アワビ アワビの概要

アワビ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/08 10:05 UTC 版)

アワビ
Haliotis sorenseni
分類
: 動物界 Animalia
: 軟体動物門 Mollusca
: 腹足綱 Gastropoda
: 原始腹足目 Archaeogastropoda
: ミミガイ科 Haliotidae
Rafinesque1815
: アワビ属 Haliotis
学名
Haliotis
Linnaeus1758
タイプ種
Haliotis asinina
Linnaeus, 1758
英名
ear shells
sea ears
ormer
アワビの殻の穴(外側)
アワビの殻の穴(内側)

生態

アワビの大きさ及び形状は種により異なるが、渦巻状に成長していく皿状のをもつ点では共通している。成長した殻は長径5cmから20cm程度、短径3cmから17cm程度のおおよそ楕円形であるが、後述のマダカアワビでは25cm以上となるものもある。東アジアでは、日本の北海道南部から九州朝鮮半島および中華人民共和国北部の地域において、潮間帯付近から水深20m(マダカアワビは水深50m)程度までの岩礁に生息し、アラメワカメコンブなどの褐藻類を食べている。主に夜行性であり、日中は岩の下や岩の間などに潜んでいることが多い。

アワビの殻の背面には数個の穴が並んでいる。この穴は呼吸のために外套腔に吸い込んだ水や排泄物、卵や精子を放出するためのもので、殻の成長に従って順次形成された穴は古いものからふさがっていき、常に一定の範囲の数の穴が開いている。アワビではこの穴が4 - 5個なのに対し、トコブシでは6 - 8個の穴が開いている。また、アワビでは穴の周囲がめくれ上がっており穴の直径も大きいのに対し、トコブシでは穴の周囲はめくれず、それほど大きくは開かない。

食用

鮮魚

エゾアワビの刺身(茨城県産)

アワビは高級食材で、コリコリした歯ざわりが特徴。刺身水貝、酒蒸し、ステーキなどに調理される。採れたての生きの良いアワビを磯焼きにして賞味する地方もある。また地方によっては、アワビの肝も珍味として食べられる。変わったところでは、塩で硬く締めたアワビの肉を下ろし金で摩り下ろし、同量のとろろと合わせた「鮑のとろろ汁」という料理が存在する(小泉武夫著『奇食珍食』に詳しい記述あり)。

南米に生息するアッキガイ科のロコガイ(チリアワビ)やスカシガイ科ラパス貝(ラパ貝)は、食感がアワビにやや似ているが、これらの貝は分類学的にはアワビとは全く異なる種である。

干し鮑

干鲍を使用した料理の例

中華料理ではアワビをゆでてから干したものを乾鮑乾鮑 / 干鲍拼音: gānbào ガンパオ)とよび(なお、アワビそのものは鮑魚鮑魚 / 鲍鱼拼音: bàoyú パオユー)と呼ぶ)、大きいものはたいへん高価でかつ珍重される。日本でも古来、内陸部で食べる鮑は羅鮑(身取り鮑)で殻から取った物を干し乾燥していた。高級な干し鮑の産地として、日本の青森県岩手県が知られており、大間町産のもの(広東語で「禾麻鮑 オウマパーウ」)や、大船渡市吉浜産のもの(きっぴん鮑[2]。「吉品鮑 カッパンパーウ」)は香港で非常に高値で取引されている。大きいほど高価になり、1斤(600g強)当たりの頭数で、十頭鮑(乾燥品1つの重量が60g)などと呼ぶ。遅くとも江戸時代には日本から中国(当時は)に輸出されていた(俵物)。日本以外では、南アフリカなどのものが比較的高級とされている。

鮑(あわび)の肉を塩蔵し、煮て乾燥したものを「明鮑」といい、中国料理に用いられた。その製造は複雑かつ細心の注意を要したものであった。その工程は、除殻、加塩、洗浄、整形、煮熟、焙乾、二度煮、乾燥というふうになる。原料は、ふつう「まだか(眼高鮑)」という種類で、新鮮な損傷の無いものを用いる。「貝起」で鰓を傷つけないようにしながら貝殻を除去し、塩漬けをする。その目的は塩味を付けるとともに洗浄を容易にするためである。塩量は製品に大きく影響し、多すぎると、煮熟中に亀裂が生じやすくなり、しばしば表面に水膨ができる。塩が足りないと、肉面に黒点ができて肉が軟らかすぎて形が整わなくなる。塩漬は殻を除いた生鮑を大、中および小に分けて、4斗入の樽に並べて塩をまいて漬け込む。塩量は生肉10貫当たり、大粒なら6斤、中粒なら5斤、小粒なら4.5斤ほど。塩は表面に十分に付着するようにする。寒冷で塩が浸透しにくい時はいくらか増量し、温暖であれば減じる。塩漬けして翌朝取り出してその桶に淡水を入れ、草鞋ばきでその中に入り、残るくまなく踏んで肉面に付着した汚物、殻などを取り除く。そののち数回にわたって水洗いし(一個一個、鮑面をこすり汚物を除く)、あらかじめ煮沸している手引き加減の釜に入れる。この時、鮑は次第に縮まり、または変形するため、常に整形をし、かつ、肉が釜の底に焦げ付かないように注意しながら煮熟する。およそ1.5時間後、釜の蓋をはずし、さらに3~4時間ほど煮熟し、掬い上げて陰干し、冷却する。肉が冷却すると焙炉にかけて乾燥する。これは「水抜き」といい、よく肉を反転して均一に火が通るようにする。こうして適当なときに火から取り下ろし、放冷し、翌日、肉がなお軟らかなものに二番火を入れる。次には二度煮を行い、前回の煮熟の不足を補い、かつ、形状を固定させる。沸騰した釜に原料を再びいれ、湯が沸騰してきたら原料を掬い上げて蒸籠に並べ、風通しのよい日陰で放冷する。完全に放冷したら再び焙炉にかけてしばらく焙乾し、原料を握って我慢できないほどに熱が加えられれば取り下ろして放冷する。こうして日乾と焙乾をおおよそ晴天5~7日続けて、焙乾をやめ、日乾だけをおおよそ1ヶ月続けて完成とする。

煮貝

鮑の煮貝

山梨県の名産品に鮑の煮貝(あわびのにがい)がある。鮑の煮貝は高級食材である鮑(ミミガイ科のクロアワビ、メガイアワビ、マダカアワビ)を丸のまま、醤油ベースの煮汁で煮浸しにした加工食品。

起源は不明であるが、山梨県は内陸部でありつつも駿河湾を有する駿河国に近く、中世後期・近世には海産物が移入されている。武田氏居館跡勝沼氏居館跡など戦国時代の武家居館からアワビの貝殻が出土しており、当時から内陸部においてもアワビが食用にされていたと考えられている[3]。ただし、貝殻を外して加工され、煮貝として搬入された場合は、考古資料として残らないことも指摘される[3]

文献資料では江戸時代文政12年(1829年)の笛吹市石和町に所在する篠原家文書に含まれる「御用其外日記」が初出で、形態は不明であるが「尓加以(にがい)」の文字が当てられている[3]。また、弘化3年(1846年)の甲府徽典館の学頭・林靏梁の日記である『林靏梁日記』では夏の贈答品として用いられている「煮鮑」「生鮑の塩漬け」が記録されており、江戸後期においては醤油を用いた煮貝は塩漬けと区別されていたことが確認される[3]


  1. ^ 魚介類の名称表示等について(別表1)” (PDF). 水産庁. 2013年4月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年5月29日閲覧。
  2. ^ 乾鮑について”. 吉浜漁業協同組合. 2012年10月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年1月25日閲覧。
  3. ^ a b c d 『甲州食べもの紀行』(山梨県立博物館、2008年)、pp.30 - 31
  4. ^ 自然毒のリスクプロファイル:巻貝:ピロフォルバイドa(光過敏症) 厚生労働省
  5. ^ ネイチャーテック|ハンマーで殴っても、車でひいても大丈夫!丈夫なアワビの貝殻の秘密
  6. ^ 万葉集』巻第六・933番に「鮑珠」と表記が見られる。
  7. ^ 向井広樹 ほか、アワビ真珠層の構造と成長機構について 日本鉱物学会・学術講演会,日本岩石鉱物鉱床学会学術講演会講演要旨集 2007, 179, 2007-09-22, NAID 10019865601
  8. ^ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」のリアル”. 東洋経済オンライン (2018年10月6日). 2018年11月23日閲覧。
  9. ^ Haliotidae Rafinesque, 1815 WoRMS
  10. ^ Haliotis Linnaeus, 1758
  11. ^ 千家尊統『出雲大社』(学生社、1968年8月25日)167頁


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