収用
(接収 から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/07/23 14:45 UTC 版)
収用(しゅうよう。英: expropriation)または接収(せっしゅう)は、公権力による強制的な動産または不動産の差し押さえ、公的機関が私有財産を強制的に取り上げること[1]である。
例えば、戦時中には食料や動物を所有者から没収することがありえる。土地の場合は土地収用と呼ばれる。国有化(アメリカ英語: Nationalization、イギリス英語: Nationalisation)の一種でもある。また、刑事手続きにおける制裁として行われる場合もある[2]。
マルクス主義・アナキズムなどにおいては、「搾取」している者(ブルジョワジー)への「収奪(しゅうだつ)・略取(りゃくしゅ)(expropriation)」が革命的行為として論じられ、ウラジミール・レーニンらボリシェヴィキや違法主義アナーキストのボノー・ギャングたちはexpropriationと称して銀行強盗・殺人を含む略取を実際に行った[3][4][5][6]。
エミネント・ドメイン、公用収用
英米法において収用(expropriation)は、接収された財産に対して所有者に補償が支払われないという点で、エミネント・ドメイン(eminent domain)(公用収用 ・土地収用)とは異なる。
イギリス法・アイルランド法ではcompulsory purchase (強制購入)という概念もある。
公用収用 (公用徴収)は、公共事業の用に供するために財産権を強制的に取得することであり、公用負担の一種である[7]。日本では私有財産制を憲法が保障している以上、無補償での財産収用は許されないので、公用収用によって財産権者が被った損失に対して公的負担の平等の点から補償(損失補償)がなされる[7]。1951年の土地収用法では、日本国憲法第29条3項の「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」との規定に基づき、土地収用および損失補償などについて定められた。
また、収用には、特定の状況下で財産を接収する権限を政府から付与された民間主体による私有財産の接収が含まれる場合もある。
海外事業の政治的リスク
各国が国際事業・海外事業を行う際には政治的リスクが伴うため、投資家にとっては、事業を展開する各国の収用リスクや関連法規を理解しておくことが重要である[8]。
エストニア
マルクス主義・アナキズムにおけるエクスプロプリエーション (収奪)
マルクスとエンゲルス
エクスプロプリエーションという用語は、マルクス主義では「収奪」と訳される。カール・マルクスの『資本論』(1867年)における「収奪者(支配階級)が収奪される。」が有名である。
なお、フリードリヒ・エンゲルスは社会主義の戦略としての国有化に懐疑的だった。
まさにそこに難点がある。有産階級が主導権を握り続ける限り、国有化は決して搾取を撤廃するものではなく、単にその形態を変えるにすぎないからだ。それは、君主制の中欧や専制的な東欧においても、フランス、アメリカ、スイスといった共和国においても変わらない。—Friedrich Engels、Letter from Engels to Max Oppenheim, 24 March 1891
クロポトキンの略取
ピョートル・クロポトキンは『反乱者の言葉』(1885年)で、略取 (Expropriation)を革命の指針として主張した[13]。
クロポトキンによれば、ブルジョワジーは戦争にともなう革命が近づいていることを理解しており、暴力による抵抗の準備を整えており、彼らは自らの支配を維持するためなら、必要とあらば10万、20万の労働者を、さらには5万の女性や子供を虐殺する覚悟でいる[13]。そのことは、1791年[15]のシャン・ド・マルスの虐殺、1831年のリヨン (カヌの反乱)、1848年のフランス革命と1871年のパリ・コミューン)が証明している[13]。自らの資本と、怠惰や放蕩にふける権利を守るためなら、ブルジョワジーはいかなる手段も正当化するとクロポトキンは述べる[13]。
こうしたブルジョワジーに対して、アナキストも武力闘争を準備しなければならないが、重要なのは、人間による人間の搾取を廃止すること、一部の人々の怠惰な生活と、他方の人々の経済的・知的・道徳的な隷属状態から生じる不正、悪徳、犯罪に終止符を打つことである、と主張する[13]。アナキストは「完全な解決策を導き出す歴史的必然性を担っており、我々はその任務を引き受けなければならない」としたうえで、略取と無政府状態(アナーキー)こそ解決策であるとする[13]。
抑圧された大衆を満足させうるのは、全面的な略取だけだ。(…)私有財産を廃止し、すべてを万人に還元していくために、略取は大規模に行われなければならない。小規模であれば、それは単なる略奪と見なされるが、大規模に行われれば、社会の再編成の始まりとなる。(…)[16]革命の日が訪れたとき、地域、大都市、郊外が政府の支配を脱したとき、我々のなすべきことは明確である。あらゆる工場やその他の施設は共同体に還元される。個人が占有していた財産は、その真の所有者である「我々全員」の手に戻される。(…)あらゆる生産物、すなわち人間が蓄積し利用してきたすべてのものは、万人の共同作業の産物であり、その唯一の所有者は人類である。私有財産とは、万人の富に対する意識的あるいは無意識的な「窃盗」にほかならない。このことを明確に認識し、決算の時が訪れたならば、共同の利益のためにそれを喜んで我がものとすべきなのだ。(…)[17]万人がすべてを共有するようになれば、もはや盗みなど存在しえなくなる。「取れ。これらすべては君たちのものだ。君たちが必要とするものなのだ」。しかし、打ち倒すべきものは即座に破壊せよ――囚人のための要塞や監獄、市民に向けられた監視砦、長い間毒気を含んだ空気を吸わされてきた不衛生な居住区を。宮殿や邸宅に居を構え、かつて自分たちの住処だった煉瓦や虫食いだらけの木材の山は焚き火にくべてしまえ。破壊の本能とは、再生への衝動でもある[18]。それがゆえに極めて自然で正当なものだ。破壊の本能は、多くの破壊すべきもを見出すことだろう。取り替えるべき古びたものが、あまりにも多くあるのだから!家屋、都市全体、農業や工業の施設、つまり、社会のあらゆる物質的側面を、作り直さねばならないのだ。[19] — ピョートル・クロポトキン『反乱者の言葉』(1885年)[13]
ボリシェヴィキのエクスプロ(強制収奪)
アナキスト(無政府主義者)のピョートル・クロポトキンは『反乱者の言葉』(1885年)でエクスプロプリエーション=収奪論を提唱し、「エクスプロプリエーション」と称した強盗などの財産奪取がロシアでも1906年にはロシア全土で頻発した[20]。
1907年、ボリシェヴィキの活動資金が足りなくなったと感じたレーニンはレオニード・クラーシンとヨシフ・スターリンに命じて強盗集団を組織し、「エクスプロ(強制収奪)」と称して、銀行、蒸気船ニコライ一世号の金庫、郵便局、鉄道の駅を襲い、金品を奪っていった[21]。この「エクスプロ」はエクスプロプリエーション (expropriation、収奪)の略称であり、マルクス『資本論』の「収奪者が収奪される」にちなんだものだった[12]。
1907年春のロンドンでの第五回ロシア社会民主労働党党大会では、レーニンらの「エクスプロ (強制収奪)」が争点となり、ユーリー・マルトフはこれはボリシェヴィキのための資金集めであり、(ロシア社会民主労働党にとっては)泥棒行為だと非難した[22]。レーニンはあざけりながら、戦闘集団による革命のための用意だと強盗を正当化した[22]。しかし、大会では収奪は禁止された[6]。
その数週間後の1907年7月、ボリシェヴィキ強盗団はグルジアの首都で現金輸送馬車を襲撃し、国営銀行の現金を強奪した(1907年チフリス銀行強盗事件)[4]。ボリシェヴィキは、25万[5] - 34万1000ルーブリ[23](現在では400万米ドル以上)を持ち去り、15人の通行人が巻き添えで死亡し、50人が重傷をおった[6]。これはヨーロッパの革命政党も動揺した[6]。レーニンは表向きは距離をとっていたが計画の詳細を承知し、承認していた[24]。盗んだ紙幣はヨーロッパ各地で両替されたが、紙幣の番号を追跡され、十数人の党員が逮捕された[24]。
正規の社会民主党の党費による収入は毎月100ルーブル程度にすぎなかったが、こうした「収奪(収用)」によってボリシェヴィキは首都とモスクワの組織に毎月1000 - 5000ルーブルを渡すことができ、勢力を伸ばしていった[25]。
違法主義アナーキストのエクスプロプリエーション (略取)
違法主義アナーキストのボノー・ギャングは、1911年から1912年にかけてフランス・ベルギーで「エクスプロプリエーション(expropriations、収奪、略取)」と称して銀行強盗・殺人を行った[3]。
ロシア革命
ロシア革命期には「略奪者から略奪せよ!」("грабь награбленное")というスローガンが広く流行した[26] このエクスプロプリエーションという用語は、ソ連におけるクラーク撲滅運動や農業集団化などといった、共産主義国家による国有化キャンペーンを指す際にも用いられる[27]
ニコライ・ブハーリンは国有化(nationalisation)の代わりに国家化(statisation)という用語を好んだ。[28]。ブハーリンはまた、「ブルジョア的国有化とプロレタリア的国有化を厳格に分離しなければならない。ブルジョア的国有化は国家資本主義の体系をもたらす。プロレタリア的国有化は、国家形態の社会主義へと導く。プロレタリア独裁がブルジョア独裁の否定であり対極であるのと同様に、プロレタリア的国有化も、ブルジョア的国有化の否定であり全く正反対である。」と論じた[29]。
関連項目
- 国有化 (英語: Nationalization、Nationalisation)
- エミネント・ドメイン eminent domain(公用収用 ・土地収用) - アメリカ法
- en:Compulsory purchase order - compulsory purchase (強制購入) - イギリス法・アイルランド法
- 不動産復帰 - コモン・ローにおける無主不動産の収用。
- 資産没収 - 司法手続きによる没収。
- en:Alienation (property law)譲渡・移転(財産法)財産の放棄とも訳される[30]
- 徴用
- 徴発
- ロシア革命
- 暴力革命
- 民営化
- 集団農場
出典
- ↑ 『接収』 - コトバンク
- ↑ Caves, R. W. (2004). Encyclopedia of the City. Routledge. pp. 251
- 1 2 Weissman 2013, pp. 44–45.
- 1 2 カレール・ダンコース 2006, p. 179.
- 1 2 パイプス 2000, p. 119.
- 1 2 3 4 セベスチェン 2017, p. 上255.
- 1 2 『公用収用』 - コトバンク
- ↑ Flynn, Chris. Avoiding Expropriation and Managing Political Risk in Emerging Market. Lexology. p. 1.
- ↑ Eesti entsüklopeedia. 8. köide: RAI–SUM. Tallinn: Eesti Entsüklopeediakirjastus, 1995, lk 91.
- ↑ “Kinnisasja sundvõõrandamise seadus–Riigi Teataja” (エストニア語). www.riigiteataja.ee. 2023年3月31日閲覧。
- ↑ Kaupo Paal (2002年5月26日). “Sundvõõrandamine taandub tavaliselt kokkuleppele” (エストニア語). Äripäev. AS Äripäev. 2023年3月31日閲覧。
- 1 2 Das Kapital, translated by Samuel Moore, Edward Aveling and Ernest Untermann,1906, PART VIII.THE SO-CALLED PRIMITIVE ACCUMULATION,CHAPTER XXXII.HISTORICAL TENDENCY OF CAPITALIST ACCUMULATION; 「Centralisation of the means of production and socialisation of labour at last reach a point where they become incompatible with their capitalist integument. This integument is burst asunder. The knell of capitalist private property sounds. The expropriators are expropriated.」,.日本語訳『資本論』第1巻 第7篇 第24章「いわゆる本源的蓄積」。章節番号等は版によって異なる。
- 1 2 3 4 5 6 7 8 ピョートル・クロポトキン『反乱者の言葉』(1885年) ,Chapter 19: Expropriation, The Anarchist Library.org.
- ↑ 同書:(…)Expropriation -- that is the guiding word of the coming revolution, without which it will fail in its historic mission: the complete expropriation of all those who have the means of exploiting human beings; the return to the community of the nation of everything that in the hands of anyone can be used to exploit others.
- ↑ クロポトキンは1790年と誤記
- ↑ 同書:(…)Only a general expropriation can satisfy the multitudes who suffer and are oppressed. From the domain of theory we must enter that of practice. But for expropriation to respond to the need, which is to put an end to private property and return all to all, it must be carried out on a vast scale. On a small scale, it will be seen only as a mere pillage; on a large scale it is the beginning of social reorganization. (…)
- ↑ 同書:(…)We must understand without hesitation or reserve that all products, the whole of what man has accumulated and made use of, are due to the common work of all, and have only one owner, humanity. We must see private property clearly for what it is in reality, a conscious or unconscious theft of the wealth of all people, and take hold of it joyously for the common benefit when the hour of reckoning sounds. (…)
- ↑ クロポトキンの先駆者ミハイル・バクーニンは1842年に、「破壊への情熱は、創造への衝動でもある (The passion for destruction is a creative passion)」と述べた。The Reaction in Germany。クロポトキン
- ↑ 同書:(…)For theft will no longer be possible when everything belongs to all. "Take and do not waste, for all this belongs to you, and you will have need of it." But destroy without delay everything that should be overthrown: the penal fortresses and the prisons, the forts directed against the towns and the unhealthy quarters where you have so long breathed an air heavy with poison. Instal yourselves in the palaces and mansions, and make a bonfire of the piles of bricks and wormeaten wood that were your hovels. The instinct to destroy, which is so natural and so just because it is also an urge to renew, will find much to satisfy it. So many outworn things to replace! For everything will have to be remade: houses, whole towns, agricultural and industrial plant, in fact every material aspect of society.
- ↑ カレール・ダンコース 2006, p. 177-178.
- ↑ セベスチェン 2017, p. 上250-1.
- 1 2 セベスチェン 2017, p. 上252.
- ↑ Brackman, Roman (2001),The Secret File of Joseph Stalin: a Hidden Life, “Chapter 7 – The Great Tiflis Bank Robbery”. London ; Portland, OR : Frank Cass Publishers, p.59.
- 1 2 セベスチェン 2017, p. 上256.
- ↑ パイプス 2000, p. 119-120.
- ↑ Orlando Figes, A People's Tragedy: Russian Revolution, 1996, ISBN 0-7126-7327-X.
- ↑ Richard Pipes Property and Freedom, Vintage Books, A division of Random House, Inc., New York, 1999, ISBN 0-375-70447-7, page 214.
- ↑ Nikolai Bukharin,Economy of transition period, Chapter Seven 'The latter term, indeed, certainly is not perfect. First, it mixes "nation" ("whole") with the state, i.e. the ruling class. Second, it has shade of national states epoch. We keep it because it is absolutely rooted, though there are no logical grounds for its existence.'
- ↑ 1920: Bukharin and the period of transition,Submitted by International Review on 3 January, 1999 - , International Communist Current,ICC
- ↑ 財産の放棄(l'alienation);澤登文治「教会財産没収決議と国民議会審議における聖職者の地位-フランス人権宣言第10条「表現の自由」規定をめぐって-」南山法学 31巻1・2号 163 - 191 2007年9月,p.178.
参考文献
- パイプス, リチャード 西山克典訳 (2000), ロシア革命史, 成文社 (原著1995年)
- カレール・ダンコース, エレーヌ 石崎晴己・東松秀雄訳 (2006), レーニンとは何だったか, 藤原書店(原著1998年)
- セベスチェン, ヴィクター 三浦元博・横山司訳 (2017), レーニン 権力と愛, 白水社
- Weissman, Susan (2013). Victor Serge. A Political Biography (2nd ed.). London: Verso Books. ISBN 9781844678877
接収(テイクオーバー)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/11 16:45 UTC 版)
「FAIRY TAIL」の記事における「接収(テイクオーバー)」の解説
対象者の体を乗っとり、自分の肉体にその力を還元する魔法。ミラジェーンは【悪魔】、エルフマンは【野獣】、リサーナは【動物】、ジェニーは【機械】、ディマリアは【神】で、それぞれ違う魔法とされている。前作『RAVE』でも同名の魔法が登場。
※この「接収(テイクオーバー)」の解説は、「FAIRY TAIL」の解説の一部です。
「接収(テイクオーバー)」を含む「FAIRY TAIL」の記事については、「FAIRY TAIL」の概要を参照ください。
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