県 県の概要

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/02 23:29 UTC 版)

現在の日本では地方自治法(昭和22年4月17日法律第67号)施行後、市町村を包括する広域の地方公共団体となり、県の行政事務を扱う役所は県庁といい、法人格を持つ。

漢字文化圏以外の国の行政区画の日本語訳としての利用でも、日本での順序に準じて用いられる(日本語訳としての「県」を参照のこと)。

概要

県の歴史

県の制度が始まったのは春秋時代に遡る。当時の県は辺境の地に設けられていた。などの大国は新たに併合した地方の古来のの自治権を廃し、替わって県とした。春秋後期になると県制度は内地にまで及ぶこととなり、代わって辺境へはが設けられるようになった。郡の面積は県よりも広く、人口は希薄で、地位は県よりも低かった。戦国時代になると、郡が発展していくと同時にその下へ県を設けるようになった。こうして始皇帝による統一で郡県制が確立し、全国36郡の下に県を設けた。以後は県は(郡)、あるいは郡、監、庁に隷属が変わっていった。

  • 朝時、郡が県を管轄。
  • 朝時、郡、国が県を管轄。
  • 漢朝以後、それぞれの時期、それぞれの地方あるいは同一の管轄域で行政区画制度が異なり、郡・府・州あるいは軍・監・庁が管轄。
  • 国民政府時、初めはの所轄、その後道制を廃止して特別行政区)の直轄。その後行政督察区、直轄市あるいは特別行政区の管轄。
  • 1949年以後、行政督察区の名称の変更に伴い、専区(行政督察専区)、地区あるいは地級行政区の管轄。

県の役割

一般に領域国家は、領土を地方に分割して経済的・軍事的な効率を得る必要がある。しかし軍事面では、大きすぎる分割は叛乱などの温床ともなり得るので、中央政府の支配力を越えない範囲に限定しようとする。最も簡単な区分は国と県の二階層である。軍事的な要素を重視した場合は、5人または5世帯まで幾層にも細分化される。封建国家では、与えられた領地を分割することで行政区画が深化した。

歴史的には、古代の中央集権国家において、中央政府から派遣される地方官の事務所として、県を設置した。管轄する範囲は互いに排他的であったと考えられる。古代の中央集権国家が破綻すると、地方の小領域が国家として割拠する時代が到来したが、各々の小国家内で県を設置することがあった。近代社会の成立過程で、再び中央集権化されると小国家内の県を対等な基礎的行政区画とし、小国家をそのままか統合分割などで新たに県として設置することがあった[注 1]

植民地の独立後や冷戦の解消後、中央集権体制だった国家は、規模の原理よりも市場の原理により地方分権の機運が高まった。これらの国家では補完性の原理により県を包括する大領域の行政区画を設置したり[注 2]、県の役割を基礎的行政区画の補完をする広域連合として位置付けることも行われている[注 3]

日本の県

日本では中国の制度から汲み取り、明治維新後の近代化政策の一環として、米仏普にも影響を受け、江戸時代までの「」を廃止し「県」を置く「廃藩置県」を行い、現代に至る地方自治地方公共団体の基盤を築いた。

  • 面的な名称には、国・州・藩・郡・町・村・坊・郷・里・荘または庄・区。
  • 線的な名称には、道・街・条・里・線。
  • 点的な名称には、京・都・府・庁・県・市・駅または宿。
  • 人的な名称には、使。

が用いられてきた。江戸時代には能登国を「能州」と書くなど、雅称として漢風の名称が広まっていた (遅くとも『古事記』・『日本書紀』の編纂の頃から「国」と「州」の混用は行われていた)。このため通常は「州>郡>県」の順に小さくなると受け取られていた。

律令制以前には、中央から派遣された豪族が一定の自治権を持つ「」とともに、同じく派遣豪族領でありながら朝廷の直轄領である「」(あがた)が地域区分の単位として用いられていた。しかし律令制下で国(令制国)・(はじめ)・里(のち)という地方区分が確立すると「県」は地域区分の単位としては用いられなくなり、小県郡信濃国)、方県郡美濃国)、大県郡河内国)のように郡名など地名の一部に名残をとどめるようになった。例外として2007年(平成19年)まで神奈川県に存在した津久井郡は、江戸時代には全国で唯一、地域区分単位として「津久井県」を称していた。これは従来「津久井領」と呼ばれていたこの地域を支配した幕府代官の命によるものであるが、敢えて「県」を称したのは山間僻遠であるこの地域が単独の「郡」を称するには不足であると考えられたからだと言われている(『藤野町史・通史編』)。津久井県は明治3年(1870年)に「津久井郡」と改称された。

明治維新後、新政府は直轄地とした旧幕府・旗本領に「県」を設置し、1871年明治4年)7月の廃藩置県で全国的な行政区分とした。同年10月〜11月の府県再編で県は複数の郡を管轄するものとされたことによって「県」が面的な名称としても受け入れられるようになり、「州>県>郡」と理解されるに至った。「郡>村」の伝統的な関係と合わせ、現代の行政区分の表記は「州>県>郡>村」の順に小さくなるものが一般的である。この場合、「県」は第2層の行政区画として扱われる。とはいえ歴史地理学のような比較的新しい研究分野では、現在の県のうち旧令制国を全て含んでいる県を念頭に「県(>州)>郡」と考える場合もある(たとえば「#その他の国の県」で述べるイギリスの場合。また、第1層の行政区画を常に「県」とする研究者もいる)。

日本語訳としての「県」

漢字文化圏以外の国の行政区画の日本語訳としての利用でも、日本での順序に準じて用いられる (連邦制の国家の場合、「国>州」となることもある)。ただし、「県」の意味に「『中央政府』から派遣される地方官の治める範囲」とあるため[誰?]、相当する区画がない場合は用いられない。イタリアのように郡が用いられないこともある一方、「」を意味する語に「県」が当てはまり「郡」との選択になることがある。また「国≒州」という理解から統治の権限が小さい場合、州を用いず県を用いることがある。

各国の行政区画の単位のうち、狭い範囲の広域行政区画を「県」と訳すことがある。以下に英語での例を示す。

prefecture(日本)
日本の「県」は英語では「Prefecture」と訳す。この単語はラテン語praefectūraフランス語préfectureに由来する[注 4]。元々は古代ローマの長官・司令官の官邸を指した。
province(イタリア)
イタリア語の「provincia」に当たる。この語は、「中央集権国家の地方長官」と、「大き過ぎないが、一定の広さを持った地方」の、両方の意味を持つ。日本の令制国の「国」の訳語でもある。原義はラテン語の「provincia」で、「pro」(親○、利益)と「vincere」(統制する)を合わせて、「ローマ帝国の統治に与する所」を意味していた(日本では「属州」と訳される)。特に、歴史地理学での「県」の訳語には、「Province」が充てられることが多い。
department(フランス)
フランス語の「département」に当たる。フランスの州に当たる「province」が廃止され、より狭い「département」ができた時に県に当たる区画となった。(en:departmentも参照のこと。)
county(中国)
中国語の「」に当たるが英語では「County」と訳す。古代の県は「prefecture」とも訳されるが、「province>prefecture>county」の区分に当てはめて第3層になることから、この語が選択される。原義はラテン語で「軍事上や行政上の功績者の領地」である。
district(東ドイツ)
ドイツ語の「Bezirk」に当たる。東ドイツでは州に当たる「Land」が第二次世界大戦後に廃され、「Bezirkドイツ語版」が第1層の行政区画となり県と訳された。日本の「郡」の訳語であるが、行政機関などの「丁目」「区」の訳語と衝突することがある。(en:districtも参照のこと。)

漢字文化圏の日本以外の国の行政区画については、行政区分や権能に着目して訳さずに字体を日本に合わせてそのまま用いる。なおベトナムは現在ラテン文字を使うが、語源が漢字に由来するような「tỉnh」は省とするなど漢字使用圏と同様に用いられる。


  1. ^ 中央集権化が限定的な場合は連邦制と呼ばれ独立していないが「国家」の地位を保つことがある。
  2. ^ 英仏伊の地域・西の自治共同体。
  3. ^ 伊仏西の県。
  4. ^ Wiktionary英語版: prefecture.
  5. ^ 「Regierung」は「政府、統治」を意味する。「Bezirk」は区画を意味する。
  6. ^ 中国で「盟」と当てられたので、それを常とする。


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