総論 伊田広行の思想的スタンス・全般
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「伊田広行」の記事における「総論 伊田広行の思想的スタンス・全般」の解説
伊田のスタンスを最も凝縮して示すものは、主流秩序論(脱主流秩序の社会を目ざす多様性社会スタンス)である。その前提としてスピリチュアル・シングル主義論、個人単位型の社民主義論を唱えるスタンスがある。左翼、フェミニスト、環境保護・スロー系、反戦争、反原発などのスタンスももっている(この総論の記述の根拠・出所は、以下の各論説明で示す)。 その背景には、以下の様々な思想・考えの交差・複合体として伊田のスタンスが形成されているという実態がある。 人間には闇の部分、悪意や差別や妬みなどの部分があることを認めつつも、きれいな心があること、それに基づいて生きている人がいることも重視する。したがって「きれいな心や理想や正義や民主主義・平和・非暴力・平等・人権」などを信じられない人が、「建前だ」「きれいごとだ」と言って思考停止して、主流秩序に従属している様(さま)に反対する。 マルクス主義、社会主義論を学びその影響を受ける。小野義彦、森信成、向坂逸郎などのマルクス経済学・哲学・思想などの影響もうける。講座派より労農派のほうに理を見る。自己増殖する価値である資本が主体となって人間が軽視される社会に反対。価値増殖するシステムの歯車になっていく人々のありようを根本から考え直しなおしていく大きな思考の枠組みは、最近の新しいマルクス研究、人新世の議論を含めて、今でも有用な面があると考える。 大学では障害者解放研究会や社会科学研究会所属。大阪の青い芝メンバーの介護に入る。それもあって優生思想に反対。高齢者、障がい者などが生きやすい社会になるのがいいという考え。「社会に貢献しない者は存在しない方がいい」という考えに反対。その観点から、税などの負担でも、高負担を皆が受け入れて高福祉社会にして支え合うこと(連帯)に賛成。「市場に任せることを基本として、小さな政府論、個人の自己責任論、福祉縮小をよしとするような系統の考え方」に反対。 右翼と左翼の枠では大枠「左翼」である。ここでいう「右翼」とは、古い社会からの強者(国王や天皇や貴族、金持ち、資本家階級、主流秩序の上位者など)の特権を擁護する勢力、「左翼」は、そうした身分制や権力の上下に反対し、国民全員の権利の平等を目指す勢力というような意味である。もちろん左翼にも右翼にも様々な質があるので、尊敬できる右翼思想家もいれば左翼の思想や運動や活動家に賛成できないところもある。しかし左翼もダメといって立場を示すことから逃げているような形で主流秩序に自分はピッタリ従属しているような人の生き方を嫌う。 保守と革新の枠では革新側(改革系)であるが、群衆の熱狂の危険性などを意識するし、何でも改革すればいいのではなく、過去から続いてきたものの中にはいいものもあるので、保守主義の良質的な部分には賛成。 観念論を批判する唯物論的の立場。非科学よりも科学的・合理的なことを重視するスタンス。 しかし近代合理主義の枠の限界も認識するので、近代合理主義の枠を超えての直感や感性・感情・自然を重視し、自己拡張意識を地球レベル・歴史レベルに大きくする傾向に賛成する点などでスピリチュアリティも重視するスタンス。「モノの所有が多い方が豊か」ととらえるような物質主義を批判する。 近代医学の尊重とともに、その限界も意識し、東洋医学やスピリチュアル・ケアも重視する。 宗教に対しては、大きくは特定宗教を信仰しない無神論者の立場。だが宗教の現実的な世界や個人へのよい貢献を認めるし、それを尊重する。またガンジーやキング牧師やダライラマやティクナットハンなど優れた宗教者の姿勢と考えを尊重する。友人知人でも特定宗教を信仰している人で素晴らしい人がいる経験を多く持っている。しかし、他方で多くの宗教教団や宗教者の堕落、権力や主流秩序への加担性、非合理主義、ひどい政治での宗教利用主義などをみて、それらを批判する。したがって伊田自身は無神論者で特定宗教は信仰していないが、宗教の良質部分や自己拡張意識としてのスピリチュアリティ感覚は尊重する立場。 カウンセリングにおいても、個人の意識だけの枠にとどまるかかわり(事実上社会構造に適応するような方向への誘導)には限界があると考えて批判的。ロジャース的な枠が有効なケースもあるが、多くの個人の苦しみには社会構造や具体的な他者の加害性などもかかわっている場合が多いので、狭い心理学や精神治療やカウンセリング論を超えて、積極的に現実社会の問題からの苦しみに対しての唯物論的な対応を含め、社会構造と心理を総合的にとらえる立場。そのうえでのかかわり方として広義の相談や対話(オープンダイアローグ的感覚)を重視(関連:「精神科医・森川すいめいさんの話を聞いて」 ) 。寄り添いホットラインのような、「気持ちの傾聴に加えて、具体的な社会資源へのつなぎ、実際的支援も重視する相談スタイル」に賛成。 男性相談でも、狭義の傾聴のみ心理主義を批判し、現実社会のサポート資源を利用できる能力を高めること、たとえば労働関係なら個人加盟ユニオンなどの資源を使う方法の重要性も分かったうえでの相談が大事と考える。労働運動・労働組合の視点、ジェンダー視点、フェミニズム、LGBTQ+の運動、クイアスタディーズ、DV加害者プログラムなどを踏まえて総合的な具体的支援がともなう相談であることが有効という立場。 近代主義には隠された前提や無根拠があるので、近代主義を批判的に再検討する点には賛成するが、しかしなんでも相対化するだけのポストモダン的な言説には批判的。 Aもだめだが Bもだめと批判する中立主義、客観主義を批判する立場。現実の中でましな具体策を選択していくべきなので、現実の運動や政治の実践性を重視。どんな社会運動にも問題や限界はあるがそれを上から目線で批判する書斎主義・学者的な傍観者主義を批判。例えばi伊田はフェミニストを自称する一方、ジェンダーフリー概念やそれを使った草の根運動を批判した上野千鶴子などのスタンスを批判する立場。 個人の自由(や安全や自信・自己肯定感・成長)を重視するが、リバタリアンには反対し、市場原理重視、新自由主義などにも強く反対する。 選挙の質が問題である(選挙がメディアなども使って大衆をコントロールする側面)など、民主主義にも限界があると認識しているが、大きくは民主主義的な枠が現段階ではましであるし他にないと考えている。したがって人権をできるだけ重視する民主主義的なシステムとして社会民主主義的なあり方を選択する。具体的に社会制度の設計としては、北欧型の高福祉高負担の個人単位型社会民主主義が一番ましと考える。日本社会もそうなればいいと考えているが、その道が厳しいと思っている。 グローバリゼーションのマイナス点を意識し、地産地消などローカルからのスローな生活スタイルを重視。反原発。 メディアが大きな影響を持っているし、素晴らしいジャーナリストも、社会によい影響を与えるドラマ、映画、ドキュメンタリー、漫画、音楽、小説、娯楽番組などもあるとは思っているが、現在の社会(主流秩序)においてむしろ多くのメディア、特に大手メディアは主流秩序への加担性が大きいと認識し、権力のチェックの面が弱くなっていると考えている。結論的には、多くのメディアを批判する立場。 個人の上に組織や共同体を置くという共同体主義・全体主義の危険性を認識し、個人の自由や自己決定が集まってこその組織・共同体であるべきとする、共同体の上に個人を置くスタンス(シングル単位的スタンス)が良いと考える。 家族の仲がいいとか、平等・非暴力のカップル(パートナー関係)があることが望ましいと考えると同時に、家族やパートナー関係の現実を踏まえて、それが必ずしもいいものとは限らないと認識する。家族の中に支配(暴力、虐待)があることがある。みなが素敵な家族をもっているわけではないのが現実である。アセクシャル系の人もいるし、モテないひとも、出会いがない人も、その他さまざまな状況の人がいるので、したがって、パートナーや家族があること。それがいいものであることを前提としないで、個人を社会の基本単位とする社会(シングル単位社会)にすることが良いと考えている。 その前提には、近代家族の諸特性が家族単位システムというまとめ方でとらえらえるので、その近代家族を規範として押し付ける状況を変革して多様な家族や生き方が尊重される方向を目指すということであり、その時の中核的思想が「家族単位からシングル単位へ」であるという考え。 パートナーや家族があろうとなかろうと、性指向や性自認などがどうあろうと、ジェンダー秩序の上位であろうと下位であろうと、平等になる社会。それがジェンダー秩序のマイナスを減らす具体的イメージ。したがって北欧型の社会民主主義を支持するとと主に、主流秩序の上位になるような生き方をし、ジェンダー秩序の上位を目指すような生活をしている人(フェミニストと言っている人を含む)を批判する立場。例えば、フェミニストで結婚している人がいてもいいと考えるが、結婚していることを公表したり自慢するような、ジェンダー秩序への加担に無自覚であることには批判的。エリート女性、勝ち組女性のフェミでなく、主流秩序の下位に寄り添うフェミを目指す。 伊田はアナーキズムの思想に共感する部分が多い。ここでのアナーキズムの意味は、主流秩序的な権力の配置に反対して、主流秩序的価値観を根底から批判し、個人の自由を重視するようなもの。現実的には社会民主主義がいいと思っているので、完全な無政府主義ではなく、今の主流秩序に対して抵抗して解体していく方向に共感するという意味でアナーキスト的な立場。 ネット上によくある、匿名での他者攻撃、差別、罵倒・誹謗中傷に反対。「ネトウヨ」的な人が中国、韓国、北朝鮮などへのヘイト的な言説をまき散らすことに反対。強い規制に賛成。「パヨク」などという言い方で左翼を批判することに反対。
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