仇討ち
★1a.父の仇を討つ。
『あきみち』(御伽草子) あきみちは、父の仇金山八郎左衛門を討つため、北の方を遊女に仕立てて、金山のもとへ送る。北の方と金山八郎左衛門との間には子まででき、用心深い金山も北の方に心を許して、秘密の岩穴の寝所を教える。あきみちは寝所に待ち伏せし、金山八郎左衛門を討ち取る。
『捜神記』巻11-4(通巻266話) 父の仇楚王を狙う少年眉間尺(みけんじゃく)は、父の鍛えた名剣で自らの首をはね、その首と剣を旅人に託す。旅人は眉間尺の首を持って楚王に拝謁し、楚王は眉間尺の首を釜で3日3晩煮る。首がなかなか煮えぬので楚王が釜の中を見た時、旅人が剣で楚王の首を打ち落とす。つづいて旅人は自分の首も切る。眉間尺・楚王・旅人の3つの首が釜の中で煮えて、どれがどれだか区別がつかなくなる。
『曽我物語』 十郎が5歳、五郎が3歳の年、父河津三郎祐泰は工藤祐経の郎党に殺された。十郎・五郎は曽我祐信に養われ、父の死から18年目に、富士の巻狩りの場で仇祐経を討った。
『ハムレット』(シェイクスピア) ハムレットは、父王の仇クローディアスを討とうとして、誤って大臣ポローニアスを殺す。ポローニアスの娘オフィーリアは父を失った衝撃で正気を失い、水死する。オフィーリアの兄レアティーズは怒り、クローディアスにそそのかされて、毒剣でハムレットに致命傷を負わせる(*→〔剣〕5b)。ハムレットは、クローディアスを剣で刺し毒を飲ませて、父王の仇を討つが、自らも力尽きて死ぬ。
*→〔眠る怪物〕3の『古事記』下巻(目弱の王)・〔母殺し〕1の『エレクトラ』(エウリピデス)。
『恩讐の彼方に』(菊池寛) 実之助が3歳の時、父の旗本中川三郎兵衛は奴僕の市九郎に殺された。実之助は19歳で仇討ちの旅に出る。27歳の春、彼は九州に到って市九郎と出会う。市九郎は出家し名前を「了海」と変えて、洞門を掘っていた。老い衰えた了海を見て、実之助は、洞門貫通の日まで仇討ちを延期し、自らも掘削を手伝う。1年半後の秋の夜、洞門は貫通するが、もはや実之助に了海を討つ意志はなかった。
★1c.父が殺されそうなことを知った子供たちが、先回りして父の敵を討ち、父の命を救う。
『沙石集』巻7-6 武蔵の国でのこと。人妻と間男が共謀し、「筑紫から帰って来る夫を、待ち伏せて殺そう」とたくらむ。7歳と5歳の2人の子供がこれを知り、「間男を殺して、父の命を救おう」と相談する。2人とも幼くて力がないので、5歳の弟が、昼寝する間男の胸に刀の尖端を当て、7歳の兄が槌で刀を打ちこんで殺した。
★2.兄の仇を討つ。
『敵討義女英(かたきうちぎじょのはなぶさ)』(南杣笑楚満人) 駿河の桂新左衛門・浅太郎父子と下総の舟木逸平・茂之介父子は、伊豆の温泉で知り合い、親しく交際する。ところが息子同士がひそかに決闘し、浅太郎は討たれ、茂之介も傷を負って後に死ぬ。桂新左衛門は、舟木逸平が浅太郎を殺したと誤解し、帰国して次男岩次郎に「兄の仇を討て」と遺言して病没する。仇討ちの旅に出た岩次郎は美女小しゅんと恋仲になるが、彼女は舟木逸平の娘であり、岩次郎が闇の中で兄の仇と思って討ったのは小しゅんの首だった。舟木逸平と岩次郎の間の誤解がとけ、岩次郎は舟木逸平の養子になる。
*兄の仇を討とうとして、なかなか討てない→〔すれ違い〕1の『大菩薩峠』(中里介山)。
★3.父・兄の仇を討つ。
『真景累ケ淵』(三遊亭円朝) 羽生村の名主・怱右衛門は、妾お賤とその情夫新吉(*→〔兄妹婚〕5)の手で絞殺された。怱右衛門の長男・怱次郎とその妻お隅は、剣客・安田一角によって斬殺された。怱右衛門の次男である少年怱吉は、父および兄夫婦の仇を討とうと、旅に出る。怱右衛門の死から7年後、新吉は怱吉と出会って前非を悔い(*→〔鎌〕1)、安田一角の居所を怱吉に教えて自害する。怱吉は関取花車の助力を得て、安田一角を討つ。
★4.父・夫の仇を討つ。
『謝小娥伝』(唐代伝奇) 謝小娥は、男装して父と夫の仇を討った→〔男装〕3a。
★5a.夫の仇を討つ。
『黒衣の花嫁』(トリュフォー) 教会の尖塔の上の風見鶏をライフルで撃とうと、5人の男が戯れる。手元が狂って、結婚式を挙げて教会から出てきた花婿に銃弾が当たってしまい、花婿は死ぬ。花嫁ジュリーは夫の仇を討つため、5人の身元を調べて1人ずつ殺してゆく。4人まで殺したが、5人目は詐欺罪で収監されていたので、ジュリーはわざと逮捕されて刑務所へ入り、5人目の男を刺殺する。
『ニーベルンゲンの歌』 グンテル王の妹クリエムヒルトはジーフリト(ジークフリート)と結婚するが、ジーフリトは家臣ハゲネによって暗殺された。彼女は夫の仇を討つために、フン族のエッツェル王の後妻となる。クリエムヒルトは、ハゲネと兄王グンテルをはじめ、騎士・兵卒およそ1万人をエッツェル王の宮廷へ招き、フン族の戦士と闘わせて皆殺しにする。クリエムヒルト自身も、その残忍な所業を見かねた1人の武将の手で、斬り殺された。
★5b.夫を殺した人物でなく、夫の死の原因となった物を、敵(かたき)と見なして討つ。
『富士太鼓』(能) 宮中で管弦の催しがあり、楽人・浅間が、太鼓の役を命ぜられる。そこへ富士という楽人が、太鼓の役を望んでおしかけて来たので、浅間は富士を憎み、殺してしまう。夫の死を聞いた富士の妻は、「太鼓ゆえに夫は死んだ。太鼓が夫の敵(かたき)である」と言い、夫の形見の衣裳を着て、撥を剣代わりに、太鼓を打ちすえて恨みを晴らす。夫・富士の霊も来て、妻に力を添える。
★5c.暴行された妻と娘の仇を討ちたいと思うが、犯人が特定できないので、同類の犯罪者を何人も殺す。
『狼よさらば』(ウィナー) 犯罪が多発するニューヨーク。設計技師ポールの妻と娘が、不良青年の3人組に暴行された。妻は死に、娘は廃人になった。犯人は特定できない。怒りに燃えるポールは、夜の街を歩いて、犯罪者を見つけては拳銃で撃ち殺す。市民たちは、「誰かが警察に代わって、悪人を罰しているのだ」と喜ぶ。ポールは路上強盗と撃ち合って負傷し、病院へ運ばれる。警察はポールを逮捕せず、「転勤して他の町へ行け」と言う。
『鏡山旧錦絵(かがみやまこきょうのにしきえ)』 お家横領をたくらむ局(つぼね)岩藤は、邪魔になる中老尾上に「名香蘭奢待(らんじゃたい)を盗んだ」との濡れ衣を着せ、満座の中で尾上を草履で打ちすえる。その恥辱で尾上は自害する。召使のお初が主人尾上の潔白を明らかにし、岩藤を斬り捨てて、仇を討つ。
『仮名手本忠臣蔵』 高師直の悪口雑言に堪えかねて、塩冶判官は殿中で刃傷に及び、そのため判官は切腹、塩冶家は断絶、所領は没収される。家老大星由良之助が浪士を率いて師直屋敷に討ち入り、主君の仇を討つ。
*槍持ちの男が主人の仇を討つ→〔酒〕9の『血槍富士』(内田吐夢)。
★7.友人の仇を討つ。
『イリアス』 トロイア戦争の10年目、アキレウスがアガメムノン王と対立して戦線を離れ、アカイア軍は劣勢になる。アキレウスの親友パトロクロスが、アキレウスから武具を借りてトロイア軍に攻め入るが、ヘクトルに倒される。アキレウスは怒り、戦場に出てヘクトルと一騎討ちして殺し、親友の仇を討つ。
★8.親の敵(かたき)と知らずに殺す。意図せずに行なわれた仇討ち。
『怪談牡丹灯籠』(三遊亭円朝) 飯島平左衛門は若き日に、酔って言いがかりをつける黒川孝蔵を斬った。18年後、飯島の家に召し抱えた草履取り孝助は、偶然にも黒川の子だったので、飯島は「いつか孝助に討たれてやろう」と思う。孝助は飯島を父の仇と知らず忠義を尽くし、ある夜屋敷に忍び込んだ悪者を槍で突くが、それはかねて覚悟の飯島であり、孝助は意図せずに父の仇を討ったのだった〔*後、孝助は、主人飯島に害をなした御国・源次郎をも討つ〕。
『仮名手本忠臣蔵』5段目「山崎街道」 斧定九郎は闇夜の道で百姓与市兵衛を襲って殺し、50両入りの財布を奪う。そこへ与市兵衛の婿・早野勘平が来て、猪と間違えて鉄砲で斧定九郎を撃ち殺す。勘平は人間を殺してしまったことに驚き逃げ去るが、結果的に彼は、それと知らぬまま舅の仇を討ったわけであった→〔誤解による自死〕1。
『三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)』(河竹黙阿弥)「吉祥院本堂」 伝吉の息子十三郎が百両を落とし、それが何人かの手を経て、お坊吉三の所有になる。伝吉がお坊吉三に「百両を貸してほしい」と言うが、お坊吉三は断り、争いの末、お坊吉三が伝吉を斬り殺す。後にお坊吉三は、伝吉が父の敵(かたき)だったことを知る。かつて伝吉はお坊吉三の父安森源次兵衛から短刀庚申丸を盗み、そのため安森源次兵衛は切腹したのだった。
『かちかち山』(昔話) 狸が婆を殺し、婆汁を作って爺に食べさせ、逃げる。泣き悲しむ爺に、兎が「仇討ちしてやる」と言う。兎は狸の背負った柴に火をつけて火傷をさせ、傷口に辛子をすりこんで苦しめ、泥舟に狸を乗せて水に沈めてしまう。
『猿蟹合戦』(昔話) 猿が渋柿を投げつけ、蟹の甲羅を砕いて殺す。蟹の子が、親蟹の無残な死骸を見て仇討ちを誓い、石臼・焼栗・大蜂に助太刀を請う。彼らは計略をかまえ、「親蟹の初七日」と言って、猿を蟹の家へ招く。炉の中から焼栗が飛び出、庇から大蜂が刺し、石臼が猿の背中に乗る。蟹の子が、はさみで猿の首を切る〔*臼につぶされて猿が死ぬ、という形もある〕。
*虱の、人間に対する仇討ち→〔虱〕3の『古今著聞集』巻20「魚鳥禽獣」第30・通巻696話、『聊斎志異』巻8-304「蔵蝨」。
★10.日本および西欧の伝説・昔話などをもとに創作された、動物仇討ち物語。
『こがね丸』(巌谷小波) 里の荘官(しょうや)の番犬・月丸は、虎の金眸(きんぼう)大王に喰い殺された。月丸の死後まもなく生まれた子犬・黄金丸は、強くなって父の仇を討とうと、武者修行の旅に出る。旅の途中で知り合った猟犬の鷲郎が、黄金丸に力を貸す。彼ら2匹は、金眸の家来である狐の聴水を捕らえ、金眸の棲む洞の様子を聞き出す。黄金丸と鷲郎は洞に乗り込み、金眸と闘う。黄金丸は咽喉に噛みつき、鷲郎は睾丸に食いついて、ようやく金眸を倒すことができた。
『高田の馬場』(落語) 浅草の奥山で、若い姉弟が父の仇の侍と出会い、勝負を挑む。しかし、ここは観音様の境内だから血で汚すのは恐れ多いというので、双方が相談し、「明日、巳の刻に高田の馬場で果し合い」との約束をする。当日は大勢の見物人が高田の馬場に集まり、茶屋・料理屋は満員になる。実は、侍と姉弟は親子であり、「仇討だ」と言って人を集め、繁盛する店から礼金をもらって暮らしをたてていた。
『大菩薩峠』(中里介山)第15巻「慢心和尚の巻」 兄の仇を討とうとする宇津木兵馬に、慢心和尚が「敵討ちは大嫌いじゃ」と言う。兵馬「しからば、悪人をいつまでもそのままに置いてよろしいか」。和尚「よろしい」。兵馬「それがために善人が苦しめられ、罪なき者が難渋し、人の道は廃(すた)り、武士道が亡びても苦しうござらぬか」。和尚「苦しうござらぬ」。兵馬「現在、恥辱を受け、恨みを呑む人の身になって見給え」。和尚「誰の身になっても同じこと。わしは敵討ちをするひまがあれば、昼寝をする」。
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