放送衛星
通信・放送衛星
遠くはなれて直接通信できない2点を結ぶ「通信衛星」
通信衛星は、遠くはなれて直接に通信できない2点を中継(ちゅうけい)するためのものです。宇宙中継をするためには、両地点から通信衛星が見えていることが必要です。太平洋上に静止衛星「インテルサット」が打ち上げられ、国際電話やテレビ中継がおこなわれるようになりました。日本でも1983年打上げの「さくら2a」で実用化され、現在「さくら3b」が国内の通信や新聞紙面の電送に活躍しています。
各家庭のアンテナでも受信できる「放送衛星」の電波
通信衛星と放送衛星の大きなちがいは、通信衛星が地上の受信局として大きなアンテナなどの施設が必要なのに対し、放送衛星は小さなアンテナで各家庭で受信できるように衛星の出力が大きいことが特徴です。日本では宇宙開発事業団(現 宇宙航空研究開発機構(JAXA))の放送衛星「ゆり」シリーズをはじめ、民間会社による通信・放送衛星も打ち上げられ、運用されています。
放送衛星「ゆり」
放送衛星
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/06 02:49 UTC 版)

放送衛星(ほうそうえいせい、Broadcasting Satellite、BS)とは、衛星放送専用に設計・製作された人工衛星である。通信衛星(CS)の1つとして位置づけられる。直接放送衛星(Direct Broadcast Satellite)とも呼ばれる。
概要
放送衛星の基本的な機能は通信衛星と同様、搭載した中継器(トランスポンダ)で地上から送信(アップリンク)した電波を受信したのち別な周波数に変換し地上に向けて再送信する(ダウンリンク)ことである。通信衛星との違いは送信出力や使用する周波数帯、カバーする地域、所有者や法的な位置づけなどに見られる。
通信衛星では当初はCバンド(6/4GHz)Kaバンド(30/20GHz)などがよく用いられ、放送衛星ではKuバンド(14/12GHz)が用いられる(周波数はアップリンク/ダウンリンクの周波数帯)。ただしKuバンドは降雨時の減衰が著しいため赤道地域では影響の少ない2.6GHz帯も利用される。
直接放送の場合、個別受信のためアンテナの大きさに制約がある。このためKuバンドにおいて100〜200W程度の高出力を要求される。
静止衛星のカバー範囲は本来は概ね地球の半分であるが国際通信に用いられ、特定の通信事業者間の通信に限られる通信衛星と異なり不特定多数の視聴者が受信できる直接放送衛星においては政治的・文化的事情から近隣の国に対するダウンリンクの漏洩(スピルオーバー)を厳しく制限する必要がある。日本の放送衛星ではスピルオーバーを最小限に抑制するため、アンテナの形状に工夫が凝らされている。
また日本では放送衛星は放送事業者、通信衛星は通信事業者により所有されその目的もそれぞれの業務に限定されたが1989年の放送法改正により通信事業者も受託放送事業者として通信衛星を用いた放送ができるように、また2001年には電気通信役務利用放送法を新設し通信事業者の通信衛星サービスを用いて他事業者が行う衛星役務利用放送制度が誕生した。現在、日本では専ら放送に用いるために打ち上げた人工衛星を放送衛星と呼称しており東経110度Kuバンド右旋円偏波によるBSデジタル放送とBSアナログ放送が行われているほか、2004年 - 2009年に東経144度Sバンド左旋円偏波による移動体向け放送サービスを行っていた衛星も放送衛星に区分されている。通信事業者が打ち上げた衛星のなかには映像配信に特化した広帯域中継器のみを持つものも少なからずあり、その大半を直接放送の用途に使用している機体もあるがそちらはなおも通信衛星とされている。
日本においての放送衛星の周波数の割り当ては当該記事詳述のとおり、BS1-BS23のうちの奇数番号の12個のチャンネルが割り当てられている。このため、アナログ放送時代はBSの放送チャンネルがすべて奇数(当時はBS1-BS15のうちの8つであったが、実際に使用されたのは6つ[注釈 1])である。また2002年から始まった通信衛星の「東経110°CS放送[注釈 2]」はこの名残りから[要出典]物理チャンネルはND2-ND24のうちの偶数番号の12チャンネルとなっている。
左旋と右旋
放送衛星は、電波の偏波面(振動面)が時間の経過とともに回転する「円偏波(えんへんぱ)」の方向に向かって、左回りが「左旋円偏波(させんえんへんぱ)」、右回りは「右旋円偏波(うせんえんへんぱ)」という。日本の衛星放送では、既存BS(2016年に実施された4K・8K試験放送を含む)・および110度CSでは右旋が使用されてきたが、2017年の4K試験放送では110度CSの左旋、2018年12月1日に開始された4K・8K本放送(実用放送)においては、既存の右旋には現行の2Kハイビジョン放送に加えて4Kを割り当てるとともに、新たにBS左旋と110度CS左旋に4K・8Kを割り当てている[1]。
歴史
- 1945年 - イギリスの小説家アーサー・C・クラークが衛星放送を提案
- 1965年 - NHK、独自の衛星放送構想を発表
- 1974年 - アメリカ、応用技術衛星ATS-6で2.6GHz帯で中継実験
- 1976年 - カナダ、通信技術衛星CTSで放送実験
- 1984年 - 中国、東方紅2号を打ち上げ
日本
東経110度放送衛星
- 1978年(昭和53年)4月8日 - 実験用放送衛星(BSE)「ゆり1号」、NASAのデルタロケットにより打上げ
- 1984年(昭和59年)
- 1986年(昭和61年)2月12日 - 放送衛星2号b(BS-2b)「ゆり2号b」N-IIロケット7号機で打上げ。これによりNHKの衛星放送2チャンネル体制が確立(12月25日、NHK衛星第2テレビジョン=BS-11ch開局。これで第1テレビは総合テレビ、第2テレビは教育テレビの時差編成中心に)
- 1987年(昭和62年)7月4日 - NHKがゆり2号bによるNHK衛星第1テレビジョン(BS1)24時間独自編成開始(地球による食のシーズン=2 - 4月と9 - 10月の深夜から未明及び年数回の月による食の日中の休止時間除く)
- 1989年(平成元年)
- 1990年(平成2年)
- 1991年(平成3年)
- 4月1日 - 初の民間放送局であるWOWOWおよびSt.GIGAによる衛星放送開始(前年11月30日よりノンスクランブルでのサービス放送で実質開局していたが、この日より正式なスクランブルをかけた有料放送を開始)
- 4月19日 - NHKが補完衛星「BS-3H」をNASAのアトラスで打ち上げるが失敗
- 8月25日 - 放送衛星3号-b(BS-3b)「ゆり3号b」NASDAのH-Iロケット8号機で打上げ
- 11月25日 -ハイビジョン試験放送(8時間/日)開始(当初はハイビジョン推進協会に免許が割り当てられ、NHK・民放・家電メーカーが時間・曜日に関係なくランダムに番組を編成するようになっていた。また一般視聴を目的とした放送では事実上世界史上初のハイビジョン専門放送局であった)
- 1994年(平成6年)
- 1997年(平成9年)4月17日 - BSAT-1a(BS-4a)打ち上げ。8月1日から運用開始(現用機。これによって、地球または月による食での放送休止がなくなる)。以後、BSAT-2までは1機で4波同時中継可能に
- 1998年(平成10年)4月29日 - BSAT-1b(BS-4b)打ち上げ。8月1日から運用開始(予備機)
- 2000年(平成12年)
- 6月2日 - 国際電気通信連合(ITU)世界無線通信会議(WRC-2000)閉幕。日本にBS放送帯域として12.0 - 12.2GHz右旋円偏波が新たに割り当てられ、BS-17, 19, 21, 23チャンネルとして追加された[2]。
- 12月1日 - BSデジタル放送開始(BSAT-1bを使用。これによって民間放送系列のBS放送が一斉開局。またアナログハイビジョンの「実用化試験放送」は民放BSの開局に伴い事実上終了し、以後はデジタルへの円滑な移行を目的としてNHK BSハイビジョン放送のサイマル放送のみとなる)
- 2001年(平成13年)
- 2003年(平成15年)
- 2007年(平成19年)
- 2010年(平成22年)
- 2011年(平成23年)
- 3月31日 - NHKのBSデジタルハイビション放送終了。NHKのBS1/BS2がハイビジョン放送へ移行。これに伴い、「NHK衛星第1テレビジョン」は「NHK BS1」[注釈 3]、「NHK衛星第2テレビジョン」は「NHK BSプレミアム」にそれぞれ正式チャンネル名を変更
- 7月24日 - BSアナログ放送終了[注釈 4]
- 7月18日 - サッカー女子日本代表がアメリカとのW杯の決勝戦で、ビデオリサーチ社が2008年から調査をしているBSの視聴率調査で初の二桁視聴率である10.7%を記録。BSの視聴率10%を超えたのは2011年9月11日のサッカー女子ロンドン五輪アジア最終予選の10.1%と合わせて2回だけだった[3]
- 8月7日 - 東経110度CSとのBS・CSハイブリッド衛星BSAT-3c打ち上げ(当初は7月2日に打ち上げ予定だった)
東経144度放送衛星
- 2003年(平成15年)1月17日 - 2.6GHz帯衛星デジタル音声放送が放送方式として制度化される(東経144度左旋円モバイル向け放送 2,630 - 2,655MHz)
- 2004年(平成16年)
- 2009年(平成21年)3月31日 - 15時、モバHO!放送終了
準天頂放送衛星
- 2003年(平成15年)6月6日 - 世界無線通信会議(WRC-2003)閉幕。準天頂衛星による音声衛星放送周波数帯域として日本に2,605 - 2,630MHzを割当
- 2006年(平成18年)3月 - 準天頂衛星での放送・通信サービスを目指した民間共同企画会社、事業化を断念し同衛星は測位を中心とした全額国費プロジェクトへ方針転換
脚注
注釈
出典
- ^ よくある質問 〜 4K・8Kの放送、配信サービスについて 〜(JEITA CE部会)
- ^ Final Acts of WRC-2000(Istanbul, 2000)
- ^ 〈速報〉なでしこがBS視聴率歴代1、2位独占 朝日新聞 2011年9月12日
関連項目
- 人工衛星
- 静止衛星
- 衛星放送
- 通信衛星(CS)
- フットプリント (人工衛星)
- 放送衛星を用いたサービス
放送衛星
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「テレビ周波数チャンネル」の記事における「放送衛星」の解説
日本に放送衛星(BS)用として割り当てられた周波数帯である。 右旋円偏波左旋円偏波チャンネル番号中央の周波数(GHz)占有帯域(GHz)チャンネル番号中央の周波数(GHz)占有帯域(GHz)111.72748 11.71023 - 11.74473 211.74666 11.72941 - 11.76391 311.76584 11.74859 - 11.78309 411.78502 11.76777 - 11.80227 511.80420 11.78695 - 11.82145 611.82338 11.80613 - 11.84063 711.84256 11.82531 - 11.85981 811.86174 11.84449 - 11.87899 911.88092 11.86367 - 11.89817 1011.90010 11.88285 - 11.91735 1111.91928 11.90203 - 11.93653 1211.93846 11.92121 - 11.95571 1311.95764 11.94039 - 11.97489 1411.97682 11.95957 - 11.99407 1511.99600 11.97875 - 12.01325 1612.01518 11.99793 - 12.03243 1712.03436 12.01711 - 12.05161 1812.05354 12.03629 - 12.07079 1912.07272 12.05547 - 12.08997 2012.09190 12.07465 - 12.10915 2112.11108 12.09383 - 12.12833 2212.13026 12.11301 - 12.14751 2312.14944 12.13219 - 12.16669 2412.16862 12.15137 - 12.18587 同一偏波内のチャンネル間隔は38.36MHz、占有帯域の周波数幅は34.5MHz(アナログ衛星放送時は27MHzだがデジタル化の際に拡張)、ガードバンドは3.86MHz(アナログ衛星放送時は11.36MHz)。 奇数チャンネルと偶数チャンネルで占有帯域が重複するが、偏波方式を変えることで分離可能となっている。 従来のBSデジタル放送は右旋円偏波により行われていたが、4K放送の一部と8K放送は左旋円偏波により実施されている。 左旋円偏波のチャンネルは、BSアンテナで受信後に同軸ケーブルで伝送する中間周波数(IF)の帯域が右旋円偏波のものと異なるため、左旋円偏波チャンネルに非対応のBSアンテナや配線設備では視聴不可である。
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