炭水化物制限食の歴史
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「アトキンスダイエット」の記事における「炭水化物制限食の歴史」の解説
「太りたくないのなら、炭水化物を避けなさい」と指導する食事法は奇抜でも斬新でもなく、歴史上何度も登場している。方法論がどうであれ、「炭水化物を極力避ける」という点においては、バンティングを初め、過去の様々な人物が実践してきた食事法と同じである。 ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァラン( Jean Anthelme Brillat-Savarin )は、19世紀前半に出版した著書『味覚の生理学』( 『Physiologie du Goût』 )の中で、 「肉食動物は決して太らない」 「ヒトを肥満にさせるのは、日々の食事を構成するデンプン質と小麦粉であり、これに砂糖も組み合わせれば確実に肥満をもたらす」 「ヒトにおいても、動物においても、脂肪の蓄積はデンプン質と穀物によってのみ起こる、ということは証明済みである」 「ジャガイモ、穀物、小麦粉由来のモノを食べ始めた途端、瞬く間に肥え太っていく」 「デンプン質の食べ物を常食している動物の身体には、強制的に脂肪が蓄積していく。ヒトもまた、この普遍的な法則からは逃れられない」 「デンプン質・小麦粉由来のすべての物を厳しく節制すれば、肥満を防げるだろう」と明言している。 1844年、フランスの外科医で退役軍医、ジャン=フランソワ・ダンセル( Jean-François Dancel )は、肥満に関する自身の考えをフランス科学アカデミーで発表した。その著書『Obesity, or Excessive Corpulence』は、1864年に英語に翻訳され、出版された。ダンセルは、 「患者が主に『肉だけ』を食べ、それ以外の食べ物の摂取は少量だけにすれば、一人の例外もなく肥満を治癒できる」 と述べている。「炭水化物を避け、肉だけを食べることで肥満を治癒できる」というダンセルの主張は、ドイツ人の化学者ユストゥス・フォン・リービッヒ( Justus von Liebig )による研究を根拠にしており、リービッヒもダンセルも、肉を中心に食べる食事法を信じていた。ダンセルは、 「肉ではないすべての食べ物(炭素と水素が豊富な食物。つまり炭水化物)は、身体に脂肪を蓄積させるに違いない。肥満を治すためのいかなる治療法も、この原理に基づいている」 「肉食動物は決して太っていない一方で、草食動物は太っている。カバはかなりの量の脂肪のせいで不格好に見える。彼らは植物性の物質(米、キビ、サトウキビ・・・穀物全般)のみを餌にしている」 と述べた。 イングランドの医師、トマス・ホークス・タナー( Thomas Hawkes Tanner, 1824~1871 )は、「『炭水化物を断つこと』こそが、減量を成功させる唯一の方法である」と確信していた。肥満治療について、「減食」と「身体活動」(「運動」)を、「ridiculous」(「何の価値も無い」)と切り捨てている。 1866年、ベルリンで開催された内科学会にて、「人気のある食事療法」に関する討論会が開かれた。その際、ウィリアム・バンティングが実践した方法が、肥満患者を確実に減らせる3種類の食事法の1つとして取り上げられた。他の2種類はドイツ人の医師が開発したもので、方法は微妙に異なるが、いずれの食事法にも共通するのは以下の2つであった。 「肉は無制限に食べてかまわない」 「デンプン質が豊富なものは完全に禁止とする」 1950年代、ミシガン州立大学栄養学部主任マーガレット・オールソン( Margaret Ohlson )は、過体重の学生に従来型の飢餓食(※極度のカロリー制限食)を与えた。彼らの体重はほとんど減らないばかりか、 「すっかり活気が失せ、空腹であることを常に意識し続け、やる気が無くなっている」 と報告した。一方、タンパク質と脂肪を大量に含む食事を摂らせると、平均で週に3ポンド(約1.4kg)減量し、 「食間の空腹感に悩まされることはなく、気分の良さと満足感に包まれた」 と報告した。この食事法を実践した者は、いずれも特別な努力をすることなく体重を減らし、空腹感に悩まされることもなかった。 オールソンの教え子でコーネル大学の臨床学教授シャーロット・ヤング( Charlotte Young )は、1973年10月にアメリカ国立衛生研究所で開催された会議にて、食事療法に関する講演を行った。医者が肥満について重点的に話し合う会議を定期的に開くようになった1960年代の半ばまでには、食事療法に関する講演が必ず行われており、それらの講演の内容はいずれも「炭水化物を制限する食事法について」であった。これらの会議のうち、5回は、1967年~1974年にかけて、アメリカ合衆国と、欧州各国で開催された。ヤングは、アルフレッド・ペニントンがデュポン社で実践した炭水化物を制限する食事法を研究し、自身の師匠であるオールソンの業績について、この会議で発表した。ヤングは「体重および体脂肪の減少、その割合は、食事に含まれる炭水化物の量と逆相関しているように見える」「炭水化物の摂取量を減らし、脂肪の摂取量を増やすと、体重も体脂肪も大幅に減った」と報告した。炭水化物を制限する食事法について、ヤングは 「空腹感からの解放、異常な疲労感の緩和、満足のいく減量、長期にわたる減量とその後の体重制御への順当さに対する評価において、いずれもすばらしい臨床的成果を見せた」 と述べた。 『The Principles and Practice of Medicine』の1901年度版にて、ウィリアム・オスラー( William Osler )は、肥満体の女性に対して「食べ物を食べ過ぎないこと。とくに、デンプン質が豊富な食べ物と砂糖を減らすように」と述べている。 1907年、『A Textbook of the Practice of Medicine』にて、ジェームズ・フレンチ( James French )は、「肥満体における過剰な脂肪について、その一部は食べ物に含まれていた脂肪でできているが、その大部分は炭水化物を食べたのが原因で蓄積する」と述べている。 1925年、ロンドンにある聖トマス病院医科大学( en:St Thomas's Hospital Medical School )のH. ガーディナー・ヒル( H. Gardiner-Hill )は、炭水化物を制限する食事法を奨めており、医学雑誌『ランセット』(『The Lancet』)の中で「どのようなパンであれ、45~65%の炭水化物を含んでおり、食パンに至っては最大で60%に達する可能性があり、これらは廃棄されねばならない」と述べている。 1936年、デンマークの医師ペール・ハンセン( Per Hansenn )は、「『制限すべきは炭水化物だけであり、身体に脂肪を蓄積させる作用が無いタンパク質と脂肪を、空腹を感じたらいつでも食べて構わない』という点が、この食事法の有利な点である」と述べた。 第2次世界大戦終盤、アメリカ海軍が太平洋を西に向かっていたころ、『U.S. Force's Guide』の中で、 「ニューギニアの北東にある群島、カロリン諸島では胴回りの管理に苦労するかもしれない」 「現地人の食べている基本的な食物は、パンノキの実、タロイモ、ヤマノイモ、サツマイモ、クズウコン・・・デンプン質が豊富なものであるため」 と、兵士たちに警告している。 1946年に初版が出版されたベンジャミン・M・スポック( Benjamin M. Spock )による子育てについて記した著書『Baby and Child Care』にて「体重の増減がどれほどになるかは、デンプン質の食べ物をどれぐらい摂取するかで決まる」と記述されている。この文章はその後の50年間、全ての版で使われ続けた。 1963年、サー・スタンリー・デイヴィッドソン( Sir Stanley Davidson )と、レジナルド・パスモア( Reginald Passmore )の2人は、『Human Nutrition and Diabetes』を出版した。この本では、 「人気のある『痩せる方法』は、いずれも炭水化物の摂取を制限するものである」 「炭水化物の多いものを食べ過ぎることこそが、肥満の最大の原因であり、その摂取は徹底的に減らすべきである」 と記述されている。同年、パスモアは、イギリスで出版されている栄養学の雑誌『British Journal of Nutrition』にて、以下の宣言で始まる論文の共著者にもなっている。 「全ての女性は、炭水化物の摂取が身体に脂肪を蓄積させることを知っている。これは1つの常識であり、このことに異議を唱える栄養学者は存在しないであろう」 1958年にはリチャード・マッカーネス( Richard Mackarness, 1916~1996 )による著書『Eat Fat and Grow Slim』(『脂肪を食べて細身になろう』)、1960年にはヘルマン・ターラー(英語版)( Herman Taller, 1906~1984 )による著書『Calories Don't Count』(『カロリーは気にするな』)が出版されており、いずれも炭水化物の摂取制限を奨める内容である。 イギリスの生理学者・栄養学者、ジョン・ユドキン( John Yudkin )は、1972年に出版した著書『Pure, White and Deadly』の中で、「肥満や心臓病を惹き起こす犯人は砂糖であり、食べ物に含まれる脂肪分は、これらの病気とは何の関係も無い」と断じている。また、ユドキンは、「砂糖・小麦粉、その他炭水化物の含有量が多いもの全般を禁止する代わりに、肉・魚・卵・緑色野菜は自由に食べてよい」と主張している。 サイエンス・ジャーナリストのゲアリー・タウブス( Gary Taubes )は、 「体重を減らしたいのなら、炭水化物を食事から排除すれば成功する。これを守らなければ、減量は必ず失敗に終わる」 「炭水化物ではなく、タンパク質と脂肪の摂取を減らした場合、常に空腹感が付きまとい、その空腹が減量を失敗に導くであろう」 「炭水化物は人間の食事には必要ない。『必須炭水化物』なるものは存在しない」 と明言している。 肥満や糖尿病に悩む人に向けられたウェブサイト『ダイエット・ドクター』(『Diet Doctor』)の創設者であり、その最高経営責任者でもあるスウェーデンの医師アンドゥリーアス・イーエンフェルト( Andreas Eenfeldt )は、 「ヒトを病気にさせるのは動物性脂肪ではなく、炭水化物である」「今まで言われ続けてきた、『脂肪の摂取を減らしたり、低脂肪な食事をするように』という『伝統的な食事法』は、何の役にも立たないが、炭水化物が少ない食事は肥満患者や糖尿病患者の健康を改善できるだろう」と確信しており、「低脂肪の食事は、長期的に見ても『体重の減少に効果がある』との証明はされておらず、食事のあり方を変えるべきである」との立場を明確にしている。2008年にスウェーデンの保険福祉庁とアメリカ糖尿病協会が「炭水化物を制限する食事法は肥満や糖尿病治療に役立つ可能性がある」という評価をくだすも、ある5人のダイエットの専門家がそれを認めなかった。イーエンフェルトはこれに対して大いに疑問視した。2009年、イーエンフェルトは、スウェーデンの医療雑誌『Dagens Medicin』に、スウェーデン食糧庁による「動物性脂肪を避けるように」との警告には何の根拠も無いこと、国が推奨している現在の食事内容をただちに変えるべきであるという内容の記事を、12人の著者とともに共同で寄稿した。 2011年、イーエンフェルトは著書『Low Carb, High Fat Food Revolution: Advice and Recipes to Improve Your Health and Reduce Your Weight』を出版し、炭水化物を制限する食事法を奨めている。本書は英語で書かれ、スウェーデン本国でベストセラーとなり、8つの言語に翻訳された。 イングランドの医師ジョン・ブリッファ( John Briffa )は、著書『Escape the Diet Trap』の中で、 「高糖質・低脂肪な食事に体重を減らす効果は無い」 「カロリー制限食は、体重を減らせないだけでなく、深刻な病気を患いやすくなる」 「体脂肪の蓄積を強力に推進する主要因子となるのはインスリンである」 「インスリン抵抗性は、肥満および2型糖尿病と密接に関係している」 「インスリン抵抗性は、血糖値の乱高下、トライグリセライド(triglyceride, 中性脂肪値)の上昇で惹き起こされ、体内で発生する炎症作用の原因となり、これらはインスリンの大量分泌を促す食べ物の摂取で惹き起こされる。そのインスリンの大量分泌を惹き起こす食べ物は炭水化物である」 「食事に含まれる脂肪分の摂取と体重の増加には因果関係は無く、『脂肪の摂取を減らせば体重を減らせる』ことを示す証拠は無い」 「84時間に亘って生理食塩水のみの点滴を受け続け、絶食状態にあった被験者と、脂肪分だけを1日2000kcal分供給された被験者の血中の状態は、まったく同じであった」 「炭水化物の摂取を減らし、脂肪の摂取を増やすほど体重も体脂肪も減っていく」 「食べ物に含まれる脂肪分は、インスリンの分泌を全く促さない以上、太る原因にはなり得ない」 「動物性脂肪の摂取と、肥満および心臓病には何の因果関係も無い」 「マーガリンのようなトランス脂肪酸は避けること」 「穀物の栄養価は極めて低い。穀物を動物に食べさせると、本来ならあり得ない速度で脂肪が蓄積していく。このことから、穀物は『食料』ではなく、『飼料』と呼ぶべきである」 「『タンパク質の摂取は腎臓に負担をかける』とする説には何の根拠も無い。体重1kgにつき、2.8gのタンパク質を摂取しても、腎機能に悪影響が出ることを示す証拠は見付からなかった」 「タンパク質は骨の原料でもあり、タンパク質の摂取を増やすことで骨折のリスクは低下する」 「タンパク質の摂取もインスリンの分泌を促すが、同時にグルカゴンの分泌も誘発し、インスリンによる脂肪蓄積作用を緩和する」 「食欲を満足させるのに最も効果的な食事と呼べるものは、タンパク質と脂肪が豊富で、炭水化物が極めて少ない食事である」 「有酸素運動に体重を減らす効果は無い」 と述べている。
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炭水化物制限食の歴史
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/13 14:59 UTC 版)
「太りたくないのなら、炭水化物を避けなさい」と指導する食事法は奇抜でも斬新でもなく、歴史上何度も登場している。方法論がどうであれ、「炭水化物を極力避ける」という点においては、バンティングを始め、過去の様々な人物が実践してきた食事法と同じである。 ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァラン(Jean Anthelme Brillat-Savarin)は、19世紀前半に出版した著書『味覚の生理学』( 『Physiologie du Goût』 )の中で、 「肉食動物は決して太らない」 「ヒトを肥満にさせるのは、日々の食事を構成するデンプン質と小麦粉であり、これに砂糖も組み合わせれば確実に肥満をもたらす」 「ヒトにおいても、動物においても、脂肪の蓄積はデンプン質と穀物によってのみ起こる、ということは証明済みである」 「ジャガイモ、穀物、小麦粉由来のモノを食べ始めた途端、瞬く間に肥え太っていく」 「デンプン質の食べ物を常食している動物の身体には、強制的に脂肪が蓄積していく。ヒトもまた、この普遍的な法則からは逃れられない」 「デンプン質・小麦粉由来のすべての物を厳しく節制すれば、肥満を防げるだろう」と明言している。 1844年、フランスの外科医で退役軍医、ジャン=フランソワ・ダンセル(Jean-François Dancel)は、肥満に関する自身の考えをフランス科学アカデミーで発表した。その著書『Obesity, or Excessive Corpulence』は、1864年に英語に翻訳され、出版された。ダンセルは、 「患者が主に『肉だけ』を食べ、それ以外の食べ物の摂取は少量だけにすれば、一人の例外もなく肥満を治癒できる」 と述べている。「炭水化物を避け、肉だけを食べることで肥満を治癒できる」というダンセルの主張は、ドイツ人の化学者ユストゥス・フォン・リービッヒ(Justus von Liebig)による研究を根拠にしており、リービッヒもダンセルも、肉を中心に食べる食事法を信じていた。ダンセルは、 「肉ではないすべての食べ物(炭素と水素が豊富な食物。つまり炭水化物)は、身体に脂肪を蓄積させるに違いない。肥満を治すためのいかなる治療法も、この原理に基づいている」 「肉食動物は決して太っていない一方で、草食動物は太っている。カバはかなりの量の脂肪のせいで不格好に見える。彼らは植物性の物質(米、キビ、サトウキビ・・・穀物全般)のみを餌にしている」 と述べた。 イングランドの医師、トマス・ホークス・タナー(Thomas Hawkes Tanner, 1824~1871)は、「『炭水化物を断つこと』こそが、減量を成功させる唯一の方法である」と確信していた。肥満治療について、「減食」と「身体活動」(「運動」)を、「ridiculous」(「何の価値も無い」)と切り捨てている。 1866年、ベルリンで開催された内科学会にて、「人気のある食事療法」に関する討論会が開かれた。その際、ウィリアム・バンティングが実践した方法が、肥満患者を確実に減らせる3種類の食事法の1つとして取り上げられた。他の2種類はドイツ人の医師が開発したもので、方法は微妙に異なるが、いずれの食事法にも共通するのは以下の2つであった。 「肉は無制限に食べてかまわない」 「デンプン質が豊富なものは完全に禁止とする」 1950年代、ミシガン州立大学栄養学部主任マーガレット・オールソン(Margaret Ohlson)は、過体重の学生に従来型の飢餓食(※極度のカロリー制限食)を与えた。彼らの体重はほとんど減らないばかりか、 「すっかり活気が失せ、空腹であることを常に意識し続け、やる気が無くなっている」 と報告した。一方、タンパク質と脂肪を大量に含む食事を摂らせると、平均で週に3ポンド(約1.4kg)減量し、 「食間の空腹感に悩まされることはなく、気分の良さと満足感に包まれた」 と報告した。この食事法を実践した者は、いずれも特別な努力をすることなく体重を減らし、空腹感に悩まされることもなかった。 オールソンの教え子でコーネル大学の臨床学教授シャーロット・ヤング(Charlotte Young)は、1973年10月にアメリカ国立衛生研究所で開催された会議にて、食事療法に関する講演を行った。医者が肥満について重点的に話し合う会議を定期的に開くようになった1960年代の半ばまでには、食事療法に関する講演が必ず行われており、それらの講演の内容はいずれも「炭水化物を制限する食事法について」であった。これらの会議のうち、5回は、1967年~1974年にかけて、アメリカ合衆国と、欧州各国で開催された。ヤングは、アルフレッド・ペニントンがデュポン社で実践した炭水化物を制限する食事法を研究し、自身の師匠であるオールソンの業績について、この会議で発表した。ヤングは「体重および体脂肪の減少、その割合は、食事に含まれる炭水化物の量と逆相関しているように見える」「炭水化物の摂取量を減らし、脂肪の摂取量を増やすと、体重も体脂肪も大幅に減った」と報告した。炭水化物を制限する食事法について、ヤングは 「空腹感からの解放、異常な疲労感の緩和、満足のいく減量、長期にわたる減量とその後の体重制御への順当さに対する評価において、いずれもすばらしい臨床的成果を見せた」 と述べた。 『The Principles and Practice of Medicine』の1901年度版にて、ウィリアム・オスラー(William Osler)は、肥満体の女性に対して「食べ物を食べ過ぎないこと。とくに、デンプン質が豊富な食べ物と砂糖を減らすように」と述べている。 1907年、『A Textbook of the Practice of Medicine』にて、ジェームズ・フレンチ(James French)は、「肥満体における過剰な脂肪について、その一部は食べ物に含まれていた脂肪でできているが、その大部分は炭水化物を食べたのが原因で蓄積する」と述べている。 1925年、ロンドンにある聖トマス病院医科大学(英語版)のH. ガーディナー・ヒル(H. Gardiner-Hill)は、炭水化物を制限する食事法を奨めており、医学雑誌『ランセット』(『The Lancet』)の中で「どのようなパンであれ、45~65%の炭水化物を含んでおり、食パンに至っては最大で60%に達する可能性があり、これらは廃棄されねばならない」と述べている。 1936年、デンマークの医師ペール・ハンセン(Per Hansenn)は、「『制限すべきは炭水化物だけであり、身体に脂肪を蓄積させる作用が無いタンパク質と脂肪を、空腹を感じたらいつでも食べて構わない』という点が、この食事法の有利な点である」と述べた。 第2次世界大戦終盤、アメリカ海軍が太平洋を西に向かっていたころ、『U.S. Force's Guide』の中で、 「ニューギニアの北東にある群島、カロリン諸島では胴回りの管理に苦労するかもしれない」 「現地人の食べている基本的な食物は、パンノキの実、タロイモ、ヤマノイモ、サツマイモ、クズウコン・・・デンプン質が豊富なものであるため」 と、兵士たちに警告している。 1946年に初版が出版されたベンジャミン・M・スポック(Benjamin M. Spock)による子育てについて記した著書『Baby and Child Care』にて「体重の増減がどれほどになるかは、デンプン質の食べ物をどれぐらい摂取するかで決まる」と記述されている。この文章はその後の50年間、全ての版で使われ続けた。 1963年、サー・スタンリー・デイヴィッドソン(Sir Stanley Davidson)と、レジナルド・パスモア(Reginald Passmore)の2人は、『Human Nutrition and Diabetes』を出版した。この本では、 「人気のある『痩せる方法』は、いずれも炭水化物の摂取を制限するものである」 「炭水化物の多いものを食べ過ぎることこそが、肥満の最大の原因であり、その摂取は徹底的に減らすべきである」 と記述されている。同年、パスモアは、イギリスで出版されている栄養学の雑誌『British Journal of Nutrition』にて、以下の宣言で始まる論文の共著者にもなっている。 「全ての女性は、炭水化物の摂取が身体に脂肪を蓄積させることを知っている。これは1つの常識であり、このことに異議を唱える栄養学者は存在しないであろう」 1958年にはリチャード・マッカーネス(Richard Mackarness, 1916~1996)による著書『Eat Fat and Grow Slim』(『脂肪を食べて細身になろう』)、1960年にはヘルマン・ターラー(英語版)(Herman Taller, 1906~1984)による著書『Calories Don't Count』(『カロリーは気にするな』)が出版されており、いずれも炭水化物の摂取制限を奨める内容である。 イギリスの生理学者・栄養学者、ジョン・ユドキン(John Yudkin)は、1972年に出版した著書『Pure, White and Deadly』の中で、「肥満や心臓病を惹き起こす犯人は砂糖であり、食べ物に含まれる脂肪分は、これらの病気とは何の関係も無い」と断じている。また、ユドキンは、「砂糖・小麦粉、その他炭水化物の含有量が多いもの全般を禁止する代わりに、肉・魚・卵・緑色野菜は自由に食べてよい」と主張している。 サイエンス・ジャーナリストのゲアリー・タウブス(Gary Taubes)は、 「体重を減らしたいのなら、炭水化物を食事から排除すれば成功する。これを守らなければ、減量は必ず失敗に終わる」 「炭水化物ではなく、タンパク質と脂肪の摂取を減らした場合、常に空腹感が付きまとい、その空腹が減量を失敗に導くであろう」 「炭水化物は人間の食事には必要ない。『必須炭水化物』なるものは存在しない」 と明言している。 肥満や糖尿病に悩む人に向けられたウェブサイト『ダイエット・ドクター』(『Diet Doctor』)の創設者であり、その最高経営責任者でもあるスウェーデンの医師アンドゥリーアス・イーエンフェルト(Andreas Eenfeldt)は、 「ヒトを病気にさせるのは動物性脂肪ではなく、炭水化物である」「今まで言われ続けてきた、『脂肪の摂取を減らしたり、低脂肪な食事をするように』という『伝統的な食事法』は、何の役にも立たないが、炭水化物が少ない食事は肥満患者や糖尿病患者の健康を改善できるだろう」と確信しており、「低脂肪の食事は、長期的に見ても『体重の減少に効果がある』との証明はされておらず、食事のあり方を変えるべきである」との立場を明確にしている。2008年にスウェーデンの保険福祉庁とアメリカ糖尿病協会が「炭水化物を制限する食事法は肥満や糖尿病治療に役立つ可能性がある」という評価をくだすも、ある5人のダイエットの専門家がそれを認めなかった。イーエンフェルトはこれに対して大いに疑問視した。2009年、イーエンフェルトは、スウェーデンの医療雑誌『Dagens Medicin』に、スウェーデン食糧庁による「動物性脂肪を避けるように」との警告には何の根拠も無いこと、国が推奨している現在の食事内容をただちに変えるべきであるという内容の記事を、12人の著者とともに共同で寄稿した。 2011年、イーエンフェルトは著書『Low Carb, High Fat Food Revolution: Advice and Recipes to Improve Your Health and Reduce Your Weight』を出版し、炭水化物を制限する食事法を奨めている。本書は英語で書かれ、スウェーデン本国でベストセラーとなり、8つの言語に翻訳された。 イングランドの医師ジョン・ブリッファ(John Briffa)は、著書『Escape the Diet Trap』の中で、 「高糖質・低脂肪な食事に体重を減らす効果は無い」 「カロリー制限食は、体重を減らせないだけでなく、深刻な病気を患いやすくなる」 「体脂肪の蓄積を強力に推進する主要因子となるのはインスリンである」 「インスリン抵抗性は、肥満および2型糖尿病と密接に関係している」 「インスリン抵抗性は、血糖値の乱高下、トライグリセライド(triglyceride, 中性脂肪値)の上昇で惹き起こされ、体内で発生する炎症作用の原因となり、これらはインスリンの大量分泌を促す食べ物の摂取で惹き起こされる。そのインスリンの大量分泌を惹き起こす食べ物は炭水化物である」 「食事に含まれる脂肪分の摂取と体重の増加には因果関係は無く、『脂肪の摂取を減らせば体重を減らせる』ことを示す証拠は無い」 「84時間に亘って生理食塩水のみの点滴を受け続け、絶食状態にあった被験者と、脂肪分だけを1日2000kcal分供給された被験者の血中の状態は、まったく同じであった」 「炭水化物の摂取を減らし、脂肪の摂取を増やすほど体重も体脂肪も減っていく」 「食べ物に含まれる脂肪分は、インスリンの分泌を全く促さない以上、太る原因にはなり得ない」 「動物性脂肪の摂取と、肥満および心臓病には何の因果関係も無い」 「マーガリンのようなトランス脂肪酸は避けること」 「穀物の栄養価は極めて低い。穀物を動物に食べさせると、本来ならあり得ない速度で脂肪が蓄積していく。このことから、穀物は『食料』ではなく、『飼料』と呼ぶべきである」 「『タンパク質の摂取は腎臓に負担をかける』とする説には何の根拠も無い。体重1kgにつき、2.8gのタンパク質を摂取しても、腎機能に悪影響が出ることを示す証拠は見付からなかった」 「タンパク質は骨の原料でもあり、タンパク質の摂取を増やすことで骨折のリスクは低下する」 「タンパク質の摂取もインスリンの分泌を促すが、同時にグルカゴンの分泌も誘発し、インスリンによる脂肪蓄積作用を緩和する」 「食欲を満足させるのに最も効果的な食事と呼べるものは、タンパク質と脂肪が豊富で炭水化物が極めて少ない食事である」 「有酸素運動に体重を減らす効果は無い」 と述べている。
※この「炭水化物制限食の歴史」の解説は、「痩身」の解説の一部です。
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