1970年式
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/12 03:50 UTC 版)
1970年、トリノはフォード中型車ラインナップの代表モデルとなり、逆にフェアレーンがトリノの派生ラインナップに地位が入れ替えられ、事実上の第2世代へとフルモデルチェンジを行った。1970年式からはそれまでのフォードのフルサイズ車であるフォード・ギャラクシーの箱型スタイリングをダウンサイジングしたような手法を改め、当時の流行であったコークボトル・スタイリング(en:Coke bottle styling)を基調としたまったく新しいボディラインが与えられた。 丁度、テールフィンが1950年代のジェット機から影響を受けていたのと同様に、フォードの車体デザイナーであるBill Shenkは1970年式トリノ/フェアレーンをデザインするにあたり、当時の超音速機、特にデルタ翼機が超音速に到達するために必要としたデザインである機首を膨らませて胴体中央は狭く絞り、再び機体後方を広くするデザインを参考にした。 こうして誕生した新しいトリノ/フェアレーンは、ロングノーズ・ショートデッキスタイルが特色となり、1969年式と比較してより長く、より低く、より幅広なスタイリングとなった。全てのモデルが前年までよりも緩やかな曲線のルーフラインを持ちながらも、ルーフの高さそのものはより低く抑えられていた。フロントガラスの傾斜はより角度を増し、スポーツルーフモデルはより平坦なファストバック・ルーフラインとなった。全体的なスタイリングは前年までよりもエアロダイナミクスを重視したものとなり、フロントエンドもより先鋭的な形状となった。フロントグリルはフロントマスク全体を覆う形状となり、両脇には4灯ヘッドライトが配置された。フロントフェンダーの造形はフロントドアと一体化したデザインとなり、フェンダーからドア後方に掛けて徐々に下降しつつ、リアクォーターパネルで消えるフェンダーラインが設けられた。フロントバンパーとリアバンパーはクロームメッキが施されたスリムなもので、ボディラインにタイトな角度に合わせられるように設計された。テールライトはリアバンパー上方のリアパネルに配置され、その形状は長方形を基調としながらも外側はボディラインに合わせて丸みを持たせられていた。 1970年式のモデルラインナップは非常に多岐に渡り、最初は次の13モデルで展開された。ベースモデルはフェアレーン500で、2ドアハードトップと4ドアセダン/ステーションワゴンの3モデル。次に中級グレードのトリノとなり、2ドア/4ドアハードトップと4ドアセダン/ステーションワゴンの4モデルが用意された。4ドアハードトップは1970年式から新たに追加されたボディ形状でもあった。最上質のトリムが与えられたモデルはトリノ・ブロアム(Brougham)で、2ドア/4ドアハードトップと4ドアステーションワゴンの3モデルであった。スポーツモデルであるトリノGTは2ドアスポーツルーフ/コンバーチブルで構成され、最後にハイパワーモデルであるトリノ・コブラが2ドアスポーツルーフのみで登場した。 モデルイヤー中期にはこのラインナップを拡充するモデルとして、ファルコンの名称が中型車ラインナップのエントリーモデルとして追加された。元々のフォード・ファルコン(en:Ford Falcon (North American))は、このモデルイヤーの中期までコンパクトカーのラインナップに全く別の車種として存在したものであるが、1970年1月1日に発効した新たな連邦基準を満たす事が出来なくなってモデルイヤー中期で廃止となり、この時点よりトリノを中心とするフォード中型車ラインナップの最下級車種として、新たな形で追加される事になった。この1970½年式ファルコンは、2ドア/4ドアセダンと4ドアステーションワゴンで構成された。1970½年式ファルコンはフォード中型車の中でも最も低価格のモデルとなり、ベースモデルであるフェアレーン500よりも更に簡素化された内外装が与えられた。フロアカーペットの代わりにゴム製フロアマットが装備され、ピラード2ドアセダンを有する唯一のモデルでもあった。同時期にトリノにも2ドアスポーツルーフが用意され、トリノGTの廉価版としての位置付けを担当する事になった。こうして1970年モデルイヤー中期からはフォード中型車は車名違いも合わせて17種類にラインナップが拡大されたのである。 新しいボディは1970年式トリノに更なる重量と大きさの増加をもたらした。全てのボディ形状で約5インチ (130 mm)全長が伸び、ホイールベースは117インチ (3,000 mm)となった。トラクション能力を高める為にホイールトレッドも増加されたが、サスペンションの構造自体は1969年式と同じままであった。重量は殆どのモデルでおよそ100ポンド (45 kg)増加した。競技向け(コンペティション)及びヘビーデューティのサスペンションパッケージはオプションとして引き続き残された。コンペティションサスの内訳は、前500ポンド (230 kg)/インチ、後210ポンド (95 kg)/インチのばねレートを持つ超重レートスプリング、前後ショックアブソーバーはGabriel社製となり、4速MT車では更に後軸のアブソーバーがstaggered shock配置(千鳥配置)とされた。標準若しくはその他のオプションサスで0.75インチ (19 mm)径のフロントスタビライザーが、コンペティションサスのみ0.95インチ (24 mm)径のものが奢られた。モータートレンド誌は1970年式トリノ・コブラをテスト車両に選び、コンペティションサスを次のように評した。「(ノーマルとは)全くの別物である:この車ならどんなに急なコーナーでも完璧にテールスライドを制御して駆け抜ける事が出来る。これ程全てが非常に滑らかな足は、滅多にないであろう。」 エンジンラインナップは大きく変更を受けた。1969年式から持ち越されたエンジンは、250 cu in (4.1 L)直6、302V8 (2バレルキャブレター)、351V8 (2バレルキャブレター) のみであった。殆どのモデルで引き続き250・直6が標準エンジンであった。オプションエンジンはGT及びブロアムの標準でもある302V8 (2バレルキャブレター)。351V8は途中からチャレンジャーV8に加えてCleveland型ミッドブロックV8が追加され、新しいエンジンは2バレルと4バレルの二種類のキャブレターを選択できた。また、コブラの標準エンジンも429 cu in (7.03 L)・4バレル385型ビッグブロックV8に更新された。1970年式以降のエンジンで注意しなければならない事は、同じ呼称の351V8-2VでもチャレンジャーV8系かCleveland型かに分かれる事である。両エンジンはシリンダーブロックの大きさや配管類の取り回しがかなり異なるものであるが、車台番号もカタログ出力値も全く同じで記載された為に、実際にどちらが搭載されているかは実車を見るまでは分からない事に留意しなければならない。429・4バレルV8エンジンは3つの異なるバージョンで提供された。一つめは429サンダージェットと称されたもので、これは所謂ノーマルエンジンでありコブラの標準装備でもある出力360馬力 (270 kW)のものであった。二つめは429コブラジェット(429CJ)で出力は370馬力 (280 kW)、2ボルト式シリンダーブロック、ラッシュアジャスター、流量700cfmのロチェスター[要曖昧さ回避]社製(en:Rochester Products Division)クアドラジェット(en:Quadrajet)4バレルキャブレターを標準装備し、更にはラムエアインテークの装着有無を選択できた。429エンジンの最高峰が429スーパーコブラジェット(429SCJ)で出力は375馬力 (280 kW)、前年からのオプションであるドラッグパックの部品の一部でもあった。購入時にドラッグパックオプションを選択すると、エンジンは429SCJに自動的に変更された。ドラッグパックオプションには他にも3.90:1または4.30:1の最終減速比、4ボルト式シリンダーブロック、鍛造ピストン、流量780cfmのホーリー製キャブレター、エンジンオイルクーラー、ソリッド式タペットが含まれていた。デファレンシャルには4.30:1を選択した場合にはデトロイト・ロッカー・デフロック、3.90:1を選択した場合にはTraction-Lock・リミテッド・スリップ・デフ(LSD)がそれぞれ装着された。429SCJもラムエアインテークの有無を選択でき、他のエンジンと同様にラムエアインテークの有無でカタログ出力値が変化する事はなかった。ラムエアインテークは351・4バレルClevelandV8でもオプション選択できた。1970年式のラムエアインテークはエアクリーナーボックスの上に直接エアスクープが取り付けられ、ボンネットに開けられた穴を通して外部にエアスクープが突き出すシェイカースクープ(en:Shaker_scoop)が採用された。シェイカーの徒名の由来はエンジンが回転中にエアスクープが振動する事に由来し、ショックスクープとも呼ばれた。3速MTはコブラを除く全てのモデルの標準装着品であり、クルーズOマチック3速ATと4速MTがオプション品であった。 1970年式トリノはインテリアも一新された。ダッシュボードにはリニア式(回転指針)スピードメーターがドライバーの正面に配置され、V8エンジンモデルにはオプションでリボン式(横移動指針)タコメーターが用意された。指針式ゲージとして用意されたメーターは水温計のみとなり、油圧計と電圧計は警告灯として残るのみとなった。2ドア全モデルではオプションでハイバック・バケットシートとセンターコンソールが選択でき、GTモデルではこの装備が標準とされた。2ドアハードトップとスポーツルーフ、コンバーチブルにはダイレクトエア換気システムが標準装備とされた。これは電動式の換気装置で、サイドウインドウを開けなくても室内の排気が自動で行われた。2ドアセダン、4ドア全車、ステーションワゴンではダイレクトエアはオプションとされた。 トリノ・ブロアムには標準で豪華な内外装トリムが装備された。細かな内装材(en:Upholstery)、ホイールカバー、専用エンブレム、より厳重な遮音材の装備、そしてハイダウェイ(Hideaway)・ヘッドライト等である。ハイダウェイ・ヘッドライトは一種のリトラクタブルヘッドライトであり、普段はヘッドライトがグリルに存在しないかのようにグリルと同意匠のカバーで覆われていた。ヘッドライトスイッチをONにすると、真空アクチュエータがカバーを開き、4灯ヘッドライトが姿を現す仕組みである。モータートレンド誌はトリノ・ブロアムを評して、「トリノ・ブロアムを前にすると、まるでLTDのような感覚を受ける。敢えて言うのであればコンチネンタルと同じだ。しかしそれがより乗りやすいサイズで手に入るのだ。」と述べた。また、同誌は1970年式トリノ・ブロアム 2ドアモデルの遮音性にも次のような言葉で賞賛を与えた。「フリーウェイの伸縮装置に乗っても車内にはドーンという鈍い音が聞こえるのみである。」 トリノGTには標準でダミーエアスクープが一体成型されたボンネット、グリル中央にはGTエンブレムが配置され、ツートーンカラースポーツドアミラー、ハニカムエフェクトと呼ばれる電球と反射材が交互に配置されたリアパネル全面サイズのハニカムグリル付き大型テールライト、黒い装飾塗装が施されたデッキリッド(スポーツルーフのみ)、ホイールトリムリング付きのホイールキャップなどが装備された。標準タイヤはE70-14サイズのファイバーグラス製ベルテッドバイアスタイヤで、コンバーチブルにはF70-14サイズが装備された。トリノGT専用のオプションとして、ハイダウェイ・ヘッドライトからフェンダーを経てドアまでを一気に突き抜けるレーザーストライプが用意された。モータートレンド誌は1970年式トリノGT・スポーツルーフ、429 CJ、C-6型3速AT、3.50:1の最終減速比をテスト車両に選択し、0-60 mph (97 km/h)加速は6.0秒、1/4マイルは14.4秒、最終地点では100.2 mph (161.3 km/h)を計測した。 トリノ・コブラは純粋な高性能モデルとしてのコンセプトを維持し、トリノGTよりも内外装のトリムレベルは抑えられた物となった。トリノ・コブラはスポーツルーフモデルのみが用意され、標準で4速クロスミッション、ハースト・シフター、黒塗りのボンネットとフロントグリル、7インチ幅のワイドホイール、F70-14サイズのホワイトレタータイヤ、ツイスト式(回転式)ボンネットピンとコブラエンブレムを装備した。新しいオプションとして15インチ (380 mm)サイズのマグナム500ホイールとF60-15サイズタイヤ、そして黒色のスポーツ・スラットルーバーがリアウインドウに装着できた。これらのオプションはトリノGTでも選択する事が出来た。1970年式は重量増大にも関わらず、新しい429エンジンの性能もあってパフォーマンスはより優秀となった。モータートレンド誌は1970年式トリノ・コブラ、ラムエアー仕様370馬力 (280 kW)の429 CJ、C-6型3速AT、3.50:1の最終減速比をテスト車両に選択し、0-60 mph (97 km/h)加速は6.0秒、1/4マイルは14.5秒、最終地点では100 mph (160 km/h)を計測した。同誌は、「重量の増大は明らかにトラクション向上に貢献している。ホイールスピンは減少し、発進から加速に転ずるのが遙かに楽になった。」と述べた。また、同誌は1970年式トリノ・コブラに429 SCJエンジン、4速MTと3.91:1の最終減速比の車両もロードテストに供しており、0-60 mph (97 km/h)加速は5.8秒、1/4マイルは13.99秒、最終地点では101 mph (163 km/h)を計測した。Super Stock & Drag Illustrated誌は375馬力 (280 kW)の429 SCJエンジン、補機類は同条件の車両で更に良い記録である1/4マイル13.63秒、最終地点では105.95 mph (170.51 km/h)を計測した。しかし、その車両はキャブレターのパワージェットの強化や、プライマリー・セカンダリージェットを大きくする等の若干のライトチューニングを施されていた。同誌は更にこの車両にスリックタイヤを履かせる事で、1/4マイル13.39秒、最終地点では106.96 mph (172.14 km/h)を易々と叩き出してしまったのである。 1970年式のステーションワゴンは3つのトリムレベルの車体で展開され、下からフェアレーン500・ワゴン、トリノ・ワゴン、そしてトリノ・スクワイアであった。1970年のモデルイヤー中期からは新たなベースモデルとして、ファルコン・ワゴンが加わった。ステーションワゴンの板金処理そのものは2ドアや4ドアと余り変わらない物を使用していた。しかし、フロントドアから後ろ側の板金処理は1968-69年式とほぼ同じものが持ち越された為、結果的にステーションワゴンのボディラインはセダンやスポーツルーフと比べて正方形に角張った、より直立した印象を受けるものとなった。トリノ・スクワイアはステーションワゴンの最上級車として、木目調サイドパネルやヘッドライトカバーが装備され、内外装トリムもトリノ・ブロアムと同等の物が用いられた。トリノ・スクワイアには302V8と、ブレーキブースター付きフロントディスクブレーキが標準装備された。他のワゴンは4輪ドラムブレーキ、エンジンは250・直6エンジンが標準装備であった。全てのワゴンにはフォード・マジックドアゲート(3段開閉式リアゲート)、パワーリアウインドウ、トランク内のサードシート、ルーフラックなどのオプションが継続して設定された。また、フォードは全てのトリノが牽引等級Class II (3,500 lb (1,588 kg))の性能を得る為の、トレーラー牽引パッケージをオプションで用意した。このオプションパッケージにはヘビーデューティサスペンション、高容量バッテリーとオルタネータ、強化された冷却装置とフロントディスクブレーキが標準装備され、追加選択オプションでパワートレインも351 cu in (5.75 L)か429 cu in (7.03 L)のV8エンジンにクルーズOマチック3速AT、パワーステアリング等も組み合わせる事が出来た。 フォードはこの年度の中型車ラインナップにも特別なハイパフォーマンス仕様車を加える計画を立てていた。それがフォード・トリノ・キングコブラであり、詳細はフォード・トリノ#NASCAR参戦車両を参照されたい。 全体的に見て、1970年はトリノにとって成功の年であった。自動車雑誌にも概ね高評価を得て、同年のモータートレンド・カー・オブ・ザ・イヤー(en:Motor Trend Car of the Year)にも輝いた。モータートレンド誌はこのトリノを評して、「(トリノには)古い感覚で言うところの「車としての型」が存在しない。しかし、それぞれの用途に特化した性能を持つラインナップを有している…ラグジュアリーからハイパフォーマンスまで。」と述べた。フォードは1970年に230,411台のトリノ、110,029台のフェアレーンと67,053台のファルコン、各車合計407,493台を製造した。
※この「1970年式」の解説は、「フォード・トリノ」の解説の一部です。
「1970年式」を含む「フォード・トリノ」の記事については、「フォード・トリノ」の概要を参照ください。
- 1970年式のページへのリンク