財産
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/17 02:19 UTC 版)
概要
経済学と政治経済学においては、私有財産、公共財産[注釈 1]、組合財産[注釈 2]という財産の3形態がある[4]。
社会学や人類学では、財産がしばしば1つの対象物と複数の個人との関係(少なくともこのうち誰か1人は同対象物の財産所有権を有する)と定義される。 異なる個人が1つの対象物に対して異なる権利を有することが多い「組合財産」と「私的財産」の区別は混乱しがちである[5][6]。
日本の民法86条は、有形の財産を不動産(土地および土地に定着している物)と動産(不動産以外の物)に大別している[7]。これら有形の財産には、所有者が直接的に支配する様々な物権(所有権、用益物権[注釈 3]、担保物権など)および債権が付随する。無形の財産は、発明や芸術・音楽・著作といった創作者の経済的利益を保護する知的財産権(特許権、商標権、著作権など)が代表的で[9]、企業や個人の持つ知名度や信用なども無形の財産にあたる。しかしながら、知的財産権は必ずしも(特に開発途上国で)広く認識されているとは限らず、施行保護されていない場合がある[注釈 4][10]。1つの財産が、有形な部分(実物)と無形な部分(付随する権利等)を持っていても構わない。とりわけ所有権は、財産と他者との関係を確立しており、所有者が適切と考える方法でその財産を処分する権利を所有者に保証している[要出典]。
財産を意味する英単語「プロパティ(Property)」は、単体だと特に不動産を指すのに使われる[注釈 5]。また歴史的に見ても、資本主義以前の社会における主要な財産は土地であり、財産制度は土地所有のあり方によっていた[11]。
種類
日本を含む大半の国家・地域の法体系が財産を複数の種類に分けており、とりわけ「不動産」と「動産」とを区別している。また多くの場合、それら法体系は「有形」と「無形」の財産を区別している。
無形財産の取扱いについては、財物が相続可能でも法律ほか伝統的概念によって期限切れになる場合があり、この点は有形財産との大きな違いである。有効期限が切れると知的財産は創作者の手から離れて、使用料を払う義務もなく万人が利用可能になる(パブリックドメインやジェネリック医薬品などが典型例)。
日本では、相続に際して被相続人の遺産を「積極財産」と「消極財産」の2つに分類することがある。前者は簿記上の概念でいう「資産」にあたるもの、後者は「負債」にあたるもので、ここでの財産とは一定会計単位組織の有する権利・義務の全てを含むものとされる[12]。相続人は被相続人の財産に属する全ての権利義務を継ぐことになるため、消極財産のほうが多い場合は相続放棄することも可能である。
債権回収の実務においては、債務者が有する差押えの対象となる財産の事を「責任財産」という。一方で、民事執行法において差押えすることができない動産や債権もあり[13]、こちらを「差押禁止財産」という。
多くの社会では人体が何らかの財産と考えられている。自分の体の所有権と各種権利の問題は、概して人権の議論において生じる[注釈 6]。ビジネス界にも「体が資本」という定型句があり[14]、身体が健康で普段通りに活動できることがその人の財産であることを説いている。
経済体制と財産
財産に対する捉え方は、その社会の経済体制によって違いが見られる。
- 資本主義には、財産権がその所有者に財産を生じさせて富を生み出し、市場運営に基づいて効率的な経済資源[注釈 7]の配分が促されるという中核的な前提がある。ここから財産の現代的概念は、財産がより多くの富とより良い生活水準を生み出すことを期待して発展した。しかし、アダム・スミスは財産が不平等に及ぼす影響について批判的な見解を以下のように述べている。
- 古典的自由主義は財産の労働説を支持している。彼らは、個人がそれぞれ自分の生命身体を所有しているとの見解を抱いており、従って人はその生命身体を使う労働での生産物を認知する必要があり、それは他者と自由に交換して取引できるという見解である。
- 「誰しもが自分の体という財産を持っている。これは本人自身だけのもので他に誰も権利を持たない。(ジョン・ロック著『統治二論』)
- 「人々が社会に参画している理由は、自分の財産保護である。(ジョン・ロック著『統治二論』)
- 「生命、自由、財産が存在するのは人間が法律を作ったからではない。逆であって、以前から生命、自由、財産が存在していた事実が、人間に法律を作らせたのである。(フレデリック・バスティア著『法』)
- 保守主義は、自由と財産が密接に結びついているという概念を支持している。私有財産の所有が広がれば広がるほど、国家や国民はより安定して生産的になる。保守主義者は、財産の経済的平準化(特に強制的なもの)は経済的進歩ではないと主張している。
- 「財産を私的所有から隔離して、全体主義国家(Leviathan)がすべての支配者になる...[中略]私有財産の基盤の上に偉大な文明が築かれる。保守主義者は、財産の所有が所有者に特定の義務を課すことを認めている。彼はこれらの道徳的、法的義務を喜んで受け入れる。(ラッセル・カーク著『慎重さの政治学(The Politics of Prudence)』)
- 社会主義の基本原則はこの概念の批判を中心としており、(とりわけ)財産を守るコストは私有財産の所有権からのリターンを上回り、財産権がその所有者に彼らの財産を発展させたり富を生み出すことを奨励したとしても、彼らは自分達の利益のためにそうしているだけで、それは他の人々や社会全体への利益と一致しない場合がある、と述べている。
- 自由主義的社会主義は、一般的に短い放棄期間で財産権を受け入れる。言い換えると、人は物品を(多かれ少なかれ)継続的に使用する必要があり、さもなければ所有権を失う。これは一般に「所有財産」または「用益権」と呼ばれる。従ってこの用益権システムにおける不在者の所有権は違法であり、労働者が自分と共に働く機械または他の機器を所有している。
- 共産主義は、生産手段の共有制だけが不平等なり不当な結果の最小化と利益の最大化を保証すると主張している。それゆえ、人間は(財産とは対照的である)資本の私的所有を廃止すべきだと主張する。
共産主義も一部の社会主義も、資本の私的所有は本質的に非合法という思想を支持している。この議論は、資本の私的所有がいつもある階級に他の階級より多くの利益を生み出して、この私有資本を介して支配が起こる、という思想が中核である。共産主義者は、無産階級の人達による「苦労して獲得し、独力で獲得し、独力で稼いだ」個人財産に反対しない。社会主義も共産主義も、資本の私的所有(土地、工場、資源など)と私有財産(家、物質的な物など)を慎重に区別している。
関連する概念
合法な契約取引等
一般的な意味や説明 | 行為者 | ||
---|---|---|---|
販売 | 金銭と引き換えに、動産・不動産やその所有権を与える。対比の概念は購入。 | 売り手 | |
共有 | 複数当事者による共同運営として動産・不動産の使用を許可する。 | 所有権者 | |
賃貸 | 補償金と引き換えに、動産・不動産の限定的かつ一時的(ただし潜在的に更新可能)な独占的使用を許可する | 貸し主 | |
許諾 | 上に同じだが、主に知的財産での利用料を払うライセンス契約について言う。 | 許諾者 | |
無形の財 | 他人の所有財産を一定の目的のために使用収益する用益物権やそれに類するもの。この特定権益は、同一の当事者によって権益と対象財産が所有されると、容易に破棄される場合がある。 | N/A | |
分与 | 財産から生じる全ての財産権について特定部分の所有権ないし持分を別の当事者に与えられるのが特徴で、それ自体が財産の非実体的な形であるもの。具体例として株式など。 | ||
地役権 | 一定の目的範囲で、他人の土地を自分の土地のために利用できる権利。 賃借権と違い、その効力は目的を達成する必要最小限度にとどまる。 | ||
先取特権 | 法律の定める一定の債権を有する者が、他の債権者に優先して弁済を受けられる権利。 特定動産の先取特権(民法311条)と不動産先取特権(民法325条)を合わせて、特別の先取特権という。 | 先取特権者 | |
抵当権 | 債務の担保に供した物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利。 質権と違って引渡しを要しないため所有者は抵当権成立後も引き続き使用可能。 | 抵当権設定者 | |
質権(担保) | 債務不履行に備えて債権者に渡しておく債務者の所有物で、債権弁済を確保するためのもの。融資の返済が滞った時などに融資先の金融機関に差し出す財物[16]。 | 債務者 | |
利害衝突 (利益相反) |
僅少ないし矛盾のため財産を適切に使用・占有できずにいる、事実上の共有不能状態。 不動産でその解決に至った場合、当事者の一方がその場所から立ち退いたりする可能性がある。 | N/A | |
警備 | 危害、使用、奪取への対抗手段や保護の程度。 隠し場所や戸締りから各種警報装置や人員配置に至るまで、警備対象物の規模および重要性によってその手法も様々である。 | 警備員 | |
保全管理 | 上に同じだが、主に破産手続きにおける責任財産の保護に関していう。 | 保全管理人[注釈 8] |
侵害行為
一般的な意味や説明 | 実行犯 | |
---|---|---|
不法侵入 | 正当な理由なく他人が所有する不動産に侵入したり使用する、または要求されても他人の不動産から立ち退かない。 | 不法侵入者 |
破壊行為 | 有形財産またはその外観に対する破壊、損傷、改変。 | 破壊者 |
窃盗 | 他人の財物を所有者の意思に反して取得すること、または所有者の意思に反する財産所有権の機能的変更。 | 泥棒 |
著作権侵害 | 故意または過失による知的財産の無断複製および配布、また前段階でその複製が公開された知的財産の所有。 | 海賊版 |
所有者の逸失利益の影響による侵害、または利益または個人的利益を伴う侵害。 | ||
剽窃 | 知的財産(恐らく著作権で保護されている)かパブリックドメインかに関係なく、実際の著作者名を記さずに自分の創作であるかのように作品を発表すること。 | 盗作者 |
その他の行動
一般的な意味または説明 | 行為者 | |
---|---|---|
不法占拠 | その不動産に所有権があろうとなかろうと、使われていなかったり放棄された不動産を占有すること(当該不動産に他人の所有権があって、要求されても立ち退かないような場合、この行為は不法侵入となる)。 | スコッター |
リバースエンジニアリング | 既存の他社製品を分解・解析して、その製造方法、動作原理、ソースコードといった技術情報を(知的財産で保護されている部分もいない部分も)得る開発手法。 | リバースエンジニア |
代作 | 出版時に他の当事者が著作者として記されることが明示的に許可されている文筆作品の創作。 | ゴーストライター |
注釈
- ^ 特に日本では、このうち国が所有するものを国有財産、地方自治体が所有するものを公有財産と区別している(前者は国有財産法で、後者は地方自治法238条で規定されている)。
- ^ 組合制度による特殊な共有制度(合有と呼ばれる)で、日本では民法668条などで規定されている[3]。
- ^ 他人の土地を一定の目的のために使用収益する権利で、民法上は地上権、永小作権、地役権、入会権の4種が規定されている[8]。
- ^ 海外で散見される偽ブランドのコピー商品や、著作権を無視した海賊版などが顕著な違法事案例。後者については、動画共有サイトへの違法アップロードも後を絶たない。
- ^ 日本国内でも、三菱地所プロパティマネジメントやプロパティエージェントなど不動産関連の企業名でしばしば使われている。
- ^ 具体的には、奴隷制、徴兵制、成年以下の子どもの権利、結婚、中絶、売春、麻薬、安楽死、臓器提供に関連した諸問題がある。
- ^ ここでは土地と労働と資本を指す。詳細は生産要素を参照。
- ^ 破産手続きにおいて裁判所が保全管理命令を出した際に、裁判所から選任されて債務者の財産を管理する者。彼らは破産管財人と違い、当該財産を処分して債権者に弁済配当する権限を持たない[17]。
- ^ 自分の身体が貴重であることは言うまでもない(義肢や人工臓器などを除いて基本的に代えはない)。また、人体の機能を長年維持するには健康管理等の労力も必要となる。
- ^ ただしこの用語は、特定集団によって所有管理される組合財産、日本でいう入会(いりあい)を指すことも多い。
- ^ 711年の蓄銭叙位令で、一定量の銭を蓄えた者には位階が与えられる仕組みがあり、高位階を目的に蓄財する豪族がいた。
- ^ 寛永の大飢饉で困窮した農民が田畑を売って没落する事態が相次いだため、江戸幕府が1643年に田畑永代売買禁止令を打ち出して農民の土地を売買できないようにした。これは年貢から収入を得る大名や幕府の財政を安定させることに繋がったため[32]、江戸時代を通じて同政策が継続されていた。
- ^ 教父学理論の修正というアクィナスの文脈において、この共同体とはキリスト者共同体を指す。
- ^ 神が人間を創造して「これに海の魚と、空の鳥と、家畜と他のすべての獣と、地のすべての這うものを治めさせ」ることにしたという聖書内容から生じた、人間が自然の支配者という人間中心的な自然観[54]。
- ^ ただし公的サービスを実施するのも行政府なので、国家と行政府を分けて論じることが妥当ではないという問題がある(端的に矛盾を突くなら、税金を実際に徴収することも行政府の仕事である)。ガランボスの理論は、あくまで19世紀の「西洋哲学的考察」から導かれた言説である。
出典
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