家畜化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/07 14:31 UTC 版)
家畜化に伴う変化
一般的に、家畜化される動物には以下のような変化を生じる。
- 気性がおとなしくなり、ヒトに服従しやすくなる。
- 脳が縮小する。
- ヒトにとって有用な部位が肥大化する。
これらは、どちらかと言えば人為選択による変化である。それ以外に、副次的に以下のような変異があるとされる。
- 繁殖時期が幅広くなる。
- 斑紋など外形の多様性が大きくなる。
- 病気等に弱くなる。
- 生活環を全うするのにヒトの手助けが必要になる。
このような現象は、ヒトの保護下にあることで、自然選択の圧力がかからなくなるために引き起こされるものと考えられる。
歴史
家畜化や動物の飼育技術の発達には長い時間が掛かるため、短い時間単位でのある一時期を指して「ここで家畜化が起こった」などといった断言はし得ない。動物の家畜化が初めて起こったのは中石器時代のアフロ=ユーラシア大陸(アフリカ大陸とユーラシア大陸)のどこかであったとする説が有力ではあるが、それは最も早く家畜化された動物として確証されているイヌの、それが行われた時期をいつと考えるかで大きく変わってくる。
- イヌの家畜化
イヌは、タイリクオオカミに属する複数の亜種のいずれかから亜種レベルで種分化したと考えられている[12]。時期については様々な説が唱えられており、それらの説どうしの時間的な開きは大変に大きい。最も古い時期を推定するのは分子系統学的知見に基づく学説で、現生人類(ホモ・サピエンス・サピエンス)の出現以前、つまり、ネアンデルタール人類かプレネアンデルタール人類が成し遂げた可能性を示唆しており、紀元前98000年(100000年)を超えた過去にまで遡り得る。また、考古学的知見では、シリアのドゥアラ洞窟(Douara Cave. シリア砂漠にある中期旧石器時代の洞窟遺跡)にある紀元前33000年前(約35000年前、ムスティリアン期)のネアンデルタール人(ネアンデルタール人類)の住居跡から出土した“オオカミでもジャッカルでもなく、イヌにしか見えない、小さなイヌ科動物の成獣らしき個体の下顎骨”が、“人類史上最古の家畜化の証拠”かも知れない遺物である[13]。しかし、多くの学説はやはり現生人類の手で成し遂げられたと主張している。それらの説については「家畜と原種、時期と場所」節の「イヌ」の欄を参照のこと。最も遅い時期を推定するものは紀元前11000年以前(約13000年前)とする[12]。地域については、かつては中東説が有力であったが、ミトコンドリアDNAの解析が成されて以降は東アジア説が最も有力となった。しかし2010年代後半になると別系統の分子系統学的視点から中東説とヨーロッパ説が多くの研究者の支持を集めるようになってきてもいる。
- ヤギとヒツジの家畜化
イヌに次いで家畜化されたのはヤギとヒツジで、これらも時期については諸説あって、ヤギがヒツジに先行したともヒツジがヤギに先行したとも主張される。いずれにしてもおおよその時期は紀元前8千年紀の前後数千年の間のことで[12]、地域は、ヒツジがメソポタミア地方、ヤギはその北東に位置するイランであったとされている。ヤギとヒツジの家畜化は、定住による人口増加とそれに伴う野生動物の減少を補う手段であったと考える研究者もいるが、遊牧民によって成されたというのが従来の考え方である。乳(山羊乳)や毛(羊毛)など二次生産物の利用は、家畜化からかなりの時間が経ってから行われるようになったとする説[14]もあれば、ヤギの家畜化は肉・乳・皮の利用から始まったとする説もある。また、ヒツジの家畜化は、先行して始まっていたヤギの利用では十分に補えない、ヤギのそれより栄養素として高品質な脂肪と、被服に活かせる高品質な毛の確保にあったとする説がある。
- アメリカ大陸における家畜化
なお、家畜化のほとんどはアフロ=ユーラシア大陸で行われてきた。アメリカ大陸で家畜化された動物はわずかにシチメンチョウやノバリケン、モルモット、リャマ、アルパカ程度に過ぎず、特に運輸に使用できるような家畜は南アメリカのリャマ一種に過ぎない。特にオルメカ文明・マヤ文明などのメソアメリカ文明においては家畜化はほとんど行われず、ユーラシア大陸からベーリング地峡経由でヒトに連れられて渡ってきたイヌと、現地で食用として家畜化されたシチメンチョウ以外には、家畜は存在しなかった[15]。
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家畜の一覧
家畜を分類するにあたっては、何を基準にするかでいくつかの方式が考えられる。下記の「家畜と原種、時期と場所」節では、原種との対比と時期と場所を基準にしている。その次の「タクソン別」節では、分類学による分類を基準にしている。最後の「目的別」節は、別項「家畜一覧」を案内してる。
家畜と原種、時期と場所
英語版の「家畜の一覧」である「List of domesticated animals」は、内容的に当セクションと近似で、補完し合えるところがある。英語版では、限定的・部分的な家畜化の例も、全面的な家畜化と区別したうえで(セクションを別に設けて)リストに挙げている。
当セクションでは、重要な家畜とその原種を、家畜化の時期と場所とともに列記する。記述は時期の古さ順。
「家畜」欄および「原種」欄の内容は、1. 和名、2. ( )括弧内は、必要なら英語版リンク、あれば漢字表記、必要なら補説、3. 学名(斜体で表記)。
タクソン別
ここでは、タクソン(分類群)を基準にして家畜を分類する。
用途別
ここでは、用途を基準にして家畜を分類する。
注釈
- ^ したがって、犬の "domestication" という語 "dog's domestication(犬の飼い慣らし)" も成立する。
- ^ 次のような語と連結する。animal(動物)、wild animals(野生動物)、plant(植物)、wild plants(野生植物)、human(人間)、ほか。心理学用語 self-(自己…)→ self-domestication(自己家畜化 cf. en)[5][6]。
- ^ domestication of wild plants などといった表現。
- ^ 元資料では、種を特定できない通称「バッファロー」が用いられているが、論旨に適う種を特定するならアフリカスイギュウが最適である。
- ^ 「イヌの起源」も参照のこと。
- ^ 「ドバト(土鳩、鴿)」ともいうが、この語は「家禽化(家畜化)された後で再野生化したカラワバトの総称」と定義される一方で、別の定義では「カワラバトの飼養品種」であるとされ、ベクトルが逆方向の相反する定義が並立している。いずれにしても、この表では野生のカワラバトが家禽化された時点を主題としており、その家畜の名称を問われれば、「カワラバト」である。「ドバト」の定義はどちらも後世の事象を説明している。
- ^ ミトコンドリアDNAの解析による知見[37][38]。2003年発表[38]。
- ^ シロガチョウ(白鵞鳥)はシナガチョウの一種。
出典
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- ^ ウズラ(ニホンウズラ)の家畜化は食用から始まった。啼き鳥としての飼育は16世紀半ば(戦国時代後期)の『言継卿記』が初出。ヨーロッパウズラ (Coturnix coturnix) とは別種。ヨーロッパウズラは古代オリエントおよび古代地中海世界でも食用にされていた野鳥であるが、肉に毒性が認められる種であり、ニホンウズラと違って家畜化はされていない。
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- ^ a b “wage slave”. 英辞郎 on the WEB. アルク. 2019年12月27日閲覧。
- 1 家畜化とは
- 2 家畜化の概要
- 3 家畜化に伴う変化
- 4 他を家畜化する動物
- 5 自己家畜化
- 6 外部リンク
- 家畜化のページへのリンク