幻視的な芸術の初期からその展開とは? わかりやすく解説

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幻視的な芸術の初期からその展開

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/27 15:26 UTC 版)

幻視芸術」の記事における「幻視的な芸術の初期からその展開」の解説

アレックス・グレイの画集聖なる鏡』において、思想家ケン・ウィルバー解説するヨーロッパ芸術における神秘的幻視的な絵画伝統は、初期には12世紀修道女ヒルデガルト・フォン・ビンゲンがそのヴィジョン記した書物であり、さらにはミケランジェロヒエロニムス・ボッシュ、もっと後のウィリアム・ブレイク象徴派ジャン・デルヴィルといった名が挙げられている。トマス・アクィナス13世紀神学者哲学者)による「幻視」という語の考察によれば幻視第一に視覚器官による知覚であり、第二想像力知性による内面における知覚である。神秘主義においては必ずしも幻視視覚体験ではないものの、イメージ知覚であることには変わりがない。超越的なものとの出会い表象不可能だということは大半神秘家達の同意するところである。しかしながら幻視主題とする無数の美術作品歴史的に積み重ねられてきた。。1401年にはジャン・ジェルソンが『真の幻視と偽の幻視識別について』を著し異端審問活動多く幻視現象向けられ16世紀17世紀神秘主義では、いかなる幻視も完全に確実なものではないという結論到達した。。 詩人であり画家であるウィリアム・ブレイク1757年 - 1827年)は、強烈な神秘的なヴィジョン定期的に経験し幻視芸術描いた。『天国と地獄結婚英語版)』において「知覚の扉除かれるならば、人間にはすべてがありのままにみえる」という趣旨述べている。ブレイクについて1970年代に「幻視芸術」と言及した日本書籍visionary art言及したイギリス書籍見られる。霊(スピリット)の表現のための観想眼を開くには、瞑想確実な方法のひとつである。あるいは、シャーマンは霊の世界交信するために、幻覚剤性交苦行などを試す。 神秘思想家ルドルフ・シュタイナーは 高度な霊視力で絵画建築創造し1918年講演会で、芸術における二つ源泉について述べている。一つ病的な幻視ヴィジョン)を健全な仕方で魂の深層据えるための表現主義芸術形態であり、もう一つは自然の内部ある秘密解放し直接的な感覚的生命自体思い切って感じ再統合するための印象主義的芸術形態である。常に人間の魂の欲求が向かう二つ芸術形態近未来において全く独特な形で成し遂げられるだろうと予測している(W・クグラー『シュタイナー 危機の時代生きる久松重光 訳 105P〜109P)。 画家のフィリップ・ルビノブ・ジェーコブソンによればVisionary Art言葉1933年心理学者カール・グスタフ・ユング造語したものであり、ユング幻視芸術啓示として説明しそれは非日常的意識の状態に由来する。そしてユング1940年代ヴィジョンについての講義行っており、その取り組みには能動的想像法(英語版)の実験や(その結果としてヴィジョン描いた)『赤の書』がある。ジェーコブソンによれば幻視芸術とは、観想の眼によって現れた「見えているヴィジョンであるか、そうした経験基づいている。 メキシコウイチョル族毛糸絵であるニエリカは、幻覚性のサボテンであるペヨーテもたらす至高神タテワリ与えるという神話的ヴィジョン描いている。 メスカリン体験したイギリス作家オルダス・ハクスリーは、1953年に「幻視体験幻視芸術に関する一連の講義行なったが、後にハクスリー関心失っている。芸術における幻覚剤可能性過剰に宣伝されたことが批判されており、幻覚剤による芸術創造限界指摘されている。ハクスリーのような幻覚剤根強い関心のある作家たちの活動影響美術には及ばず幻覚剤なしに想像力までを含めた幻視産物としての美術が、特にそれはシュルレアリスム超現実主義)の時代顕著に認識された。とはいえ民族文化伝統では、メキシコウイチョル族毛糸絵であるニエリカは「神の顔」「鏡」という意味であり、メスカリンを含むサボテンペヨーテ摂取することで出現する至高の神タテワリによってもたらされ神話的なヴィジョン反映したのであるペルーパブロ・アマリンゴは、アヤワスカによるヴィジョン現れる神と聖霊伝え世界絵画通じて表現した21世紀に入って芸術活動幻覚剤関連持続しており、幻視芸術の名で紹介されている。 1972年アウトサイダー・アートという用語を確定させ、デュビュッフェによるアール・ブリュット(主に障害者作品集めたデュビュッフェ提唱した概念)をさらに定義しなおしたロジャー・カーディナル(英語版)は、適した用語を探し求めた時のことを詳述している。無数の用語の中の一つヴィジョナリー・アート(『パラレル・ヴィジョン訳書では「幻視する美術」に読みとしてふられている)を挙げているが、アウトサイダー・アートという用語も含めてどれもが十分に鋭く抜いたものではないと述べている。。アメリカ合衆国メリーランド州ボルチモア所在するアメリカン・ヴィジョナリーアート・ミュージアム(英語版)における幻視芸術の定義は、以下のようになっている。この定義は、アウトサイダー・アートの定義と同じである。 Visionary art as defined for the purposes of the American Visionary Art Museum refers to art produced by self-taught individuals, usually without formal training, whose works arise from an innate personal vision that revels foremost in the creative act itself.アメリカン・ビジョナリーアート・ミュージアムのための幻視芸術の定義は、通常正式な美術教育受けていない独学個人によって生み出され芸術であり、創造的な活動そのもの中でも何よりの楽しみである、その人本来のヴィジョンから生まれた作品である。 1989年創刊されアウトサイダー・アート専門誌である Raw Vision は、アール・ブリュット、コンテンポラリー・フォーク・アート、幻視芸術のような同類分野取り扱ってきた。同誌のウェブサイトの「アウトサイダー・アートとは何か」では、幻視芸術INTUITIVE ART とは、宗教体験ヴィジョンに基づくものだけでなく、第三世界多く都市民俗芸術までを含めることができると説明されている。イギリスアウトサイダー・アート研究者によればアウトサイダー・アートという言葉大衆芸術幻視芸術のような他の用語取り込んでいっている。1992年から1993年にかけて、欧米3か国と日本世田谷美術館アウトサイダー・アート展覧会である「パラレル・ヴィジョン」展が開催されアウトサイダー・アートの中のひとつとして幻視者の作品紹介された。それにあわせて展覧会著作翻訳されており、主に精神障害者による作品提示されているが、アウトサイダー・アートの中のひとつとして幻視芸術紹介され精神障害者以外の幻視者、霊媒者、心霊術師の作品少数ではあるが展示された。そこで集められたのは「強迫的幻視者」たちの作品である。なお、主催したロサンゼルス・カウンティ美術館では1986年に、「芸術における霊的なもの:抽象絵画1980-1985」が開催されている。芸術における神秘主義についての文献膨大であり、95人の芸術家すべてについて125冊の本から「霊的な伝記裏付け専門家依頼した論文でも、認識の「別種方法」への関心見られた。そして、1995年には、アメリカボルチモア国立美術館としての認可受けた前述のアメリカン・ヴィジョナリーアート・ミュージアムが創設されており、乱用されているアウトサイダーという言葉代わりにヴィジョナリーという言葉用いたのである1994年放送されNHKスペシャル驚異の小宇宙 人体II 脳と心』(第6集:果てしなき脳宇宙無意識創造性)はアレックス・グレイを取材し人間の骨や筋肉正確に描きつつもその魂を描き出そうとする独自の作風生み出し、心の眼で見ているものを形にしていると解説された。グレイ1993年作品変容』Transfigurationは、最初夢の中で描いていた絵であり、後にDMT幻覚剤)を吸ったことでそのインスピレーション強調されたし、1997年の『ヴィジョン・クリスタル』Vision Crystal瞑想で観たものである1994年朝日新聞社主催東京大阪神戸における巡回展、『現代パリ幻想芸術家たち展』において5人のフランス人画家によるラール・ヴィジョネールが幻視芸術として紹介された。また自らをファンタスティック幻想的)と呼ぶことを好まないジェラール・ディマシオやアラン・マルゴトンといった画家達の芸術のために使用されことがある展覧会の名称には幻想言葉使われているが、フランス語では幻視を指すヴィジョネールが表記されており、この幻視芸術従来幻想芸術ファンタスティック)という概念では説明し難く展覧会解説書は、全ての解説者たちが幻想幻視区別について論じた。 ミシェル・ランドンが1979年出版した『ヴィジョネール美術』の引用を含む、厳谷國士解説によれば幻想芸術超自然的なるものの自然的な世界へ侵入によって裂け目撹乱起こそうとするものである。それに対して幻視芸術明確なヴィジョン探求するのであるがために、中心点における唯一者、あるいは統一性への探求に向かうものであり、螺旋状をなす一点からの拡大可能性自然的世界前提にせず試みるものである続けて厳谷によれば、ヴィジョネールの絵画には、宗教的な幻視の形をとった長い歴史があるが、ディマシオの芸術宗教的な啓示から出発したものではなく、魂や精霊といった個人超えた集合無意識通して異様な表現到達している。 主な解説者である画商のエルヴェ・セランによれば幻視絵画鑑賞者が自ら幻視となって作品世界入り込んで鑑賞すべく描かれているものであり、単に幻想的な芸術サイエンス・フィクション、あるいはシュルレアリスム安易に混同されるべきではないと述べ幻視絵画基本的な三つ基準挙げている。それらは、霊的な奥行き、無時間性完璧な技法である。 吉村良夫論考ではイギリス19世紀美術専門家言葉引用してヴィジョナリー・アートとは宗教性とそれを超えることや、時間超えたものといった特徴があり、フランスでは幻視絵画基盤が不十分であったために、今そうした芸術家注目集まっていると述べている。巻末インタビューの中では、画家のジャン・ポール・ランデが唯一現実幻視幻覚体験描写したことがある答えている。他の画家たち彼のような体験とは無関係に制作している。 幻視芸術家のローレンス・カルアナ(英語版)は、2010年に『幻視芸術第一宣言』(未訳)を出版している。2001年の『幻視芸術第一宣言』の草稿における「幻視芸術とは何か?」という一章おいて、これは決定的なものではないと断りながらも、幻視芸術本質についてカルアナは以下のような内容公開している。 超現実主義者(シュルレアリスト)が、(薬物用いず高次リアリティへと至る夢幻状態の高みに登ろうと試み幻視芸術家達もまた意識異なる状態へと至りヴィジョン幻視)が現れる。これを美術にするということは、夢、トランスなど変性状態を通した通常の知覚超えた幻視の状態―視界限界越えた芸術家得たヴィジョンを誰にでも見える形にして人々伝えということである。幻視芸術営みとは、芸術と、神話夢想様々な文化的象徴などが結びつけられることによって、視覚言語新たな形が見いだされるという歴史である。

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