第4世代主力戦車
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/06 15:16 UTC 版)
20世紀の内にも登場するはずであった「第4世代主力戦車」は未だ模索の段階であり、世界的な定義は決定していない。背景には東西冷戦の終結によって、正規戦が起こる蓋然性が低下し、戦車の性能向上がそれほど重要視されなくなった。同時に、戦車開発史上もっとも一般的な手法であった、「サイズを拡大することで主砲の大口径化と防御力向上を達成する」ということが困難になったからである。なぜならば、物理的条件から70tを超えるような戦車は輸送や装甲の追加が困難で、走行可能な地形にも制限がかかるなど、主力戦車としての運用に支障が出るのである。 この問題を解決するために、サイズ拡大によらない性能向上が模索されている。その一つに有人車両からコントロールする無人のロボット僚車や戦車機能を数両で分担するなど斬新なアイデアも提案されている。サイズの縮小によって軽量化を達成した戦車は東側戦車、ルクレール、10式、K2が該当し、現代の西側戦車の60トン後半の重量に対し、これらの戦車は60トン未満の重量となっている。米国のM1A3計画のように軽量化に追従するものも存在する。 2010年度に装備化された10式戦車では、可視系の視察照準にハイビジョンカメラを用いたモニター照準方式を世界で初めて戦車に採用、複数の目標を同時に捕捉識別する高度な指揮・射撃統制装置に加え、リアルタイムで情報を共有できる高度なC4Iシステムなどを装備しており、例えば小隊が複数の目標を同時に射撃するときシステムが最適な目標の割り振りを自動的に行って同時に発砲したり、小隊長が小隊内の他の戦車の射撃統制装置をオーバーライドして照準させることも可能である。また、1990年度に制式化された90式戦車では実現困難だった水準の小型軽量化を実現し戦略機動性が向上、戦術機動性も油圧機械式無段階自動変速操向機 (HMT) の採用により向上した。 戦車以外の中軽量級の戦闘車両の開発では、プラットフォームの共通化によって開発、生産、運用といった面での経費節減と運用効率向上を図ることがあったが、ロシアではアルマータと呼ばれる装軌車両用の共通車体プラットフォームを基に次期主力戦車T-14の開発が進められている。T-14は10式戦車と同じく車長と砲手の視察照準にはモニター照準方式が採用されていると考えられ、長山号やアメリカ軍のArmed Robotic Vehicle(ARV) 等とは異なり有人戦車だが乗員を必要としない遠隔操作モードが試験段階にある。一方、ドイツではウクライナ問題の影響から戦車の配備数を増やし近代化改修を進める動きがあり、T-14の配備がドイツとフランスの次期主力戦車計画にどのような影響を与えるか今後の動向が注目される(ドイツとフランスでそれぞれ配備中の主力戦車レオパルト2およびルクレールの後継機開発計画であるEMBTでは、新規開発の130mm滑腔砲搭載により攻撃力の向上を図り、68トン積載可能なレオパルト2A7からのシャーシ及びエンジンに、自動装填装置を備え乗員2名のルクレールの砲塔を併せることで、軽量化に伴う機動力の向上が見込めるとされる)。各国の技術開発・研究などから、戦車は将来的に以下のような発展をみせると予想されている。 主砲 弾頭を長くすることで貫通力は向上する。ロシアのT-14で使用されるヴァキュームと呼ばれる砲弾はM829A3等と比べて弾頭が長いため貫通力が高い。大型砲弾は携行弾数が減るデメリットがあるが、T-14は乗員用の空間を減らし弾薬庫の空間を増やすことで40発以上の携行弾数を実現している。また、ヴァキュームは装薬分離式砲弾のため戦車への積み込み作業も重さの割には負担が軽く、自動装填装置を搭載しているため戦闘時の人力での装填による重量限界も無い。120mm級の戦車砲より威力が高い130mm級の戦車砲は反動も大きくなるため、反動を抑えるのに必要な重量は70トンから80トンに達すると想像され、現在の技術で取り扱える重量限界を超えるといった問題点がある。ラインメタル社では反動低減のための研究が進行中であるが、10式戦車では主砲の反動を計算して圧力を調整し反動を吸収するアクティブ・サスペンションの導入により44トンの車体に120mm砲の搭載を実現しており、今後同様の手法で重量を抑えつつ130mm級主砲を搭載した車輌が出現する可能性も考えられる。 主砲の新技術として液体装薬、リニアモーターの原理で弾体を磁気の力で加速して打ち出す静電砲(リニアガン/コイルガン)、ローレンツ力を利用した電磁投射砲(レールガン)があるがいずれも実用化にはまだ遠い。 防護 防護性能の向上では、被弾する可能性が最も高い砲塔の露暴面積を縮小する努力が払われ、頭上砲 (Overhead Gun) をほとんど無装甲で搭載した無砲塔戦車が構想された。主砲を操作する乗員を砲塔リングより下の砲塔バスケット内に配置して砲塔を小型化する低姿勢砲塔(Low Profile Turret:LPT)については、ヨルダン陸軍の主力戦車「アルフセイン」(輸出されたチャレンジャー1)の最新改良型に、南アフリカの企業と共同開発した「ファルコン2」砲塔を搭載し、即応弾は主砲の後方に搭載している。乗員全員を車体前方に搭乗させ、砲塔を車体内から遠隔操作することで砲塔を小さくした無人砲塔はロシアのアルマータプラットフォームやクルガネツプラットフォームが有名で、ドイツのプーマも数少ない成功例である。またT-14は角ばった外見でステルス性も考慮している。 電磁装甲も、未来技術であり実用化の目処はたっていない。 アクティブ防護システム センサーによる周辺の監視によって被弾自体を防ぐアクティブ防護システム(Active Protection System:APS)がある。システムは多くの企業が開発しているが、実際に軍の戦車に採用されるものは数少ない。レーザー照射をセンサー類で探知するレーザー警報装置はT-90、ルクレール、PT-91、アリエテ、10式、K2、Strv122で採用され、連動して煙幕を展開する機能を備えるものもある。飛翔体の接近をレーダーで探知し自動的に擲弾で迎撃するハードキルAPSはイスラエルのラファエル社製のトロフィー(メルカバMk.4へ採用)がある。一方で、探知用のレーダー波で自らの位置を暴露してしまうことや地上は空中や海上に比べて干渉要素が多くレーダー探知が有効に機能しにくいこと、ミサイルを迎撃するための反撃に、戦車付近に展開している随伴する歩兵を巻き込む恐れがある。 装輪戦車 詳細は「装輪戦車」を参照 ソマリアの戦訓やイラク戦争の戦果は装甲車や歩兵戦闘車の有用性を示すものであった。戦闘車両の主敵は敵の戦闘車両ではなくなりつつあり、RPGや路肩爆弾などへの防護が求められるようになっている。また決戦兵器としてではなく歩兵支援兵器として輸送に適し小型軽量、高速走行できる軍用車両の必要性が高まり、従来とは異なった兵器体系の模索が開始された。 こういった戦車類似車両を含む新たな戦闘車両体系は、いずれも味方側との無線ネットワークを使って情報化された高度に有機的な運用方法を想定しているため、戦闘車両単体での購入では能力は発揮できず、導入時には戦闘ファミリー全体の保有が求められる。このような戦闘車両が海外へ輸出販売される場合には、兵器技術の拡散という負の側面もあるが、兵器メーカーでは広範な兵器システムの売り込みが図れ、輸出国では購入国への軍事的影響力がこれまでの単体兵器以上に大きくなると考えられる。冷戦の終結により大規模戦争の可能性は小さくなっており、低脅威度地域紛争への派兵にともなう新たな戦闘車両への要求が大きくなっている。 装輪装甲車が対戦車用に備える火力は、軽量・無反動で射程が長く破壊力も大きい対戦車ミサイルが有効であるが、反面で一定の距離よりも遠くしか攻撃できず発射や再装填に時間がかかり即応性に制約があるという弱点もある。各国の軍事費削減や緊急展開能力への要求から、南アフリカのルーイカットやイタリアのチェンタウロ戦闘偵察車や日本の16式機動戦闘車のように戦車の様な火砲を搭載した装輪装甲車を導入する例がある。また、Stridsfordon 90やASCOD歩兵戦闘車など装軌装甲車をベースにした事例もある。これらの武装は76 - 120mm砲クラスの低反動砲であり旧世代戦車や戦車以下の装甲車両に対処できる攻撃力を持ち即応性も高く、陣地破壊や狙撃手の掃討といった高価なミサイルを使っていては費用対効果の悪い任務にも対応できるなど多用途性の面では優れている。 経済的に主力戦車を導入できない国がその代替として機動砲を導入する場合や、空輸での利便性が評価されて導入が進む場合が多い。とはいえ、RPGのような近接対戦車兵器は途上国でもよく普及しており、たとえばストライカー装甲車では戦車のような歩兵の盾としての役目は果たせず、イラク戦争においてはRPGへの対策としてカゴ状の追加装甲を取り付けることを強いられている。さらに走行装置にタイヤを用いるため、射撃時の安定性が戦車よりも劣り、射撃後の揺動を短時間で抑える安定化システムが必要となる。道路外での走破性も装軌式車輌に比べれば低く、機動力を維持するためにはパンクレスタイヤやタイヤ空気圧調整システムの装備も必要となる。結局のところ機動砲は火力支援のための自走砲であって、戦車とは配備旅団が異なるなど戦車の完全な代替には成り得ないという意見が強いが今後の推移が注目される。
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