地図 地図の概要

地図

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/24 05:44 UTC 版)

イドリースィーによる世界地図。1154年頃に作成されたもので、メッカを中心に南を上、東を左としている。これによりメッカからの方角が分かりやすくなっている。また気候区分を示す線も描かれている。

概要

地図とは、地球表面の一部あるいは全部の状況を、通常は縮小して、記号化し、平面上に表現したものである[1]。 地図は「文化の総合的産物」ともいわれ[2]、「文字よりも古いコミュニケーション手段」と称されることがあるように、表現手法として人類に重宝されてきたものである[3]

地図の具備すべき条件として、(1) 距離、(2) 面積、(3) 、(4) 形の正確さと、(5) 明白さ・理解しやすさ等の要素があるとされる[4]。実用の地図は測量の結果を紙上に展開して地形・地物・説明文字を付して完成させた実測図と、実測図の成果や各種資料により編集原図を作製し製図・製版・印刷を経て出版される編纂図に大別される[4]。ただ、地球回転楕円体扁球)である。平面的な小地域を図化した実測図においては上の条件を実用的な程度にまで満足させることができるが、球面の影響の出る大地域を図化した編纂図においては投影法縮尺などの点から上の条件を満たしきれないため読む際に注意を必要とする場合がある[4]

地図の製作と収集能力を買われ、アメリカ合衆国連邦政府に登用された[5]イザイア・ボウマンは「地図は地理的ないろいろの象徴の中で最も普遍性のある、また最も目立ったものである」と述べ、地理学における地図の重要性を説くと同時に、地理学は単なる「分布の科学」ではないとし、地理学における地図の限界にも言及している[6]。ボウマンの指摘した地図の役割を要約すれば、分布の明示・測定の具象化・関連し合うものを同時に表現することの3点となる[7]

地図では情報の多くが地図記号で表されているが、地図の種類または国ごとに統一され決められている。ただし地形図以外のもの(道路地図やガイドマップなど)においてはこのような規格には沿っていないものが多い。さらに鉄道路線図のように接続関係のみを重視し幾何学的正確性を無視したものもある[注釈 1]

地図のデジタル化が進み地図上に多くの情報をあわせて持つことができるようになっている(地理情報システム(=GIS)参照)。

明確な定義があるわけではないが、江戸や明治時代に作られた戦前の古い地図を古地図ドイツ語版と呼ぶ[8]

歴史

地図は、文字よりも古くから人類に使われていたと考えられている。また、文字が存在しない文化でも、地図に類するものが使われている場合がある。

バビロニアの世界地図(紀元前600年ころ)
ブラウ図(1664年)

原始時代の地図は残存してはいないものの、その名残とされるものとしてはタヒチ先住民による木片を用いた立体図やマーシャル諸島の先住民によるヤシ繊維タカラガイを用いた航海用図といったものがある[9]

現在発見されているものの中で、最も古いと考えられている世界地図は、バビロニア世界地図である。紀元前600年ごろに作成されたと考えられている。ただ、世界地図とは言っても、想像や伝聞情報によると思われる箇所が多く、正確に描けているのはバビロンと周辺都市に限られている。

社会が発展して国家が誕生すると、土地の耕作や用水路の建設など、行政のために地図は欠かせないものとなった。また、戦争ともなると地の利を活かす必要があり、軍事面でも自国や敵国地形を把握することが重要となっていった。そのため、古今東西を問わず、為政者は正確な地図を作るために力を入れ、地理学者を呼び寄せるなどしていた。ノルマン王ルッジェーロ2世イドリースィーを招き、1154年当時の当時の知見を集大成した世界地図を作成させている。

日本では、平安時代初期の弘仁5年6月23日付官符に引用されている「天平10年5月28日格」に「国図」の語があり、『続日本紀』の天平10年8月の記事に「天下の諸国をして国郡図を造進させる」と見えているので、この頃には日本地図が存在していたと考えられている。ただし、地図そのものは残っておらず詳細は不明である。現在確認されている中で、日本の最も古い地図は奈良時代行基が作ったとされる行基図である。これは、正確性に欠けるものの広く流通し、いくつかの修正は入ったものの一般庶民には江戸時代まで使われていた。また、土地の耕作者や納税負担者を確定させるために「田図」などの土地関係の地図は古くから作成されていたと考えられ、律令制の下では田畑の調査をした際の校田図と班田収授の結果を記した班田図、荘園が自己の所有地を記した荘園図、寺院が寺境内の区画や荘園などの所領について作成した寺域図・寺領図などの存在が知られており、縮尺や方格を用いた地図は奈良時代には存在していた。これらは先に律令制を採用していた中国からの技術に基づいたとみられている[10]

伊能忠敬による『大日本沿海輿地全図武蔵下総相模

日本人が自国の正確な形を知ったのは、伊能忠敬らが作り上げた大日本沿海輿地全図によってである。この地図の精度は既存の地図を凌駕する正確なものであった。

20世紀に入ると測量技術の向上が図られ、世界的に地図の精度も著しく向上する一方、政治的な意図により敢えて誤った情報を書き込む、もしくは隠匿する動きも見られた。 1960年代後半にソビエト連邦、ソ連科学アカデミーが修正した地図では、レニングラードなどの都市鉄道の位置が10km単位でずれており、アメリカ合衆国側は弾道ミサイル攻撃を想定した国防的意図をもった修正としてみなしていた[11]。また、ソビエト連邦以外でも、軍事産業などを担う秘密都市など最初から地図に載せないケースが見られた。


注釈

  1. ^ 先駆的な例としてロンドン地下鉄路線図がある
  2. ^ このようにビットマップ形式以外のデータをビットマップ化することをラスタライズと言う。

出典

  1. ^ a b c d ブリタニカ百科事典「地図」
  2. ^ 靑野寿郎・保柳睦美監修『人文地理事典』 p.37 1951年 古今書院
  3. ^ 柴崎 (2008):34ページ
  4. ^ a b c 靑野寿郎・保柳睦美監修『人文地理事典』 p.38 1951年 古今書院
  5. ^ 竹内・杉浦 編 (2001):316ページ
  6. ^ 灰谷 (1958):17 - 18ページ
  7. ^ 灰谷 (1958):20ページ
  8. ^ 古地図とアプリで過去と現在のつながりを学ぼう 親子で楽しむ歴史散歩のすすめ”. www.asahi.com. 2023年8月17日閲覧。
  9. ^ 靑野寿郎・保柳睦美監修『人文地理事典』 p.181 1951年 古今書院
  10. ^ 飯田剛彦「古代の地図」館野和己・出田和久 編『日本古代の交通・流通・情報 3 遺跡と技術』(吉川弘文館、2016年) ISBN 978-4-642-01730-5 P322-353
  11. ^ ソ連発表の地図に異変 西部の町、鉄道位置が大移動 核攻撃を想定し偽装?『朝日新聞』1970年(昭和45年)2月4日朝刊 12版 14面
  12. ^ a b c d e f g h i 靑野寿郎・保柳睦美監修『人文地理事典』 p.40 1951年 古今書院
  13. ^ 靑野寿郎・保柳睦美監修『人文地理事典』 p.40-41 1951年 古今書院
  14. ^ a b c d e f g 靑野寿郎・保柳睦美監修『人文地理事典』 p.41 1951年 古今書院
  15. ^ 著作権法 第十条 この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
    六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
  16. ^ 著作権法 第五十一条 2 著作権は、この節に別段の定めがある場合を除き、著作者の死後(共同著作物にあつては、最終に死亡した著作者の死後。次条第一項において同じ。)七十年を経過するまでの間、存続する。
  17. ^ 著作権法 第五十三条 法人その他の団体が著作の名義を有する著作物の著作権は、その著作物の公表後七十年(その著作物がその創作後七十年以内に公表されなかつたときは、その創作後七十年)を経過するまでの間、存続する。
  18. ^ 著作権法 第五十二条 無名又は変名の著作物の著作権は、その著作物の公表後七十年を経過するまでの間、存続する。ただし、その存続期間の満了前にその著作者の死後七十年を経過していると認められる無名又は変名の著作物の著作権は、その著作者の死後七十年を経過したと認められる時において、消滅したものとする。
  19. ^ Google マップ ベータ
  20. ^ goo 地図
  21. ^ Yahoo!地図
  22. ^ MapFan Web
  23. ^ マピオン
  24. ^ FLASH EARTH
  25. ^ Bing Maps
  26. ^ NAVIEW
  27. ^ MAPION LABs






地図と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「地図」の関連用語

地図のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



地図のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの地図 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS