像
『変身物語』(オヴィディウス)巻10 ピュグマリオンは、自ら象牙を刻んで造った乙女の像に恋心を抱く。女神ヴェヌス(=アフロディーテ)が彼の思いを知り、象牙の乙女に命を与える。ピュグマリオンの口づけに乙女は目を開く。
『ペンタメローネ』(バジーレ)第5日第3話 ベッタは、砂糖・アーモンド・香水・宝石・金の糸などで若者の像を造る。愛の神に祈ると像に生命が宿り、ベッタは像を夫としてピント・スマルトと名づける。女王が彼に横恋慕して連れ去るが、ベッタは夫を取り戻し、まもなく男児を産む。
★1b.像が生きた仏となる。
『風流仏』(幸田露伴) 仏師珠運は木曽の宿で美女お辰と出会い、結婚しようとする。しかしお辰は岩沼子爵の生き別れた娘であることがわかり、2人の仲は引き裂かれたので、珠運はお辰を偲んで彼女に生き写しの観音像を彫る。やがてお辰と某侯爵婚約の報が届き、怒った珠運は鉈で観音像を打ち割ろうとする。その時、像はお辰と化して珠運を優しく抱き、2人は一緒に天へ昇って行った。
『ギリシア神話』(アポロドロス)摘要第3章 ラオダメイアは、戦死した夫プロテシラオスに似た像を作り、これと交わった。ヘルメス神が冥府からプロテシラオスをいったん連れ戻したので、ラオダメイアは喜んだが、再び夫は冥府へ帰され、ラオダメイアは自害した。
『聊斎志異』巻5-190「土偶」 王氏の夫は早死にした。王氏は塑像造りに頼んで、夫に似た土偶を作り、食事を供える。ある夜、土偶が動き出し、みるみる人間並みに大きくなって、夫の姿になった。夫は王氏と交わり、1ヵ月余り立って王氏の妊娠がわかると、別れを告げて去って行った。王氏は男児を産んだが、日向(ひなた)で抱いても影が淡く、霧のようだった。
★1d.美女の像に心をうばわれ、そのモデルの王女を妻とする。
『忠臣ヨハネス』(グリム)KHM6 老王が、「城内の1つの部屋だけは息子に見せるな」と忠臣ヨハネスに遺言して死ぬ。しかし息子の王は、禁ぜられた部屋に入り、美しい王女の立像を見て心をうばわれる。王は忠臣ヨハネスを連れて、立像のモデルである王女の住む、黄金の屋根の国へ船出する→〔無言〕1c。
★2.像を傷つける。
『黄金伝説』3「聖ニコラウス」 ユダヤ人が、聖ニコラウス(=サンタ・クロース)の像を造り、財産を守ってくれるよう願う。にもかかわらず泥棒が入ったので、ユダヤ人は怒って像を笞打つ。すると、盗品を分ける泥棒たちの所へ、傷だらけの聖ニコラウスが現れて、「盗んだものを返せ」と命じた。
『グリーブ家のバーバラ』(ハーディ) 美貌のエドモンドは火事で顔に醜い火傷を負ったため、妻バーバラと別れ、やがて病死した。彼は火傷を負う以前に、自らの美貌を写した等身大の立像を造っていたので、バーバラはそれを見てエドモンドをしのぶ。しかしバーバラの新しい夫は、これに嫉妬して、立像の顔面に火傷そっくりの醜い傷をつけた〔*谷崎潤一郎はこの小説にヒントを得て、『春琴抄』を書いたと言われる〕。
『二十四孝』(御伽草子) 丁蘭は15歳で死別した亡母の木像を造り、生きた人に仕えるごとくしていた。丁蘭の妻が火で木像の面を焦がすと、瘡のように腫れ、膿血が流れた〔*2日後、妻の髪が落ち、妻は3年間、木像に詫びた。『蒙求』415「丁蘭刻木」などが原拠〕。
『怪人二十面相』(江戸川乱歩)「荘二君のゆくえ」~「おとしあな」 実業家・羽柴壮太郎が所蔵する、鎌倉時代作の国宝級の観世音像をいただきたい、と怪人二十面相が要求する。明智小五郎の助手で、12~13歳になる小林芳雄少年が、観世音像と同じくらいの背格好であるので、全身を黒く塗って観世音像になりすます。小林少年は二十面相にピストルをつきつけて捕らえようとするが、地下室に落とされる。
『冬物語』(シェイクスピア) リオンティーズ王が、妃ハーマイオニの貞節を疑い、彼女を投獄する。やがて妃の死の知らせがとどき、王は、妃への仕打ちを悔いる。20年後、妃そっくりに彫刻された立像を、王は見せられる。王は驚き、立像に接吻しようとするが、その立像は、本物の妃ハーマイオニその人であった。
『ジャータカ』第61話 120歳の老母が、息子を殺そうとたくらむ。息子は、等身大の木像に覆いをして床に置く。老母は斧で首を一撃して木像であると知り、倒れて死ぬ。
『菅原伝授手習鑑』2段目「道明寺」 筑紫へ配流される途中の菅原道真が、河内国の伯母のもとを暇乞いに訪れる。道真を暗殺すべく贋役人が迎えに来て、道真は輿(こし)に乗るが、後に見ればそれは木像だった。道真が自らの姿を形見として遺すために刻んだ木像が、身代わりになって輿に乗ったのであった。
★5.像の中に物を隠す。
『六つのナポレオン』(ドイル) ボルジア家の黒真珠を盗んだ男が警官に追われ、自分が勤めていた石膏像の製造工場へ逃げこむ。6つのナポレオン像のうちの1つが生乾きで柔らかかったので、男は像の中へ真珠を押し入れる。後に男は、ナポレオン像の売られた先を調べ、像を壊して真珠を取り戻そうとする。
『幸福な王子』(ワイルド) 町の広場に立つ王子の像は全身金箔でおおわれ、目にサファイア、刀の柄にルビーが、耀いていた。王子は、宝石を抜き取り金箔をはがして、貧しい人々のもとに運ぶよう、つばめに依頼する。冬が来て、つばめは寒さのため死に、王子の鉛製の心臓は割れる。
『大唐西域記』巻11・1・6 僧伽羅国の精舎には先王の背丈と等しい金の仏像があり、頭部の肉髻(にくけい)に宝石が飾られていた。盗賊が侵入して宝石を取ろうとしたところ、仏像の背丈がしだいに高くなって、取ることができなかった。盗賊は落胆し、「仏が宝石を惜しむとは」と言うと、仏像は首をうつむけて、盗賊に宝石を与えた。
『美神』(三島由紀夫) ドイツ人R博士は、古代ローマのアフロディテ像を発掘した時、自分と像だけの秘密を作りたいと考え、像の実際の背丈2・14メートルよりも3センチ多い数を、世界の学界に公表する。10年後、臨終の床にあるR博士からこの秘密を聞いたN医師が、像の背丈を測ると2・17メートルあった。R博士は、「裏切りおったな」と言って死んだ〔*→〔箱〕7の『日本霊異記』中-6と類想〕。
『ドン・ジュアン』(モリエール) ドン・ジュアンは、かつて決闘をして1人の騎士を殺した。その騎士の石像が建てられたので、ドン・ジュアンは石像を見に行き、「拙宅へ晩餐においでなさい」と冗談を言う。すると石像がうなずく。翌晩、石像は本当にドン・ジュアンの所へやって来る→〔土〕5a。
『聊斎志異』巻2-47「陸判」 朱爾旦は肝だめしで十王殿まで出かけ(*→〔肝だめし〕1)、判官の木像を背負って酒席へ帰って来る。彼は判官像に杯をささげ、「拙宅へ飲みにおいで下さい」と誘って、判官像を十王殿に戻す。すると翌晩、判官像は本当に朱爾旦の家へやって来た〔*彼は「姓は『陸』」と名乗り、「名も字(あざな)もない」と言った〕→〔心〕15a。
*死者を食事に招待する→〔首くくり〕5の『ドイツ伝説集』(グリム)336「絞首台から来た客」。
『ヴィーナスの殺人』(メリメ) アルフォンスは自らの結婚式当日、テニスの試合に興じ、ラケットを持つ手に邪魔な指輪をはずして、銅製のヴィーナス像の指にはめる。試合後に指輪を取ろうとすると、像が指を曲げ、指輪が取れなくなっているのでアルフォンスは困惑する。その夜、アルフォンスと花嫁の新床にヴィーナス像が現れ、強い力でアルフォンスを抱き締めて殺す。
『捜神記』巻5-3(通巻94話) 3人の男が蒋子文を祭る廟へ遊びに行き、いくつかの婦人の神像をそれぞれ指さして、「おれの嫁はあれだ」と冗談を言い合う。3人の夢枕に蒋侯が立って「良い縁組である」と礼を言い、「某日を期して3人を迎え取る」と告げる。3人は恐れ、取り消しを請うが、まもなく皆死ぬ。
*大人が子供と結婚の約束をする→〔言霊〕6の『サザエさん』(長谷川町子)。
『夢十夜』(夏目漱石)第6夜 明治の代なのに、鎌倉時代の運慶が仁王像を彫っている。無造作に鑿をふるって見事な像ができてゆくので、「自分」は感心する。見物の若い男が、「あれは、木の中に埋まっている仁王を鑿と槌で掘り出しているのだ」と言う。「自分」も木を彫ってみたが、明治の木には仁王は埋まっていなかった。
『大魔神』(安田公義) 戦国時代。丹波の山奥に、背丈10メートルほどの埴輪型の武神像があった。その地では、家老が謀反を起こし城主を殺して、悪政をほしいままにしていた。城主の娘・小笹の願いにより、武神像に地下の魔神が乗り移り、武神像は鬼のごとき形相となって動き出す。武神像は城を破壊し、家老一派を皆殺しにして、暴れ回る。武神像はさらに村里へ向かおうとするので、小笹は「お鎮まり下さい」と訴える。武神像は穏やかな顔に戻り、崩れ落ちて土と化した。
*映画『大魔神』の発想源は、→〔人造人間〕5のゴーレムの物語だといわれる。
★11.動物の像。
『三国史記』巻4「新羅本紀」第4・第22代智證麻立干13年 于山国は別名を鬱陵島といい、海上はるかな島であることを頼みにして、新羅に服属しなかった。そこで新羅の軍師が、多くの木製の獅子像を各戦船に載せ、海岸に押し寄せて、「服従しないと、この猛獣を島に放つぞ」と脅した。これを聞いた于山国の人々は、恐れて降伏した。
『十訓抄』第7-26 秦の恵王が石牛を作り、尻の下に金(きん)を置いて、蜀の国境近くに運ばせた。蜀の人は「金の糞をする牛だ」と思い、国境の山を掘り崩し、平らな道にして、石牛を国内へ運び入れた。秦軍は、その道を通って蜀に攻め入り、滅ぼした〔*→〔木馬〕2の『ギリシア神話』(アポロドロス)摘要第5章の、トロイの木馬の物語に類似する〕。
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