本文系統とは? わかりやすく解説

本文系統

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/26 01:10 UTC 版)

源氏物語の写本」の記事における「本文系統」の解説

青表紙本」、「河内本」、および「別本」も参照 源物語写本はしばしば本文系統によって「青表紙本本文を持つ写本」・「河内本本文を持つ写本」・「別本本文を持つ写本」に分類される校異源氏物語及び源氏物語大成校異編においては源氏物語の写本上記三つ区分分けて列挙しており、源氏物語別本集成では「別本本文を持つ写本」のみを対象とし、河内本源氏物語校異集成では「河内本本文を持つ写本」のみを対象にしている。このような3区分は、古注釈時代から存在した青表紙本」・「河内本」という二つ系統元に池田亀鑑がこの二つ含まれない諸写本を「別本」として加えて成立させたものである。この3区分法自体はこれ以後主流考え方になっていったが写本このような区分に従って分けることについてはさまざまな問題指摘されている。 阿部秋生により、「外形的な特徴重きを置いて古伝承にある「青表紙本」や「河内本」が存在しているという前提でそれに該当する伝本探し求めるという池田方法異例であり、奇異な方法である」「伝本分類本文そのもの比較中心に据えるのが本来の姿であろう」「さらにもし青表紙本古伝本系別本一つであるはずの藤原定家目の前にあったある写本の中の一つ忠実に写し取ったのであるならば、青表紙本とは実は古伝本系別本一つであるということになる。」との批判加えられた。阿部主張のもとになっている定家書写した青表紙本本文本当に元の写本本文手を加えず忠実に写し取った」という点については、石田穣二による「意図しない単純な誤写わずかに確認できるものの、意図的な改変存在しない」とする見方存在するものの藤原定家により紀貫之自筆本から書写された『土佐日記』の写本定家息子である藤原為家による紀貫之自筆本から書写された写本比較すると、仮名遣いなどを中心に本文意識的に整えたと見られる部分存在することなどから定家によるある程度意識的な本文整定は何らかの形で存在するとの見方が有力になっている源氏物語54からなる長大作品であるために最初からひと組の写本複数人書写したり、何らかの理由欠けた写本についてもともと別々の写本であったものを組み合わせて一つ写本にしたり、欠けた部分のある写本欠けた部分新たに書写して補うといった部分を持つ「取り合わせ本」が数多く存在しこのような取り合わせ本」では本文系統についても巻ごとに異なった本文系統に属するといったことが少なくなく、またこのようにしてできあがった取り合わせ本」をもとに書写行った場合にはその写本はたとえ一筆写本であっても最初から複数の本文系統が混在していることになる。また程度の差はあるものの、多く写本では本文一度書かれてそれがそのまま伝えられるではなく何らかの校合が行われ、本文訂正が行われている。このような本文訂正は、最初に書写されたとき(またはその直後)に、書写元になった写本照合した上で誤写訂正したような場合除いて複雑な本文上の問題生じさせることになる。大島本尾州家河内本など代表的な写本多く当初書かれたものとは異な系統本文を持つ写本照合して校合認められる。 また「青表紙本」や「河内本といっても、実際の写本本文では、「純度の高い青表紙本」から「河内本に近いものを含む青表紙本」・「河内本に近いというわけではないが独自の異文を含む青表紙本」といったものや「青表紙本に近い別本」・「河内本に近い別本」といったものまで存在し、その性質一様ではない。またそのような判断が人によって、また研究の進展によって変化することも少なくない例え大島本初音巻は当初池田亀鑑によって「別本本文を持つ巻である」として『校異源氏物語』(1942年昭和17年))では底本採用されず、『源氏物語大成 校異篇』(1953年昭和28年))にもそのまま引き継がれたが、『源氏物語大成 研究資料篇』(1956年昭和31年))ではかつての自身見解を「さらに慎重な検討がなされなければならない」として再検討必要性認めるような論述も行うようになったその後さまざまな研究者によってこの大島本初音帖の本文の性質については検討続けられたが、 玉上琢弥源氏物語評釈 第5巻角川書店1978年昭和53年阿部秋生秋山虔今井源衛校注・訳源氏物語 3 日古典文学全集 14小学館1972年昭和47年11月 ISBN 4-09-657014-1 石田穣二清水好子校注『源氏物語』新潮日本古典集成(全8巻)(新潮社1976年昭和51年) - 1980年昭和55年)) 阿部秋生『源氏物語』完訳日本の古典(全10巻)(小学館1983年昭和58年) - 1988年昭和63年)) 阿部秋生『源氏物語』新編日本古典文学全集(全6巻)(小学館1994年平成6年) - 1998年平成10年)) といった大島本底本採用した多く校本源氏物語大成方針受け継いでこの初音帖については大島本採用がされなかった一方で池田亀鑑当初見解である「大島本初音帖の本文別本である。」とする見方誤りであるとする見方少なからず存在する。 また近年では個々写本位置づけについての妥当性とどまらず阿部秋生等によって「青表紙本藤原定家目の前にあった一つ写本(それは当然古伝本系別本である)を忠実に写しとったのならば、その結果生まれた青表紙本も実は別本であると考えざるを得ないではないか」といった問題提起がなされ、源氏物語本文を「青表紙本」・「河内本」・「別本」の三系統分類すること自体妥当性問題にされるようになってきており、「源氏物語別本集成 続」では、青表紙本別本含めて河内本として扱われるべき写本以外の全ての写本全て別本として扱う」といった方針とられるようになっている。またこのような二分法をとる立場中には青表紙本」を「いわゆる青表紙本」と呼んでみたり、さらには青表紙本」・「河内本」という呼び方避けてこれまで河内本と言っていたもの中心とするグループを「甲類これまで青表紙本」や「別本」と呼んでいたものを「乙類」 といった呼び方をすることもある。 1990年代以降には、多く漢字を含む文学作品コンピュータによるデータ処理容易になり、本文の性格を表すときに、個別本文比較した上で文節レベルでの一致数(率)や不一致数(率)を計算しそのような数字元にして定量的表現によって写本本文相互の「近さ」や「遠さ」を示すことが以下のようにしばしば行われるようになってきており、これまでのような「青表紙本である(またはない)」・「河内本である(またはない)」などといった定性的表記に代わって使用されることも増えつつある。 第11花散里における分析結果 写本の名称大島本との一致尾州家本との一致伝統的な区分による本文系統おおしまほん大島本 100% 064% あおひょうしほん青表紙本 ようめいぶんこほん陽明文庫本 079% 064% べつほん別本 ほさかほん保坂本 091% 067% べつほん別本 びしゅうけほん尾州家本 064% 100% かわちぼん河内本 ありまほん阿里本 061% 083% べつほん別本 ぎょぶつほん御物本 078% 063% べつほん別本 むにゅうほん麦生本 062% 084% べつほん別本 つるみだいがくほん鶴見大学本 081% 070% くにふゆほん国冬本 085% 063% べつほん別本 えいりげんじものがたり絵入源氏物語 085% 064% あおひょうしほん青表紙本 かしらがきげんじものがたり首書源氏物語 088% 064% あおひょうしほん青表紙本 こげつしょう湖月抄 082% 062% あおひょうしほん青表紙本 にちだいさんじょうにしほん日大本 094% 064% あおひょうしほん青表紙本 しょりょうぶさんじょうにしほん書陵部蔵本 082% 063% あおひょうしほん青表紙本 ていかほん藤原定家自筆本 096% 065% あおひょうしほん青表紙本 きゅうしゅうだいがくほん九州大学本 093% 064% あおひょうしほん青表紙本 ほくにぶんこほん穂久邇文庫本 090% 063% でんためあきひつほん伝為明筆本 092% 063% あおひょうしほん青表紙本 ふしみてんのうほん伏見天皇本 093% 063% きょうだいちゅういんほん京大中院本 094% 064% あおひょうしほん青表紙本 たいしょうだいがくほん大正大学本 079% 073% あおひょうしほん青表紙本 しょうはくほん肖柏080% 074% あおひょうしほん青表紙本 こくぶんけんせいてつほん国文正徹本 091% 063% あおひょうしほん青表紙本 たかまつみやけほん高松宮家本 063% 098% かわちぼん河内本 こうのびじゅつかんほん河野美術館本 082% 069% 第14澪標における分析結果 写本の名称大島本との一致尾州家本との一致伝統的な区分による本文系統おおしまほん大島本 100% 074% あおひょうしほん青表紙本 しょりょうぶさんじょうにしほん書陵部蔵本 096% 074% あおひょうしほん青表紙本 ほさかほん保坂本 096% 074% べつほん別本 くにふゆほん国冬本 095% 074% べつほん別本 にちだいさんじょうにしほん日大本 095% 074% あおひょうしほん青表紙本 ふしみてんのうほん伏見天皇本 094% 072% ようめいぶんこほん陽明文庫本 093% 073% まえだほん前田本 091% 071% とうきょうだいがくほん東京大学本 091% 072% ほくにぶんこほん穂久邇文庫本 091% 070% ありまほん阿里本 087% 071% べつほん別本 むにゅうほん麦生本 086% 070% べつほん別本 びしゅうけほん尾州家本 074% 100% かわちぼん河内本 たかまつみやけほん高松宮家本 073% 098% かわちぼん河内本 かくひつげんじ各筆源氏 069% 086% かわちぼん河内本 つるみだいがくほん鶴見大学本 064% 067% 第38鈴虫における分析結果 写本の名称大島本との一致尾州家本との一致伝統的な区分による本文系統びしゅうけほん尾州家本 094% 100% かわちぼん河内本 ためいえほん為家本 094% 098% かわちぼん河内本 しゅんぜいほん俊成本 094% 098% かわちぼん河内本 ほうらいじほん鳳来寺本 093% 098% かわちぼん河内本 写本記号「雅」 093% 097% かわちぼん河内本 げんじものがたりたいせいていほん源氏物語大成底本 099% 096% あおひょうしほん青表紙本 いけだほん池田本 096% 096% あおひょうしほん青表紙本 にちだいさんじょうにしほん日大本 094% 096% あおひょうしほん青表紙本 ためうじほん為氏本 096% 095% あおひょうしほん青表紙本 しょうはくほん肖柏本 096% 095% あおひょうしほん青表紙本 にししたほん西下経一旧蔵本 095% 095% あおひょうしほん青表紙本 しょりょうぶさんじょうにしほん書陵部蔵本 094% 095% あおひょうしほん青表紙本 たかまつみやほん高松宮家092% 095% かわちぼん河内本 おおしまほん大島本 100% 094% あおひょうしほん青表紙本 よこやまほん横山本 094% 094% あおひょうしほん青表紙本 ふしみてんのうほん伏見天皇092% 093% ぎょぶつほん御物本 089% 092% かわちぼん河内本 かしらがきげんじものがたり首書源氏物語 089% 091% あおひょうしほん青表紙本 えいりげんじものがたり絵入源氏物語 089% 090あおひょうしほん青表紙本 こげつしょう湖月抄 089% 089% あおひょうしほん青表紙本 とうきょうだいがくほん東京大学本 085% 086% ようめいぶんこほん陽明文庫本 085% 085% べつほん別本 ほさかほん保坂080% 081% べつほん別本 ときつねほん言経本 080080% べつほん別本 ほくにぶんこほん穂久邇文庫本 075% 077% なかやまほん中山本 073% 075% ありまほん阿里本 072% 073% べつほん別本 むにゅうほん麦生本 072% 073% べつほん別本 えまきことばがき絵巻詞書 066% 069% くにふゆほん国冬本 050050% また写本属すとされる「本文系統」と個々本文異同との関係についても、加藤昌嘉は、宇治十帖の中で最大本文異同を示す東屋巻の一節の本文異同を例にとって、小さな差異除いたある発言有無特定の発言発話者の異なりと言った筋立て異なりによって現存する写本版本及び注釈書前提としていると見られる本文分類すると、以下のような5つグループ分かれることを明らかにし、その上でこのような実際本文異同状況説明理解するにあたってこれまで基準になるとされてきた「青表紙本」・「河内本」・「別本」という区分何の役にも立たない」としている。 区分 写本 版本 注釈書 A 周肖柏本明融本八木書店慶長古活字版嵯峨本絵入源氏物語湖月抄 B 大島本(青)日本大学三条西家本(青)飯島尾州家本(河)七毫源氏(河)高松宮家本(別)陽明文庫本(別)伏見天皇本源氏物語国文正徹本国冬本(別)後柏原院東海大学紹巴本中文庫本 九州大学寛永古活字版無跋無刊記整版本版本万水一露首書源氏物語 C 書陵部三条西家本蓬左文庫三条西家本蓬左文庫紹巴本 元和本 弄花抄細流抄明星抄休聞抄孟津抄 D 穂久邇文庫本池田本(別) 一葉抄 E 保坂本(別)御物本(別)

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本文系統

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/07/26 01:14 UTC 版)

東京大学本源氏物語」の記事における「本文系統」の解説

池田亀鑑源氏物語大成研究資料)編において「「空蝉」、「紅葉賀」、「関屋」、「絵合」、「松風」、「初音」、「蛍」、「篝火」、「椎本」が河内本系、「澪標」、「朝顔」、「藤袴」、「幻」、「匂宮」が別本系、他の40の巻が青表紙本系にあたる」としており、伊藤鉄也は「別本とすべき巻に「初音」、「御法」が加わり、「篝火」、「行幸」、「柏木」、「鈴虫」、「紅梅」に青表紙本にも河内本にも無い語句が見られる」としている。 本文については「澪標」、「朝顔」などで特に保坂本との近似指摘されている。

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本文系統

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/12/29 05:48 UTC 版)

大正大学本源氏物語」の記事における「本文系統」の解説

本文系統は全体として当時主流であった青表紙本系統属するが、巻によって大島本近かった肖柏本や宮内庁書陵部三条西家本日本大学三条西家本近かったりするもので、一部別本である阿里本や麦生本に近い異文含んである。全体として現存するどれかの写本との直接継承関係は認められない

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