眠る怪物
『ギリシア記』(パウサニアス)巻9-2-2 半人半魚の海神トリトンが、家畜を奪ったり小舟を襲ったりするので、タナグラの市民が酒がめを海辺に置く。トリトンは酒の香につられてやって来て、酒を飲み浜に寝こむ。1人の男が斧でトリトンの頭をはねる。
『古事記』上巻 ヤマタノヲロチは、八塩折の酒を飲んで眠りこんだところを、スサノヲノミコトの剣で、ずたずたに斬られる〔*『日本書紀』巻1に類話。もっとも後年スサノヲ自身も、眠っている間に、娘スセリビメ及び刀・弓・琴などの宝を、オホナムヂに奪われる〕。
『酒呑童子』(御伽草子) 源頼光たち6人の武将が、酒呑童子に神便鬼毒酒(*→〔毒酒〕2)を飲ませる。酔って眠る酒呑童子は、起きていた時とは姿が異なり、背丈は2丈余、赤髪が逆立ち、角が生え、手足は熊のようであった。八幡・住吉・熊野の3神が、酒呑童子の手足を四方の柱に鎖で縛りつけて、身動きできなくする。頼光は名刀「ちすい」で、酒呑童子の首を斬る。
『変身物語』(オヴィディウス)巻1 牝牛に変身した乙女イオを、百の眼を持つアルゴスが昼も夜も見張る。ユピテル(=ゼウス)が息子メルクリウス(=ヘルメス)に、「アルゴスを殺せ」と命ずる。メルクリウスは羊飼いの姿となり、葦笛を吹いてアルゴスの百の眼を眠らせ、その首を斬り落とす。ユピテルは、イオをもとの美しい姿に戻す。
*メドゥサ退治→〔鏡〕2bの『変身物語』(オヴィディウス)巻4。
『アルゴナウティカ』(アポロニオス)第4歌 コルキス国の聖なる森の巨大な樫の木に、金羊皮が懸かっており、眠りを知らぬ大蛇(あるいは龍)が、これを守っている。アルゴ船に乗ったイアソン一行が、金羊皮を求めてやって来る。コルキス王の娘メディアはイアソンに恋心を抱き、父王を裏切って、金羊皮をイアソンに与えたいと思う。メディアは魔法の薬と呪文を用いて大蛇を眠らせ、イアソンは金羊皮を得る。メディアはイアソンとともに、コルキスを去る。
『ジャックと豆の木(豆のつる)』(イギリスの昔話) ジャックは天上の人食い鬼の家を、3度訪れる。人食い鬼は、朝食後に居眠りをする。ジャックはそのすきに、1度目は金貨のつまった袋、2度目は純金の卵を産む鶏、3度目は黄金の弦の竪琴を盗んで、地上へ逃げ帰る。
*→〔背中〕2aの『古事記』上巻、眠るスサノヲから刀・弓矢・琴・娘を奪って逃げる物語も、同類のものであろう。
★3.眠る敵を討つ。
『伊吹童子』(御伽草子) 大野木殿は、娘婿である伊吹の弥三郎が大酒食肉の悪人なので、酔わせて眠ったところを刺し殺す。
『古事記』下巻 7歳の目弱の王は、父大日下の王が安康天皇に殺されたことを知る。目弱の王は、安康天皇が眠っているのを伺い、傍らの大刀を取って父の仇の頸を斬る→〔立ち聞き〕2。
『今昔物語集』巻25-4 上総守兼忠から、父の仇太郎介の顔を教えられた小侍は、その夜太郎介の寝所へしのび入り、眠る太郎介の喉笛を掻き切った。
『曽我物語』巻9「祐経、屋形をかへし事」 曽我兄弟は、酒に酔って眠る工藤祐経の寝所を襲い、起き上がろうとするところをさんざんに斬りさいなむ。
『太平記』巻2「阿新(くまわか)殿の事」 日野資朝は謀反の嫌疑で佐渡へ流され、守護職・本間山城入道の館で斬首された。資朝の息子13歳の阿新が、父の仇を討とうと、資朝処刑の時の斬手(きりて)本間三郎の寝所へ忍び入る。眠る者を殺すのは死人を殺すも同然なので、枕を蹴って本間を起こし、太刀で腹を突き、喉笛を切って殺した〔*阿新は本間の館を脱出し、商人舟に乗り込んで越後へ逃げた〕。
*→〔仇討ち〕1cの『沙石集』巻7-6・〔首〕1の『ユディト書』(旧約聖書外典)・〔男装〕3aの『謝小娥伝』(唐代伝奇)。
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