児童養護施設の子ども
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/24 10:07 UTC 版)
「子どもの貧困」の記事における「児童養護施設の子ども」の解説
「児童養護施設」も参照 虐待や親からの遺棄などの理由で児童養護施設に保護された子どもも施設退所後に生活困窮に陥りやすい。婦人保護施設長によると、そこで育った子どもは進学しなければ中卒でも施設を退所しなくてはならず、10代女性では行きずりに近い同棲後に妊娠し、相手の男性は姿を消し、婦人保護施設に入所するという例は後を絶たず、そうでなくとも施設退所後に性産業に従事して未婚の母となる場合もある。傾向としては、婦人保護施設の10代出産利用者ではひとり親家庭や生活保護受給者も多いが、両親そろっている勤労世帯でも増加し、社会の貧困化の可能性もある。これらの10代の母は生活経験が乏しく、低学歴・就労経験不足して育児に危険性が伴う。婦人保護施設には知的障害、精神障害を抱えた女性たちが多く生活している。代替養育環境に長期間いる子どもたちの措置解除後の状況は、生活保護率が同年齢層の人口の 18~19倍であり、施設を出た後には頼れる親や家族がいない中で産んだ子どもを保護する事例が児童相談所や市区町村の現場では頻繁に発生している。 日本では社会的養護の子どもたちの90%が施設で、10%が里親等という形であるが、これは世界的にも先進国の中では、ややいびつな形で児童の権利条約の原則からも外れ、権利委員会からも指摘をされているところである。厚生労働省では2016年の改正児童福祉法を具体化した「新しい社会的養育ビジョン」において、原則就学前の施設入所停止や、7年以内の里親委託率75%以上など数値目標を定め、施設に対しては、入所期間を1年以内とし、機能転換も求めている。日本では、養子縁組は成人養子縁組が多数を占め、2012年度統計では未成年の者は全体の1.3%となっていて、未成年養子縁組の成立しづらい状況を示している。 「いまは引き取れないが、いつでも会いに行けるように、まだ施設で預かっていてほしい」「自分で育てるのは無理だが、手放すのは嫌だ」などの親の意向から、里親や養子縁組が進まないことがある。なお、横須賀市では日本財団と「ソーシャル・インパクト・ボンド(社会的インパクト投資)」を活用した取り組みを開始し、両者が協定を結び、特別養子縁組の推進を目指すパイロット事業を開始、1年間で4件の特別養子縁組の成立を目指している。両者によると社会的インパクト投資の実施例は日本初だという。児童養護施設の子どもは9.3%が中卒で施設を退所し、そのうち約半数が卒業の翌年度中(2005年)に転職を経験している。高校中退は7.6%となっている。九州・沖縄八県の児童養護施設で退園後に大学などに進学した者のうち四割が中途退学している。調査(八県の89施設を対象に、2000年からの5年間の進学児童数などについてのアンケート調査、九州社会福祉協議会連合会養護施設協議会が発行した「九州8県内児童養護施設出身者の大学・専門学校等進学後の実態調査研究報告書」)では「就学支度金制度」の支給条件など、正規雇用のみを対象とした現行の自立支援制度の不備を指摘していた。同期間中の進学者は166名でこのうち在学中のものを除き、卒業者が34名、すでに退学したものが29名だった。中途退学の要因としては「学力不足」11名(37.9%)、「生活費・学費不足」8名(27.5%)、「進路変更」4名(13%)となっている(「琉球新報」2005年7月27日)。これらの対応として、世田谷区では、平成28年度から区内の児童養護施設および里親に措置された児童で、満18歳を迎えた年度末で措置解除となる者、またはなった者を対象として、原則として大学等への進学者は卒業まで、就職者は2年間の間、区営住宅内の旧生活協力員居住室をオーナーの了承のもと提供するなどの事業を行う。静岡県では、児童養護施設や里親家庭で暮らす子どもを対象に児童福祉法に基づく支援が終わる20歳から卒業までの間、生活費などを補助している。 児童養護施設出身者がまたその子どもも児童養護施設に預けるという「負の連鎖」「貧困の世代間再生産」も起きている。なお、施設入所時に性的・身体的虐待を職員、または他の子供から受けることがあり、子供が心身ともに傷ついていく事件が起こっている。もしくは喫煙などの非行行為に取り込まれていく。これらを防ぐ提唱として、「これはどの程度の水準なのだろうというのが一つは疑わしい部分があるのですが、発生した時間帯がいつごろなのだろうかということなのです。つまり未だに児童養護施設は宿直、実際職員は寝ていませんけれども、1、2時間しか睡眠がとれていませんが、でも宿直なのです。その宿直の時間帯に子ども間暴力も含めてですが結構事件は起こっているのではないか。」との夜間体制への懸念の声があり、子ども間暴力については、「特に一番深刻なのは、ほとんどどの施設でもあるであろう「子ども間の性加害被害」です。これが連鎖をしている。これは主に夜間に起こっているはずです。そのことは地域ごとにある程度データが取れている。例えば埼玉県はその調査をしていて、夜間に子ども間の性加害被害が起こっていることも把握できてきている。なぜ夜間かというと、先ほどの話題ではないけれども、手薄いからです。そもそも宿直体制を考えないで夜勤体制にしていかないと、子どもたちの安全保障が守られないです。」と厚生労働省児童部会社会的養護専門委員会で審議されている。これに対し、一部の施設では一晩に三度、園内を時間を正確に決めず不定期に巡回し、性虐待を防いでいる。しかしながら「児童福祉法による児童入所施設措置費等国庫負担金」交付基準の一つ「児童福祉施設(児童家庭局所管施設)における施設機能強化推進費」に定める総合防災対策強化事業に関する交付基準は、他の防災対策と併せて45万円が上限となっており、かつ「現体制では夜勤体制及び宿直体制の確保が困難な施設に」しか宿直専門員を雇上げる等夜間巡視体制の強化を図る費用の国庫負担は行われていない。 三重県では、入所児童間の性暴力の裁判において、同県は2008~12年度の5年間で51件、のべ144人の児童が性暴力の被害・加害に関わっていたことを明らかにした。また、国としての統計や対策がないと報道されている。しかしながら、過去の文献によると、性被害を受けた男児が、やがて性加害者になるなどの被害連鎖が当時より確認されている。1983年に強姦目的で女子大生を殺害した施設出身の青年の公判では、その在籍した施設での身体的暴力や支配手段としての性行為の強要の存在が明らかになっている。また、特に大舎制の施設において、子ども-子ども間の性暴力が起こっていない施設はほとんどないとの研究調査も2009年には公表されている。中には、小学校高学年女児が中学生男児に複数回襲われそうになり、施設に訴えるも再発防止が取られなかったケースもあり、東京都社会福祉協議会児童部会が元入所児を対象に実施した調査や2007年に行った都内施設調査で暴力被害の状況が明らかになっている。前橋連続殺傷事件の犯人は、2歳の時、両親が離婚し、4歳の時に預けられた児童養護施設と、学校の両方で陰湿ないじめに遭い、孤独を深めたと報道されている。アメリカではfoster care independence act of 1999という法律により、施設や里親で暮らす高校生は自立生活の1年か半年前から州や委託している施設での自立支援プログラムに参加する。これは、教育・就労・生活スキルや薬物乱用、避妊、感染症予防などを目的として行われている。制度的に実施する背景には、施設や里親から自立した若者が1年半以内に50%が離職し、33%が生活保護に、20%が望まない妊娠をする事実があった。日本においては、一部のNPOや企業がその役割を担っている。2015年には、生命保険株式会社が児童養護施設に社内表彰賞金1 万ドルを寄付するなど、企業が施設に寄付を行うことがある。 なお、個人が国や地方公共団体、特定の公共法人などに寄附をした場合は、確定申告を行うことで、所得税および復興特別所得税が還付される場合があり、法人の場合は、国や地方公共団体への寄附金と指定寄附金はその全額が損金になり、それ以外の寄附金は一定の限度額までが損金に算入できる。 このほか、施設に入っている子どもたちのソーシャル・スキル・トレーニングとして株式会社資生堂が「身だしなみセミナー」、株式会社毎日放送「話し方セミナー」などのCSR(corporate social responsibility)での取り組みを行っている。日本マイクロソフト株式会社と東京ボランティア・市民活動センターは、東京都内の児童養護施設および自立援助ホームを対象に、施設で暮らす就労期前の青少年が、就労に役立つ基礎的なITスキルを各施設で習得できる環境の整備と就労・自立支援の拡充に向けて協働で取り組んでいる。社会福祉法人 大阪児童福祉事業協会でも、児童養護施設の子どもを対象にソーシャルスキルトレーニングの講習会を行っている。このような活動をソフトバンクが支援している。国際調査によると、施設養護出身者が性産業に従事する率は非出身者の10倍、犯罪歴は40倍に上る。また、自殺者は500倍の出現率となっている。児童養護施設に入所する子どもの大学・専門学校進学率は11%程度に対し、里親養育下の子どもの大学進学率は例年20%程度で約10%上回っており、里親下での養育の方が進学に適切な支援が得られている可能性がある。一方で、児童養護施設入所経験者からは大学進学のための経済的支援は以前より整ってきたためすでに拡充の段階を過ぎ、身近な先輩たちの体験談を通じて進路選択の情報を得て活かしていくことが必要になっているとの声がある。
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