古代ギリシア語
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/24 14:47 UTC 版)
表記体系
古代ギリシア語は、ギリシア文字で書き表され、大文字のみだった。方言ごとに独自のバリエーションがあった。初期の文章は牛耕式で記されていたが、古典期には左横書きが標準となっていた。
近代に編集された古代ギリシア語文献は、アクセントと気息記号が付され、大文字と小文字が混在する分かち書きで書かれている。しかし、これらはすべて後の東ローマ帝国時代になってから導入されたものである。
例文
以下に、プラトン『ソクラテスの弁明』冒頭部の様々な表記のされ方の例を示す。
- ポリトニコス(複数アクセント)表記による古代ギリシア語
- Ὅτι μὲν ὑμεῖς, ὦ ἄνδρες Ἀθηναῖοι, πεπόνθατε ὑπὸ τῶν ἐμῶν κατηγόρων, οὐκ οἶδα· ἐγὼ δ᾽ οὖν καὶ αὐτὸς ὑπ᾽ αὐτῶν ὀλίγου ἐμαυτοῦ ἐπελαθόμην, οὕτω πιθανῶς ἔλεγον. Καίτοι ἀληθές γε ὡς ἔπος εἰπεῖν οὐδὲν εἰρήκασιν.
- エラスムス式発音によるラテン文字転写
- Hóti mèn humeîs, ô ándres Athēnaîoi, pepónthate hupò tôn emôn katēgórōn, ouk oîda: egṑ d' oûn kaì autòs hup' autôn olígou emautoû epelathómēn, hoútō pithanôs élegon. Kaítoi alēthés ge hōs épos eipeîn oudèn eirḗkasin.
- 日本語訳
- あなたがたが、アテーナイの諸氏よ、私の告発者らによっていかなる心証を持つに至ったかは私は存じません。私自身はと言うと、もう少しで自分が誰なのかわからなくなるところでした。それほどの説得力ある話を彼ら(告発者ら)はしました。けれども本当のことは何一つといっていいほど語りませんでした。
- 現代英語訳
- What you, men of Athens, have learned from my accusers, I do not know: but I, for my part, nearly forgot who I was thanks to them since they spoke so persuasively. And yet, of the truth, they have spoken, one might say, nothing at all.
現代における古代ギリシア語
20世紀初頭までは、西洋の教育制度においてラテン語と古代ギリシア語の学習はカリキュラム内で重要な位置を占めていた。今でもヨーロッパでは、イギリスのパブリック・スクールやグラマー・スクール、イタリアの文科高等学校、ドイツの文科系ギムナジウムのような伝統校・エリート校では、古代ギリシア語が必修科目や選択科目となっていることがある。たとえばドイツでは2006年7月現在、15000人の生徒がギリシア語を学んでいる(ドイツ連邦統計局調べ)。ドイツ以外にも、世界中の主要な大学で西洋古典学としてラテン語とともに今なお教えられている。
フランスでは中学2年からラテン語と古代ギリシア語を学ぶことができる。
教育以外の現場での用例としては、ヨーロッパ諸言語で専門用語を新造するときが挙げられる。文学界では例外的に、ヤン・クルジェサルドが韻文・散文を書いたことがある。また、『アステリックス』がアッティカ方言版で何巻か出版されているほか、『ハリー・ポッターと賢者の石』、『星の王子さま』、『ピーターラビットのおはなし』など若干の文学作品(ほとんどは児童文学)の古代ギリシア語訳もある。
主にギリシア国内に限定されるが、敬意・賞賛・嗜好を示したい団体や個人によって用いられることもある。現代のギリシア人が部分的であっても古代ギリシア語(アルカイック期は除く)を理解できるという事実は、現代ギリシア語とその先駆となる言語の密接な関係を物語っている。
注釈
出典
- ^ Roger D. Woodard, “Greek dialects,” The Ancient Languages of Europe, R. D. Woodard (ed.), Cambridge: Cambridge UP, 2008, p. 51.
- ^ 高津春繁『ギリシア語文法』による。最新版『ブリタニカ百科事典』のように、これより簡略な分類がされる場合もある。マケドニア方言の位置は、現在主流となっている最新の学説を元に配置した。
- ^ 長年、ギリシア語に近いが別のインド・ヨーロッパ語族の言語と考えられていたが、ギリシアのマケドニア地域で近年発見された碑銘やタブレットによって、北西ギリシア方言の一つと分かった。
- ^ Roisman, Worthington, 2010, "A Companion to Ancient Macedonia", Chapter 5: Johannes Engels, "Macedonians and Greeks", p. 95:"This (i.e. Pella curse tablet) has been judged to be the most important ancient testimony to substantiate that Macedonian was a north-western Greek and mainly a Doric dialect".
- ^ ラテン語では rh と表記された。
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