エリート エリートの概要

エリート

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/27 22:02 UTC 版)

概要

語源はラテン語の eligere(選ぶ、選出する)で、「選ばれた者」を意味する[2]。一般的には、ある社会において優越的な地位を占める少数者を指す。優越性の根拠には社会資源の独占、意思決定機能の独占、職業・知識・経験など少数者の属性に関わるものなど、エリート論によって違いがある[3]。民族・宗教などの場合は選民思想、階級の場合は貴族制、知識経験の場合は知識人インテリ)や資格主義に関連する場合がある。政治学的には、統治者(層)に必要な資質を持っている、あるいは持っているとみなされている場合が多い。ハロルド・ラスウェルはエリートと特定される人物について、ある勢力の主体として社会的尊敬・収入・安全の3つの価値を最大限に獲得できる者をエリートと定義している[3]

エリートが重視される思想や傾向はエリート主義と呼ばれ、一元主義の一種である。対する概念には、非エリートである大衆の立場を重視するポピュリズム平等主義、複数の観点や基準を並存させる多元主義などがある。

エリートが単独で支配者となる体制は寡頭制の一種であるが、必ずしも権威主義ではない。エリートが全体の代表者に選出されたり、全体の代表者の配下でエリートがテクノクラートとして登用され重視される形態は、民主制でも独裁制でもありうる。エリートは専門家集団であるため官僚主義となり実権を握る場合も多いが、その場合は最終権力者からエリートへの統治(ガバナンス)の有効性が議論となる。

一般にエリートは、他者より高い経験と責任を発揮して国家の統治や一般大衆への指導を行うことが期待されており、社会的な分業体制の一端として捉えることもできる。森嶋通夫は、日本に限らず現代世界のエリートの分布状態を、民主制の基盤たる素人主義に対する玄人主義ないし専門家主義という言葉で位置づけている[4]。ただしエリートが期待された役割を果たしていない、と他者からみなされた場合には、エリート層の交代論や、各種の反エリート主義が発生しやすい。

マラソンなど公式記録が計測されるレースや参加者を「エリート」と呼ぶ場合がある。対するものは「市民ランナー」や「一般枠」などと呼ばれる。

エリート論

政治学の古典的エリート論として社会主義脅威論を背景としたガエターノ・モスカロベルト・ミヒェルスオルテガ・イ・ガセットらのエリート論がある[3]。古典的エリート論はいずれも大衆社会の少数支配の不可避性をイデオロギーとして実証主義の立場で展開され、エリートの機能を経済的側面よりも政治・社会的性格を重視して論じられている。例えば、ミヒェルスは『政党社会学』において、政党と労働組合は寡頭制支配者の権力の道具となり、一般成員との対立を生むことを必然とする「寡頭制の鉄則」を唱えた[3]

ヴィルフレド・パレートは、革命階級闘争を経る事無くエリートと非エリート間の人的交代が行われ、社会システムの変革とリバランスが達成されるという「エリートの周流」理論を唱えた[3]。パレートによれば、政治的人間は非道徳で権謀術数を得意とするキツネ型の人物と、暴力的で権力志向の強いライオン型の人物に分けられ、ライオン型はキツネ型が上位に立つことに我慢ができないが、ライオン型の暴力的支配は長続きしない。結果として、ライオン型とキツネ型は絶えず権力を巡って交代し続けるという。古典的エリート論ではエリートと大衆の関係は固定的とされてきたが、「エリートの周流」理論では個人間の周流のみならず、上層社会と下層社会の出生率の差と、蓄積される質的優秀者・劣弱者の交換によって社会的周流も発生しうると説いた[3]

ジェームズ・バーナムは『経営者革命』(1941年)において、経済エリートに着目したエリート論を唱えた。当時、社会の経済活動が巨大な組織体中心になるにつれて、専門知識を持つ経営者が必要になりつつあった。バーナムは経営者は新たな階級を形成し、出資者である資本家階級よりも優位となり、資本家の退場によって資本主義社会は経営者社会へと変化すると述べた[3]


注釈

  1. ^ 例えば、日本では旧帝国大学及びナンバースクール旧官立大学など、アメリカであればアイビー・リーグ参加校、イギリスであればオックスブリッジ、フランスであればフランス国立行政学院(ENA エナ)などの名門グランゼコールといった学校群。
  2. ^ エコール・フェランディ内に料理科(エコール・シュペリウール・ド・キュイズィーヌ・フランセーズ (en))、レストランマネジメント科、インテリアデザイン科などが置かれている。
  3. ^ 組織上、恣意的な抑圧や圧迫感が「上」から「下」へ順次移譲されることで最終的に組織内外の一番の弱者に発揮されること。またそれによって組織全体のバランスが維持されている体系。丸山眞男が『現代政治の思想と行動』増補版(未來社、1964年)収録の「超国家主義の論理と心理」で述べている

出典

  1. ^ エリート - 世界大百科事典
  2. ^ elite - thefreedirectory.com
  3. ^ a b c d e f g h 佐伯孝夫 加藤秀治郎岩渕美克(編) 『政治社会学』 一藝社 2013年 第5版 ISBN 9784863590502 pp.58-65.
  4. ^ 森嶋通夫『日本の選択――新しい国造りにむけて』岩波書店[同時代ライブラリー]、1995年。
    なお、"ジェントルマン" も参照。
  5. ^ 2.イギリスの学校系統図 文部科学省 HP
  6. ^ 2017年ドイツ大学ランキング ドイツ留学ラボ 2018年1月30日
  7. ^ 名門大学に入るための名門高校、アメリカの学歴カースト制 cyzowoman 2012年10月7日
  8. ^ 『日本の母子関係:その心理的な問題』津留宏著 黎明書房 1958、p43(改題「古い母・新しい母」)
  9. ^ 『総理の乳母:安倍晋三の隠された原風景』七尾和晃著 創言社 2007、p61-p63
  10. ^ a b 参照は、『事典 日本の課題』(総合研究開発機構編、学陽書房、1978年初版)pp.607-608
  11. ^ 参照は、「"危機対応と財政 (4) 政治を支える行政府" 4.米国のリーダーシップを支える行政府国家公務員共済組合連合会理事長松元崇財務省広報誌「ファイナンス」令和2年9月号
  12. ^ 参照は、『都市型社会と防衛論争』 (松下圭一、公人の友社、2003年)
  13. ^ 若林幸男「1920~30年代三井物産における職員層の蓄積とキャリアパスデザインに関する一考察 : 初任給額の決定要因を中心として」『明治大学社会科学研究所紀要』第53巻第1号、明治大学社会科学研究所、2014年10月、119-138頁、ISSN 0389-5971NAID 120005656979 
  14. ^ 天野郁夫『旧制専門学校』日本経済新聞社〈叢書〉、1978年。 
  15. ^ 実業之日本社『三井鉱業における学歴別初任給』実業之日本〈雑誌〉、1919年。 第22巻16号


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