家畜動物
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 04:12 UTC 版)
1979年、イギリス政府によって設立された独立機関である家畜福祉委員会(farm animal welfare council:FAWC)が「5つの自由」を提案し、その後、この基本原則が世界の家畜動物福祉の共通認識となり、OIEの陸生動物衛生規約にも示されている。 5つの自由 ・飢えおよび渇きからの自由(給餌・給水の確保) ・不快からの自由(適切な飼育環境の供給) ・苦痛、損傷、疾病からの自由(予防・診断・治療の適用) ・正常な行動発現の自由(適切な空間、刺激、仲間の存在) ・恐怖および苦悩からの自由(適切な取扱い) OIEは、2004年以降、陸生動物衛生規約の動物福祉(アニマルウェルフェア)の基準を策定しており、現在次の12章が公表されている(採卵鶏については議論が行われたものの、加盟国間の意見の隔たりが大きく採決に至っていない。詳細はバタリーケージ#採卵鶏のアニマルウェルフェアに関する基準の進行状況)。 アニマルウェルフェアに関する勧告 海上での動物の輸送 陸上での動物の輸送 空輸による動物の輸送 動物の屠殺 疾病管理のための動物の殺処分 アニマルウェルフェアと肉牛生産システム アニマルウェルフェアと肉用鶏(ブロイラー)生産システム アニマルウェルフェアと乳牛生産システム 作業用馬のアニマルウェルフェア アニマルウェルフェアと豚の生産システム 皮、肉、その他の製品を目的とした爬虫類の殺処分 また、2008年以降、水生動物衛生規約の動物福祉(アニマルウェルフェア)の基準を策定しており、現在次の4章が公表されている。 養殖魚のアニマルウェルフェアに関する勧告の紹介 輸送中の養殖魚のアニマルウェルフェア 食用養殖魚の解体・殺処分の福祉的側面 疾病管理のための養殖魚の殺処分 家畜動物の動物福祉として問題になる主要なテーマは、採卵鶏のバタリーケージ飼育や母豚の妊娠ストールといった動物の閉じ込め飼育(ケージ飼育)である。これらについては欧米を中心に法律による規制や、企業による自主廃止が進んでいる。 「バタリーケージ」を参照 「妊娠ストール」を参照 EUでは、EU市民140万人の署名により(欧州市民イニシアチブ(ECI))、2021年6月に、欧州委員会が、飼育動物のケージを禁止するという取り組みを発表した。これは、すでに規制がある産卵鶏や母豚の使用制限の強化に加え、ウサギや若鶏、種鶏、カモ、ガチョウなども規制の対象とする予定ととなっている。 BBFAW(The Business Benchmark on Farm Animal Welfare)は、毎年、畜産物を扱うグローバル企業の動物福祉評価を行う組織だが、2022年の評価によると、調査対象となった150社のうち約80%が、家畜福祉の正式な企業方針や目標を明示し、家畜動物の福祉のガバナンスを強化していることがわかった。 動物福祉の考えは畜産業に多大な影響を与えており、欧米を中心に活動や研究が盛んである。その内容は、閉じ込め飼育(ケージ飼育)だけでなく、屠殺においては極力苦しませないなどの取り組み、採卵鶏のオスの殺処分問題、家畜の輸送時の扱い、豚の無麻酔去勢などの家畜の体の一部の切断処置に関するものなど、多岐にわたり、改善を求める運動の結果、様々な法的・自主的な枠組みが作られている。例えば、動物の生体の輸出は、中東などの世界的な家畜需要の増加に対応するために増加しているが、これに反対する動物擁護活動家の運動の結果、ニュージーランドでは2021年4月、2年間の移行期間を経た23年4月から生体牛の海上輸出を禁止することを公表、2022年4月時点で、その実現に向けた動物福祉法の改正手続きを進められている(審議されている動物福祉法改正案では、海上輸出を禁止する対象が牛、鹿、ヤギおよび羊となっている)。 近年では、各国との貿易協定においてもアニマルウェルフェアが求められるようになってきている。2021年、欧州議会は、欧州委員会に対して、EU域外国で生産された畜産製品の域内流通は、EUが定めた動物福祉の基準を満たした製品のみ承認するよう求めた。 日本国内では、2011年に、公益社団法人畜産技術協会が、畜種ごとの「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」を発表し、農林水産省がこの指針の普及を行った。しかしながら、家畜動物のアニマルウェルフェアについて、日本は国際社会の中で後れを取っており、世界動物保護協会(World Animal Protection)の評価によると最低ランクのGとなっている。 こういった中、2022年1月に、農林水産省は生産者や流通などの関係者らと、アニマルウェルフェアの初会合を開いた。続いて、畜産技術協会が作成した畜種ごとの指針を普及するというこれまでの方針を改め、農林水産省自らが畜種ごとの指針を示すことを決定し、5月に畜種ごとの指針の案を発表した。ただし、畜産技術協会の指針、農林水産省の指針いずれも強制力はなく、法律に基づく指針ではないため、罰則やペナルティーを伴うものではない。
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