血糖(ブドウ糖)のレベルは膵臓から分泌されるインスリンによって調節されています。インスリンは、標的臓器(骨格筋、脂肪組織、肝臓)に作用し、糖の吸収を促す働きを有するホルモンです。インスリン抵抗性とは簡単にいうと、「インスリンの効き具合」を意味します。つまり、膵臓からインスリンが血中に分泌されているにもかかわらず、標的臓器のインスリンに対する感受性が低下し、その作用が鈍くなっている状態を意味しています。インスリン抵抗性があると、筋や脂肪組織の糖取り込み能が低下し、肝臓では糖新生が抑えられなくなります。その結果、血糖値が下がりにくくなり、血糖値を正常状態に戻すためにより多くのインスリンが必要となってしまいます。この状態が続くと、膵臓のインスリン分泌機能が低下し、血糖値が上昇するためにⅡ型糖尿病を引き起こすといわれています。
一般に、こうしたインスリン抵抗性が出てくる原因としては、
1. 遺伝
2. 肥満
3. 運動不足
4. 高脂肪食
5. ストレス
などが関連しているといわれています。
インスリン抵抗性
【英】:Insulin resistance
インスリン抵抗性
【概要】 血糖(ブドウ糖)のレベルは膵臓から分泌されるインスリンによって調節されている。インスリン抵抗性とは血糖調節のために正常な反応を越えた大量のインスリンが必要な状態のこと。このためブドウ糖の筋肉細胞や脂肪細胞への取り込みが遅れ、肝臓細胞での糖新生が抑えられなくなる。耐糖能の異常、糖尿病の発生に至る最初のステップとも考えられる。インスリン抵抗性を簡単に調べる方法はない。実際には空腹時の血糖やブドウ糖負荷試験(耐糖能)の異常あるいは、インスリン抵抗性指数から疑うことになる
【詳しく】 プロテアーゼ阻害剤の副作用の一つに糖尿病の発生がある。細胞の表面から細胞の中にブドウ糖を運ぶ輸送タンパク質をGLUTと言う。HIVプロテアーゼ阻害剤の中には筋肉細胞や脂肪細胞に分布するGLUT4の働きを阻害し、このためにインスリン抵抗性を悪化させることがある。
《参照》 プロテアーゼ阻害剤、 糖尿病、 インスリン抵抗性指数

インスリン抵抗性【いんすりんていこうせい】
インスリン抵抗性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/12/19 22:52 UTC 版)
インスリン抵抗性(インスリンていこうせい, Insulin Resistance)とは、膵臓から分泌されるホルモンの一種であるインスリンが、肝臓、脂肪組織、骨格筋といった末梢標的組織において、その機能が損なわれたり、弱まったり、機能を発揮できない状態を指す。これは2型糖尿病の発症にも関与する重要な病因因子である[1]。
病態
糖尿病はインスリン作用不足によって慢性の高血糖状態が引き起こされる疾患である[2][要ページ番号]。これはインスリンの分泌障害とともにインスリン抵抗性が深く関与している。 生体は常に一定量のグルコース(糖)を必要としており、空腹時は肝臓からの糖放出により供給されている。正常な代謝であればインスリンの基礎分泌により肝糖放出は一定にコントロールされているが、インスリンの作用不足が生じると過剰な肝糖放出により空腹時血糖値は上昇する。 摂食後には血球グルコース濃度(血糖値)の上昇が引き金となりインスリンの追加分泌が起きる。インスリンは肝臓・骨格筋・脂肪細胞における血中グルコース(血糖)の取り込みを亢進させる作用があり、加えて肝糖からのグルコース放出を抑制する。インスリンの作用不足が生じると糖取り込み及び肝糖放出の抑制が不十分となり高血糖を生じることとなる[3]。
インスリン抵抗性の患者においては、以下のことが起こっていると考えられている
- インスリン抵抗性は高インスリン血症をきたす。高インスリン血症は以下の機序により生活習慣病の原因となる
高度のインスリン作用低下を引き起こしている場合はインスリン抵抗症(インスリン受容体異常症)という疾患として定義されており、遺伝子異常によるA型インスリン抵抗症とインスリン受容体に対する自己抗体を原因とするB型インスリン抵抗症に分類される。 インスリン抵抗症は高インスリン血症(空腹時血清インスリン値 30μU/mL)を主要症候とし、A型インスリン抵抗症では出生時低体重を伴うことが多い[5]。
インスリン抵抗性に伴い、血糖値が慢性的に高い状態が続くと、インスリン抵抗性は、高血糖症、高インスリン血症、および全身の細胞に酸化ストレスをもたらす[6]。高血糖は、体内で「AGEs」(「最終糖化産物」)の産生を促進する。AGEsは、糖尿病性高血糖によって体内に生じる酸化誘導体であり、β細胞の損傷、末梢インスリン抵抗性、糖尿病の潜在的な危険要素である、と考えられている[7]。インスリン抵抗性において、高血糖は、最終糖化産物の形成を促進する[8][7]。AGEsは血管の細胞外基質に蓄積し、糖尿病における血管損傷の一因となる。これに加えて、AGEsは活性酸素の生成を刺激するとともに、AGEsの形成をさらに増やす[7]。
歴史
糖尿病の治療にインスリンが使われ始めたとき、1日に200単位以上使用しても血糖の低下が認められない症例があり、インスリン抵抗性と称された[9]。当時は牛や豚のインスリンを使用しており、インスリン抗体ができやすかった[9]。ラジオイムノアッセイの普及により、インスリンの測定が可能となった1965年には、肥満者では耐糖能が正常でも血中インスリン高値が報告された[9]。この頃から糖尿病以外でも、インスリンの作用が減弱している病態をインスリン抵抗性と呼ぶようになった[9]。1970年代になると2型糖尿病において、インスリンの分泌不全とインスリン抵抗性のどちらが、糖尿病の病因として重要か論争となった[9]。現在ではともに重要な要因であると考えられており、インスリン抵抗性が過食や運動不足などの環境要因に加えて遺伝にも左右されることが判明している[10]。高血糖によりインスリン抵抗性が増悪するのはブドウ糖そのものの毒性によるとされる[11]。
原因
インスリン作用機構のいずれかのステップで障害を受けた場合にインスリン抵抗性は発症する。発症には様々な要素が相互に関連している[3]。
遺伝的要因
糖尿病のコントロール状態や体重の増減によりインスリン抵抗性が変化することは良く知られているが、一方で2型糖尿病は濃厚な遺伝傾向が存在する。そのため、遺伝子に規定された原発性のインスリン抵抗性と代謝異常に起因する可逆性のインスリン抵抗性が存在することになる[3]。 遺伝要因の同定のために多くの遺伝子が検討されており[3]、高度なインスリン作用低下を引き起こすA型インスリン抵抗症の原因遺伝子はいくつかのものが特定されているが、全ての原因遺伝子が同定できてはいない[5]。
肥満
肥満者は高遊離脂肪酸(FFA)血症を認めることが多く、血中FFA濃度の上昇は骨格筋のインスリン抵抗性を生じさせる。また、脂肪細胞からも分泌されるサイトカインであるTNFαが関与している可能性が指摘されている[3]。
運動不足
運動によるグリコーゲンの消費は骨格筋の糖取り込みを直接刺激するとともに、骨格筋の糖処理に重要な分子が増加することでインスリン感受性も増強させる働きがある。継続的な運動により肥満が解消されれば、さらにインスリン抵抗性の改善につながる[3]。
糖毒性
高血糖自体が末端組織でのインスリン感受性の低下を引き起こすこともまた原因として挙げられる。このような概念を糖毒性と呼ぶ[3]。
高インスリン血症
生体にインスリン抵抗性が生じると、β細胞機能が保たれている限りは高インスリン血症が生じ、持続的な高インスリン血症もインスリン感受性を低下させる。高インスリン血症が持続することにより細胞表面上のインスリン受容体数が減少することが原因とみられている[3]。
検査
最も正確にインスリン抵抗性状態を測定できる方法は、グルコースクランプ法である[12]。「SSPG法」(Stedy State Plasma Glucose) も有用である[12]。
「HOMA-R指数」(Homeostasis Model Assessment Ratio, Homeostasis Model Assessment as an Index of Insulin Resistance, HOMA-IR)も簡便で有効な予測値である[13]。空腹時の血清インスリン値(IRI)と空腹時血糖(FBG)からインスリン抵抗性を推定できる[13]。しかし、外因性インスリン投与、内因性インスリン分泌を刺激する薬剤の投与、インスリンの分泌機能障害時は精度が低下する[12][13]。推定式は以下の通りである[13]。
HOMA-R=IRI (μU/ml ) ×FBG (mg/dL)÷405
出典
- ^ Tabák, Adam G; Jokela, Markus; Akbaraly, Tasnime N; Brunner, Eric J; Kivimäki, Mika; Witte, Daniel R (2009-06-27). “Trajectories of glycaemia, insulin sensitivity, and insulin secretion before diagnosis of type 2 diabetes: an analysis from the Whitehall II study”. The Lancet 373 (9682): 2215–2221. doi:10.1016/S0140-6736(09)60619-X. ISSN 0140-6736 .
- ^ 日本糖尿病学会, ed. (2019-10-1), 糖尿病診療ガイドライン2019 (1 ed.), 南江堂
- ^ a b c d e f g h 小川 渉「糖尿病の病態-インスリンの分泌障害が抵抗性か-」『日本内科学会雑誌』第89巻第8号、一般社団法人 日本内科学会、2000年8月10日、1512-1517頁、doi:10.2169/naika.89.1512、2023年12月18日閲覧。
- ^ 鎌田勝雄. “脂肪細胞とインスリン抵抗性”. 星薬科大学薬学部. 2010年5月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年9月14日閲覧。
- ^ a b 小川 渉、荒木 栄一、石垣 泰、廣田 勇士、前川 聡、山内 敏正、依藤 亨、片桐 秀樹「インスリン抵抗症の疾患分類と診断基準に関するワーキンググループ報告」『糖尿病』第64巻第11号、一般社団法人 日本糖尿病学会、2021年8月18日、561-568頁、doi:10.11213/tonyobyo.64.561、2023年12月18日閲覧。
- ^ The etiology of oxidative stress in insulin resistance Samantha Hurrle and Walter H. Hsu. Biomed J. 2017 Oct; 40(5): 257–262. Published online 2017 Nov 8. doi:10.1016/j.bj.2017.06.007 PMC 6138814 PMID 29179880
- ^ a b c Susmita Sinha; Mainul Haque (2022-04-10). “Insulin Resistance Is Cheerfully Hitched with Hypertension”. Life (Molecular Diversity Preservation International, MDPI) 12 (4): 564. doi:10.3390/life12040564. ISSN 2075-1729. PMC 9028820. PMID 35455055 .
- ^ Insulin Resistance and Cancer Risk: An Overview of the Pathogenetic Mechanisms Biagio Arcidiacono, Stefania Iiritano, Aurora Nocera, Katiuscia Possidente, Maria T. Nevolo, Valeria Ventura, Daniela Foti, Eusebio Chiefari, and Antonio Brunetti. Exp Diabetes Res. 2012; 2012: 789174. Published online 2012 Jun 4. doi:10.1155/2012/789174 PMC 3372318 PMID 22701472
- ^ a b c d e 松澤佑次 2006, p. 2.
- ^ 松澤佑次 2006, pp. 2–3.
- ^ 松澤佑次 2006, p. 3.
- ^ a b c 松澤佑次 2006, pp. 88–89.
- ^ a b c d 春日雅人 2004, pp. 61–62.
参考文献
- 春日雅人『インスリン抵抗性』文光堂、東京都、2004年。 ISBN 4-8306-1350-5。
- 松澤佑次『インスリン抵抗性』医学書院、東京都、2006年。 ISBN 4-260-00036-5。
関連文献
- 日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2019』南江堂、東京都、2019年。 ISBN 978-4-524-24148-4 。
- 日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2024』南江堂、東京都、2024年5月。 ISBN 978-4-524-20425-0 。
- Insulin Resistance and Cancer Risk: An Overview of the Pathogenetic Mechanisms Biagio Arcidiacono, Stefania Iiritano, Aurora Nocera, Katiuscia Possidente, Maria T. Nevolo, Valeria Ventura, Daniela Foti, Eusebio Chiefari, and Antonio Brunetti. Exp Diabetes Res. 2012; 2012: 789174. Published online 2012 Jun 4. doi:10.1155/2012/789174 PMC 3372318 PMID 22701472
インスリン抵抗性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/28 04:37 UTC 版)
脂肪細胞が肥大化すると、特に内臓に存在する脂肪細胞から遊離脂肪酸が遊離される。この脂肪酸の一部が骨格筋や肝細胞に運ばれ、骨格筋内へ運ばれた脂肪酸はタンパク質分子をリン酸化する酵素であるプロテインキナーゼCを活性化し、更にNF-κBに関連したIκBαのセリン残基をリン酸化する酵素複合体(IκB kinase)が活性化され、インスリン受容体基質であるIRS1タンパクのセリン残基をリン酸化する。この経路によってIRS1タンパクがリン酸化されると、正常なリン酸化過程が阻害され、結果的にIRS1以降のシグナルが伝達されず、インスリン依存のグルコーストランスポーターであるGLUT4を膜に移送できなくなる。GLUT4が機能しにくくなると、グルコースが細胞に取り込まれにくくなる。インスリン抵抗性に見られる症状の1つである。 もう1つのメカニズムとして、脂肪細胞から単球走化性タンパク質であるMCP-1が遊離され、MCP-1は単球を引き寄せ、細胞外に出た単球は活性化されてマクロファージとなる。このマクロファージは脂肪細胞の周囲に集積し、ここから腫瘍壊死因子として知られるTNFαを分泌する。TNFαが受容体に結合するとセリン・スレオニンキナーゼであるJNK(c-Jun amino-terminal kinase)がインスリン受容体基質であるIRS1タンパクのセリン残基をリン酸化する。この経路でも上記メカニズムと同様にインスリン抵抗性となる。また、TNFαは、GLUT4の発現を抑制する作用もある。TNFαのこれらの作用は著明なインスリン抵抗性をもたらす。 さらに加えて、脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンは、TNFαや遊離脂肪酸と異なり、インスリン受容体の感受性を上げるが、脂肪細胞の肥大化によりアディポネクチンの分泌が低下し、結果としてインスリン抵抗性につながる。
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