古代ギリシア語 形態論

古代ギリシア語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/24 14:47 UTC 版)

形態論

ギリシア語は、インド・ヨーロッパ語族の他の言語同様、高度に屈折的である。これは特に、インド・ヨーロッパ祖語の形をよく残しているアルカイック期に顕著に見られる。古代ギリシア語の名詞には固有名詞も含め、5つの主格属格対格与格呼格)、3つの(男性・女性・中性)、3つの(単数・双数・複数)があった。動詞は4つの直説法命令法接続法希求法)、3つの能動態中動態受動態)、3つの人称一人称二人称三人称)があり、7つの時制現在未来・未完了過去はでは未完結相、アオリスト完結相完了・過去完了・未来完了は完了相)に変化する。接続法未来や命令相といったものは存在しないが、時制が法と態をそのように見せることは多い。不定詞分詞は、相・法・態の限られた組み合わせに対応する形で存在した。

加音

未完了過去・アオリスト・過去完了の3時制は、直説法のとき(少なくとも概念上は)接頭辞 ἐ- が付される。これは本来、「そのとき」のように独立した単語に適用されたと考えられる。インド・ヨーロッパ祖語における時制は、相としての意味合いが強かったからである。加音は直説法アオリスト・未完了過去・過去完了に対して起きたが、ほかの法のアオリストには行われなかった(未完了過去と過去完了はそもそも直説法しかない)。

ギリシア語の加音には、音節的加音と時量的加音の2種類がある。前者は子音で始まる語幹に起こり、接頭辞 ἐ- が付される。ただし ῥ- で始まる場合は後ろに -ρ- を重ねた上で ἐ- が付され、ἐρρ- の形になる。後者は母音で始まる語幹に起こり、以下のような長音化を伴う。なお、長短どちらも表す母音は弁別のため、長音にはマクロンを、単音にはブレーヴェを付してある。

  • ᾰ, ᾱ, ε > η - ただし εει になることもある。
  • >
  • ο > ω
  • >
  • αι, ᾳ, ει > - ただし ει は変化しないこともある。
  • οι >
  • αυ, ευ > ηυ - 変化しないこともある。

ου, η, ῑ, ῡ, ω は変化しない。ε > ει のような例外は、歴史言語学的には母音間の -σ- 脱落によるものと説明される。ホメーロス以後、詩(特に叙事詩)では慣例的に加音がなされないことがある。

畳音(重複)

完了・過去完了・未来完了のほとんどでは、動詞幹の語頭で畳音が用いられる。しかし、完了の一部では例外的に畳音が使われず、また反対にアオリストで畳音が用いられることもある。畳音には以下の3種類がある。

音節畳音
単子音(ῥ- は除く)か、閉鎖音+共鳴音で始まる動詞には、語頭の子音の後に -ε- を付したものを語頭に加える。ただし、語頭の子音が帯気音の場合は、無気の形にした上で重複される。グラスマンの法則も参照。
加音
加音は畳音の代わりになることもあった。上記にない子音群および複子音で始まる動詞と、母音で始まる動詞は加音と同じ方法で重複される。これは直説法だけでなく、完了時制のすべての場合に当てはまる。
アッティカ式畳音
後ろに共鳴音(ときには δ, γ)が続き、かつ ᾰ, ε, ο で始まる動詞は、語頭の母音とその後ろの子音からなる音節が重複し、さらにそのあとに続く母音が長音化する。つまり、ἐρ > ἐρηρ, ἀν > ἀνην, ὀλ > ὀλωλ, ἐδ > ἐδηδ となる。この畳音は、その名とは異なり実際にはアッティカ方言特有の現象ではなかったが、規則化されたのがアッティカ地方であることは確かである。これは本来、喉音と共鳴音からなる子音群の重複を伴うものであった。すなわち、ギリシア語の標準的な喉音の発達(閉鎖音を伴う形は類推)では *h₃l > *h₃leh₃l > ὀλωλ である。

例外的な畳音は歴史言語学的に理解できる。たとえば、λαμβάνω(語根 λαβ-)の完了幹は *λἔληφα ではなく εἴληφα であるが、これは元々の形である σλαμβάνω(完了幹 σἔσληφα)が、(準)規則的な変化を経たためである。重複は、特定の動詞の現在幹において目に見えることもある。そのような語幹は、語根の語頭の子音+ の音節を加える。一部の動詞では、重複の際に鼻音が現れることもある。


注釈

  1. ^ 裏付けは完全とは言えず、またアルファベットではなく音節文字表(線文字B)で書かれているため、一部は再建による。
  2. ^ 具体的にはペリクレースの死(前429年)からデーモステネースの死(前322年)までの約100年間。

出典

  1. ^ Roger D. Woodard, “Greek dialects,” The Ancient Languages of Europe, R. D. Woodard (ed.), Cambridge: Cambridge UP, 2008, p. 51.
  2. ^ 高津春繁『ギリシア語文法』による。最新版『ブリタニカ百科事典』のように、これより簡略な分類がされる場合もある。マケドニア方言の位置は、現在主流となっている最新の学説を元に配置した。
  3. ^ 長年、ギリシア語に近いが別のインド・ヨーロッパ語族の言語と考えられていたが、ギリシアのマケドニア地域で近年発見された碑銘やタブレットによって、北西ギリシア方言の一つと分かった。
  4. ^ Roisman, Worthington, 2010, "A Companion to Ancient Macedonia", Chapter 5: Johannes Engels, "Macedonians and Greeks", p. 95:"This (i.e. Pella curse tablet) has been judged to be the most important ancient testimony to substantiate that Macedonian was a north-western Greek and mainly a Doric dialect".
  5. ^ ラテン語では rh と表記された。






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