総論部分
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/07 15:51 UTC 版)
第一巻および第二巻は総論部分であり、宣長が賀茂真淵に入門する以前34歳のときに短期間でまとめ上げて書いた最初の『源氏物語』評論である『紫文要領』(上下2巻)を補訂した内容である。この中で宣長は、物語とは何か、作者について、制作の由来、物語の名前などについて、前代までの諸説を紹介し、その上で彼自身の考えを記している。中でも「大むね」「なほおほむね」には紙面を費やし、『源氏物語』中の「物語」という語の用例を求め、また蛍巻で光源氏と玉鬘の間で交わされた「物語論」を分析し、物語中における「よきあしき」が仏教や儒教でいう善悪とは異なることを論証した。「此物語は、よの中の物のあはれのかぎりを、書あつめて、よむ人を、深く感ぜしめむと作れる物」と結論づけた上で、「物のあはれ」に関して詳しく説明を加えた。『源氏物語』の主題を勧善懲悪や好色の戒めとしてきた熊沢蕃山『源氏外伝』や安藤為章『紫家七論』等の立場を否定し、人間の純粋な感動としての「物のあはれ」を本質と説いたこの宣長独自の物語論は、『源氏物語』を中世以来の道徳的文学観から解放した画期的な文学論として高く評価されており、この『源氏物語玉の小櫛』を、『源氏物語』研究の流れの、ひとつの節目と捉える研究者もいる。なお、「物のあはれ」説は、本書以前に1763年(宝暦13年)に完成した『紫文要領』及び第2の歌論書である『石上私淑言』で既に詳述されているものであるが、それらと比較したとき、広く公刊された本書『源氏物語玉の小櫛』の記述はむしろ抑制されたものになっているとされることもある。 ※()内は対応する『紫文要領』の節名 第一巻すべての物語書のこと 此源氏の物語の作り主(作者の事) 紫式部の事(作者系譜の事、紫式部と称する事) 作れるゆえよし(述作由来の事) 作れる時世(述作時代の事) 此物語の名の事(題号の事) 准拠(準拠の事) くさぐさの事(雑々の事) 注釈(注釈の事) 引歌というものの事 湖月抄のこと おおむね(大意の事) 第二巻なほおおむね くさぐさのこころばへ(歌人此の物語を見る心ばえの事) 宣長は、この総論部分において「物語」の正しい理解が、『源氏物語』の正しい理解につながると考え、特に「蛍巻」に書かれた光源氏と玉鬘2人の「物語」論を精密に分析している。その結果、「此段のこゝろ明らかならざれば、源氏物語一部のむね、あきらかならず」としており、この『源氏物語』の根底にあるのは何か。宣長は「物のあはれ」だという。「此物語は、よの中の物のあはれのかぎりを、書きあつめて、よむ人を感ぜしめむと作れる物」であり、そこに儒仏の倫理観を持ち込んでも意味がないことを主張する。
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