財産
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/17 02:19 UTC 版)
構成要件
労力と希少性
洋の東西を問わず、権力者の古墳からは貴石や貴金属で作られた装飾品がしばしば発見される。すなわち、何らかの特定要件を満たす物を人々は古代より財産と考えてきたわけで、その本来的な財産として考えられる主な2つの根拠が、「労力」と「希少性」である。ジョン・ロックは、対象物に「自分の労働を混ぜる」[18](すなわち生産したり加工する)労力や、処女地を開墾して耕作する労力を強調した。ベンジャミン・タッカーは、財産のテロス(すなわち財産の目的が何なのか)を見定めようとして、希少性という解決策に辿り着いた。人々の要望に比べて物品が不足している時にだけ、その物品が財産になる[19]。例えば、狩猟採集社会だと土地は狩猟の場所であって減ることがないため、土地を財産とは考えなかった。農耕社会では耕作に適した場所と適さない場所という区別が生まれ、人々が耕作に適した希少な場所を求めてその土地を財産と考えるようになった。何かが経済的に希少となるには、ある人が使用すると他人がそれを使用できなくなる「排他性」が必要不可欠である。
知的財産は、先述した根拠2つのうち主に労力を根拠とするものである。人の体は、双方の基準からも当人の財産にあたる[注釈 9]。体という財産に関しては、中絶、麻薬、安楽死の問題でも論じられる。
誰の所有にも属さないものを西洋ではコモンズ(社会のあらゆる人達が使用できる文化的資源および天然資源)と呼ぶことがある[注釈 10]。所有権ほかの法律は明確な所有者のいないコモンズの数を減らす傾向があり、これがコモンズの悲劇によって起こる稀少資源の枯渇に対する保護を可能にする、と財産権の支持者は主張している。
なお、公海の深海底、月などの天体や宇宙空間、南極大陸などは(先進国を中心に調査や探査が進められているものの)明確な所有者が定められていない。これは1970年の国連総会にて、特定の空間や資源は人類に共通した財産であると決議されたためで、これらは「人類の共同財産(common heritage of mankind)」とも呼ばれている[20]。米国とカナダでは、野生生物が一般的に法律で国や州の財産と定義されており、この野生生物の公的な所有権は野生生物保護の北米モデルと呼ばれている[21]。
所有
例えば、国立印刷局で刷られた直後の(誰のものでもない)紙幣を、人は財産と呼ばない。中央銀行を経て市中に流通され、その紙幣を誰かが「所有」することで財産と呼ばれるようになる。
所有に関する法律は、対象となる財産(銃器、不動産、動産、動物など)の性質により国によって大きく異なる場合がある。個人は財産を直接所有できる。大半の社会では、企業、信託機関、国家や政府といった法人が財産を所有している。
多くの国では、制限的な相続と家族法によって女性は遺産相続に制限があり、男性だけが完全な相続の権利を有している。
古代の多くの法制度(例えば初期のローマ法)では、神殿等の宗教的な場所がそこに祀られた神ないし神々の財産だと見なされた。インカ帝国では、神々と見なされた逝去皇帝が死後も財産を支配していた[22]。
注釈
- ^ 特に日本では、このうち国が所有するものを国有財産、地方自治体が所有するものを公有財産と区別している(前者は国有財産法で、後者は地方自治法238条で規定されている)。
- ^ 組合制度による特殊な共有制度(合有と呼ばれる)で、日本では民法668条などで規定されている[3]。
- ^ 他人の土地を一定の目的のために使用収益する権利で、民法上は地上権、永小作権、地役権、入会権の4種が規定されている[8]。
- ^ 海外で散見される偽ブランドのコピー商品や、著作権を無視した海賊版などが顕著な違法事案例。後者については、動画共有サイトへの違法アップロードも後を絶たない。
- ^ 日本国内でも、三菱地所プロパティマネジメントやプロパティエージェントなど不動産関連の企業名でしばしば使われている。
- ^ 具体的には、奴隷制、徴兵制、成年以下の子どもの権利、結婚、中絶、売春、麻薬、安楽死、臓器提供に関連した諸問題がある。
- ^ ここでは土地と労働と資本を指す。詳細は生産要素を参照。
- ^ 破産手続きにおいて裁判所が保全管理命令を出した際に、裁判所から選任されて債務者の財産を管理する者。彼らは破産管財人と違い、当該財産を処分して債権者に弁済配当する権限を持たない[17]。
- ^ 自分の身体が貴重であることは言うまでもない(義肢や人工臓器などを除いて基本的に代えはない)。また、人体の機能を長年維持するには健康管理等の労力も必要となる。
- ^ ただしこの用語は、特定集団によって所有管理される組合財産、日本でいう入会(いりあい)を指すことも多い。
- ^ 711年の蓄銭叙位令で、一定量の銭を蓄えた者には位階が与えられる仕組みがあり、高位階を目的に蓄財する豪族がいた。
- ^ 寛永の大飢饉で困窮した農民が田畑を売って没落する事態が相次いだため、江戸幕府が1643年に田畑永代売買禁止令を打ち出して農民の土地を売買できないようにした。これは年貢から収入を得る大名や幕府の財政を安定させることに繋がったため[32]、江戸時代を通じて同政策が継続されていた。
- ^ 教父学理論の修正というアクィナスの文脈において、この共同体とはキリスト者共同体を指す。
- ^ 神が人間を創造して「これに海の魚と、空の鳥と、家畜と他のすべての獣と、地のすべての這うものを治めさせ」ることにしたという聖書内容から生じた、人間が自然の支配者という人間中心的な自然観[54]。
- ^ ただし公的サービスを実施するのも行政府なので、国家と行政府を分けて論じることが妥当ではないという問題がある(端的に矛盾を突くなら、税金を実際に徴収することも行政府の仕事である)。ガランボスの理論は、あくまで19世紀の「西洋哲学的考察」から導かれた言説である。
出典
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