で泳ぐオタマジャクシ状の幼体ヘドラは、生きたドジョウにバルサ材とコンドーム(ラテックス製の口がすぼまった袋状の頭部)を被せてメイクを施したもので、水槽に電気を流して動きを撮った。当初は合成で表現する予定であったが、撮影直前になって坂野が井上に打診し、井上もアイデアを考えていたために実現した。 陸上ヘドラの頭頂部にはひび割れがあるが、公開当時は「怒ると脳味噌がはみ出てくる」と説明されていた[要出典]。 飛行形態の一部シーンはアニメーションで表現されているが、このシーンには漫画家のつげ義春を起用することも検討されていた。 坂野によれば、玩具化しにくいために宣伝部からの評判は良くなかったという。 スーツの目玉部分は、幼少期から東宝撮影所に出入りしていた特撮監督の原口智生が1973年ごろに廃棄されたものを拾っており、2021年時点でも所有している。当初は周囲のウレタン部分も残っていたが、次第に劣化してなくなったという。 2019年には、映画監督の横川寛人により、別個体が登場する短編映画『Hedorah Silent Spring』が制作されている。 2022年には、東京都現代美術館にて開催されたイベント「生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展」に、本作品のヘドラのスケッチや絵コンテ、撮影に用いられたミニチュアなどが展示されている。
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