チオ硫酸塩
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/04/29 08:10 UTC 版)
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チオ硫酸塩(チオりゅうさんえん、英: thiosulfate)は、硫黄のオキソアニオン、チオ硫酸イオン S2O32- を含む塩である。接頭辞「チオ」は、硫酸イオンの酸素原子が硫黄原子で置換されたものであることを示している。チオ硫酸塩は自然に存在し、ある特定の生化学的プロセスによって生成される。銀鉱石の精錬、皮革製品の製造、繊維への染料の定着などに使われる。また、チオ硫酸ナトリウムは写真撮影においてハイポと呼ばれ、現像後の白黒ネガの定着剤として用いられた。今は3〜4倍速く反応する「迅速定着剤」としてチオ硫酸アンモニウム(中国語: 硫代硫酸铵)が使われている[1]。いくつかのバクテリアはチオ硫酸塩を代謝することができる[2]。
生成
チオ硫酸塩は、亜硫酸塩と単体の硫黄との反応によって生成される。
反応
チオ硫酸塩は、酸性溶液中では硫黄と亜硫酸が脱水した二酸化硫黄に分解するため、不安定である。
- S2O32− (aq) + 2 H+ (aq) → SO2 (g) + S (s) + H2O
この反応では硫黄の水懸濁液が生成し、これは物理学での光のレイリー散乱の実演に用いられることもある。この懸濁液に白色光を上から当てると青い光が見られ、横から当てるとオレンジ色の光が見られる。これは空の正午と夕方での色の違いと同じメカニズムに起因している。
チオ硫酸塩はハロゲンごとに反応が異なる。これはハロゲンの酸化力が周期を下がるにつれて減少することに起因している。
- S2O32− (aq) + 2 Cl2 (aq) + 5 H2O (l) → 2 SO42− (aq) + 4 Cl− (aq) + 10 H+ (aq)
- S2O32− (aq) + 2 Br2 (aq) + 5 H2O (l) → 2 SO42− (aq) + 4 Br− (aq) + 10 H+ (aq)
- 2 S2O32− (aq) + I2 (aq) → S4O62− (aq) + 2 I− (aq)
チオ硫酸塩は金属を素早く腐食する。鋼やステンレス鋼は、チオ硫酸塩によって誘発される孔食に極めて敏感である。ステンレス鋼の孔食に対する耐性を向上させるために、モリブデンの添加 (AISI 316L hMo) が必要となる。
チオ硫酸塩は、しばしば硫化物の不完全な酸化(黄鉄鉱酸化)や、硫酸塩の部分的な還元(クラフト紙製造)などによっても生成する。チオ硫酸塩の天然での発生は、実質的に非常に稀な鉱物シドピーターサイト Pb4(S2O3)O2(OH)2 に限定されている[3]。現在は、鉱物バーゼンノーバイトでこのアニオンの存在が議論されている[4]。
命名法
付加命名法でのIUPAC組織名はトリオキシドスルフィド硫酸(2-) trioxidosulfidosulfate(2-) で、対応する酸の名称はジヒドロキシドオキシドスルフィド硫黄 dihydroxidooxidosulfidosulfur である。
出典
- ^ Sowerby (Ed.), A. L. M. (1961). Dictionary of Photography: A Reference Book for Amateur and Professional Photographers (19th ed.). London: Illife Books Ltd.
- ^ C.Michael Hogan. 2011. Sulfur. Encyclopedia of Earth, eds. A.Jorgensen and C.J.Cleveland, National Council for Science and the environment, Washington DC
- ^ http://www.handbookofmineralogy.org/pdfs/sidpietersite.pdf Mineral Handbook
- ^ http://www.minsocam.org/msa/AmMin/Toc/Abstracts/2005_Abstracts/Oct05_Abstracts/Bindi_p1556_05.pdf
関連項目
チオ硫酸塩
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/06/01 01:23 UTC 版)
「チオ硫酸塩」も参照 チオ硫酸イオンは4面体構造をとり、硫黄原子は中心と1つの頂点に、酸素原子は他の頂点に配置する。この様にチオ硫酸の二つの原子は等価ではなく頂点に位置する硫黄は酸化還元能や錯体形成能などチオ硫酸塩の化学的性質を特徴づけている。 酸化還元剤としては単体ハロゲンの酸化に利用される。すなわち、反応が定量的に進行しチオ硫酸イオンは硫酸イオンとなるためヨウ素滴定の滴定試薬として利用される。他に定量的に酸化還元反応が進行するものとして、塩素、臭素、過マンガン酸塩、クロム酸塩などがあげられる。日用品としては水道水中の残留塩素を無毒化したりする用途で、鑑賞用魚類の水質改善剤や塩素除去用の食品添加物としてしばしば利用される。 上記以外にもチオ硫酸塩はさまざまな酸化還元反応を示す。酸性溶液中の過酸化水素に対しては四チオン酸塩ないしは三チオン酸塩を生成するのに対してアルカリ性の過酸化水素に対しては硫酸イオンを生成する。あるいは金属を酸化することで銅、亜鉛、アルミニウムを腐食し硫化物を生成する。 キレート剤としては、写真の定着プロセスに利用して現像しなかった難溶性のハロゲン化銀を過剰量のチオ硫酸塩で処理することで銀のチオスルファト錯体として可溶化する。この性質は金(I)塩、銀(I)塩、銅(I)塩で共通する性質である。
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