現像 現像の概要

現像

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/07 17:46 UTC 版)

白黒写真の現像。画像が顕現する瞬間。

この定義は、英語等でいう developing [4]であって、日本語では、英語でいう processing の指す範囲、つまり、 developing から fixing定着)まで(現像を開始したフィルムが感光性を失い安定するまで)の一連の工程を指す[5][6]。したがって、広義の「現像」を日本語でもプロセスとも呼ぶ[5]

デジタルカメラの場合、RAWデータ(イメージセンサで発生した情報をほぼそのまま保存した「生の」データ)から画像を生成し、JPEGTIFFなどの一般的な画像フォーマットに変換(および目的によってはレタッチなども含む)する処理・過程を「現像」という[1][2]。詳細は「RAW現像」の節および「RAW画像」を参照。

なお、半導体素子等の分野のフォトリソグラフィでも、現像の語を用いるが[6]、こちらについてはフォトリソグラフィ#現像・リンスを参照のこと。

本項では主に、デジタルな「現像」ではなく、フィルム等の感光材料を化学的に処理するものを扱う。

概要

現像

フィルムの感光剤英語版には、主に臭化銀が使われている。臭化銀にがあたる(感光)と、その一部が分解してになる。感光したフィルム上には、像の形になるように、銀を含む臭化銀の結晶ができている。これを潜像という。感光した臭化銀中に含まれている銀を潜像核という。潜像核(潜像に含まれている銀)は極微量であり、肉眼で見ることは不可能である。これを目に見える量まで増やしてやるのが、フィルム現像である。

現像から定着までの工程は、フィルムにまだ感光する能力が残っているため暗室で行う必要がある。

感光したフィルムを還元剤(現像主薬メトール英語版ハイドロキノンが用いられる)を含む薬品に浸すことによって、臭化銀を銀に変化させる。このとき、ハロゲン化銀粒子の還元速度は速いため、潜像核の銀から還元反応が進行し、潜像核を含む臭化銀の結晶だけが還元されてすべて銀となり、黒化する[3]。いっぽう、光が当たらなかった潜像核を含まない臭化銀の結晶はそのまま残る。このようにして目に見える量まで銀の量が増幅される。現像主薬の還元力は、アルカリ性で強くなり、酸性で弱くなる。そのため現像液の助剤には、アルカリ性の塩が添加されている。

現像の進行は現像薬の量(濃度)、配合と温度によって影響される。従って適切な現像を行うためには、現像薬と温度の厳格な管理が必要となる。

なかでも、発色現像、つまり、カラー写真の場合は現像主薬として芳香族ジアミンなどが用いられる。この芳香族ジアミンが臭化銀を銀に還元すると同時に酸化される。酸化された現像主薬は、カプラーと呼ばれる化合物と反応し各色の色素を形成する。このカプラーがフィルムに乳剤に含まれ塗布されている方式を内式(うちしき)という。カプラーを現像液に含ませる場合を外式(そとしき)と言う。

現像停止

長時間現像液にフィルムを漬けていると、ついには光が当たらなかった臭化銀までもが還元反応をはじめてしまう。そこで、化学変化を止めるための処理を行う。通常は弱酸性の現像停止液に漬けることで現像主薬の還元力を落とすことで行う。現像停止液には通常は酢酸を薄めて使うが、臭気が強く嫌われる。クエン酸を使用する方法もあり、また1分ほどの流水水洗でも十分である。一般に、定着液にも酢酸を加えて現像停止効果を持たせた酸性定着液が主流であり、現像停止浴は省略することが可能であるが、定着液の疲労を極力減らすためにも、専用の現像停止処理を間に挟んだほうが良い。

定着

現像しただけでは感光しなかった部分に感光剤がそのまま残っている。この部分は光を当てるとまた感光してしまう。そこで、感光しなかった部分の感光剤を除く処理が定着である。感光剤の臭化銀は水にほとんど溶けないが、チオ硫酸塩の水溶液には錯イオンを形成して溶解する。そこでこれを定着液として用いフィルムを浸漬することによってフィルム上から未反応の臭化銀が除去される。しかし、数十分以上も浸漬したままにしておくと、現像処理された黒化銀部分まで溶け出すので注意が必要である。なお定着液に溶解した銀はDPE店などではフィルムメーカーが回収してフィルムに再利用されている。

なかでも、発色現像、つまり、カラー写真の場合には、漂白・定着の工程が必要である。必要なのは現像主薬とカプラーが反応して生成した色素だけであり、還元で生成した銀が残っているとモノクロ写真のようになってしまう。そこで現像で生成した銀も未反応の臭化銀も両方とも溶解させてしまう。漂白と定着を一浴で済ませる Blix (Bleach + Fix) 処理には、漂白剤としてFe (III) EDTA (エチレンジアミン四酢酸鉄)を含むポリカルボン酸アミン類錯体を、定着剤としてチオ硫酸塩(ハイポなど)をそれぞれ用いた水溶液を漂白定着液として用いる。(かつては漂白剤としてフェリシアン酸塩(赤血塩)が使われた。しかし、赤血塩はチオ硫酸塩と混ぜると保存性が著しく悪く、漂白のあとで定着を別個に行なわなければいけなかった。また、シアン公害の問題もあった。そのため、現在では Fe (III) EDTA 等が使われている。)

現像(developing)から定着(fixing)、そして、水洗(定着が終わったフィルムから薬品を取り除く。この時、薬品を取り除くことを促進する薬品を使う場合がある)と乾燥(水分を取り除く)までが、現像工程(プロセス、processing)である。

工程

白黒ネガ現像

  1. 現像時にフィルムの表面に気泡が付いて現像斑が起きるのを防ぐためと、ゼラチン層を膨らませ軟らかくするためにフィルムを水に浸す前浴(予備浸漬)を行う。
    ただしこの作業に関しては否定的な意見が昔からある。フィルム表面に附着した気泡は、タンクに現像液などを注入した際にタンクを軽く台などに打ちつけるなどすれば取れる上に、ゼラチン層の膨満軟化はアルカリ剤がその作用を果たしてくれるからである。それにゼラチン層の必要以上の軟化を引き起こすおそれがあり、結果ゼラチン層の縮みやヒビなどの原因にもなるからである。
  2. 現像液 (developer)で、潜像を銀像に変換する[7]
  3. 停止浴 (stop bath)、酢酸クエン酸の1.5 %の希薄溶液を用いて現像液の活動を停める。清水での洗浄で代用できる。
  4. 定着液 (fixer)で、残留するハロゲン化銀を溶かして除き、画像に永続性と光耐性をもたせる。
  5. 水洗して残留した定着液をすべて洗い流す。定着液の後にハイポ・クリーニング液(亜硫酸ナトリウム)を用いれば、水洗時間が削減され、定着液がよりよく落ちる。
  6. 非イオン系の界面活性剤の希釈溶液で洗浄すると、硬水による乾燥染み斑を除去できる。
  7. ハウスダストのない環境でフィルムを乾燥させる。

白黒リバーサル現像

ネガの工程に以下の工程が加わる。

  1. 停止浴(3.)の次に、フィルムを漂白し、現像されたネガ像を除去する。感光せず現像されていないハロゲン化銀から形成された、潜像のポジ像がフィルムに含まれている状態にする。
  2. fogging(カブリのこと)。感光させるか、あるいは化学的に、反転像を得る。
  3. 残っているハロゲン化銀を「第二現像液」で現像し、ポジ像に変換する。
  4. 最後に、定着、洗浄、乾燥を行う[8]

カラーネガ現像

  1. 発色現像液でネガ銀像を現像し、副産物として、染料結合英語版がフィルムの乳液層それぞれの染料を活性化する。
  2. 漂白液(再ハロゲン化漂白液)で、現像された銀像をハロゲン化銀に変換する。
  3. 定着液で、銀塩を除去する。
  4. 最後に、洗浄、安定化、乾燥を行う[9]

RA-4現像英語版現像では、漂白と定着が結合して漂白定着として行うので、上記の工程が1つ減る[10]

カラーリバーサル現像

(内式カラーリバーサル)

  1. 白黒と同じ現像液で、フィルムの各層にある銀を現像する。
  2. 洗浄あるいは停止浴で、現像を停める。
  3. fogging(カブリのこと)。感光させるか、あるいは化学的に、反転像を得る。
  4. ハロゲン化銀を現像し、現像液をつかいきりフィルムの各層にある染料を結合させる。
  5. 最後に、漂白、定着、安定化、乾燥を上記同様に行う[9]

注釈

  1. ^ 処方は亜硫酸ソーダ: 20 g/重亜硫酸ソーダ: 5 g/ヘキサメタ燐酸ナトリウム: 0.5 gで、これらを順次温湯にて溶解し、最後に水を加えて1000 mlにする。1000 mlで35mmフィルム36枚撮りで20本処理できる。新液は保存性が高いが、使用液は保存中に汚濁が生じたら廃棄しなければならない。
  2. ^ 現在一般に使われている小型タンクではなく、吊り下げ式の深タンクのことである。
  3. ^ 平皿現像液の処方及び標準現像時間は現在一般に使用されている小型タンクにそのまま転用することができる。
  4. ^ 1964年にアグファ(アニリン会社)と事業統合したゲヴァルト写真製造、および1928年にアグファと合併したアンスコを含む。
  5. ^ 前身の六櫻社、小西六本店を含む。のちのコニカ、現在のコニカミノルタホールディングス
  6. ^ メトールがアグファを権利者とする商品名であるので、イーストマン・コダックではこの名で販売していた。
  7. ^ レシピに「重亜硫酸ソーダもしくは酸性亜硫酸ソーダまたは異性重亜硫酸カリ(メタカリ)」とある場合に、同量のメタカリをこれに代えることができる。
  8. ^ 海外のレシピでは一水塩炭酸ナトリウム(炭酸ナトリウム一水和物)となっている場合が多いが、国内では入手しづらく入手の容易な無水炭酸ナトリウムに使用量を換算して代替するのが通例であるので、この一覧でもそれに準ずることとし、原処方にて「一水塩炭酸ナトリウム(一水塩炭酸ソーダ)」と特に指定のある場合のみ“一水塩”と併記して記載するものとする。
  9. ^ 特にレシピで指定のない限りは、必ず最後に溶解すること。
  10. ^ かつて「コダルク」の商品名で販売されていたアルカリ剤の主成分。現在は入手できないので、これで代用して調合する(レシピによっては硼砂で代用する。)
  11. ^ 例として「標準寫眞處方集」ではハイドロキノンが5.9 g、無水炭酸ソーダが11.5 g、ブロムカリが1.7 gになっている。
  12. ^ 処方にメトールが使われているものならばフェニドンに代替できる。使用量はメトールの1/10。
  13. ^ 拓大写研のレシピに依る。「寫眞處方大事典」では0.5 gとなっている。
  14. ^ メトールがアグファを権利者とする商品名であるので、富士写真フイルムではこの名で販売していた。
  15. ^ かつて「ナボックス」の商品名で販売されていたアルカリ剤の主成分。現在は入手できないので、これで代用して調合する(レシピによっては“ホウ砂”で代用する。)
  16. ^ "Digitaltruth Photo"掲載のレシピでは一水塩 5.75 gとなっている。
  17. ^ "Digitaltruth Photo"掲載のレシピでは一水塩 1.2 gとなっている。
  18. ^ "Digitaltruth Photo"掲載のレシピでは一水塩 14 gとなっている。
  19. ^ "Digitaltruth Photo"掲載のレシピでは1.5 gとなっている。
  20. ^ 解熱鎮痛剤である「タイレノール」を粉砕して調合する。
  21. ^ “「DrFrankenfilm」のレシピに拠る[14]”。
  22. ^ “p-アミノフェノール塩酸ナトリウムの代わりに解熱鎮痛剤であるタイレノールで調製するタイプのロジナールの別名 [15]”。
  23. ^ 原処方では30錠×500 mgだが、日本では300 mg処方の錠剤しか無いため50錠使用する。
  24. ^ 「通俗寫眞藥品解說(加除訂正第三版)」所載のレシピ (p.389)に拠る。
  25. ^ 「通俗寫眞藥品解說(加除訂正第三版)」所載のレシピ(p.388)に拠る。
  26. ^ メトールがアグファを権利者とする商品名であるので、小西六写真工業ではこの名で販売していた。
  27. ^ かつて「コニグレイン」の商品名で販売されていたアルカリ剤の主成分。現在は入手できないので、これで代用して調合する(レシピによっては“ホウ砂”で代用する。)
  28. ^ 拓大写研のレシピではコニグレイン2 gを調合することになっているが、小西六写真工業が公表したレシピには記載がない。
  29. ^ メトールがアグファを権利者とする商品名であるので、オリエンタル写真工業ではこの名で販売していた。
  30. ^ 拓大写研のレシピに記載されているが、オリエンタル写真工業の公表したレシピには記載が無い。
  31. ^ 拓大写研のレシピでは2 gとなっている。
  32. ^ 「新写真処方と特殊写真処方集」では4.5 gとなっている。
  33. ^ 「新写真処方と特殊写真処方集」ではコダルク2.25 gとなっている。
  34. ^ a b 「特集フォトアート '77 No.60」掲載のレシピには記載がない。
  35. ^ 「新写真処方と特殊写真処方集」では0.5 gとなっている。
  36. ^ 「特集フォトアート '77 No.60」掲載のレシピでは58.5 gとなっている。
  37. ^ 「特集フォトアート '77 No.60」掲載のレシピでは一水塩炭酸ソーダ50 gとなっている。

出典

  1. ^ a b デジタル大辞泉『現像』 - コトバンク、2011年11月30日閲覧。
  2. ^ a b カメラマン写真用語辞典『現像』 - コトバンク、2011年11月30日閲覧。
  3. ^ a b 百科事典マイペディア『現像』 - コトバンク、2011年11月30日閲覧。
  4. ^ プログレッシブ和英中辞典(第3版)『現像』 - コトバンク、2011年12月3日閲覧。
  5. ^ a b デジタル大辞泉『C-41現像』 - コトバンク、2011年11月30日閲覧。
  6. ^ a b c d 『図解入門よくわかる最新半導体プロセスの基本と仕組み』、佐藤淳一、秀和システム、2010年2月 ISBN 4798025232 、p.100.
  7. ^ Wall, 1890, p.30–63.
  8. ^ Photographic Almanac, 1956, p. 149–155
  9. ^ a b Langford, Michael (2000). Basic PHOTOGRAPHY 7th EDITION. Oxford: Focal Press. pp. 210; 215–216. ISBN 0 240 51592 7 
  10. ^ Photographic Almanac, 1956, p. 429–423
  11. ^ 「印畫修整の實際」(p.236)
  12. ^ Homebrew Rodinal”. 2016年11月15日閲覧。
  13. ^ Homebrew Rodinal”. 2016年12月18日閲覧。
  14. ^ [1] 2016年11月27日閲覧。
  15. ^ [2] 2018年5月1日閲覧。
  16. ^ How to make Rodinal”. 2016年12月26日閲覧。
  17. ^ Homebrew Rodinal -pa_Rodinal film developer -”. 2017年4月8日閲覧。
  18. ^ Parodinal-”. 2018年5月1日閲覧。
  19. ^ a b 自社現像レトロエンタープライズ、2011年12月2日閲覧。






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