国際連合教育科学文化機関 国際連合教育科学文化機関の概要

国際連合教育科学文化機関

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/10 09:59 UTC 版)

国際連合教育科学文化機関
国際連合教育科学文化機関の旗
概要 専門機関
略称 UNESCO、ユネスコ
代表 オードレ・アズレ
状況 活動中
活動開始 1946年11月4日
本部  フランスパリ7区
フォントノワ広場
(Place de Fontenoy)
7番地
公式サイト en.unesco.org
UNESCO
Portal:国際連合
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フランスパリのユネスコ本部庁舎と平和の庭(日本庭園)イサム・ノグチ製作
日本ユネスコ国内委員会が入居する東京都霞が関コモンゲート東館(右側)

1945年11月に44カ国の代表が集い、イギリス・ロンドンで開催された国連会議 "United Nations Conference for the establishment of an educational and cultural organization" (ECO/CONF)において11月16日に採択された[1]国際連合教育科学文化機関憲章」(ユネスコ憲章)に基づいて1946年11月4日に設立された。

分担金(2022年現在)の最大の拠出国はアメリカ合衆国 (15.493 %)、2位は中華人民共和国(15.254 %)3位は日本 (8.033 %) である。[2]

概要

英語の正式名称は United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization。その頭字語である UNESCO英語発音: [ju(ː)néskoʊ]スコウ)も公式に用いられ、日本語では「ユネスコ」と称する。フランス語の場合はOrganisation des Nations unies pour l'éducation, la science et la cultureだが、略称としては一般に英語に準じて UNESCO (Unesco, U.N.E.S.C.O.) を用いる[3][4]。本部はフランスパリにある。

「教育や文化の振興を通じて、戦争の悲劇を繰り返さない」との理念により設立の意義を定めたユネスコ憲章の前文には「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和の砦を築かなければならない」との文言がある。

活動にあたっては、重点的に推進する目標として「万人のための基礎教育」「文化の多様性の保護および文明間対話の促進」などを定める。それに基づき、例えば前者に関しては識字率の向上や義務教育の普及のための活動、後者については世界遺産の登録と保護、文化多様性条約の採択のほか、歴史的記録遺産を保全するユネスコ記憶遺産(世界の記憶)事業などを実施する。そのほか、極度の貧困の半減、普遍的初等教育の達成、初等・中等教育における男女差別の解消、持続可能な開発のための教育危機に瀕する言語の保護などを内容とするミレニアム開発目標など、国際開発目標達成を目指す。

ユネスコの最高機関は全加盟国が参加する総会である。総会において各国はそれぞれ1票を持ち、ユネスコの政策や事業計画についての決定を行う[5]。総会での議決はユネスコ憲章の改正などの重要事項については加盟国の3分の2の賛成が必要となるが、通常の事項については過半数の賛成で決定される。総会は2年に一度、通常はパリにおいて開催される。この総会の決定に基づく計画の監督や、事務局が作成した予算計画などを総会にかける前に審議するのが執行委員会である。執行委員会は1年に2回開催される。この両機関の下に、事務局他実行機関が存在する。事務局長はユネスコの代表となっている。パリの本部のほか、世界各地に通常複数国を管轄する地域事務所が置かれている。また、各国にはそれぞれユネスコ国内委員会が設置され、ユネスコ本部と各国政府との間の連絡機関となっている。日本にも、日本ユネスコ国内委員会が設置されている。

ユネスコ活動の普及と理解促進のため、世界の著名人を「ユネスコ親善大使」に任命し、様々な活動を行っている。

歴史

1946年11月4日に設立されたのち、ユネスコは徐々に加盟国を増加させ、活動も多岐にわたるようになった。1951年にはいまだ国際連合本体に加盟していなかった日本が加盟するなど敵国条項が適用される旧枢軸国の加盟も比較的早期になされたが、何よりも大きな影響を与えたものは1954年ソビエト連邦の加盟である。これによりユネスコは共産諸国(冷戦下の東側諸国)にも活動の場を広げ、さらに1950年代から1960年代にかけてアジアアフリカの新独立国が次々と加盟を果たし、加盟国の大半が南側諸国によって占められるようになった[6]。これはユネスコの活動を大規模化させることとなったが、本来設立の中心となった欧米先進諸国が数の上では少数派となったことにより両派の間で対立が起こるようになった[6]

1980年代から、放漫財政等のマネージメントの問題に加え、活動が「政治化」していることに先進諸国の間で不満が高まってきた[6]。中でも問題となったものが、当時のムボウ事務局長が提唱した「新世界情報秩序」である。これは、世界の情報の流れが先進国から一方的に発信されている状況を是正しようとするものであり、発展途上国の間で強い支持を得たものの、この議論の中で東側諸国がジャーナリストの認可制の導入を提唱したこともあり、この計画は報道の自由を制限するものだとして、先進国からは強い反対の声が上がった[7]。これを一番の原因として1984年に最大の分担金拠出国であったアメリカ合衆国が、次いで1985年にはイギリスおよびシンガポールが脱退し[8]、ユネスコの存続は危機に立たされた。この間日本は、ユネスコにとどまり、分担金の約4分の1近くを担う最大の拠出国となった。結局、イギリスは1997年7月に、アメリカ合衆国が2003年10月、シンガポールが2007年10月にそれぞれユネスコに復帰した[9]

2023年7月現在の加盟国数は194ヶ国[注 1]、準加盟12地域[注 2]である[10]。またバチカンがオブザーバーとして参加している。最も新しい加盟国はアメリカ合衆国(原加盟国だが脱退・再加盟により194番目の加盟国として扱われる[11])、一度も加盟した実績のない新規加盟国はパレスチナ国日本1951年7月2日に加盟[12]

パレスチナ加盟をめぐる対立

2011年10月31日に総会が開かれ賛成107、反対14、棄権52でパレスチナ国が国としての正式加盟を承認した。アメリカ合衆国、イスラエルなどは反対し、日本などは棄権[13]アメリカ合衆国国務省は、この決議案採択への対抗措置として、ユネスコ分担金の停止を実行し、2017年10月にはユネスコを再脱退すると表明[14]。2018年12月31日に脱退が発効し、オブザーバー参加となった。またイスラエル外務省は、パレスチナを非難すると共にユネスコとの協力関係について再検討すると表明し、2017年10月に同国はアメリカに続いて脱退を表明した[15]。なお分担金負担停止から2年経過した2013年に、両国は議事への投票資格が停止されている。アメリカは2023年7月10日付で正式に再加盟した[16][17]


注釈

  1. ^ リヒテンシュタインイスラエルを除いた国際連合加盟国191ヶ国、ならびにパレスチナクック諸島ニウエの3ヶ国・地域。
  2. ^ イギリス領アンギラ英領ヴァージン諸島ケイマン諸島モントセラトオランダ領アルバキュラソーシント・マールテンデンマーク領フェロー諸島中国特別行政区マカオニュージーランド自治領トケラウの9地域。フィンランド自治県のオーランド諸島、フランス領のニューカレドニア
  3. ^ 2度の脱退と再加盟を経験している。1946年11月4日から1984年12月31日まで加盟国であったが脱退し、2003年10月1日に再加盟を果たすも2018年12月31日に再度脱退しオブザーバー参加となる。2023年7月10日に再加盟した。
  4. ^ 1946年から1971年までは 中華民国
  5. ^ 1965年3月11日から1972年12月31日まで加盟国だったが脱退し、1974年9月11日に再加盟した。
  6. ^ ユーゴスラビアは1950年3月31日から1992年9月22日まで加盟国であったが、国連総会決議 47/1により会員資格を停止された。 ユーゴスラビア連邦共和国は自動的に会員資格を継承することができず、2000年12月20日に新規加盟した。ユーゴスラビア連邦共和国は2003年にセルビア・モンテネグロへ移行し、2006年のモンテネグロ離脱に伴いセルビアが資格を継承した。
  7. ^ 1965年10月28日から1985年12月31日まで加盟国だったが脱退し、2007年10月8日に再加盟した。
  8. ^ 1946年11月4日から1956年12月31日まで加盟国だったが脱退し、1994年12月12日に再加盟した。
  9. ^ 1946年11月4日から1985年12月31日まで加盟国だったが脱退し、1997年7月1日に再加盟した。
  10. ^ 1951年から1975年までは 南ベトナム

出典

  1. ^ United Nations Conference for the Establishment of an Educational and Cultural Organisation. Conference for the Establishment of an Educational and Cultural Organisation. Held at the Institute of Civil Engineers, London, from 1 to 16 November 1945. ECO/Conf./29. UNESDOC database” (PDF). 2014年11月4日閲覧。
  2. ^ "ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の概要". 日本国外務省. 2021-1-8. 2021-7-16時点のオリジナルよりアーカイブ2021-11-29閲覧 {{cite web}}: |date=の日付が不正です。 (説明)
  3. ^ UNESCO(ユネスコ公式サイト・フランス語版)
  4. ^ 『ロベール仏和大辞典』(小学館)、『仏和大辞典』(白水社)、『スタンダード時事仏和大辞典』(大修館書店)ほか。
  5. ^ a b 「世界地理大百科事典1 国際連合」p311 2000年2月1日初版第1刷 朝倉書店
  6. ^ a b c 「国際機構 第四版」p192 家正治・小畑郁・桐山孝信編 世界思想社 2009年10月30日第1刷
  7. ^ 「世界地理大百科事典1 国際連合」p318 2000年2月1日初版第1刷 朝倉書店
  8. ^ 「世界地理大百科事典1 国際連合」p310 2000年2月1日初版第1刷 朝倉書店
  9. ^ 「国際機構 第四版」p193 家正治・小畑郁・桐山孝信編 世界思想社 2009年10月30日第1刷
  10. ^ a b c d Member States” (英語). UNESCO. 2023年7月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年7月28日閲覧。
  11. ^ The United States' return to UNESCO commemorated with a flag-raising ceremony”. UNESCO (2023年7月27日). 2023年7月28日閲覧。
  12. ^ 1951年(昭和26年)10月6日外務省告示第5号「在日連合王国連絡使節団から国際連合教育科学文化機関へのわが国の加盟に関しての通知趣旨受領」
  13. ^ “パレスチナ、ユネスコ加盟…米は「時期尚早」”. 読売新聞. (2011年11月1日). オリジナルの2011年11月2日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20111102010741/http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20111031-OYT1T01157.htm 2013年11月23日閲覧。 
  14. ^ “Unesco: US quits UN heritage agency over 'anti-Israel bias'”. The Guardian (ガーディアン). (2017年10月12日). https://www.theguardian.com/world/2017/oct/12/us-withdraw-unesco-december-united-nations 2017年10月12日閲覧。 
  15. ^ “イスラエルもユネスコ脱退 米の後追い、首相が表明”. 産経新聞. (2017年10月13日). http://www.sankei.com/world/news/171013/wor1710130017-n1.html 2017年10月13日閲覧。 
  16. ^ “ユネスコ アメリカの正式復帰を発表 トランプ前政権時代に脱退”. NHKニュース. (2023年7月12日). https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230712/amp/k10014126171000.html 2023年7月12日閲覧。 
  17. ^ “米、ユネスコ再加盟 トランプ政権時代に脱退”. 産経新聞. (2023年7月12日). https://www.sankei.com/article/20230712-4BBD22F45JK6FPPIPTWQ7LS7JY/ 2023年7月12日閲覧。 
  18. ^ 松浦晃一郎(20)無形文化遺産”. 日本経済新聞 (2020年8月21日). 2020年12月23日閲覧。
  19. ^ UNESCO official site: Previous Sessions of the General Conference Archived 2011年10月25日, at the Wayback Machine.
  20. ^ President of the 38th session of the General Conference”. UNESCO. 2015年11月11日閲覧。
  21. ^ General Conference 37th | United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization”. www.unesco.org. 2015年9月25日閲覧。
  22. ^ Executive Board – Results of elections. UNESCO General Conference, November 2015. Retrieved 12 November 2015.
  23. ^ Table_2013-2015.pdf UNESCO Membership by Electoral Groups. Retrieved 12 November 2015.
  24. ^ admin (2015年5月27日). “The IBE Team”. 2016年8月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。
  25. ^ UIL - UNESCO Institute for Lifelong Learning”. 2017年4月7日閲覧。
  26. ^ IIEP UNESCO”. 2017年4月7日閲覧。
  27. ^ UNESCO IITE”. 2017年4月7日閲覧。
  28. ^ IICBA official site”. 2017年4月7日閲覧。
  29. ^ Inicio”. 2017年4月7日閲覧。
  30. ^ UNESCO-UNEVOC - Promoting learning for the world of work”. 2017年4月7日閲覧。
  31. ^ CEPES official site”. 2010年9月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年4月7日閲覧。
  32. ^ Home - UNESCO-IHE”. 2017年4月7日閲覧。
  33. ^ ICTP - International Centre for Theoretical Physics”. 2017年4月7日閲覧。
  34. ^ UNESCO Institute for Statistics: UNESCO Institute for Statistics”. 2017年4月7日閲覧。
  35. ^ International Days | United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization. UNESCO. Retrieved 12 July 2013.
  36. ^ a b List of the Member States and the Associate Members of UNESCO and the date on which they became Members (or Associate Members) of the Organization”. UNESCO. 2023年7月28日閲覧。
  37. ^ UNESCO. “South Sudan – United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization”. 2013年8月19日閲覧。
  38. ^ WADA. “Summary update on Government progress to become a State Party to the UNESCO International Convention against Doping in Sport” (PDF). p. 2. 2013年1月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年7月28日閲覧。






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