戦術機動性
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2005年(平成17年)10月25日に防衛省技術研究本部のサイト内に新設された「外部評価委員会 評価結果の概要」は、新戦車のエンジンは「90式戦車と同等あるいはそれ以上の機動性能を実現可能な、新戦車用動力装置(エンジン、冷却装置および変速装置)」を目的とした試作がなされ、 4サイクル水冷ディーゼルエンジン 可変ノズル排気ターボ過給装置方式 電子制御式ユニットインジェクタ方式 90°V型8気筒 の4点が試作品の基本設計結果としている。 この新戦車用機関の設計について外部評価委員会は「動力装置の設計は、現時点での最新技術を導入した正攻法なものと考えられる」とまとめている。 小型・軽量な水冷4サイクルV型8気筒ディーゼル機関を採用し、燃費向上や黒煙低減などが図られている。最大出力は1,200ps/2,300rpm。出力重量比は約27ps/tで、90式の約30ps/tと比べれば若干低いが、出力1,500ps重量55tの戦車とほぼ同等である。また、後述のHMTにより伝達効率が改善されており、スプロケット軸出力は90式と同等と発表されているため実質の出力重量比は90式よりも高くなる。なお、国産戦車における4サイクルディーゼル機関の搭載は61式戦車以来となる。 また、変速操向機には変速比を最適に制御できる油圧機械式無段階自動変速操向機(HMT, Hydro-Mechanical Transmission)を採用している。車両質量当たりのスプロケット(起動輪)出力は現有戦車に対して格段に向上しているとされ、90式の半分の半径で旋回が可能だという。また、後退速度も70km/hを発揮することができる(2010年7月11日、富士学校・富士駐屯地開設56周年記念行事における10式戦車試作車の走行展示にて前進速度と後進速度は同じ70km/hであると解説されている)。 水冷4サイクルV型8気筒ディーゼル機関と、無段階自動変速操向機(HMT)の組み合わせにより、動力装置(パワーパック)の高効率・高応答化、そして小型・軽量化を実現している。 エンジンの燃費に関しては90式と比べ省燃費となり、携行燃料は90式の1,100リットルから880リットルに減少しているとされ、これによるタンク容積の節約も車体の小型・軽量化に寄与しているとされる。 懸架装置は74式戦車と同じく全転輪が油気圧式となり、90式では省略されていた左右への車体傾斜機能が復活している。また、転輪の数は片側5個の等間隔となり、90式の6個より減少している。車体の振動の制御のために、アクティブサスペンションもしくはセミアクティブサスペンションが採用されていると言われることがあるが、実際には開発過程でセミアクティブサスペンションの試験が行われたのみであり、パッシブサスペンションである。 操縦士席の様子は公開されていないが、操縦士用ハッチはスライド式で、車体の前面と後面には、操縦士用潜望鏡とは別に操縦士用の視察装置があり、操縦士はモニターを見ながら操縦するとされている。また、2007年に当時の技術研究本部長が『MAMOR』のインタビューで、今までメーター型だった計器をフラットパネル化する予定であると述べている。加えて、前述のニコニコ超会議2にて行われた「10式戦車開発者によるトークショー」では、冷暖房を装備していることを開発者が明かにしている。 10式戦車のエンジン機構は海外からも注目されており、トルコは開発を予定している新型戦車のエンジンに採用したいと希望していた。しかし、トルコは同時に開発した戦車を国外輸出する意向も持っており、第三国への技術流出を警戒する日本との間で条件が折り合わず、2014年3月、開発協議は棚上げとなった。 2018年4月8日に行われた第1師団創立記念行事において10式戦車の機動展示を実施しジャンプを披露した。 また、10式戦車では電子装置が増加したために消費電力が増加してしまい、バッテリーのみでは賄えなくなってしまったためメインエンジンが停止中であっても、補助的に電力を発電するための補助動力装置(APU)が搭載されている。 APUの吸気口は後方左側の溶接板により下向きに固定されている場所から吸気を行っている。また、排気は左側排気口をメインエンジンと共用して使用している。 メインエンジンが故障していてもAPUさえ起動出来れば砲塔の旋回、砲身の上下、及び車載機銃、主砲の撃発、車長用全周潜望鏡の使用等、平時と変わらない砲塔諸機能が使用できると推測される。
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